ずっと…【裕太夢】
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『早くー!こっちだよー!』
『待ってよー!!』
通りがかった公園で小さな子どもたちが遊んでいる。
楽しそうに笑う子どもたちを見ると、あの頃の事が甦ってくる。
俺の初恋は幼馴染だった。
よくあるママ友家族の集まりについていくと必ずいるやつ…
名無しさん
あの日も祝日で、近くのファミレスでみんな集まってご飯を食べる日だった。
兄ちゃんと姉ちゃんに手を引かれて、待ち合わせの席に行く。
「お待ち合わせですね。こちらへどうぞ。」
店員さんに案内されて席に行くと…
「あ、周助くん!裕太くん!由美子ちゃん!」
もう先に来ていた名無しさんちゃんが手を振った。
「…っ!」
ぼくは姉ちゃんの後ろに隠れた。
名無しさんちゃんのお母さんとぼくの母さんが挨拶をする横で、姉ちゃんは後ろに隠れるぼくを見て笑った。
「何隠れてんのよー!」
「裕太は恥ずかしがり屋さんだもんね!」
兄ちゃんまで一緒になって笑う。
「笑うなよー!////」
少し涙目になりながら更に後ろに隠れた。
しばらくすると虎次郎くんたちも来た。
仲良しのみんなとご飯は楽しいけど、名無しさんちゃんの前だと凄く緊張する。
「名無しさんちゃん、これあげるよ。」
「えっ!いいの!?ありがとう、虎次郎くん!」
虎次郎くんからポテトをもらった名無しさんちゃんは凄く嬉しそう。
ぼくは虎次郎くんみたいに名無しさんちゃんに話かけられない。
話をしようとすると何を話していいのかわからないし、名無しさんちゃんが話しかけてくれてもいつも素っ気なくしちゃう。
「裕太くん、楽しくない?」
しょんぼりしていると、名無しさんちゃんが話しかけた。
「いや…別に…!」
また素っ気なくしちゃった…。
何でいつもこうなるんだろう?
そう思っていると、虎次郎くんがぼくに言った。
「裕太くん、女の子には優しくしなきゃダメだよ!」
「わかってるよ!」
ぼくと一つしか違わないのに、何で兄ちゃんや虎次郎くんは大人みたいなんだろう?
ぼくも名無しさんちゃんと楽しくお喋りしたいのに…
「裕太は名無しさんちゃんのこと好きだから上手く話せないのよねー!」
急に姉ちゃんがそんなことを言い出す。
「あら、そうなの?裕太くん」
名無しさんちゃんのお母さんが笑ってぼくに聞く。
「そ、そんなことない…!…もぉ!姉ちゃん止めてよー!////」
チラッと名無しさんちゃんの方を見ると、名無しさんちゃんがぼくを見てニコッとして言った。
「名無しさん、裕太くん大好きだよ!」
「え!////」
「でも、周助くんも虎次郎くんも好きー!」
…なんだ……。
「あらあら!名無しさんちゃんは欲張りさんねー!」
母さんが名無しさんちゃんの頭を撫でながら言う。
名無しさんちゃんは優しいから、みんなのことが大好きなんだよな…
兄ちゃんが何か言ってる気がするけど、ぼくにはもう何も聞こえなかった…。
それから月日が流れ、俺は兄貴の通う青学に入学した。
だけど既にテニスの“天才”として有名だった兄貴のいるテニス部には入らず、ちょっと遠いテニスサークルに通った。
でも、学校に行けば兄貴と比べられ、更にはあいつ…名無しさんと兄貴の噂まで流れていた。
「不二先輩の隣にいつもいるあの人って、不二先輩の彼女なのかな?」
クラスの女子が兄貴について話し出す。
「ねぇ、不二くん!弟ならわかる?不二先輩の隣にいる人、不二先輩の彼女なの?」
女子が俺にそんなことを聞いてくるから…
「知らねぇよ!弟だからって兄貴のこと何でも知ってると思うなよ!?」
むしゃくしゃしてつい怒鳴ってしまった。
「ご、ごめん…」
驚きと恐怖で震える女子を横目に俺は教室から出て行った。
兄貴には敵わねぇ…
テニスも……恋も…
そう思っていた時に観月さんから提案されたルドルフへの転校。
ここでなら、兄貴と比べられることはない…
テニスも強くなるかもしれない…
名無しさんを…忘れられるかもしれない……!
転校手続きが終わって、明日からルドルフの寮に移ることになった俺は、家で荷物の整理をしていた。
すると…
「裕太ー、名無しさんちゃんが来たわよー!」
「名無しさんが…?」
姉貴が俺の部屋のドアの前で言う。
仕方なく玄関まで行くと、目の前の名無しさんはいきなり俺を睨み付けた。
「裕太くん、ルドルフ行くって本当?」
単刀直入だった。
多分、兄貴から聞いたんだろう。
「あぁ。明日から寮に入るから、今までみたいに頻繁には会えねぇよ。」
こういう時でも素っ気なくなるのは、ガキの頃から変わらない。
すると、睨んでた名無しさんは今度は泣きそうな表情に変わった。
「ちょ…!こんな所で泣きそうになるなよ…!…ちょっとこっち来い…!」
家の前で泣かれたら後で姉貴に何て言われるかわからない。
俺は名無しさんの腕を引いて公園に連れていった。
急に腕を引っ張られた名無しさんは咄嗟のことでさっきよりかは落ち着いている様子だ。
一呼吸置いて口を開いたのは名無しさんだった。
「…何で…言ってくれなかったの?」
「別に…兄貴から聞くと思ってたし、俺からわざわざ言う必要ねぇだろ?」
「周助くんから聞いたから怒ってるの!」
「…っ!」
淡々としていた名無しさんが声を荒げた。
目には今にも溢れ落ちそうな涙を浮かべている。
「裕太くん、昔からそうだった!いつも何か言いたそうなのに何も言わず素っ気なくして…だんだん距離を置かれた挙げ句黙って転校する!」
「っ!だからそれは!兄貴から聞くと思ったんだよ!」
俺の気持ちも知らないで責め立てられることに腹が立って俺もつい口調を荒げてしまう。
「ずっと好きだった相手から素っ気なくされる気持ち考えたことある!?」
「お前だって、ずっと好きなやつの前で上手く話せず悩む俺の気持ち考えたことあんのかよ!?」
『………え?』
高ぶっていた気持ちが一気に冷静になって唖然としたのは、俺も名無しさんも同時だった。
勢いに任せて言ったけど、名無しさんは一体何を言ったんだ…?
ずっと…好きだった…?
「え…それ、どういう……」
「好きだったの!ずーっと!裕太くんのことが!!」
俺が聞くより早く、名無しさんは顔を真っ赤にして言った。
「え…嘘だろ?」
「嘘でこんなこと言わないよ!」
至って真剣な表情で言われると嘘じゃないことがわかる。
何か…バカらしい
そう思ったら可笑しくて笑ってしまう。
「な、何がおかしいの…?」
急に笑った俺に名無しさんが呆気に取られて聞く。
「いや。俺たち、お互い好きだったこと知らずにずっとモヤモヤしてたんだなって思ったらバカらしくてさ。」
「そうだけど…私まだちゃんと告白されてないもん!」
あ…。そうだった……
あの時は勢いで言ったけど、いざちゃんと告白するとなると妙に緊張する。
「お、俺は…ずっと前から…名無しさんが…す、好きだ!//////」
断られるわけでもないはずなのに、心臓が飛び出そうなくらいにドキドキする。
告白って…こんな感じなんだ…
そんなことを思っていると、ポツリと名無しさんが言った。
「私、一応あの時告白したつもりだったのにな…」
「え…?」
あの時?………どの時だ?
「小さい頃、みんなの前で由美子さんが、裕太くんが私を好きだって暴露した時…。私、裕太くんのこと大好きって言ったはずなんだけど…」
…確かに言った…けど………
「わ、わかんねぇよ!!第一あの後、兄貴や佐伯さんも好きって言ってたじゃねぇか!」
「言ったけど、“大”はつけてないよ?」
上目遣いで言う名無しさん。
まだまだ言いたいことあるけど、そんな目で見つめられたらもう何も言えなくて…
「あー!もう!!わかったよ!」
名無しさんの腕を掴んで引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
「!//////」
「休みの時には会いに帰ってくるから。」
「…うん、約束ね。」
「約束。」
まだお互い不慣れなキス。
でもそれは、今までお互いを想い続けていたからこそのこと。
そう思うと、名無しさんが愛しく思えた。
「裕太くん!どうしたの?ぼーっとして。」
「あ…。何でもねぇ!」
変わらず走り回る子どもたちをもう一度チラッと見た後、隣を歩く名無しさんの手を握って歩き出した。
気持ちが通じ合ってから一年。
寮に帰れば赤澤さんたちが茶化してくるけど、それはそれで幸せだ。
握る手をより一層強く握ると、名無しさんも俺に負けないくらいの強さで握り返した。
END