多重人格【河村夢】
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部活帰り、俺は図書室に本を返し忘れ、仲間と別れて図書室に行った。
「図書室、開いてるかな?」
廊下を急ぎ足で歩きながら呟く。
図書室のドアに手をかけて開けてみると、すんなりドアが開いた。
「…あれ?開いてた。」
時刻は18時をまわろうとしているのに、こんな時間まで図書室を利用している人がいるんだろうか?
そう思いながら入ると、そこに人影があった。
「あ…」
「…!」
図書室の一番後ろの席に、同じクラスの名無しさんさんがいた。
「名無しさんさん。まだ学校にいたんだ。」
借りていた本を返した後、名無しさんさんに近づきながら話しかけた。
「河村くん…。うん。放課後はいつも図書室で本を読んで、心を落ち着かせてるの。」
綺麗な、透き通った声で言う名無しさんさんの隣に腰掛けた。
「へぇ~。本が好きなんだね。何読んでるの?」
俺が問いかけると、名無しさんさんは開いているページに指を軽く挟んで本を閉じた。
「これ読んでるの。このお話の主人公、私とよく似てて、私のお気に入りなの。」
表紙に書いてあったのは、『多重人格』という漢字四文字。
「名無しさんさんとよく似てるって?」
不思議に思い聞いてみた。
「私、多重人格なの。先生の前ではいい子ぶって、友達の前では優しくなって、男の子の前では女の子ぶって、親の前ではニコニコ作り笑いして…。」
「…」
名無しさんさんの話を俺は黙って聞いていた。
「笑っちゃうでしょ?どれが本当の私なのかわからないなんて…。…今だって、河村くんの前で猫かぶってるかもしれないよ。」
あははと笑う名無しさんさんの表情は、どこか寂しげで―
「こんなことだから、本当の気持ちをわかってくれる友達なんて…いないのよね…。」
…悲しげだった―
でも、そんな名無しさんさんは、俺と少し似ている気がした。
「俺だって、人格変わっちゃうよ。」
「え?河村くんが…?」
悲しげな顔が少しおどいた顔になりながら俺を見つめる。
「うん。テニスしている時にね。ラケットを握ると、急に熱血になるんだ。」
苦笑しながら言う俺に、名無しさんさんはさらにびっくりした顔になる。
「信じられない…!河村くん、いつも優しいから全然想像つかない。」
「だろ?俺も一年生の時、初めてこの人格になったときびっくりしたよ。」
頭をかきながら言う。
「でもね…俺はもう一つの人格を知って、嫌だなんて思ったことないよ。」
「…どうして?」
真剣な眼差しで見つめる名無しさんさんに、笑顔を向けて言った。
「だって、二つの人生みたいでおもしろいだろ?」
「…二つの、人生…?」
「うん。名無しさんさんは二つだけじゃなくて、いろんな人生があって楽しいじゃないか!」
何の励ましにもならないけど、名無しさんさんが少しでも元気になればいい。
「だから、今の自分を嫌いになっちゃダメだよ?」
「河村くん…ありがとう。」
目に涙を溜めながら言う名無しさんさん。
俺はその涙を手で拭い、イスから立ち上がって名無しさんさんに手を差し伸べた。
「ハハ。いいよ。…さぁ、もう遅いし一緒に帰ろうか。」
鞄を持って笑顔で言う。
「…うん。」
俺の手を取り、名無しさんさんも鞄を持って一緒に帰った。
END
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