桜【乾海】
4月も半ばを過ぎた頃…
海堂と乾が満員電車の中で揺れていた。
海堂はドア付近に立って、ギュウギュウ詰めの車内の中で景色を見ていた。
もう見慣れた風景……
だけど、この日はなんだか寂しい気がした。
「……あ…。」
「ん?どうした海堂。」
海堂の横に立っていた乾が海堂をのぞき込んだ。
「…いや……あそこの桜、この前までは満開だったのに…もう散り始めてんだと思って……。」
見えては消えていく桜を目で追いながら寂しげな表情をする。
「そうだな。桜は、満開からおよそ一週間程度で散るからな。…差し詰め、“一瞬の美しさ”……とでも言っておこう。」
眼鏡を指で上げながら説明していく。
「…一瞬の美しさ……。」
ポツリと海堂が呟いたのを聞いて、乾は海堂により近づいた。
「っ!ちょ…なんスか…?」
「海堂。お前は可愛いな…?桜を見て寂しい表情を見せるなんて…。」
キス寸前のように顔を近づけ、海堂の顔をマジマジと見つめる。
「//////……は、離れろよ……」
顔を真っ赤にしながら乾から目をそらす。
すると突然……
ガタンッ!!
電車が大きく揺れ、バランスを崩していた。
海堂が目を開けた所に、さっきより近くなった乾の姿があった。
「っ…/////////」
体がピッタリと密着している。
逃げようにも、海堂の後ろにはドアがある。
「……大丈夫かい?海堂。」
含み笑いをしながら海堂に聞く。
「…んなことより……離れて、下さい…。」
鼓動の音が聞こえるんじゃないか……そう思うだけで、海堂はドキドキしていた。
「海堂が怪我をしたら大変だから、俺が守ってやるよ。」
いつもの低い声で囁かれて、力が抜けていく。
「さぁ、俺につかまっていろ。」
もうどうすることもできなくて、大人しく乾の腕につかまった。
ギュッと腕を握ると、なんだか心地よい気がした。
ドキドキも治まり、少しだけ安心した。
「…先輩……ありがとうございます。」
ボソッと海堂が呟いたのを、乾は笑顔で返した。
END