空に向かって【不二夢】
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―窓際の席の女の子。
いつも静かで人と話すことがあまりない。
話しかけられれば話すけど、自分からは話しかけない。
地味で目立たないけど、僕はいつも“あの子”を気にしていた―
授業が終わって10分間の休憩時間。
僕が窓際の席を見ると、もうあの子はそこにいない。
「最近不二、名無しさんさんのこと気にしてにゃぁい?」
ボーッとしていると、英二が明るい笑顔で言った。
「…もしかして!不二、名無しさんさんのこと好きになったとか!?」
目をキラキラさせて僕に寄り添う。
「クスッ…そんなんじゃないよ。…ただ、ちょっと気になるだけ…。」
それだけ言って僕は席を立ち、教室を出た。
「どこ行くんだよ?」
「ちょっと気分転換。」
手だけ振って歩き出した。
「屋上に行ってみようかな?」
独り言のように言った後、屋上に向かった。
長い階段を上り、屋上へ続く扉を開けようとしたその時、フと誰かの歌声が聞こえてきた。
「?…誰だろう?」
扉を開ける手を止めて、僕は窓ガラスを見て確認した。
そこには、フェンス越しに景色を眺めている名無しさんさんがいた。
普段、名無しさんさんの声をあまり聞かないから、何だか不思議な気持ちになる。
僕は気づかれないように扉に背中をもたれ、名無しさんさんの歌声を聴いた。
名無しさんさんの歌声は、とても透き通っていて、和やかな気持ちになった。
しばらく聴き惚れていた僕は、思わず少し音を立ててしまった。
「…っ!?…だ、誰?」
ほんのわずかな音でも聞こえた名無しさんさんは、少しびっくりしていた。
僕はゆっくりと扉を開けた。
「そんなに怖がらないで。」
「ふ…不二くん…。」
僕だと安心したのか、名無しさんさんは胸を撫で下ろす。
「名無しさんさん、歌上手いんだね。聴き惚れたよ。」
そう言いながら、名無しさんさんの方へ歩み寄る。
すると名無しさんさんは照れたのか、少し顔が赤くなる。
「そ、そんなことないよ//////」
照れて赤くなった名無しさんさんは、すごく可愛い。
「クスッ…。いつもここで歌ってるの?」
名無しさんさんの隣に行き、フェンス越しに景色を眺めながら言った。
「うん。ここで一人で歌っていると、嫌な気持ちが吹き飛ぶの。」
風で名無しさんさんの髪がなびく。
そこから漂うシャンプーの香り。
歌声だけじゃなく、側にいても和やかな気持ちになる。
「そうなんだ。…ねぇ、他の人もこのこと知ってるの?」
「ううん。誰も知らないと思う。…見られちゃったの、不二くんだけだし。」
「そっか…じゃあ僕だけしか知らない名無しさんさんを見られたんだ。」
「ふふ。そうみたいね。」
愛くるしい笑顔で僕の方を向く。
名無しさんさんの一面は僕“しか”見ていない。
そう考えるだけで、何だか嬉しい気持ちがした。
「あ、私そろそろ教室に戻るね。じゃあまた後でね。」
そう言って名無しさんさんは、長い髪をなびかせ、屋上を後にした。
名無しさんさんを見送ってから、もう一度景色を眺めた。
「英二…君の予想は当たってるよ…」
空に向かって呟いた。
そう、名無しさんさんのことを気にし始めた時から、僕は名無しさんさんのことが好きになっていたんだ―
でもその気持ちは、名無しさんさんの歌声や笑顔を見るまで気づかなかった。
「名無しさんさん…今度は“君が好き”という意識を持って話すよ。」
僕はまた、空に向かって呟いた。
END
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