ラブ・ハラスメント【リョーマ夢】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リョーマと杏菜の出会いは数ヵ月前。
電車の中でガラの悪い男達の迷惑行為に怯えていた杏菜だが、男達に挑発的に声をかけ、テニス勝負したのがきっかけだった。
テニスをするリョーマの姿に憧れ、杏菜は青学に入学した後女子テニス部に入部した。
少しでもリョーマに追い付きたくて、一生懸命練習した。
そして二人が急激に仲良くなりだしたのは、杏菜がテニスの自主練をしていた時にリョーマがアドバイスをしてからだった。
『膝伸びすぎ、肘曲げすぎ…』
最初はぶっきらぼうだったリョーマのアドバイスも……
『もう少し手首のスナップを効かせて。…うん、上手いじゃん。』
だんだん優しくなり、珍しく褒めるようになった。
『ありがとう!リョーマくん!』
そんなリョーマに杏菜は照れながらも嬉しくなる。
そしていつしか二人は付き合うようになり、更に距離は縮まった。
「リョーマくん!お疲れ様!」
「杏菜!お疲れ。」
「いいなーオチビー…」
「まさかあの越前に彼女が出来るとは思わなかったなー…」
二人の仲良さそうな様子を見て、菊丸と桃城が言う。
「じゃ、お先です…」
リョーマは先輩二人の呟きにドヤ顔しながら杏菜の手を握って歩きだした。
ある日、杏菜の親友の朋香の様子が少しおかしかった。
「朋ちゃん!次の授業行こう!」
教科書を持って杏菜が朋香の席に行くと、いつもは笑顔で返す朋香だったがこの日は違った。
「一人で行って…」
それだけ言うと、朋香は教科書を持って足早に去っていった。
「朋ちゃん…!…私、何かしたのかな…?」
朋香の後ろ姿を見つめて俯いた。
そして同じ頃、今度は杏菜の身の回りで異変が起こった。
リョーマと一緒に登校して靴箱に行って上履きを取ろうとすると…
「あれ…?」
そこにあるはずの杏菜の上履きが無くなっていた。
「違うところに間違えて入れちゃったのかな?」
そう思ってよく探すけど、どこにも見当たらない。
「どうかした?」
上履きを履き終えたリョーマが後ろから杏菜に声をかける。
「…っ!…う、ううん!何でもない!」
咄嗟に誤魔化すけど、流石に上履きを履かないのは不自然だ。
「わ、私うっかり昨日上履き持って帰ってそのまま家に忘れて来ちゃったみたい…!…職員室でスリッパ借りてくるからリョーマくん、先に行ってて!」
「全くそそっかしいね。…そこが可愛いけどさ」
ボソッと杏菜の耳元で呟く。
「!//////…も、もうリョーマくん…!」
ビックリして顔を真っ赤にさせる。
「んじゃ、お先。」
「う、うん。ごめんね。」
リョーマが行ったのを確認してもう一度探す。
だがやっぱり見つからなかった。
「…もしかして、リョーマくんのファンの人達かな…?リョーマくん人気だもんね…」
ポツリと呟いてから杏菜は靴下のまま廊下を歩き、職員室でスリッパを借りた。
更に別の日では…
「え…どうして…?」
杏菜が放課後に教室に入ると、杏菜の教科書が机いっぱいに散らばっていた。
その異様な光景に絶句しながらも、杏菜は教科書を拾う。
すると朋香とファンの子達が教室に入って来た。
「あ、朋ちゃん!」
教科書を拾い終え、笑顔を取り戻す。
すると、杏菜の周りをファンの子達が取り囲んだ。
その中心には朋香。
状況が掴めず目を丸くしていると…
バシンッ!
朋香が思い切り杏菜の頬を叩いた。
「ッ…!」
訳がわからずただ唖然とする杏菜に、朋香は捲し立てるように言った。
「この横取り女!!」
「え…?」
朋香から発せられた言葉はとても今までの朋香とは思えないようなことだった。
「私がリョーマ様のこと好きだって知ってるでしょ!?私だけじゃない!ここにいるファンの子達もリョーマ様が大好きで憧れてんの!だけどリョーマ様はみんなのリョーマ様だから、一人がリョーマ様のものにならないようにって暗黙のルールがあるのよ!?テニス部に入ったのだってリョーマ様に憧れてとか言ってたけど、ホントはリョーマ様と仲良くなって付き合う為でしょ!?」
大声で叫ぶ朋香に、杏菜は頭が追い付かない。
杏菜の周りで起こっていた嫌がらせは、一部のファンの子たちの仕業であって、朋香が加担しているとは思っていなかった。
それだけに、杏菜のショックは大きかった。
「今すぐ別れなさいよ!」
杏菜を取り囲んでいたファンの一人が言う。
「私は…」
そう言いかけると、教室の外から声が聞こえた。
「まだ残っておったのか。早く帰らんと陽が暮れるぞ!」
「お、おばあちゃん…!」
「竜崎先生…!」
声の主は杏菜の祖母で男子テニス部顧問の竜崎スミレだった。
「すみません!…行こ…」
朋香たちはバツが悪そうに教室を後にした。
「杏菜、リョーマが校門で待っとるようじゃったぞ~。早く言ってやりな。」
「う、うん…!!」
教科書を鞄の中に入れ、足早に教室を出た。
「遅くなってごめんね!」
「別にいい。…その頬どうしたの…」
すぐに杏菜の異変に気づいたリョーマは杏菜に聞く。
「な、何でもないよ…!」
誤魔化すように門を出て歩き出す杏菜に、リョーマは追いかける。
「誰かに叩かれたんでしょ?…誰?」
だが必死に誤魔化しても、リョーマには通用しなかった。
杏菜は観念したように呟いた。
「……リョーマくんのファンの子たち…」
「ふーん…。やっぱりね。」
「知ってたの…!?」
リョーマの一言に少しビックリする。
「だいたい予想はついてたよ…。…あのツインテールのやつもグルだろ?」
そう言われた瞬間、杏菜の脳裏に朋香の言葉が過った。
“この横取り女!!”
胸がキュッと痛くなるのを感じながら、コクンと頷いた。
「ごめんね…心配かけちゃって…」
「何で?杏菜が謝ることじゃない。」
「うん…ありがとう…」
それでもまだ申し訳なさそうに俯く杏菜に、リョーマは足を止めて向き直った。
「…?」
ギュ…
「…リョ、リョーマくん!?////」
街中で急に抱き締められて、杏菜は慌てた表情をする。
「辛い思いさせてごめん。」
悔しさを吐き出すように呟くリョーマ。
その驚くほど弱々しい声に、杏菜の体の力が抜けていき、リョーマの体にそっと腕を回した。
「大丈夫だよ、リョーマくん…」
心臓がバクバク言ってうるさいのを我慢してリョーマに言った。
次の日の練習。
リョーマは昨日の杏菜の事が離れなくて部活に集中出来なかった。
それにはレギュラー陣の誰もが気付いていた
部活が終わりリョーマが部室で着替えていると、手塚がリョーマに言った。
「越前。今日のお前は集中力が足りんかったようだが、何かあったのか?」
「…別に。何でもないっス…。」
手塚をチラッと見た後すぐに逸らし、着替えを続ける。
すると、河村がバタンッと部室のドアを勢いよく開けて慌てて入って来た。
「え…越前!竜崎さんがガットの千切れたラケットを持って泣いてるんだ!!」
「っ!?」
河村のその言葉を聞いた瞬間、リョーマは部室を飛び出した。
ただ事ではない雰囲気にみんなは固まる。
「河村先輩、どういうことっスか…?」
海堂が聞くと、みんな一斉に河村の方を向く。
「詳しい状況はわからないけど、あのガットの千切れ方は練習で千切れたんじゃないと思う…。」
「いじめ…ってことかな?」
不二がポツリと言い出す。
「多分…。何があったのか聞いてみたけど、何も話してくれなくて…」
「恐らく越前のファンのやつらだろう。越前が特定の相手と付き合っていると知って、嫌がらせをしているんだろうな。」
静かに乾が分析する。
そこにリョーマと俯いて泣いている杏菜が来た。
「オチビ!」
菊丸の一声にみんなリョーマ達の方を見た。
リョーマは杏菜をベンチに座らせて背中を擦った。
乾が杏菜の持っていたラケットを手にとって見てみる。
「ん…これは故意に千切れた跡だ。やはり越前と付き合っているということに対しての嫉妬だ。」
ラケットをそっと置いて考え込む。
「酷いな…」
大石が自分のことのように悔しがる。
「一番質悪いのは杏菜の友達も加担してるってこと。」
「えっ!?友達ってまさか…小坂田さん!?」
リョーマの一言に菊丸がビックリする。
「なるほど。彼女はファンクラブの中でも中心だったからね…。」
不二が冷静に言うと、小さな声で杏菜が喋りだした。
「……朋ちゃんの気持ちを考えたら…当然のことだったのかもしれません…」
「そんなことはない。誰が誰と交際しようと勝手だ。決して許していいことではない。」
ピシャッと言い切る手塚にみんなが頷く。
「でも私…どうしたら…」
「先生には相談したかい?」
優しく大石が言うと、杏菜は首を横に振る。
「おばあちゃんには心配かけたくなくて…」
「そっか…。俺たちで良ければ力になるぜ!」
桃城が杏菜の肩に手を置き、大きく頷いた。
「ありがとうございます…」
目に涙を溜めて今にも泣き出しそうな杏菜に、リョーマはそっとハンカチを差し出した。
杏菜が少し落ち着くと、海堂が口を開いた。
「でも、どうやって解決するんスか?」
その問いに乾が解説する。
「いじめとは本来、自分はどんな相手よりも優れていると思っている。故に誰かが自分より同等、または格上の扱いを受けるとその相手を疎ましく思い、いじめに至る。」
とてもわかりやすく解説する乾にみんな納得するが、そんなことがあるのかと大石が言葉を失う。
「いじめをやめさせる方法はただ一つ。反撃することだ。」
キラーンと効果音が付きそうなほど怪しく眼鏡を押し上げながらほくそ笑む乾。
「反撃って…まさか同じことをやり返すのかい…!?」
慌てて大石が言うと乾は首を横に振る。
「いや、そういうわけじゃない。要はこれ以上あいつをいじめたらヤバイなと相手に思わせることが重要だ。」
「む。では俺たちが竜崎をいじめから守ってやればいいというわけか。」
「そっか~!俺たちが味方すれば流石に無くなるかもしれないもんね~!」
手塚の提案に菊丸が指をパチンと鳴らして賛同する。
だがこれも乾が否定した。
「いや。守るという点では効果的だが、俺たちでは意味がないだろう。」
「じゃあ一体誰が…?」
誰だというように周りを見渡す桃城に、ポツリと不二が言った。
「越前…だね?」
不二の一言に一斉にリョーマを見る。
それに続くように乾が頷く。
「大好きな越前が彼女を守り、相手を威嚇すれば、効果は絶大だ。」
「相手としても、これ以上越前から嫌われたくないと思うのが普通だからね。」
乾と不二の提案にみんなはなるほどと納得する。
そしてみんなの意見を聞いていたリョーマが杏菜に優しく言った。
「杏菜は俺が守る。」
優しいけど、とても力強く宣言するリョーマに、杏菜は安心するようにリョーマに体を預けた。
「ありがとう…リョーマくん…!」
まだ問題は解決したわけではないが、杏菜の心は幸福で満たされていた。
次の日、杏菜と一緒に登校したリョーマは、いつもならお互い自分の教室に行くのに、この日は杏菜のクラスに入った。
「リョーマくん…?どうしたの?」
「ちょっとね。やらなきゃいけないことがあるんだよね。」
そう言うリョーマの表情はニヤリとしていて、杏菜には少しだけ恐怖があった。
クラスメイトはリョーマが入って来たことによって少しざわつく。
特に女子は“テニス部の越前リョーマくん”という特別な存在に胸を踊らせる。
何をするのかと不安そうにリョーマを見つめる杏菜。
リョーマは獲物を捕らえたかのような目で朋香の席に行った。
「!?りょ…リョーマ様!?」
ビックリして硬直する朋香。
だがリョーマの目はかなり鋭かった。
何事かとクラスメイトが見守る中、冷たい口調でリョーマが言った。
「ねぇ、アンタだよね?杏菜に嫌がらせしてるの。」
「え…?」
唐突に言われた言葉に朋香は対応できずに呆然とする。
「アンタだけとは言わないけど、友達なんでしょ?友達傷つけといて平気なわけ?」
「それは……」
朋香がチラッと杏菜の方を見る。
それに気づいた杏菜は困ったように目を逸らした。
すると朋香の周りにいたファンの子が半泣きで言った。
「だって…リョーマ様はみんなのリョーマ様だもん…!」
「俺が誰と付き合おうと関係ないし、そんなルール、アンタ達が勝手に決めたことじゃん。」
さっきよりも冷たく言い放つリョーマに、朋香は涙を流した。
「ごめんなさい…!」
「謝る相手が違う。」
そう言われて、朋香は俯いていた顔をあげて杏菜を見た。
ゆっくりと杏菜の方へ歩み寄る朋香に、杏菜も逸らしていた目を朋香に向けた。
「杏菜…本当にごめん。杏菜がリョーマ様と仲良くなりたくてテニス部に入ったんじゃなくて、本当にリョーマ様に憧れてテニス部に入ったのも知ってた…。」
朋香がそこまで言うと、他のファンの子達も杏菜に頭を下げる。
「私達も…ごめん…。」
「ごめんなさい!」
精一杯の謝罪を受けて、杏菜は首を横に振って言った。
「もういいの。私も、朋ちゃんのことずっと気にしてたの…。朋ちゃん、誰よりもリョーマくんのことが大好きなのに、私がいつか朋ちゃんを傷つけちゃうって…」
「そんなことない!私が杏菜のこと傷つけたんだから!…こんな最低なやり方で…。…でも、これからは親友として、杏菜とリョーマ様の恋を応援するから!」
「朋ちゃん…!」
朋香が杏菜の手を取ってぎゅっと握りしめる。
その手が暖かくて、杏菜も自然と涙を流した。
「ありがとう!朋ちゃん!」
嬉しくて杏菜が笑う頃、リョーマは静かに教室を出た。
END