生徒と教師の壁【菊丸夢】
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今日も疲れたな………
そう思いながら電車を降りて改札口へ向かう。
時刻は午後7時を回ったところ。
2年前に新しく赴任した学校は家から遠く、電車の乗り換えを2回してまた20分くらい歩く。
どんなに早く終わっても1時間半はかかる。
正直、行き来だけで疲れる。
溜め息を着きながら人混みを掻き分けて急いで歩く。
すると…
「あれ?もしかして名無しさん先生!?」
急に誰かに呼ばれて振り返る。
声の主はにこやかに手を振っている。
「…?…ごめんなさい、どなた?」
その人物に近づいても誰かわからず、失礼だと思いながらもそう聞いた。
すると彼は驚いたように言った。
「ええ!?先生、俺を忘れたの!?菊丸英二!!…ほら、一年生の時古典の教科担だったじゃん!」
そう言われて名前と顔を見て記憶を辿る。
『原文の横に付いてる右下のこれがレ点で………』
『…Zzz』
『…菊丸くん!!起きなさい!』
『うわぁぁ!?…ご、ごめんなさい!!』
「あっ!菊丸くん!?」
ようやく思い出して改めてびっくりする。
だって………
「背、すっごく伸びててわからなかった~!」
そう、菊丸くんは彼が一年生の時の教え子。
いつも授業中に居眠りばかりして何度注意しても聞かない生徒だった。
でも、部活であるテニスに関しては一生懸命で、居眠りも部活で疲れてるのかな?って思う時もあった。
敬語じゃないのも前からで、元々堅苦しいのは苦手な私だから、他の先生がいない時はみんなタメ口で話してくれる。
「名無しさん先生全然変わんないね~!…俺が二年に上がる頃にいなくなっちゃってびっくりしたよ~!」
あの頃と変わらない笑顔で言う。
「あの時はホントにギリギリで言われたから先生もびっくりしたのよ~」
それに答えるように私も笑う。
「菊丸くんはかなり大人っぽくなって…。テニスはまだ続けてるの?」
「うん!全国大会優勝したよ~!」
「へ~!凄いじゃない!!おめでとう!」
「へへ~!」
そんな話をしながら歩いているといつの間にか分かれ道。
「じゃあ、先生こっちだから。菊丸くん、寄り道しちゃダメよ?」
半ば冗談で釘を刺して手を振る。
「しないよ~!…あ、先生!メアド交換しようよ!」
急にそう言われて戸惑う。
「え…で、でも……」
「いいじゃん!俺、青学の先生に話し辛いこととかいっぱいあるんだ…。名無しさん先生に相談にのってもらいたくて…」
そこまで言われて考える。
…まぁ……相談事があるなら…
「…いいわよ。」
ケータイを取り出して交換する。
「ありがと~!…じゃあ先生!またね~!」
また笑顔で手を振る菊丸くんに私も笑顔になりながら手を振る。
後ろ姿が見えなくなると、私も帰り道を歩いた。
家に着いて軽くご飯を食べてシャワーを浴び、タオルで髪を拭いているとケータイが光っている。
「?」
メールの受信が来てたみたいで、フォルダを開く。
「菊丸くん?」
相手は菊丸くんだった。
『名無しさん先生!今日は久しぶりに会えて嬉しかったにゃ~(^o^)
ありがとー!
また会えたら先生の奢りでご飯連れてってほしいにゃ~(  ̄▽ ̄)』
「…クスッ…何でそうなるのよ…」
見た目は変わっていても、言動や行動は一年生の頃の菊丸くんそのままだった。
それが何だか面白くて、つい笑ってしまう。
『こちらこそ、ありがとう。
菊丸くんが変わりなく元気そうでよかった(^^)
またいつかね!』
それだけ打ってケータイを閉じ、ベッドに入って眠りについた。
次の日、電車に乗って帰っていると、ポケットからバイブの音が聞こえた。
ポケットからケータイを取り出して画面を見ると、菊丸くんの文字。
開いて見ると、気さくな文章だった。
『先生お疲れ様~!
俺今日は寝坊して遅刻しそうになったよ~( ´△`)』
可愛い顔文字でそう書かれていて、思わず笑う。
『菊丸くんといえば寝てるイメージだね(^-^)
ちゃんと起きなきゃダメでしょう(笑)』
そう打って送ると、すぐに返信が返ってきた。
『へへ~(^。^;)
あ、名無しさん先生は今日何かあった?』
『今日は文化祭の準備で重い荷物をずっと運んでたよ…』
『大丈夫!?無理しちゃダメだよ~!』
『ありがとう(^-^)v』
軽いやり取りをしながら家に帰る。
おやすみのメールを打ってから眠りについた。
次の日も…その次の日も菊丸くんからメールが来た。
最初は普通に楽しかったけど、だんだんメールをすることに戸惑いを感じてきた。
前のとはいえ教え子とこんなにプライベートな話でメールをしてもいいんだろうか…
ケータイの受信メールを見ると、ほとんどが菊丸くんの名前で埋まっている。
それを見つめていると、また菊丸くんからメールが来た。
「…!」
びっくりしながらメールを開くと、いつもの気さくな文章ではなく、顔文字一つない文章が来た。
『あのさ…この前先生に相談があるって言ったじゃん?…そのことなんだけど…相談にのってもらっていいかな?』
かしこまった感じの文章に疑問に思いながら返事を打つ。
『いいわよ。どうしたの?』
『実はね…俺、好きな人がいるんだけど…その人、違う学校に行って会えないんだ…』
菊丸くんに好きな人……
あれだけテニスに夢中だった菊丸くんに好きな人が出来たなんて…!
…喜ぶべきなのに何故か心がキュッとなって切なくなる。
『そうなの!?その子、転校しちゃったのね…。
連絡とかはしてるの?』
『うん!毎日してるよ!今日あった事とか!』
毎日そんなこと連絡し合ってるならもう恋人同士なんじゃ?
そう思って打とうとした時、胸がドクンと鳴った。
菊丸くんとその子が毎日メールして恋人同士みたいに思えるなら…私たちだってそう思えるのかな…?
そこまで考えた所で頭を振り払い、メールの返信をする。
『なら、素直に気持ちを伝えてもいいんじゃないかな?
菊丸くんとプライベートな話をしてるってことは、その子もきっと菊丸くんの事が気になってるんじゃないかな?』
『そっか~!ありがとう名無しさん先生!!
俺、明日気持ち伝えてみる!』
『うん。頑張ってね(^_^)v
それじゃあ、おやすみ。』
そう打ってケータイを胸に当てる。
心臓の音がドクン…ドクンと脈打つ。
「好きな人……か………」
昨日のことが頭から離れないまま一日が終わり、いつもの様に電車を降りて改札口へ向かった。
すると…
「名無しさん先生!」
菊丸くんの声がした。
よく見ると、改札の所で待っている感じだった。
「菊丸くん!どうしたの?こんな時間に…。もう8時よ?親御さん心配するわよ?」
時計を見て時間を確認する。
「いいの!今日は遅くなるって行ったから!…それよりさ、昨日の事なんだけど…」
菊丸くんが顔を赤くして俯く。
「あ、どうだったの?」
私も気になってたし、率直に聞いてみた。
「…まだわかんない…」
「すぐに返事もらえなかったの?」
「ううん…。まだしてないし…」
「出来なかったの?」
「これからする!」
その言葉にびっくりして言った。
「そうなの!?…それなら早く連絡しなさいよ!本当は直接の方がいいけど…お家がわからないんじゃ仕方ないわね…」
「うん…。だからここに来た…」
菊丸くんが真剣な顔をして私を見る。
「え?どういうこと?」
意味がわからなくて聞き返す。
「俺、名無しさん先生が好き…!」
「………え?」
何を言われたの…?
頭の中が上手く働かない。
好きって…何…?
好き…!?
「ちょっと待って…!今…菊丸くん…私の事が好きって言った…?」
必死に整理しようと頭をフル回転させる。
だって菊丸くんは教え子で………
「うん!俺、一年の頃から名無しさん先生が気になってた!…でも…俺も最初信じられなくて…。教師と生徒の恋愛って、よく“禁断の恋”って言われるじゃん?だからどうしようって…」
真剣な顔から恥ずかしそうな表情に変わっていく。
私は何も言えなくてただ黙って菊丸くんの話を聞く。
「そうやって悩んでる時に先生、違う学校に行っちゃうし…。」
そこまで言われてようやく気づく。
「…昨日の話…そういうことだったのね…」
驚きが声になって出る。
違う学校に行って、会えなくなって、毎日メールして………
…恋人同士…?
昨日私が考えて止めたことがまた頭の中でちらつく。
「…本気なの…?」
嬉しさと戸惑いの込めた声で聞く。
…嬉しさ?
「本気!!!俺、この前名無しさん先生とここで会って、ホントに嬉しかった…!…名無しさん先生と連絡するのは今しかないって…」
菊丸くんの真剣さが伝わってくる。
それと同時に胸が熱くなり、昨日と同じように心臓がドクンと脈打っている。
「菊丸くん…」
「俺、まだまだ子どもだけど…先生のことが大好きって気持ちは誰にも負けない!」
菊丸くんのこんな表情は今まで見たことがない。
…私でいいんだろうか…?
ふとそんな考えが思い浮かぶ。
菊丸くんにはもっと他にいい子がいるはず。
それなのに、私なんかでいいの…?
そうは思っているけど、心の奥底では嬉しさでいっぱいの自分がいる。
「…………ダメ…かな…?」
私が迷っていると、菊丸くんが悲しい表情をする。
それを見ていられなくて、つい必死に否定した。
「そんなことないわ!私、嬉しい!」
そう口走ってしまったからにはもう後戻りは出来ない。
私は菊丸くんへの想いを精一杯伝えた。
「私、この間菊丸くんに声を掛けられてびっくりしたの…。…急にっていうのもあるけど…何より、菊丸くんが男らしくなってたから…////」
顔を真っ赤にして菊丸くんを見つめる。
「それから…菊丸くんとメールしてる間も菊丸くんの姿が離れなくて…」
「名無しさん先生…!」
言い終わる前に私は菊丸くんの腕の中にいた。
「俺、すっごい嬉しい!!!」
「ちょ…菊丸くん…!?//////」
公共の場でこんなこと恥ずかしいのに、それよりも嬉しさの方が込み上げてくる。
私を抱き締める腕が強くて、やっぱり男なんだってことを思い知らされる。
だから私もそれに答えるように菊丸くんの体に腕を回した。
「俺、絶対名無しさん先生を大事にする!」
「うん…。ありがとう、菊丸くん。」
気がつくと、私の眼から涙が一筋流れていた。
END