二人の距離【桃リョ】
「桃先輩、部活行くっスよ。」
「おう!」
いつもと変わらない日常。
朝は桃城がリョーマの家に自転車で迎えに行き、放課後は二人で部活に行く。
時には帰りに寄り道したり………
そんな当たり前な毎日を過ごす二人。
だが、それも長くは続かない。
「越前、悪ぃ。俺、しばらくお前を迎えに行けそうにないわ…。」
「え?」
そう言い出したのは桃城からだった。
「どういうことっスか?」
「あ~…えっと…朝早く起きるのが辛くなってよ!…ったく、俺も年だぜ!」
なんて無理矢理笑顔を作る。
「ふ~ん…。そ。わかった。」
軽く返事をしてリョーマは練習に戻って行った。
次の日、朝練の為にリョーマがテニスコートに行くと、いつも早く来ている桃城が来ていなかった。
「あれ?休み?」
リョーマが不思議に思っていると、手塚が部員を集めた。
「急な事だが、桃城がしばらく休部することになった。」
「え…?」
ざわ…
手塚の一言にみんながどよめく。
「今まで以上に油断せずに行こう。」
『はい!』
返事の後、それぞれ練習に戻っていく。
リョーマはただ立ち尽くしていた。
部活が終わり、リョーマは迷わず桃城の家に向かった。
ピンポーン…
ガチャ…
「…越前……」
玄関を開けると、リョーマがムスッとして立っていた。
「何で部活来ないんスか?」
「いや…その…」
問い詰められ、桃城は言葉を濁す。
「急に一緒に学校行けなくなるし、休部なんかするし!…俺桃先輩に何かしたんスか?朝起きられないのも嘘っスよね!?」
一気に捲し立てられ、桃城は俯いたまま黙る。
「何とか言ってくださいよ!」
イライラしながら急かす。
すると桃城が口を開き、リョーマを思いきり自分の方へ抱き寄せた。
「え…ちょ……!」
「…ったく……俺がどんな気持ちでお前から離れたと思ってんだよ…!」
呟くように言う桃城に耳を傾ける。
「どういうことっスか?」
「お前と一緒にいると俺が俺じゃなくなるんだよ!…これ以上お前と一緒にいたら理性が保てなくなっちまう。だから学校行くのも別にして、部活も俺が出なきゃお前とも距離が取れると思ったんだよ!」
必死に語る桃城に、リョーマはため息を吐いた。
「…先輩…バカじゃないの…?」
「え?」
「俺だって桃先輩が俺から離れて行ってどんだけ不安だったと思ってんスか?」
リョーマは桃城を上目遣いで見つめる。
「やり方が不器用なんスよ…アンタ…」
見つめていた目線を照れたように逸らす。
「越前……すまなかった!」
リョーマを抱き締める腕にまたさらに力を込める。
「…ホントっスよ…」
安心しきったようにリョーマは桃城の腕の中で力を抜いた。
次の日、桃城はいつも通りリョーマの家まで迎えに行った。
「お~い青少年!恋人が迎えに来たぞ~!」
「な…!親父黙ってて!」
慌ただしく玄関から出るリョーマを桃城が笑顔で迎えた。
「おっしゃ!行くぜ!」
「っス!」
一度遠くなった二人の距離は、前よりももっと距離が近くなった。
END