純愛Secret【裕太夢】
俺が久しぶりに家に帰ると、姉貴が出迎えてくれた。
「おかえり裕太!」
「ああ…。兄貴と姉貴は?」
「周助は部活で、由美子姉さんは母さんとお出かけよ。」
リビングのソファーに座って聞くと、姉貴はお茶を入れながら答えた。
「ふ~ん…。で、姉貴は暇だから家にいるのか。」
少し嫌味っぽく言うと、姉貴は俺の頭を突付いた。
「暇とは何よ!これでも明日彼氏とデートだからいろいろ買出しに行ってたのよ!」
「……そっか…。」
姉貴は大学生で、早くも結婚を約束している彼氏がいる。
俺も会ったことあるけど、確かにかっこよかった。
親父もお袋も了承してるし、後は時期を待つだけだった。
でも俺は姉貴の結婚に反対だった。
相手はいい人なのに、どうしても喜べない。
―俺の気持ちの問題だ…
「裕太!学校どうなの?楽しい?」
いつの間にか姉貴が俺の隣に座り、身体を密着させていた。
「…っ!く、くっつくなよ!…///////」
姉貴を軽く押しのけて少し離れる。
「いいじゃないの!別に彼氏ってわけじゃないんだから~!」
その言葉にズキンとした。
「だ…だからだよ!!」
そう叫んで俺は勢い良くリビングを飛び出し、二階にある俺の部屋に逃げ込んだ。
…くそっ!何で俺、姉貴の弟なんだよ…!
ベッドに身を投げ、強く自分の運命を責める。
俺が弟じゃなったら…こんな気持ちにならずに済んだのに…!
心の中で何度も何度も自分を責めた。
次の日、姉貴は朝早くから起きてデートの準備をしていた。
俺はそれを横目で見つめる。
姉貴が家を出て数時間後、俺も用事があるから寮に戻った。
夜ご飯を食べて風呂も入り、部屋に戻って寝ようとしたとき、急にケータイが鳴り出した。
「誰だよ…?」
ディスプレイを見ると、公衆電話と表示されていた。
「公衆電話…?」
不思議に思って出てみた。
「はい。もしもし。」
出ると声の主は姉貴だった。
『あ、裕太?私。』
「姉貴!?何してんだよ…公衆電話って…。家にいないのか?」
『うん…。ちょっとね~…。』
声は明るいのに何かおかしい。
「姉貴…泣いてんのか…?」
俺がそう聞くと姉貴は黙った。
「おい姉貴!」
もう一度叫ぶと、微かに駅のアナウンスが聞こえた。
行ってやりたいけど、就寝時間はとっくに過ぎている。
今外に出たら先生に見つかるかもしれない。
その時、電話の向こうで鼻を啜る音が聞こえた。
「…姉貴…!そこで待ってろよ!!」
俺はケータイを切って無造作にズボンのポケットに入れて部屋を飛び出した。
「こらー!不二!!どこ行くんだ!!」
後ろで先生が俺を呼び止めたけど、気にせず姉貴のいるところへ走った。
目的地に着くと、姉貴が駅の出口にある公衆電話の隣で立っていた。
「姉貴!!」
走って姉貴の方へ寄る。
「…裕太……。」
俺の姿を見つめて姉貴が呟く。
すると急に姉貴の目から涙がこぼれ、俺にすがるように泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁん!裕太ぁ…!!」
「あ、姉貴…!おい、どうしたんだよ!?」
泣きじゃくる姉貴に戸惑う。
「と、とにかくここで泣くなよ…。ほら、そこの公園行くぞ…!」
人目につきにくい公園に姉貴を連れて行き、ベンチに座らせた。
「姉貴、何があったんだよ?」
落ち着いた姉貴にずっと思っていたことを聞いた。
「…私…フラれちゃった…。」
「…え?」
昨日までの幸せそうな姉貴の顔が浮かぶ。
「二股かけられてたの…。デート中に相手の女の子に会っちゃって…。でも彼は私じゃなくて、彼女に言い訳したの。…ただの大学のクラスメイトだって。」
俯いたまま淡々と語る。
次第にまた涙が溢れていた。
「バカよね…。結婚の約束までして浮かれてた挙句に二股って…。」
「姉貴…」
「大好きだったのに…。私、彼のこと大好きだったのに…!」
また泣きじゃくる姉貴の手が震える。
俺はそれ以上見ていられなくて、姉貴の手をそっと包み込んだ。
「姉貴は俺が守る…。もう辛い思いはさせねぇ。」
「…裕太…?」
そっと姉貴を自分の方に抱き寄せた。
「姉貴に好きな人ができるまででいい。それまで俺が姉貴を大切にする。」
「そんな…ダメよ…」
勝手な想いだということはわかってる。
だけど…
「姉貴が好きだから…大切だから……姉貴の涙は見たくねぇ…。」
俺の想いと一緒に姉貴を強く抱きしめた。
小さくて華奢な腕が俺の身体を回る。
「…ありがとう。裕太…。」
真冬で冷え切った身体を、二人の体温が温かくしていった。
END