[本編] 黒木 忠生 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【ハク】
(いい先輩だよな……)
【ハク】
(俺の元上司なんて、ありもしない横領の罪を俺におしつけてきたんだぞ……それに比べたらさ……)
そんなふうに考え事をしていた俺は、黒木がバーに現れたことに気づかなかった。
聞き耳をたてていたせいで、声をかけられたことにも気付かない。
何度か呼びかけられて、肩をポンと叩かれたとき、俺はようやく黒木が来たことに気づいた。
【黒木】
「ひどいなぁ、ハク。俺を待っててくれたんじゃないの?」
【ハク】
「ご、ごめん……なんか、ついぼーっとしちゃって………」
黒木が、笑いながら、冗談めかして俺をなじってくる。
俺はそんな黒木を見て、思わずホッとしてしまう。
【黒木】
「…なんてね。ウソ。ハクが大変なときに、そんなこと言うわけないだろ?」
【ハク】
「黒木……。……ありがとう」
【黒木】
「お礼なんて言わないでいいよ。言っただろ、俺もハクに会いたいって」
【ハク】
「ああ……」
黒木の笑顔を見て、俺も安心して笑顔になる。
黒木がいてくれてよかった………俺は、改めてそう思った。
俺と黒木は、昨日と同じように、わいわいと話に花を咲かせていた。
余計なことを考えないように俺を気遣ってか、黒木は昔話をいろいろと持ち出してきてくれる。
そのちょっとした馬鹿話が楽しくて、俺は心から笑った。
【ハク】
「それにしても、黒木ってよくそんなに昔のことちゃんと覚えてるよなあ…」
【黒木】
「忘れるわけないだろ?だって、ハクとの大事な思い出だからね」
【ハク】
「またまた、そうやってうまいこと言って……あ、そっか!さては、あの頃もそうやって女の子くどいてたんだろ?」
【黒木】
「やだなぁ。そんなことないよ」
【ハク】
「でも、お前モテてたよなあ…。一緒につるんでて、俺なんか情けなくってさ」
【黒木】
「ハクは変なとこばかり覚えてるんだからなぁ」
昨日、男の俺ですら見惚れてしまったとおり、黒木はかなりの美形だ。
俺の記憶が確かなら高校時代もかなりのモテぶりで、いろんな女の子と次々に付き合っていたような記憶がある。
そんな黒木の顔をまじまじと見て、俺は、本当に昔と変わらないなぁと思った。
【黒木】
「……なんだよ?人の顔まじまじと見て…」
【ハク】
「でも黒木、本当に昔から変わらないよな」
【黒木】
「そんなことないよ」
【ハク】
「嘘じゃないって!昔からカッコいいし……それに優しいし。今だって俺を慰めてくれてるし…さ」
【黒木】
「俺はハクだから慰めてるんだよ?」
【ハク】
「な、なに言ってんだよ……」
【黒木】
「何で?本当のことなのに」
俺は思わずドキッとしてしまった。
そんなふうに言われると、今の俺はすっかり黒木にほだされてしまいそうになる……。
でも―――。
実際こうして黒木と会っていなかったら、俺は今頃、独りきりで絶望の淵をさまよっていたんだろう………。
【ハク】
(もし黒木がいなかったら……俺は今頃どうなっていたんだろう?……考えるだけでもゾッとする……)
そんなことを考えていると、ふと、黒木の携帯が鳴りだした。
黒木は俺に断りを入れて電話に出ると、顔の見えない誰かと未来の予定について話し始める。
【ハク】
(……予定、か……。予定なんて………なにもなくなっちゃったな……)
黒木との会話が途切れ、俺の心にはまた、明日からの不安がよぎった。
【ハク】
(こうして黒木と話をしている時間は良いけれど……この時間が終わったら、俺……どうしたらいいんだろう………?)
今の俺にはどこも行くあてがないし、かといってあの家には戻れない。
この先どうすべきか考えないわけにはいかないけれど、考えたくない気分だ………。
しばらくすると、電話を終えた黒木が声をかけてきた。
【黒木】
「ごめんね、ハク。ハナシ途切れさせちゃって」
【ハク】
「いや、良いんだ。…仕事かなんかだろ?」
【黒木】
「まぁ、そんなものかな?どれだけ金を払えるかっていう交渉中だったから」
【ハク】
「?……なに、黒木って、投資とかそういう仕事やってんのか……?」
そういえば昨日、何の仕事をしているか教えてもらっていない。
【黒木】
「投資?まぁ……俺は投資するんじゃなくて、投資される側だけどね」
【ハク】
「え?じゃあ……」
【黒木】
「違うよ。起業家とかじゃないから。ハク、今そう思ったでしょ?」
【ハク】
「……よ、よくわかったな……」
【黒木】
「まぁね。そういうの、ある程度よめないと俺の仕事なりたたないから」
【ハク】
「……って。いったい何の仕事してるんだよ?」
【黒木】
「ん?まぁ、いろいろあるよ。例えばそのうちの一つは………結婚しようって言って、資金貯めさせて、それを俺に貢がせる仕事―――とかね」
【ハク】
「は……?」
【黒木】
「あぁ、もちろん結婚なんてしないよ?」
【ハク】
「な…っ……」
俺は唖然としてしまった。
黒木は何でもなさそうに自分の仕事のことを話しているけれど……それはつまり……。
【黒木】
「今の電話はまさにそのタイプの仕事かな?今回の女、最初は渋ってたけど…」
【黒木】
「……結局俺の希望の額出すって言ってきた。交渉成立、ってね!」
【ハク】
「って……おい、黒木、おまえ………」
【ハク】
(それって……つまり結婚詐欺だろ……騙してる、って…ことだろ……!?)
黒木のやっていることは、どう考えても詐欺だった。
それを仕事といって、何でもなさそうな顔で話すなんて………
衝撃すぎて、俺はしばらく言葉を失ってしまう。
黒木は、結婚詐欺以外にもいろいろな詐欺行為を働いているのだと言った。
【黒木】
「どうしたの、ハク?」
【ハク】
「あ…そ、その……まさかそんな仕事だとは思わなくて……」
【黒木】
「こんな俺、軽蔑しちゃう?」
【ハク】
「いや、そんなつもりは………」
【ハク】
(軽蔑なんてしたくないけど……でも、なんだかショックっていうか………)
職業は詐欺師です、なんて言われて、驚かないわけがない。
それに、俺はさっきまで黒木のことを優しいやつだと思っていたのだ。
その黒木がまさか、そんなことをしているなんて―――。
【ハク】
「で、でも…さ。いったい、なんでそんな仕事してんだよ?」
【黒木】
「何で、って………」
【ハク】
「だって…さ。お前、高校時代あんなにモテてて………そんなお前が女の人騙すとか……なんか、考えられなくて………」
【黒木】
「……………」
俺の質問に、黒木は答えなかった。黙ったまま酒を飲むと、少ししてまったく違う話題をふりかけてくる。
【黒木】
「そういえばさぁ。ハク、今日はどこに泊まるか決まってるの?」
【ハク】
「え…?」
【黒木】
「泊まるとこだよ。家、寝れる状態じゃないんだろ?」
【ハク】
「あ……うん…。そう、なんだけど……」
俺は、今まで後回しにしてきた問題に直面していた。
本当は一番に考えなければいけないことで……それは自分でも理解していたけど……。
黒木に言われて、改めて、どうしようもない自分がいることに気づく。
【黒木】
「その顔は、行くアテなんてありません、って顔だなぁ」
【ハク】
「……っ」
【黒木】
「どうせ決まってないんだろ、ハク?」
【ハク】
「……あ、ああ……実は何も考えてなくって……」
【黒木】
「じゃあさぁ。…ウチ、来る?」
【ハク】
「えっ?」
その思ってもみない言葉に、俺は思わず声を上げた。今も付き合ってもらっているし、まさかそこまで甘えていいものかと思ったけれど……でも、その申し出はありがたかった。
【黒木】
「ハクさえ良ければウチに来ればいいよ。そうしたら、ウチでいろいろゆっくり話そう。どう?」
【ハク】
「黒木……」
結局、どこにも行く宛のない俺は、その黒木の言葉に甘えることにした。
【ハク】
「なにからなにまで…本当にありがとう、黒木……」
【黒木】
「ハクのためなら、こんなの大したことじゃないよ」
【ハク】
(詐欺師とはいえ……やっぱり黒木は黒木だ……)
優しくしてくれる黒木のことを、俺は信頼していた。それが本当の黒木なのだと………俺は信じて疑っていなかった―――――――。
続く…
(いい先輩だよな……)
【ハク】
(俺の元上司なんて、ありもしない横領の罪を俺におしつけてきたんだぞ……それに比べたらさ……)
そんなふうに考え事をしていた俺は、黒木がバーに現れたことに気づかなかった。
聞き耳をたてていたせいで、声をかけられたことにも気付かない。
何度か呼びかけられて、肩をポンと叩かれたとき、俺はようやく黒木が来たことに気づいた。
【黒木】
「ひどいなぁ、ハク。俺を待っててくれたんじゃないの?」
【ハク】
「ご、ごめん……なんか、ついぼーっとしちゃって………」
黒木が、笑いながら、冗談めかして俺をなじってくる。
俺はそんな黒木を見て、思わずホッとしてしまう。
【黒木】
「…なんてね。ウソ。ハクが大変なときに、そんなこと言うわけないだろ?」
【ハク】
「黒木……。……ありがとう」
【黒木】
「お礼なんて言わないでいいよ。言っただろ、俺もハクに会いたいって」
【ハク】
「ああ……」
黒木の笑顔を見て、俺も安心して笑顔になる。
黒木がいてくれてよかった………俺は、改めてそう思った。
俺と黒木は、昨日と同じように、わいわいと話に花を咲かせていた。
余計なことを考えないように俺を気遣ってか、黒木は昔話をいろいろと持ち出してきてくれる。
そのちょっとした馬鹿話が楽しくて、俺は心から笑った。
【ハク】
「それにしても、黒木ってよくそんなに昔のことちゃんと覚えてるよなあ…」
【黒木】
「忘れるわけないだろ?だって、ハクとの大事な思い出だからね」
【ハク】
「またまた、そうやってうまいこと言って……あ、そっか!さては、あの頃もそうやって女の子くどいてたんだろ?」
【黒木】
「やだなぁ。そんなことないよ」
【ハク】
「でも、お前モテてたよなあ…。一緒につるんでて、俺なんか情けなくってさ」
【黒木】
「ハクは変なとこばかり覚えてるんだからなぁ」
昨日、男の俺ですら見惚れてしまったとおり、黒木はかなりの美形だ。
俺の記憶が確かなら高校時代もかなりのモテぶりで、いろんな女の子と次々に付き合っていたような記憶がある。
そんな黒木の顔をまじまじと見て、俺は、本当に昔と変わらないなぁと思った。
【黒木】
「……なんだよ?人の顔まじまじと見て…」
【ハク】
「でも黒木、本当に昔から変わらないよな」
【黒木】
「そんなことないよ」
【ハク】
「嘘じゃないって!昔からカッコいいし……それに優しいし。今だって俺を慰めてくれてるし…さ」
【黒木】
「俺はハクだから慰めてるんだよ?」
【ハク】
「な、なに言ってんだよ……」
【黒木】
「何で?本当のことなのに」
俺は思わずドキッとしてしまった。
そんなふうに言われると、今の俺はすっかり黒木にほだされてしまいそうになる……。
でも―――。
実際こうして黒木と会っていなかったら、俺は今頃、独りきりで絶望の淵をさまよっていたんだろう………。
【ハク】
(もし黒木がいなかったら……俺は今頃どうなっていたんだろう?……考えるだけでもゾッとする……)
そんなことを考えていると、ふと、黒木の携帯が鳴りだした。
黒木は俺に断りを入れて電話に出ると、顔の見えない誰かと未来の予定について話し始める。
【ハク】
(……予定、か……。予定なんて………なにもなくなっちゃったな……)
黒木との会話が途切れ、俺の心にはまた、明日からの不安がよぎった。
【ハク】
(こうして黒木と話をしている時間は良いけれど……この時間が終わったら、俺……どうしたらいいんだろう………?)
今の俺にはどこも行くあてがないし、かといってあの家には戻れない。
この先どうすべきか考えないわけにはいかないけれど、考えたくない気分だ………。
しばらくすると、電話を終えた黒木が声をかけてきた。
【黒木】
「ごめんね、ハク。ハナシ途切れさせちゃって」
【ハク】
「いや、良いんだ。…仕事かなんかだろ?」
【黒木】
「まぁ、そんなものかな?どれだけ金を払えるかっていう交渉中だったから」
【ハク】
「?……なに、黒木って、投資とかそういう仕事やってんのか……?」
そういえば昨日、何の仕事をしているか教えてもらっていない。
【黒木】
「投資?まぁ……俺は投資するんじゃなくて、投資される側だけどね」
【ハク】
「え?じゃあ……」
【黒木】
「違うよ。起業家とかじゃないから。ハク、今そう思ったでしょ?」
【ハク】
「……よ、よくわかったな……」
【黒木】
「まぁね。そういうの、ある程度よめないと俺の仕事なりたたないから」
【ハク】
「……って。いったい何の仕事してるんだよ?」
【黒木】
「ん?まぁ、いろいろあるよ。例えばそのうちの一つは………結婚しようって言って、資金貯めさせて、それを俺に貢がせる仕事―――とかね」
【ハク】
「は……?」
【黒木】
「あぁ、もちろん結婚なんてしないよ?」
【ハク】
「な…っ……」
俺は唖然としてしまった。
黒木は何でもなさそうに自分の仕事のことを話しているけれど……それはつまり……。
【黒木】
「今の電話はまさにそのタイプの仕事かな?今回の女、最初は渋ってたけど…」
【黒木】
「……結局俺の希望の額出すって言ってきた。交渉成立、ってね!」
【ハク】
「って……おい、黒木、おまえ………」
【ハク】
(それって……つまり結婚詐欺だろ……騙してる、って…ことだろ……!?)
黒木のやっていることは、どう考えても詐欺だった。
それを仕事といって、何でもなさそうな顔で話すなんて………
衝撃すぎて、俺はしばらく言葉を失ってしまう。
黒木は、結婚詐欺以外にもいろいろな詐欺行為を働いているのだと言った。
【黒木】
「どうしたの、ハク?」
【ハク】
「あ…そ、その……まさかそんな仕事だとは思わなくて……」
【黒木】
「こんな俺、軽蔑しちゃう?」
【ハク】
「いや、そんなつもりは………」
【ハク】
(軽蔑なんてしたくないけど……でも、なんだかショックっていうか………)
職業は詐欺師です、なんて言われて、驚かないわけがない。
それに、俺はさっきまで黒木のことを優しいやつだと思っていたのだ。
その黒木がまさか、そんなことをしているなんて―――。
【ハク】
「で、でも…さ。いったい、なんでそんな仕事してんだよ?」
【黒木】
「何で、って………」
【ハク】
「だって…さ。お前、高校時代あんなにモテてて………そんなお前が女の人騙すとか……なんか、考えられなくて………」
【黒木】
「……………」
俺の質問に、黒木は答えなかった。黙ったまま酒を飲むと、少ししてまったく違う話題をふりかけてくる。
【黒木】
「そういえばさぁ。ハク、今日はどこに泊まるか決まってるの?」
【ハク】
「え…?」
【黒木】
「泊まるとこだよ。家、寝れる状態じゃないんだろ?」
【ハク】
「あ……うん…。そう、なんだけど……」
俺は、今まで後回しにしてきた問題に直面していた。
本当は一番に考えなければいけないことで……それは自分でも理解していたけど……。
黒木に言われて、改めて、どうしようもない自分がいることに気づく。
【黒木】
「その顔は、行くアテなんてありません、って顔だなぁ」
【ハク】
「……っ」
【黒木】
「どうせ決まってないんだろ、ハク?」
【ハク】
「……あ、ああ……実は何も考えてなくって……」
【黒木】
「じゃあさぁ。…ウチ、来る?」
【ハク】
「えっ?」
その思ってもみない言葉に、俺は思わず声を上げた。今も付き合ってもらっているし、まさかそこまで甘えていいものかと思ったけれど……でも、その申し出はありがたかった。
【黒木】
「ハクさえ良ければウチに来ればいいよ。そうしたら、ウチでいろいろゆっくり話そう。どう?」
【ハク】
「黒木……」
結局、どこにも行く宛のない俺は、その黒木の言葉に甘えることにした。
【ハク】
「なにからなにまで…本当にありがとう、黒木……」
【黒木】
「ハクのためなら、こんなの大したことじゃないよ」
【ハク】
(詐欺師とはいえ……やっぱり黒木は黒木だ……)
優しくしてくれる黒木のことを、俺は信頼していた。それが本当の黒木なのだと………俺は信じて疑っていなかった―――――――。
続く…