希望【リョーマ夢】

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初めて身体を繋げた夜、リョーマと杏菜はベッドの中で微笑み合い、時にはキスをした。

「明日部活なのに無理させたっスね…」

杏菜の身体を心配するようにリョーマが聞く。

「ううん、大丈夫。私がそうしたかったから。」

ニコッと笑いかけて杏菜がもう一度リョーマにキスをした。

幸福なこの瞬間が永遠に続けばいいと、二人は本気で思っていた。











それから一ヶ月後、青学テニス部は合宿に来ていた。

バスから降りると早速素振りから始まる。

「っ…!…っ…!」

ブン…!ブン…!

ラケットを振る音が一斉にテニスコートに響く。

手塚の指示で部員みんなが一生懸命取り組んでいる。

それが終わると今度は練習試合。

負けたものにはもちろん乾汁…。

その愉快で厳しい合宿は、ようやく一日目を終えようとしていた。

『いただきまーす!!』

合宿所に用意された、桜乃や朋香の手作り料理をみんな一斉に食べ始めた。

「ん~!美味しい!」

ご飯とおかずを一緒に食べながら杏菜が言う。

「そうだな。栄養バランスがきちんと整っていて、健康的な食事だ。」

大石が二人を褒める。

その言葉に桜乃と朋香が顔を少し赤くして照れた。






「俺いっちば~ん!」

ざぶーん!

バシャバシャ…

いち早く髪を洗って湯船に飛び込んだのは菊丸。

それに続いて不二が静かに入る。

「英二、泳いじゃダメだよ。」

「うむ。風呂は静かに入るものだ。」

不二が苦笑し、手塚が軽く嗜めると、菊丸は頬を膨らませて渋々了承した。

「まぁ、今日はよく動いたから疲れたんだろう。」

河村も湯船に浸かりながら言うと、菊丸は大きく頷く。

「さっすがタカさん!あの乾汁のせいもあって余計に体力消耗したにゃ~…」

髪を洗っている乾をジト目で見つめると、乾がニヤリとした。

するとリョーマが涼しげな顔で言った。

「負ける方が悪いんスよ。」

「にゃにを~!!オチビ生意気~~!!」

「うわっ…!ちょ…!止めてくださいよ…!」

菊丸がリョーマに向かってお湯をかけると、リョーマが顔を手で覆って逃げる。





そんな様子を女湯から聞いている杏菜は、男湯から聞こえる楽しそうな声に笑っていた。

「男湯、騒がしいですね…」

「練習で疲れたんじゃなかったの…?」

桜乃が言うと朋香も少し苦笑した。

「疲れたけど、楽しいことには変わりないよ。」

楽しそうに笑いながら杏菜が言った。

「それもそうですね!」

杏菜の一言に二人は納得して湯船に浸かっていた。




合宿二日目。

二日目も初日同様、素振りから始まり練習試合。

だがこの日は反射神経を鍛えるために反復横飛び、脚力を鍛えるために合宿所がある山を利用して山道ダッシュ等、更に過酷な練習が行われた。

みんなが根を上げるなか、リョーマと杏菜は休憩中も離れなかった。

杏菜先輩、疲れてないっスか?」

「うん、大丈夫!リョーマは?」

「まだまだ行けるっスよ!」

「流石リョーマ!」

二人のやり取りを遠くから見るレギュラー陣。

いつものことながら幸せそうな二人に、みんなもいつの間にか疲れが取れていた。





合宿三日目。

この日杏菜が朝起きると、少しだけ体が怠かった。

「…あれ?風邪引いたかな…?」

ベッドから起き上がって歩こうとすると、体がフラついた。

「昨日無理しすぎたからかな…」

それでも風邪を言い訳に練習はサボりたくないという杏菜の意地もあり、なんとか食堂まで歩いた。

「…杏菜先輩…?何か変っスよ?」

既に食事をお盆に取って座っているリョーマが杏菜の様子を見て言った。

「おはようリョーマ。…ううん、大丈夫。大したことないから。」

無理して笑う杏菜

他の部員も心配そうに杏菜を見た。

杏菜、大丈夫かい?」

大石がトレイに乗せた朝食を持ちながら杏菜に寄る。

「大丈夫です…。…すみませ………っ!」

すると急に杏菜が口元を手で押さえてトイレに駆け込んだ。

「……何で…?」

ご飯の匂いを嗅いだだけで気分が悪くなり、トイレの手洗い場で吐いてしまった。

すると…

「桃城!」

誰かが呼んできたんだろう、顧問の竜崎が杏菜の傍に駆け寄った。

「熱があるのか?」

竜崎が杏菜の額に手を添える。

「…熱はないみたいじゃな。…急に気分が悪くなったのか?」

「…ご飯の匂いがしたら急に…」

「何…!?」

事情を説明すると、竜崎の目が丸くなった。

「桃城、前に生理が来たのはいつじゃ?」

「えっ…!………えっと…4日ぐらい前です。…あ、でもいつもよりかなり量が少なかったし、色もいつもと違いました…。」

そこまで言うと竜崎の顔色がみるみる変わっていく。

杏菜は竜崎の変わっていく表情を見つめて不安になる。

すると竜崎が重い溜め息を吐き…

「桃城。まだハッキリとは言えんが、妊娠しとるかもしれん。」

「え…?」

“妊娠”

どう受け取っていいのかわからずいると、竜崎が杏菜を立たせて歩き出した。

「すぐに病院に行くぞ。アタシはみんなにしばらく外に出ると伝えて、車を取ってくるから玄関で待ってるんじゃ。それにまだ確実じゃないから部員、特にリョーマには言うんじゃないぞ。」

「は、はい…」

竜崎の指示を聞いて玄関で竜崎を待った。



竜崎を待っている間に杏菜はずっと考えていた。

「もし妊娠してたら…私とリョーマの子…だよね…?」

お腹を擦りながら呟く。

テニスコートからボールの打つ音や掛け声が聞こえてきた。

やがて竜崎が車に乗って杏菜の前に停まった。

「さ、行くぞ。」

「はい…」

助手席に乗り込んですぐに出発した。





15分程揺られていると、産婦人科に着いた。

そこは杏菜が小さい頃弟と妹が産まれるということで、母親と一緒に来た場所だ。

その時にここで杏菜も産まれたと聞かされた。

診察室に通され、先生にいろいろと聞かれ、検査もした。

その間の杏菜は不安というより、何故か落ち着いていた。






診察が終わり待合室で待っていると、ナースに名前を呼ばれて竜崎と二人で診察室に入った。

「どうでしたか?」

竜崎が聞くと、先生はハッキリと…

「妊娠5週目です。」

「え…!」

「はぁ~…。やっぱりのぉ~…」

竜崎が深い溜め息を吐くと、先生が杏菜にとって残酷な言葉を告げた。

「君はまだ14歳だ。もちろん、中絶するのがおすすめだ。」

「え…」

「先生。とりあえずこの子の親御さんに連絡するので、詳しい話はそれからしてやってください。」

「ええ。わかりました。では、親御さんが来られましたらナースに声をかけてください。他の診察で少々お時間がかかると思いますが、詳しくお話致しましょう。」

そう言われ、杏菜は竜崎に促されて待合室の椅子に座った。

竜崎は杏菜の親に電話をし、更にリョーマの家にも連絡をした。

やがて電話を終えた竜崎が杏菜のもとに寄ってきた。

「親御さんビックリしとったぞ。それにリョーマの親御さんもじゃ。」

「やっぱりそうですよね…」

苦笑して竜崎を見上げると、竜崎が少し小さな声で怒鳴った。

「笑い事じゃないぞ!…全くお前たちは…」

呆れて溜め息を吐くと、竜崎が続けた。

「アタシはこれから合宿所に戻ってリョーマに事情を話して連れてくる。直にお前さんの親御さんも来るじゃろう。それまでここで待ってるんじゃぞ。」

「はい…」

杏菜は頷くと去っていく竜崎の背中を見つめていた。

それから10分後、杏菜の親が杏菜のもとに飛んできた。

杏菜…!妊娠したって本当!?」

母親が杏菜の肩を揺すって言う。

「まぁ、落ち着きなさい。…とりあえず、先生の話を聞くぞ。」

父親がナースに伝え、しばらく待っていると診察室に通された。

先生の話を聞く両親の横で、杏菜はボーッと考えていた。

「(リョーマとの子…)」

すると母親が杏菜に言った。

「すぐに中絶するわよ。今なら痛みもなくすぐに終わるから。」

「え…!」

「お母さん、ちょっと向こうのご両親とお話ししてくるから、お父さんと待合室で待っていてちょうだい。」

母親が診察室を出ようとすると、杏菜は無意識に叫んだ。

「待って…!……私、産みたい…!」

「何!?」

「…何を言ってるの…!?」

杏菜の一言に両親が驚いた。


「貴方が今母親になれるわけないでしょう!?まだ中学生なのよ!それに貴方の大好きなテニスが出来なくなるのよ!!」

「そうだぞ!母親になるのにどれだけの苦労と金がかかると思うんだ!母さんだってお前たち3人を育てるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!!」

「わかってる!!簡単じゃないことも…。でも私は大好きな人の子どもを産みたい!」

真っ直ぐ両親を見つめて訴える。

「確かに思いきり遊べなくなるし、思い通りに行かないかもしれない。でもそんなこと後悔するより、この子を失うことの方がよっぽど嫌!」

すると母親が泣き崩れた。

杏菜は母親の体を抱き締めた。

「お母さんに迷惑はかけないから。…お願い…私からこの子を奪わないで…」

その一言に母親は何も言えなかった。






診察室を出て待合室に行くと、リョーマとリョーマの両親がいた。

「リョーマ…!」

杏菜先輩…」

二人が見つめ合う。

どうやらリョーマの両親が杏菜の家で話し合いをするらしく、両家族は一旦杏菜の家に行った。





二人並んで杏菜の部屋のベッドに座る。

「バアさんから聞いた…。…妊娠って…」

「うん。」

「……本当にごめんなさい…!」

リョーマが立ち上がり杏菜に頭を下げた。

「謝らないでリョーマ!私、嬉しいんだよ!」

「え…?」

「大好きなリョーマとの子どもを産むことにしたんだから。」

「産むって…本気っスか!?」

「うん。…まぁ、こんなことになっちゃったから学校は続けられないだろうけど、私後悔してないから!」

「だったら俺も辞める!こうなったのも俺のせいだし…」

「ダメ。リョーマは学校に行って?」

「でも…!」

「お願い。学校もテニスも続けて、青学の柱になってよ!生意気ルーキー!」

ニコッと笑ってリョーマを見た。

すると、母親からリョーマと共にリビングに呼び出された。





ここでも親たちの反対意見を押し付けられる。

しかし杏菜の意思は硬かった。

ついに折れたのは杏菜の父親だった。

杏菜のリョーマくんへの想いが強いのはよくわかった。…絶対後悔しないな?」

「あなた…!」

母親がビックリして父親と杏菜の顔を交互に見つめる。

「しない。絶対この子を守る。」

その力強い頷きにとうとう父親が首を縦に振って了承した。










後日、費用等の相談を両家共に話し合い、杏菜の出産に向けて準備を整えた。











続く
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