約束【桃リョ】
今日、桃先輩が学校を休んだ。
いつもチャリで家まで迎えに来てくれるのに、今日は来なかった。
学校についてすぐ二年生の教室に行き、桃先輩と仲のいい先輩に聞いた。
「あの…今日桃先輩は…」
「あぁ…今日桃、休みだってよ~。風邪引いたって聞いたぜ?」
「あ、そうっスか…。どうも。」
それだけ言って教室に戻った。
風邪なんて似合わない桃先輩が、学校を休むのは珍しい。
「…帰りに寄ってみよう。」
少し心配になりながら、今日一日授業を受けた。
放課後、俺は桃先輩んちに寄った。
チャイムを鳴らすと桃先輩が出てきた。
「よう!」
「先輩。…風邪なのに起きてていいんスか?」
風邪で寝ているはずの桃先輩が出てきて、少しビックリした。
「あ…まぁ……上がれよ!」
そう言われてリビングに通された。
「先輩…もう熱下がったんスか?」
ソファーに座って桃先輩に話しかけた。
「あ~…えっと…実はな…仮病なんだ…。」
「は?」
俺と目も合わせずに、頭をポリポリかきながら言う先輩。
「…はぁ……。心配して損した。俺帰るっス。」
呆れて帰ろうとドアに手をかけたとき、桃先輩が後ろから俺に抱きついた。
「俺が仮病で休んでなかったからお前、絶対俺んち来ねぇだろ?」
耳元で囁かれ、心臓が大きく脈打つ。
「…先輩、ズルい…。」
「…あぁ。そうだな。」
俺が小さな声で言えば、桃先輩は辛そうに答える。
「…俺がどんだけ心配したと思ってんスか!?」
「…あぁ。お前の気持ち、スッゲェ伝わった。…悪かった。」
少し涙声で叫ぶと、桃先輩はさらに辛い声になっていく。
それと同時に、俺の首に回された桃先輩の腕に力が入る。
「でもな…最近お前俺に冷たいだろ…?だから風邪で休んだら、来るかと思って…。」
「……」
自分では無意識だったけど、俺、桃先輩に冷たくしてたんだ…。
誰よりも大切な桃先輩を…知らない間に傷つけてたんだ…。
そう思うと、次から次へと涙が溢れてくる。
「お、おい…泣くなよ…悪かったって…。」
くるりと体の向きを変えられ、桃先輩が涙を拭いてくれる。
「俺…知らない間に桃先輩を傷つけてた…。…すみません…。」
優しく笑ってくれる桃先輩を見ると、また涙が出てきそうになる。
「いや…越前が謝ることはねぇよ。」
そう言って、桃先輩はまた俺を抱きしめてくれた。
「もうしねぇから安心しろ。」
頭を優しく撫でながら先輩が言う。
「…約束っスよ…。」
俺から流れていた涙は、いつの間にか嬉し涙に変わっていった。
END