kiss you【乾海】
今日は俺の恋人の乾先輩の誕生日だ。
全国大会へ向けてハードな練習が続いていたから、正直誕生日を覚えている暇がなかった。
俺が乾先輩の誕生日を思い出した(思い出さされた)のは、今日の朝練の時だった。
汗をふいていると、乾先輩が俺に近づいてきてこう言った。
『海堂、今日お前は俺に渡したいものや言いたいことはないか…?』
それだけ言って、去っていった。
『(つまり何かくれっていいたいのか!?)』
せっかく汗をふいたのに、また汗をかいてしまった。
それからというもの、俺は授業中もずっと乾先輩への誕生日プレゼントを考えていた。
「(…思いつかねぇ…。あの人は何がいいんだ?)」
いくら考えても思いつかない。
そもそも先輩の誕生日は“今日”だ。
プレゼントなんて買いに行けるわけがない。
「(どうすっかな~…)」
そうこうしている内に、いつの間にか授業が終わっていた。
昼飯を食べているときもずっと考えていた。
すると突然、乾先輩の言葉が脳裏を掠めた。
『たまには海堂からのキスを味わいたいものだな…。』
「…///////」
顔から火が出るほど赤くなる。
クラスのヤツらが俺を見る。
「…み…見るんじゃねー!!///////」
そう言って、逃げるように教室を出た。
「(キ…キスなんか出来るわけねぇーだろ!!/////)」
顔の熱が冷めないまま早歩きで歩いていると、無意識に部室の前まで来ていた。
俺たちが始めてキスをした場所…
「キスか…」
あの時の光景が蘇る。
好きな人には喜んでもらえるようなプレゼントをあげたい。
「…キスしかねぇよな~…。」
散々他のプレゼントを考えたけど、結局キス以外に思いつかなかった。
「…よし!決めたぞ!」
結局誕生日プレゼントは、俺からのキスに決めた。
「はぁ~…。しょうがねぇよな…」
放課後が憂鬱だ。
あんな恥ずいことを俺からするって考えただけで、また顔が赤くなった。
部活が終わり、今ではもう誰もいなくなった部室の中で、俺は乾先輩と二人きりでいた。
「?どうした海堂。俺のことが気になるか?」
日誌を書いていた先輩が横目で俺の方を見た。
「っ!…い、いえ…何でもありません…////」
慌てて目をそらすけど、先輩は不審がるようにまじまじと俺を見る。
「…な、なんスか…?」
「…いや、お前が何か言いたそうな顔をしていたんでな。」
気づかれている…。
俺は意を決して行動に移る。
「乾先輩!」
「なんだ?海堂。」
顔を俺に向けた先輩に少しずつ近づいていく。
「?」
心臓がバクバクする。
普段し慣れているキスでも、自分からでは緊張の差が違いすぎる。
ゆっくりと先輩の顔に手を触れ、目を閉じて……
…チュッ
唇と唇が触れたと思ったら、すぐに唇を離し、先輩に背中を向けた。
「////…誕生日、おめでとうございます…/////」
信じられないほど顔が熱い。
恥ずかしさと熱さが混ざって困惑する。
すると、後ろから“フッ”と笑う声が聞こえた。
「なっ、何が可笑しいんだ!」
顔は真っ赤のままでも、いきなり笑われたことに少しイラッとくる。
「いや…まさか海堂からキスをされるとは思わなかったよ。」
先輩はいたって冷静だった。
した本人が一番戸惑っている。
「っ!…せ、先輩がこの前いったじゃないスか!!//////」
恥ずかしさを紛らわすために必死になって叫ぶ。
「覚えていたのか。あの台詞。」
「わ…忘れるわけねぇだろ…//////」
恥ずかしくて小声になる。
「やはり海堂は可愛いな…。」
イスに座っていた先輩が立ち上がり、俺に近づき、抱きついてきた。
「ちょっ…/////…乾先輩…?」
「最高の誕生日だ。ありがとう。」
そう言って、今度は先輩からキスをしてきた。
やっぱりキスは先輩からの方が安心する。
深く口づけられながら、俺はそう思うのだった。
END