すぐ近く【宍戸夢】
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~宍戸side~
無邪気に笑うあいつ
転んで泣いているあいつ
怒ってそっぽを向いたあいつ
俺は小さい時からあいつが好きだった。
あいつのことなら何でも知ってると思った。
だが今、俺の知らないあいつがいる……
『ありがとうございました!!!!!!』
部活のミーティングが終わり、コートに響き渡る程大声で200人以上の生徒が挨拶する。
その生徒と同じくらいのギャラリーもフェンス越しに存在する。
…その中にあいつも……
氷帝テニス部の部長である跡部がコートから出てくれば、それに群がる女子は大勢いる。
跡部が出た後に俺も部室に行こうとコートから出た。
すると…
「お疲れ様、亮!」
笑顔で俺に話しかけてくるのは幼馴染の名無しさん。
俺の好きなやつだ…
いつもこうやって練習を見に来る名無しさん。
だが名無しさんは俺なんか見ちゃいない。
「ああ、サンキュー、名無しさん!」
やっぱり俺は名無しさんのことが好きだ。
だから見ていないとわかっていても、名無しさんが笑顔で話しかけてくれれば気持ちが舞い上がっちまう。
俺が名無しさんの気持ちを知ったのはつい一週間前…
皮肉なことに、本人から聞いた…
珍しく部活が休みで、名無しさんと一緒に帰っていたとき、ふいに名無しさんが無邪気に言い出した。
「私ね、跡部君が好きになっちゃった…!」
「え…?」
最初は冗談かとも思ったが、名無しさんの顔がそうじゃないと物語っていた。
俺は無理に笑って誤魔化す。
「あいつのファン多いからな~…まぁ、頑張れよ!」
「うん!ありがとう!」
また無邪気に笑う名無しさんの顔が、俺にはやけに輝いて見えた。
部室に戻って着替えていると、長太郎が声をかけてきた。
「宍戸さん、何だか元気なさそうですね?どうしたんですか?」
「…何でもねぇよ…」
長太郎の顔を一瞬見たが、すぐに顔を背けて着替える。
「そんな風には見えませんでした!…俺でよければ…話を聞きますよ?」
長太郎の真剣な眼差しを受けて、俺は大きな溜め息をついた。
「お前には隠し事出来ねぇな…」
「俺はダブルスパートナーですから!」
笑顔でそう言う長太郎に俺も少し笑顔になった。
放課後、ハンバーガーを食べながら俺は名無しさんのことを話した。
「そうだったんですか…」
俺の話を真剣に聞いてくれた長太郎だが、俺は何だか気恥ずかしくてまともに長太郎の顔が見れなかった。
「相手は跡部だ…。あいつなら何でも持ってるし何でも出来る…。…名無しさんを幸せにすることだって…」
「でも、彼女が跡部さんの事が好きなのは、跡部さんのファンとしてじゃないんですか…!?」
「いや、名無しさんが跡部を好きなのは、氷帝の王様(キング)だからじゃねぇ…。名無しさんは跡部を…一人の男として見てる。…俺が敵うわけねぇよ…」
「元気出してください宍戸さん!」
悲観的になる俺を必死に元気づけようとしてくれる長太郎に、胸が痛くなる。
だが、このどうしようもない気持ちは拭い去ることが出来ない。
「話聞いてくれてありがとな。少し楽になったぜ…」
苦笑してから俺は鞄を持って店を出た。
「宍戸さん…!」
長太郎が俺を呼んだが、振り向く気力もなく、そのまま歩いて行った。
そう、跡部は俺が敵う相手じゃねぇ…
テニスも……恋も…
次の日、俺が学校に行くと何やらいろんな奴らが噂話をしていた。
『跡部に告った子がいるらしいぞ!』
『そんなのしょっちゅうだろ?』
『いや、今回は跡部、OKしたらしいぞ!』
『マジで!?どんだけ可愛い子なんだよ~!』
その時点で嫌な予感はした…
だがまだ名無しさんとは限らない。
跡部のファンは大勢いる。
その内の一人が跡部に告白して付き合うことになったんだろう。
俺は頭の中で無理矢理そう思い込んだ。
だが………
『B組の名無しさんって子が跡部様に告白したらしいわよ!!』
『何よ生意気ね~!!!』
「……」
それから俺は毎日、部活が終わってからもコートで一人で素振りをひたすら繰り返していた。
まるで辛いことを無理矢理消し去るかのように。
初めは長太郎や他のメンバーも俺の行動を見て止めたが、俺は誰の話も聞かず、ただひたすらラケットを振り続けた。
気持ちが晴れないまま数日が過ぎた頃、休憩時間の階段の踊り場で何やら声がした。
「あんた跡部様と付き合ってんだって?」
「ちょっと跡部様に気に入られてるからって調子に乗らないでよ!」
バシンッ!!
「…ッ!!!」
そこでは、跡部のファンが名無しさんを囲んで暴力を振るっていた。
名無しさんは何も言わず、ただ黙って耐えていた。
「何とか言いなさいよ!」
ファンの一人がまた名無しさんに手を出そうとしたとき、俺の体が勝手に動いていた。
「お前らみっともないと思わねぇのか!?」
「っ!?」
「し、宍戸くん…!?」
俺の一言で手の動きが止まる。
「行こ…」
ファンの一人がボソッと呟き、ゾロゾロとその場から去っていった。
俺はそいつらを見向きもせず、名無しさんに駆け寄った。
「大丈夫か?名無しさん。」
「うん…。ありがとう…亮…」
叩かれた頬を赤くして、名無しさんが苦笑した。
「跡部君と付き合う時点で覚悟してたけど…やっぱりキツいね…!」
俺に心配かけない為か、痛みを堪えて言う。
「…無理すんなよ…」
「うん、ありがとう!私負けないよ!」
それだけ言って笑顔で去っていく名無しさん。
俺はその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
…俺が守ってやる……
そう言えたらどんなに楽か…
~名無しさんside~
叩かれた頬がまだ少し赤いけど、私はいつものように跡部君の部活が終わるまで待っていた。
陽が完全に暗くなった頃、ようやく跡部君が校門から出てきた。
それと同時に跡部家の長い車から執事さんが出てきて、私と跡部君を車の中へと招き入れた。
未だに慣れないこの光景だけど、跡部君らしいといえばらしい。
今が夜で良かった…
明るかったら頬の赤みが見えていた。
そのことに安堵していると、急に跡部君が私の頬に触れた。
「え…?」
「お前、その頬どうした?」
車の中でもわかるくらいの真剣な顔に少しドキッとした。
「な、何でもないよ…!」
「俺様に隠し事が通じるとでも思ったか?」
慌てて手を振りほどこうとしたら跡部君に制止された。
「大方メス猫たちにやられたんだろう?…あ~ん?」
跡部君は全てお見通しだった。
だから私はこれ以上隠しはしなかった。
「大丈夫だよ!こうなることは覚悟してたから!」
無理矢理笑って心配をかけないようにしたつもり。
だけど跡部君の顔は晴れない。
すると今度は真剣な表情になって私を見つめた。
「なぁ名無しさん、お前が俺に好きだと告げたとき、俺が言ったことを覚えているか?」
「え?…う、うん…」
急な質問に驚きながらも頷いた。
『俺様はいろいろと忙しい。お前に何かあったとき、守ってやれないことの方が多いが、それでもこの俺様と付き合う覚悟があるのか?』
そう釘を刺されても首を縦に振った私。
たとえいじめられても、私は跡部君のことが好き。
それは変わらない事実だったから…
「名無しさん、もっと自分の周りをよく見てみろ。」
「周り…?」
「お前をいつも見て、守ってくれるやつがいるはずだろ?」
跡部君に言われて最初は戸惑ったけど、私の脳裏に一人浮かんだ。
「跡部君…それって…?」
「おっと!俺から言えるのはここまでだ。あとは自分で行動するんだな。」
言いかけた所で止められて、私は口を閉じた。
~宍戸side~
放課後、俺はいつものように残って素振りをしていた。
すると、後ろから声がした。
「もう遅いんだから、そろそろ帰ったら?」
声の方を向くと、そこにはタオルとドリンクを持った名無しさんが立っていた。
「名無しさん…!」
てっきり跡部と帰ったんだと思っていた名無しさんが何でここにいるんだ?
そんな疑問が浮かんだが、とりあえずタオルとドリンクを受け取った。
「ありがとな。………」
名無しさんはそれ以上何も言わない。
俺もどうしたらいいのかわからず黙る。
すると名無しさんが口を開いた。
「この間は助けてくれて本当にありがとう…!」
再度頭を下げる名無しさん。
「どうってことねぇよ…!…大丈夫か?」
「うん…大丈夫…!」
気丈に振る舞うが、名無しさんの顔は晴れないままだ。
「お前、跡部と帰らなかったのか?」
「うん…ちょっと亮と話がしたくなって…」
急にそんなことを言う名無しさんに驚いた。
「な、何だよ急に…//////」
名無しさんから背を向けて顔を見られないようにする。
「私、この間跡部君に言われたの…。……もっと周りをよく見てみろって…」
淡々と語る名無しさんの方をチラッと見て聞き返す。
「周り?どういうことだ?」
「お前をいつも見て、守ってくれるやつがいるはずだって…」
「え…?」
「私、よく考えたの…。……考えた結果、たどり着いたのが…」
そこまで言って名無しさんは急に俺の元へ掛け寄り、抱きついた。
「お、おい…!!」
驚いて離そうとしても、名無しさんの腕はほどかれない。
「亮、貴方だったの…」
「え?」
「私のことをよく見て守ってくれる相手、亮しかいないの…」
名無しさんの腕がどんどん強くなる。
俺はその言葉を聞いた瞬間、嬉しくて名無しさんを抱き締めた。
「俺、名無しさんがずっと好きだったんだぜ…」
「本当…?」
「ああ…」
今まで言えなかった事をようやく伝えることが出来た…。
その安心感と幸福感でまた強く名無しさんを抱き締めた。
すると…
バッ…!
今まで点いていたテニスコートのライトがいきなり消えた。
「な、何だ…!?」
慌てて上を見上げると、今度は俺たちを包み込むように一斉にライトが点いた。
「キャ…!」
「眩し…!」
目がチカチカして思うように前が見えない。
するとそんな中、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お前らに最高の舞台を用意した俺様に感謝するんだな!」
「!?」
声の方を向くと、そこには腕を組んで見ている跡部がいた。
「あ、跡部…!何やってんだよ!」
「あ~ん?俺様の情報網をなめるなよ?お前が名無しさんを好きなことぐらいお見通しだ。」
「ま、まさかお前、それを知ってて名無しさんと付き合ったのか!?」
「ああ。だが勘違いするなよ?別にお前がグズグズしてるからただ付き合った訳じゃねぇ…」
跡部のその言葉が気になり、怪訝そうな顔になる名無しさん。
それを見透かすかのように跡部が続けた。
「俺様も、名無しさんが好きだったんだよ…」
「え…!?///////」
「っ…!」
突然の告白に一瞬固まる。
それは名無しさんも同じだった。
「だが俺様は何かと忙しい。名無しさんを守ってやれるのは宍戸、お前だけだ!」
「跡部…」
跡部に指を指されて驚いた。
いつも自分が上に立って、不可能なことなんか一つもない自信家の跡部が、自分が守れないからと言って好きになったやつを他の男に譲るなんて…
「この俺様が譲ってやったんだ。名無しさんを幸せにしねぇと、ただじゃおかねぇからな?……行くぞ、樺地!」
「ウス…」
そう言って跡部はいつものように樺地を連れて去っていった。
テニスコートには俺と名無しさんの二人だけ。
シーンと静まり返ったテニスコートで俺たちは見つめ合うが、気恥ずかしさで照れ笑いが出るだけ。
「か、帰るか…//////」
「う、うん…/////」
あまり会話をせず二人で片付けをして、学校の門を出た。
暗がりの中、俺は自然に名無しさんの手を取っていた。
「亮…!//////」
名無しさんは驚いたようだったが、すぐに俺の手を握り返してくれた。
END