お店の名前は…【柳沢夢】
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美容師を目指して専門学校に入り、卒業して美容院に就職して早1年が経っていた。
慣れないことも多く、先輩のスタイリストさんには怒られてばかり。
まだアシスタントとして働いているから、一人のお客様を一人で最後まで担当は出来ない。
シャンプーやドライをすることが多く、たまに簡単なカットはさせてもらえる。
子どもの頃から夢見てた美容師の世界。
実際は大変なことも多くて、気が滅入ることなんてしょっちゅう。
それでも早く一人前のスタイリストになりたくて、夜遅くまで残ってマネキンでカットの練習したりして、家に帰るのは0時過ぎることもあった。
「疲れた…」
家に帰って郵便受けから取った郵便物をテーブルに無造作に置く。
するとその中の一つの封筒に目が行った。
“聖ルドルフ学院中学校”
「ルドルフ…?」
そこには懐かしい名前があった。
何だろう?と思いながら封筒を開ける。
そこには、ルドルフの同窓会の案内が書いてあった。
「同窓会か……」
そう呟いて当時を思い返す。
まだ出来たばかりの校舎はどこも綺麗で、どことなく新しい匂いがしたのを覚えている。
放課後に友達と遊びに行って、早く帰れと見廻りをしていた先生に見つかって叱られたり…。
そして強く想い出すのは彼のこと。
『幸菜…!何でここにいるだーね…!!とっとと帰るだーね!』
『いいじゃない!慎也のテニスしてるトコ見てみたいんだもん!』
絶対に見に来るなって念押しされていたテニス部の見学を、慎也には内緒で見に行った。
前から慎也のことは好きだったけど、普段見せない真剣な表情を見て、ますます好きになったのを覚えている。
「結局告白出来なかったんだよね…」
休みの日に二人で出掛けたり、お互いの誕生日にはプレゼントを渡し合ったりしたこともある。
テニス部の部長の赤澤くんが言ってたけど、慎也が特定の誰かと親しくするのは珍しいらしい。
周りからも付き合ってるんじゃないかと噂にもなった。
私はそれが嬉しかったけど、慎也はどうだったんだろう…?
そこまで考えたら、慎也に無性に会いたくなった。
卒業して高校も離れて、連絡もしなくなってしまった。
でも、今更会ったところでもしかしたら慎也は私のことなんて忘れてるかもしれない。
もしかしたら彼女や奥さんがいるかもしれない。
そう考えると何も知らない今のままの方がいいんじゃないか…
そう思っていると……
♪♪♪~
ケータイの着信が鳴った。
「もしもし?」
『幸菜!元気?##NAME3##よー!』
「##NAME3##!?久しぶり!どうしたの!?」
電話の相手は中学の頃の親友の##NAME3##。
変わらない彼女の明るい声に懐かしさを覚えた。
『同窓会の手紙届いた?』
「うん、届いたよ。」
『もちろん、行くよね!!』
「え…」
『私、久々に幸菜に会いたいなー!』
「あー……そうだね。うん、行くよ。」
『良かったー!!じゃあ当日楽しみにしてるね!』
それだけ言って##NAME3##は電話を切った。
何だか強引に話が進んじゃったけど……まぁいっか…。
慎也も来るかな…?
そう思いながら出席の箇所に◯を付けた。
同窓会当日。
私は普段はそんなにしないオシャレをして、同窓会の会場に向かった。
会場に入る前に何度も鏡で自分を確認する。
メイク、髪型、服装、表情…
たかが同窓会。
でも私は来るかもわからない慎也のことだけを想っていた。
すると…
「いって!…誰だーね!こんな所に突っ立ってると危ないだーね!」
「あ…!ごめんなさい……!…!!!」
後ろからぶつかってきた人物に謝ろうと顔を上げたその時、私の鼓動が一気に速くなった。
「慎…也……?」
「…?誰だ……ね…?……幸菜…?」
そこには私がずっと会いたかった慎也がいた。
背は伸びて、大人な顔つきになっている慎也を見上げる。
「ひ、久しぶり…」
「あ、あぁ…。ひ、久しぶりだーね…」
大人っぽいけど、口癖は変わらない。
しばらくお互いを見つめ合っていると…
「ちょっとちょっとお二人さん!感動の再開のところ申し訳ないんだけど、いつまでもそこにいるとみんな入れないよ?」
後ろから私の肩を叩いて言うのは##NAME3##だった。
「##NAME3##…!」
いつぶりだろうかと思うほど##NAME3##の外見も変わっていた。
綺麗にメイクをして凄く大人っぽくなっている。
「さ、入ろ!柳沢くんも早く!」
私たちの背中を押して##NAME3##は強引に私たちを会場の中に入れた。
その他にも懐かしいメンバーがいて、当時の事を思い出す。
「幸菜は今何してるだーね…?」
ふと慎也が聞く。
「わ、私は…美容師のアシスタントを……」
何でこんな緊張してるんだろう…
前みたいに普通に話せばいいのに…!
チラっと慎也を横目で見る。
……普通に話すなんて無理だ…
だって…こんなにかっこよくなってるんだもん!!
「夢が叶って良かっただーね…!」
「え…覚えててくれたの!?」
「あ、当たり前だーね!!」
確かに、美容師になることは小さい頃からの私の夢だった。
それを何度も慎也に話したこともあった。
でも慎也は不器用な私が美容師になれるわけないっていつもバカにしてた。
もちろん、それが冗談だってわかってたから、私も悪態をついて笑い合っていた。
「慎也こそ今何してるの?」
嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すために今度は私が慎也に質問した。
「お、俺は内科医だーね!」
「え、柳沢くんお医者さんなの!?すごーい!!!」
急に横から##NAME3##が割り込んで慎也を驚いた表情で見た。
「確か、慎也のお父さんも内科のお医者さんだったよね?」
「そうだーね。特にやりたいことなくて、気がついたら親父と同じ道辿ってただーね…」
「それでもお医者さんなんて、やっぱり慎也って凄いね!」
さっきまで緊張してたのに、##NAME3##の登場で少し落ち着いた。
だからちゃんと慎也を見て笑っていられた。
それに少し照れたような複雑な表情を浮かべる慎也。
「ち、ちょっとトイレ行ってくるだーね…!」
照れを誤魔化すかのように慎也は急ぎ足でトイレに向かってしまった。
その背中を目で追っていると、##NAME3##がチラッと私を見た。
「まだ好きなんだ。」
「え…!//////」
不意をつかれて赤面する私にニヤリとする##NAME3##。
確かにまだ好きではある。
でもそれはきっと私だけの感情だから、慎也には内緒…。
しばらくして慎也がトイレから戻ってきた。
その手には…
「慎也…それ…使ってくれてたの…?」
「え…あ、あぁ…。使いやすいから使ってるだけだーね…!」
慎也の手には、かつて私が慎也の誕生日にプレゼントした、慎也のSの文字が入った藍色のハンカチ。
多分プレゼントしてもう3~4年は経っているはず。
…まだ持って使ってくれてたんだ…
その小さなことが嬉しくて、でも何だか恥ずかしくて顔を赤らめた。
それから同窓会は続いていき、他の友達や先生方ともたくさん話をした。
そして気が付くとお開きの時間…
…もう終わっちゃうんだ…。
慎也ともう少し話したかったけど…言えないな……
そんなことを思っていると…
「幸菜。幸菜が働いてる美容院、どこだーね…?」
不意に慎也が聞いてきた。
「あ、えっと……ルドルフの近くにアーケード通りあったでしょ?そのアーケードを通って右に曲がるとすぐあるよ…!…多分慎也ならすぐわかると思う!」
さっきまで普通に話せてたのに、二人だけで話すとやっぱり緊張する。
なるべくわかりやすく、緊張が伝わらないように説明すると、慎也がまた口を開いた。
「今度、髪切りに行くだーね。幸菜のいる日にちと時間教えてほしいだーね」
「え…!う、うん!ちょっと待って…!」
私は鞄から手帳を出して出勤日を確認する。
すると慎也が慌てて言った。
「ま、待つだーね!そんな口頭で言われても覚えられないだーね…。……あとでメールしてほしいだーね…!」
何故か顔を背けて慎也が言うと、私までドキッとしてしまう。
「わ、わかった!後でメールするね!」
思いもよらない展開にビックリする。
このまま解散になれば、また会わなくなってしまう。
連絡先も交換してるのに、『今日はありがとねー』なんてメールするのも何だか恥ずかしい。
それに、慎也とはあんまり目が合わなかったように思う。
話は出来たけど、避けられてるのかな…?なんて思ったりもした。
だからこそ、この展開が嬉しくて仕方なかった。
そして、『またね』と手を小さく振って会場を後にした。
「柳沢。お前彼女から直接日程聞かなかったの、覚えられないからじゃねぇだろ…?」
「赤澤…!何だーね急に!」
「単純に解散してからも連絡取りたいからだろ?」
「う、うるさいだーね!」
それから数週間後。
私は今日も出勤していた。
開店まであと少しの時間。
足りないものはないかのチェックと、軽く掃除をして開店時間を待つ。
するとスタイリストの先輩が私に声を掛けた。
「##NAME2##さん、今日から少しずつ一人のお客様を最後まで担当してもらおうかと思ってます。」
「え…!」
急なことにビックリする。
今まで先輩の姿を見てどういう動きをするのかは見てきたけど、いざ自分がするとなるととても緊張してしまう。
「全部のお客様を最後まで担当しなくても大丈夫。サポートはするから、わからないことがあったら聞いてね。」
「は、はい!頑張ります…!」
そう優しく言う先輩を前に背筋を伸ばして返事をした。
カラン…カラン……
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃ……え…!」
開店時間から少し経った時、店内の押戸が開かれ、それを知らせるベルの音が鳴った。
音のする方を見て先に先輩が挨拶をすると、それに続けて挨拶をした。
でもそこには…
「し、慎也…!」
結構油断してたと思う…。
来るとは言ってたけど、来る前に連絡するかと思ってたから…。
そんな私の様子を見て先輩は言う。
「##NAME2##さんのお知り合い?それならこのお客様を最後まで担当してもらおうかな!」
「えっ!?」
どことなく楽しそうにする先輩。
慎也も何のことだかわからない様子だったけど、とりあえず席に座ってもらおうと慎也を案内した。
「ど、どうぞ…」
「お、おう…」
慎也を席に通してカットクロスをかける。
「カット?カラーリング?パーマ?」
あくまで仕事…。緊張するな…。
そう言い聞かせても、目の前に慎也がいる事実は変わらない。
初めてお客様のカットをする時より緊張する…。
「カットしてほしいだーね…」
「う、うん、わかった…!」
詳しい要望を聞いて慎也の髪をカットしていく。
何か話さなきゃ…!
でもここで何か話して失敗したらどうしよう…
悪循環が私の頭をグルグルと支配する。
でも美容師がお客様に話をかけるのは、その人のライフスタイルを探って、より良い髪型になるように心掛けるためだと学校で習った。
だから話さないわけにもいかず、思いきって話しかけてみた。
「あ、あのね…。この間言えなかったんだけど…」
「な、何だーね…!」
「ハンカチ、ずっと使ってくれてて嬉しかった…。ありがとう。」
「…っ!/////」
慎也の髪を丁寧にカットしながらそう告げる。
鏡越しの慎也と一瞬目が合ったけど、お互いすぐに逸らしてしまった。
そこからどうやっても話が続かず、一時間程で全て終わった。
会計を済ませて慎也が店を出て歩こうとした時、ふと慎也が立ち止まった。
店の外まで見送ろうと外に出た私は慎也が立ち止まったことに少し驚く。
「お、俺も前幸菜に言えなかったことがあるだーね…」
何故か慎也は俯いて言いづらそうにする。
若干顔が赤い気がするのは気のせいか…
「何?」
「えっと……。俺…中学の時から…幸菜が好きだっただーね…!/////だから…その…もし幸菜に好きな人や付き合ってる人がいなければ……その……////////」
…え、私今何て言われてるの…?
慎也に告白されてるの…?
目の前のことが信じられなくて思考が停止する。
何て答えれば良いの…?
違う…!答えはもうとっくに決まってる!
慎也と楽しく過ごしてた中学の時から…!
「…いるわけない…。」
「…え…?」
「付き合ってる人なんていない…!好きな人はずっと前から同じ人…。慎也だけ…!」
未だに信じられないけど、これだけは慎也にちゃんと伝えたくて真っ直ぐ慎也を見て力強く言う。
「よ、良かっただーね…!」
ガッツポーズをして喜ぶ慎也に、私までクスっと笑ってしまった。
付き合ってからの私たちはまるで中学生の頃に戻ったみたいに、じゃれあったり、時には学生時代では出来なかったような大人なことをしたり……
とにかく毎日が幸せで楽しかった。
そして今日も出勤。
開店前に出入口の看板を綺麗に拭く。
「名前だけでここに決めたけど、ここにして良かった!」
お店の名前は『ヘアーサロン Duck』
END…?