拝啓…【リョーマ夢】
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静かな病室の窓からカーテンを靡かせて心地よい風が吹いた。
開いていた本のページが風でペラペラと捲れた。
その本の傍らには白いシーツのベッドに横たわる少女。
名無しさんという少女は生まれつき体が弱く、小さなときからずっと入院している。
もういつ死んでもおかしくない状態でも、名無しさんは必死に生きようとしている。
それにはある理由があった。
「名無しさん。どう?調子は。」
「あ、リョーマくん。うん、今は平気。」
名無しさんが笑顔で返す相手は、幼馴染の越前リョーマ。
生まれたときはリョーマと一緒にアメリカに住んでいたが、名無しさんが一歳になった頃、名無しさんは重い病気にかかってしまった。
すぐに日本に帰国し、その足で大きな総合病院に入院した。
リョーマが中学に上がる前に帰国して以来、名無しさんの病院へよくお見舞いに来ている。
「そ。無理すんなよ。」
「うん。ありがとう!」
そう言ってリョーマに心配かけまいと精一杯の笑顔を向ける。
リョーマは素っ気無い態度を取りながらも、ちゃんと名無しさんのことを本気で心配していた。
名無しさんはそんなリョーマにだんだん惹かれていった。
これが名無しさんの生きる希望だった。
だが、神様は名無しさんに残酷な現実を突きつけた。
一週間前、両親と共に主治医に呼ばれた名無しさんは、用意してあった椅子にゆっくりと腰をかけた。
「どうか落ち着いて聞いてください。」
前置きをして主治医はコホンと軽く咳払いをした。
「娘さんの余命は…あと長く持って二ヶ月でしょう。」
「…え?」
その言葉に名無しさんはショックを受けた。
母親はその場に泣き崩れ、父親はそんな母親を慰める。
「カルテを見ていただいたらわかると思いますが………」
主治医が話し始めたが、名無しさんはそれ以上耳に入ってこなかった。
リョーマが帰ってからは、しばらく窓の外を眺めていた。
たった二ヶ月しか生きられない自分の体を、名無しさんは何度も何度も責めた。
二ヶ月で何が出来る?
何が残せる?
そう考えていた名無しさんの頭の中に、一つの考えが浮かんだ。
名無しさんは手を伸ばして引き出しを開けて、手紙と便箋を取り出した。
「私が生きてたっていう証拠を残したい…!」
そう思いながら名無しさんはペンを必死に走らせた。
『拝啓、リョーマくんへ。
この手紙をリョーマくんが読んでるってことは私、死んじゃったんだね…。
今までずっとお見舞いに来てくれてありがとう。
リョーマくんからいっぱい元気もらったよ。
病気に勝つことは出来なかったけど、私リョーマくんに出会えて良かった。
リョーマくんに出会ったことで、いろんな感情が出せるようになったの。
悲しみ…喜び…人を好きになるということ……
たった12年間の人生だったけど、リョーマくんという大切な人に巡り合えて、私は本当に幸せものだよ。
これからもあまり無理をせずに頑張ってね。
名無しさんより。
P.S リョーマくんがテニスの試合してるところ、一度でいいから見てみたかったな。』
ここまで書いてペンを置き、また再び窓を見つめた。
どこまでも続く青空に、名無しさんはリョーマへの想いを呟いた。
「大好きだよ。」
名無しさんの言葉は、吹いてきた風にかき消された。
END
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