今はただ【仁王夢】
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『新着メールはありません』
「はぁ~…」
今日も携帯に表示される文字を見て溜め息を吐く。
3ヶ月程前から仲良くなり、メールをよくするようになった彼。
でもそれは今年に入ってからプツリと途絶えた。
2学期が終わり、冬休みに入ってからは彼、仁王くんとは逢えなくなり、メールを続けてたけど、年末になるとその数も減っていった。
年末はいろいろと忙しいだろうということは予想してたから我慢出来たけど、やっぱり少し寂しかった。
『おはよう!』と私からメールすればいいのに、何故かそれが出来ないでいた。
冬休みの間、何度仁王くんに逢いたいと思ったかわからない。
年末年始で家族が揃い、楽しい食卓のはずなのに私の心は晴れなかった。
「もう冬休みいいよ…」
早く仁王くんに逢いたい…
ひたすらそう思い続けていた。
3学期が始まって、仁王くんが教室に入ってくる。
「おはよう!」
いつも通り、自然に…
私は、上手く笑えているだろうか…?
そう思いながら仁王くんに手を振る。
「おはようさん。」
返ってきたのはいつもと変わらない仁王くんの挨拶。
でも、明らかに違うことがある。
…仁王くんと目が合わない
たった一瞬の挨拶だけだったから、当たり前かな?と思っていた。
けど、それは休憩時間でも同じことだった。
いつもは休憩時間になれば、仁王くんから話しかけてくれることが多かったのに、仁王くんは話しかけてくれなかった。
私から話しかければいいのに、メールの時と同じで、何故か怖くて話しかけられなかった。
たまに丸井くんと仁王くんが話してる時に、私が丸井くんにちょっかい出した時に会話する程度。
その時の仁王くんは前と変わらないのに…
「今日は二言か…」
帰り道、仁王くんとのほんの僅かな会話を思い出してまた溜め息を吐く。
これも会話って言っていいのか疑問だけど…
前はクラスで誰よりも距離が近かったのに、今ではクラスの誰よりも距離が遠い。
思えば、今年に入って仁王くんに名前を呼ばれた記憶がない。
そもそもメールもそこまでしてないし、会話もそんなにしてないから名前も何も無いんだろうけど…
―名無しさん―
仁王くんの声で、私の名前を呼んで欲しい…
「…もうすぐバレンタイン……」
家のカレンダーを見つめてそう呟く。
元々クラスのみんなにはあげるつもりではあるけど、仁王くん、受け取ってくれるだろうか…
不安な気持ちになりながらも、私は手作りチョコをラッピングした。
バレンタイン当日。
クラス分のチョコを持って教室に入ると、既に教室には甘い香りが漂っていた。
他の女子も男子や同じクラスの子達にチョコをあげているみたいだ。
私もいつもの笑顔でみんなの方へ駆け寄り、チョコを渡した。
「ハッピーバレンタイン!」
「名無しさん!おはよう!うわー!!ありがとぉ!」
「美味そー!」
次々と袋の中のチョコが減っていく。
その中の一つを手に取り、女子の輪の中にいる仁王くんの方へ歩く。
「仁王くん!ハッピーバレンタイン!」
笑顔…笑顔……
少し手が震える…
何でこんなに怖がってるんだろう…?
自分でもわからないほど、私は仁王くんの次の反応が怖かった。
すると…
「サンキュー。」
仁王くんは私の手の中からチョコを受け取ってくれた。
その時少しだけ触れた仁王くんの指…
そこからジーンと熱くなってくるのがわかった。
…良かった…受け取ってくれた……
でも、やっぱり目は合わせてくれなかった。
その日の夜、風呂から上がってケータイをチラッと見たとき、メールが来ていた。
「…?」
ケータイの画面を見てみると、そこには仁王くんの名前。
「…っ!?」
急いでメールボックスを見る。
『チョコ、ありがとな。』
そう一言書いてあった。
たった一言でも、メールをしてくれたのが嬉しかった。
だから私は急いで返信をする。
『いえいえ(^-^)v』
仁王くんが一言のメールなら私も一言。
それは、私が返信をしてもその返事が返って来ることはないってわかってるから。
前にもそんなことがあったから…
私はもう必要以上に仁王くんに話しかけることはしないし、メールもしない、そう決めた。
だって、仁王くんからメールが途絶えたり会話が無くなったのは、仁王くんはもう、前みたいに私の事が好きでは無くなったってこと。
最も、私が一方的に仁王くんの事が好きなだけで、仁王くんはそんな私に合わせてくれていただけなんだと思う。
あの時仁王くんが私のことも好きって言ってくれたのは、仁王くんの優しさ…
仁王くんは名無しさんちゃんっていう彼女がいながら、私のことも大切にしてくれた。
それは端から見たら普通の関係じゃないし、決して許されることじゃないけど、私も仁王くんと同罪だ。
例え私に付き合ってる人がいなくても、私は彼女がいる人を好きになって、デートして、キスまでしてしまった。
ズルいってわかっていながら、自分の気持ちを抑えられなかった。
だから私は…もう仁王くんを想わない……
想ってはいけない…
「どうせもう、卒業だもんね…」
返事の返ってこないケータイを握り締める。
いい機会かもしれない。
このままズルズルとよくわからない関係を続けるより、『卒業』という区切りで自然に関係を絶つ。
どうせ卒業したら会うこともなくなるだろう。
そう考えながらベッドに身を投げた。
今はただ 思い絶えなむ とばかりを
人づてならで いうよしもがな
END