合縁奇縁【海堂夢】
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満足した様子で飄々と家に戻る一匹の猫。
いつもどこに行っているのかは謎だが、帰ってくるときは必ずどこか嬉しそうだった。
名無しさんが母の手伝いを終えて自室に向かおうとすると、いつの間にか帰ってきていた飼い猫に目が止まる。
「名無しさん!またどっかフラフラして~!」
名無しさんを抱き上げて顔を見る。
だが今日はいつもと何かが違う。
「?…名無しさん、もしかして誰かにエサもらったの?」
名無しさんの口元を見ると、微かだが何か食べかすが付いている。
名無しさんがそれを取ってやるとそのまま名無しさんを下に降ろしてやった。
名無しさんはエサを与えた人物への申し訳なさと、誰が与えたのかという疑問を抱きながら自室に戻った。
『にゃーん…』
名無しさんの家から程近い場所にある橋の下の川沿い。
名無しさんはいつもここを通って一人で散歩している。
すると名無しさんの目にいつもと違う光景が見えた。
『っぁあ…!…っはぁっ!!』
掛け声と共に水飛沫が飛ぶ。
こいつは何をやっているのか…?
名無しさんは心の中で思う。
リンリン…
『?』
名無しさんの首に付いている鈴の音を聞き、動きを止める。
『にゃーん…』
『…お前、飼い猫か…?…どっから来た?』
緑のバンダナを巻いた少年、海堂は寄ってきた名無しさんの頭を撫でた。
少し休憩するために大きめの石の上に座り、近くにあった猫じゃらしを一本抜いて名無しさんに向けて振った。
『にゃーん…にゃーん…』
猫じゃらしを追うように名無しさんは鳴きながら海堂の方へ近づく。
『お前、家は近いのか?』
答えるはずはないのだが、海堂は名無しさんに優しく聞く。
しばらく猫じゃらしで遊んでいると、海堂はすっかり暮れてしまった空を見る。
『…もうこんな時間か…。お前の飼い主、心配すんぞ。』
もう一度頭を撫でたあと、海堂は練習で使ったタオルを持ち、名無しさんを抱き抱えて立ち上がった。
『ここにいたら飼い主に見つけてもらえねぇだろ…。』
そう呟いて橋の上まで登り、名無しさんをそこで降ろしてやった。
『じゃあな。飼い主が来るまで動くんじゃねーぞ。』
そう言って海堂は帰っていった。
それから数日、名無しさんはいつものように海堂の元へやって来た。
最初は呆れていたが何を言っても無駄なことに気づき、途中から海堂も名無しさんに少しエサをやるようになった。
ある日、名無しさんは名無しさんを抱き抱えて買い物をした。
その帰り道、橋を渡っていると突然名無しさんが名無しさんの腕から抜け出して走っていった。
「あ、こら名無しさん!!」
慌てて名無しさんを追いかける。
名無しさんの目に飛び込んで来たのは、名無しさんと同じくらいの年の男の子が名無しさんの頭を撫でていた。
「もしかして、あなたが名無しさんにエサを?」
名無しさんの声に驚いて見上げる海堂。
「あ…いや…その……勝手にすみません…」
怒られると思い、同い年くらいだとわかっていながらも敬語で謝る。
「いいの!謝らないで!…むしろうちの猫が毎日ごめんね。…迷惑だったでしょう?」
「いや!そんなことは…!」
この時からいつもクールな海堂の様子がどこかおかしかった。
緊張しているかのような言動…
泳ぐ視線……
「あの…その猫、名無しさんって言うんですね…」
海堂自信も自分の言動に違和感を覚えていた。
すると名無しさんはクスッと笑って言った。
「敬語なんてやめてよ…!私たち、多分同い年でしょう?」
「あ、えっと…多分……」
「あ、でもあなたが年上ならごめんなさい…!」
慌てて言う名無しさんに海堂も同じように慌てて言う。
「いや、俺中2だけど…敬語じゃなくても…!」
そこまで言うと名無しさんは被せるように笑った。
「なんだ!ならやっぱり同い年じゃない!私も中2!」
ニコッと笑いかける名無しさんの笑顔に海堂は見とれる。
「ねぇ、あなた名前は?」
笑顔からワクワクした期待に満ちた表情に変わる。
「えっと…海堂…薫…」
「海堂くんね!私は名無しさん名無しさん!」
恥ずかしさからか、海堂は自然に下を向いてしまった。
そんな様子を見て名無しさんはクスッと笑った。
ふと海堂の横に置いてあったテニスラケットのバッグが目に入った。
「海堂くん、青学のテニス部なんだ!」
急にそんなことを言い出し、びっくりする。
「強いって有名よね!」
また海堂を見て無邪気に笑う。
「いや…ま、まぁ…先輩たちが強いだけで…俺なんかまだ…」
「でも、まだまだって思うからここで練習してるんでしょう?」
「え…あ、あぁ…」
「それだけでも凄いと思うよ!」
嘘偽りのない瞳で見つめる名無しさんを見ることが出来なくて、海堂は勢いよく立ち上がり、鞄からドリンクを取り出して一気に飲んだ。
すると名無しさんはさらに海堂に追い討ちをかけた。
「私、自分の力量に満足しないで一生懸命練習して強くなろうって思って頑張ってる人好きよ。」
海堂を見上げて言うが、海堂は恥ずかしさのあまりペットボトルを握ったまま動かない。
気がつくと今まで雑草で遊んでいた名無しさんが海堂の足元に寄ってきていた。
「名無しさんも海堂くんのことが好きみたいね!」
名無しさんは名無しさんの傍まで来て頭を撫でる。
「え?」
「この子、人になかなか懐かないの。元は捨て猫だったから、多分その時の警戒心からだと思うんだけど…。」
名無しさんを撫でながら語る名無しさんの話を真剣に聞く。
「そうだったのか…」
「飼い始めたときも全く懐いてくれなくて…自分から来てくれるようになったのは半年後だったの。」
苦笑して名無しさんから視線を海堂に向ける。
「全く想像つかねぇ…」
ポツリと呟く海堂に名無しさんはパッと明るく言った。
「海堂くんは動物に好かれるのね!」
「いや…そんなことは……////」
「これからも、名無しさんと仲良くしてあげてね!…それじゃあ、もう行くね!…名無しさん、おいで!」
立ち上がって名無しさんを呼ぶと、名無しさんは名無しさんの傍に寄り、そのまま名無しさんを抱き抱えた。
「あ…あぁ…」
手を振る名無しさんを見つめる海堂。
海堂の鼓動がやけに速く脈打つ。
「…フシュ~…………」
不快感に耐えながら海堂はまたひたすら練習に取り組んだ。
END