二人の一歩【サエ不】
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子どもの頃から変だと思っていた。
男が男を好きになるなんて…
でも、僅か5歳だった僕でもこれが友達として好きなのか、そうじゃないのかぐらいわかっていた……
ボクと裕太と姉さんと母さんで、待ち合わせ場所のお店に来た。
今日は仲良しの友達とみんなで夜ご飯。
ボクたちがお店に行くと、先に来ていた名無しさんちゃんが手を振って言った。
「あ、周助くん!裕太くん!由美子ちゃん!」
「名無しさんちゃん!」
ボクも手を振り返すと、裕太が姉さんの後ろに隠れた。
恥ずかしがり屋さんだもんね!
そんなことを姉さんと言い合って笑った。
虎次郎くんたちも来て、みんなで楽しくご飯を食べた。
みんなでワイワイ楽しくご飯を食べてると…
「名無しさんちゃん、これあげるよ。」
「えっ!いいの!?ありがとう、虎次郎くん!」
虎次郎くんが名無しさんちゃんに自分のポテトをあげていた。
名無しさんちゃんは凄く嬉しそうに笑う。
そんな名無しさんちゃんを見て、虎次郎くんも笑う。
でもボクはちょっと複雑……
虎次郎くんは…名無しさんちゃんのこと好きなのかな?
名無しさんちゃんは…虎次郎くんのこと好きなのかな?
二人が大人になって、手を繋いでいる所を想像してみる。
……イヤだな…
そう思っていると、名無しさんちゃんが少し大きな声で言った。
「名無しさん、裕太くん大好きだよ!でも、周助くんも虎次郎くんも好きー!」
「あらあら!名無しさんちゃんは欲張りさんねー!」
母さんが名無しさんちゃんの頭を撫でる。
ボクも……
「ボクも、虎次郎くん大好きだよ!」
名無しさんちゃんみたいに大きな声で言うと…
「そうねー。周助にとって虎次郎くんは大好きなお友達だもんねー!」
そう、母さんに言われた。
お友達だから好きなんじゃない…
やっぱり、男のボクが同じ男の虎次郎くんを好きになったら変なんだ……
それから約10年経った今も、佐伯のことが好きだった。
僕は青学、佐伯は六角
佐伯もテニス部に入部したと聞いて、もしかしたら対戦することもあるかもしれない。
佐伯に…会えるかもしれない。
そんな期待はある日突然やって来た。
裕太と名無しさんちゃんが付き合いだしたと聞いた数日後、佐伯から久々にメールが届いた。
『不二、久しぶり。急で悪いんだけど、近々会えないかな?』
急な誘いにビックリしたけど、心臓が飛び上がるくらい嬉しい。
『久しぶり。珍しいね。いいよ。』
そう返して、日にちや時間を決めた。
「やぁ、佐伯。久しぶりだね。」
場所は約10年前、僕たちが家族ぐるみでよくご飯を食べたファミレス。
店員さんはガラリと変わり、何年か前に店内をリニューアル工事したとかで、内装はあの頃より綺麗になっていた。
「悪い、待たせたかな?」
僕が座ってる席の向かいのソファーに佐伯が腰掛ける。
「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ。」
本当は、心臓が今にも飛び出しそうな程脈打っている。
それを悟られないようにコーヒーを飲む。
佐伯が店員さんにドリンクバーを頼むと、席を立ってドリンクバーの方へ向かった。
何だか落ち着かなくて、コーヒーを飲んでは置いてを繰り返す。
佐伯がアイスティーを持って席に戻ってきた。
佐伯がアイスティーを口にして一呼吸置き、僕を改めて見た。
「悪いな。急に呼び出したりして…」
「いや、大丈夫だけど…。何かあったの?」
「裕太くんと名無しさんちゃん、付き合いだしたって、本当?」
“名無しさんちゃん”って単語に、少しドキッとする。
もしかしたら佐伯は、あの頃から名無しさんちゃんが好きだったのかもしれない。
「う、うん。そう…みたいだね。」
佐伯の顔が見れず、空だとわかってはいるのにコーヒーを飲む仕草をする。
その後の佐伯の返答が怖い…
『俺も、名無しさんちゃんが好きだったんだ』
なんて言われたら、僕はどう返せば良いんだろう?
佐伯にどんな表情を浮かべれば良いんだろう…?
…そもそも裕太と名無しさんちゃんは既に付き合ってるんだから、今更佐伯と名無しさんちゃんがどうこうなるということはない。
佐伯が略奪する、なんてことはあり得ないことぐらい、ずっと佐伯が好きだった僕にはすぐわかる。
そう頭ではわかってるのに、胸の奥がザワザワする感覚に陥る。
目のやり場に困り俯いていると、佐伯が更に続ける。
「…やっぱりそうか!あの二人、お似合いだもんな!」
そう笑う佐伯のその表情が、僕には無理をしているように見える。
そのあと、佐伯が真剣な表情になった。
「俺もさ、好きなんだよね…」
「…っ!」
あぁ…やっぱり佐伯も名無しさんちゃんの事が好きなんだね…
ズキン…と痛む胸が、僕の密かな想いはやっぱり普通じゃないということを物語っていた。
「不二、俺はお前が好きだ。」
「……え?」
サラッと佐伯が何か言った気がした。
僕の願望が幻聴として聞こえた…?
「佐伯…。今、何か言った…?」
幻聴か現実かわからなくて、恐る恐る聞いてみた。
すると佐伯が苦笑して言った。
「おいおい!一世一代の告白、聞いてなかったの?」
「え、告白…?」
何が何だかわからない。
「まぁ…男が男に告白するなんて信じられないよな…。」
言いながら佐伯はアイスティーを口にする。
「男が男にって…佐伯が…僕を好きってこと…?」
「まぁ…そういうこと。」
佐伯の顔は至って真剣。
幻聴じゃないということはハッキリとわかる。
「それって…」
言いかけて佐伯が慌てるように被せた。
「あ…!この気持ちが普通じゃないことぐらいわかってる!不二が信じられない気持ちでいることもわかる!ただ、裕太くんと名無しさんちゃんの気持ちが通じ合ったって聞いて…俺も不二にずっと隠してた気持ちを打ち明けようって思っただけなんだ…!…だから、不二とどうこうなりたいってわけじゃなくて…二人に背中を押されたというか…」
歯切れ悪く捲し立てる佐伯。
普段飄々として余裕そうにしてる佐伯がこんなに慌てるなんて知らなかった。
でも何より、佐伯が僕と同じ気持ちだったことが嬉しい。
「佐伯、ありがとう。僕も、佐伯がずっと好きだった。」
今まで見られなかった佐伯の顔をしっかりと見つめて言う。
「え…本当…?」
目を丸くして僕を見る。
「うん、本当。」
少し照れながらも確かに頷く。
「あの時不二が言ってくれたこと、嘘じゃなかったんだな。」
あの時…?
わからず困惑していると、佐伯が説明してくれた。
「昔、家族ぐるみでここにご飯食べに来た時、不二が俺のこと大好きだって。」
あ……
「その時は、おばさんが友達として。って言ってたけど。それでも大好きって言ってくれた事が嬉しかったんだ。」
「そっか…良かった…!」
あの時の僕の気持ち…佐伯に届いてたんだ…
安堵する僕に佐伯は笑った。
それから数ヶ月。
僕たちは毎週会っている。
「クス…」
「なーに人の顔見て笑ってんだ?不二。」
公園のベンチに座ってアイスを食べる佐伯の横顔を見ながらふと思い出す。
「ホント、普段無駄にカッコいいのにあの時あんなに慌てたり真剣になったりするの、面白いよね?」
二人の気持ちが通じ合った時の事を思い出して、また笑いが込み上げてくる。
「無駄は余計だ。」
「ん…冷た…!」
そう言って佐伯は口に含んだばかりのアイスを僕に口移しで与えてくる。
「そういうとこも好きなんだろ?」
唇を少し離しただけの距離でそんなことを言われる。
「それが無駄にカッコいいんだよ。……でも…佐伯の言うとおり…そういうとこ、大好き…」
チュ…
今度は僕から佐伯にキスをする。
外だというのにそんなのお構い無しに、いつしかお互い求めるようなキスに変わっていった。
END
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