本編
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《兆し》
【MC】
「JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX、決勝前のクジにより、各アイドル順番が確定致しました!」
くじを引きに行ったのは二條だった。
最年長だったからという理由でしかなかったが、二條が引いた番号は7。
8番は前回優勝者のVIRTUEと決まっているので、実質一番後ろである。
【日月 梓乃】
「よっしゃ!オッサンナイス!」
【笹雨 清明】
「会場も温まった所ですが、VIRTUEの直前と言う事で比較もされやすいです」
【大須賀 侑生】
「……うん、でもきっとどんな順番でも、関係ないよ!」
【墨代 睡蓮】
「きっとキラキラでピカピカな舞台になるね」
【芦沢 由臣】
「……おかしい」
【壱川 咲十郎】
「?どうしたんですか?」
【芦沢 由臣】
「いや……此方の話だ」
……しかしくじ引きが終わったのにも関わらず、一組目のアイドルの出番がなかなか始まらない。
楽屋に待機を命じられていたポラリスのメンバーは楽屋にあるモニターで舞台の上を見続けていたが…
15分経っても始まらない事に不安を感じ始めていた。
【本村 果凛】
「?何かあったのかなぁ」
【二條 榛貴】
「俺見てくるか?」
【芦沢 由臣】
「……いや、俺が行く」
珍しいと皆が思った所だったが、芦沢が楽屋のドアを開けようとした途端に、先にドアが開き山口が飛び出してきた。
【山口 遼太】
「み、皆さんッ!!再開までもうちょっと時間かかりそうですッ!ってああーッ!由臣さんッすみませんッ!」
【芦沢 由臣】
「騒がしいな、貴様……どうした、何事だ」
【山口 遼太】
「あのッ、審査員の……」
―芦沢が妹の仇と狙いをつけていた大物ゲスト俳優。
こちらへ向かう途中に事故に遭い、重篤状態で病院に運ばれたと山口から伝えられた。
《本番》
【芦沢 由臣】
「……なんだと……!?」
【山口 遼太】
「あ、でも急遽別の方がいらっしゃるそうで、開催はされるそうですッ!」
ゲストの方は心配ですけど…と付け加えると、山口はまたどこかへと忙しそうに出て行ってしまった。
突然の事にざわつくメンバーの中でただ一人、芦沢だけが足場が固まったようにその場から動く事が出来なかった。
【本村 果凛】
「あの、ユージン?大丈夫……?」
【芦沢 由臣】
「……我が手で葬り去る前に……」
―凛子への復讐、我が妹の仇に自らの手で報復を…
そう願っていた芦沢は、目の前で宿敵が何も為さずに消えてしまうかもしれない事に明らかな動揺を示していた。
勝手に逝かれてしまったら。
芦沢の目的も消え果て、全てが謎のまま葬られてしまう恐れがある。
血の気が引いて行く思いの芦沢。
しかし握りしめた手をそっと取る暖かで確かな手があった。
【芦沢 由臣】
「な、何を……」
【墨代 睡蓮】
「……あのね、由臣。その、凛子ちゃん。
きっと由臣がキラキラしてたら、キラキラでいっぱいになって戻ってくるよ。
からっぽだった俺がそうだったから。……だから、由臣、一緒にがんばろ?」
ぎゅうと握りしめる睡蓮の真剣な表情。
芦沢は急に我に返り、その手を見つめた。
―俺が輝けば、凛子は……?
不意に瞼の裏で笑顔の凛子が過ぎる。
芦沢がゆっくりだけれど、しっかり墨代の手を握り返した。
【日月 梓乃】
「……よっしゃ!本番前に円陣組もうぜ!!ほら、セイメイ!」
【笹雨 清明】
「えっいきなりなんです」
【二條 榛貴】
「いいねぇ、よし気合い入れようじゃねーの。ほら、ユーマも来い」
【葛城 雄眞】
「……榛貴サンに言われちゃ仕方がない。ほら、由臣、墨代」
【墨代 睡蓮】
「はーい。いこう、由臣」
【芦沢 由臣】
「何故俺がこんな……」
【本村 果凛】
「いいからいいから!」
【大須賀 侑生】
「壱川さん、こっちです!」
【壱川 咲十郎】
「は、はい!ふふ、こういうの、いいですねぇ」
【日月 梓乃】
「んじゃ、改めて!ポラリス、JIFでの優勝狙って気合い入れっぞ!!」
【日月 梓乃】
「ファイト!!」
【全員】
「おー!!」
硝子が響くような大きな声に、皆の本気が垣間見えた。
円陣が崩れた後誰からともなく笑い出し、楽屋は笑顔につつまれる。
―ポラリスのステージ本番まで、あと数分の事だった。
《絶頂》
【MC】
「エントリー7番、ポラリスの皆さんでした!」
【日月 梓乃】
「有難うございました!」
【シン】
「……いいパフォーマンスだったんじゃねーの?」
【ユージ】
「次は僕達だから、ちゃんと見ててよね!」
【タツ】
「ポラリスには負けないからな」
ポラリスと入れ変えでVIRTUEが舞台へと上がる。
一層高く上がる歓声を背中で受けるが、ポラリスの自信は揺るがなかった。
ポラリスの今出せる力を超えた120%でパフォーマンス出来たと思っている。
……VIRTUEのパフォーマンスが始まった。
大きなステージを縦横無尽に駆け回り圧倒的なパフォーマンスで観衆を魅了していくのが分かる。
【日月 梓乃】
「でも、俺達やりきったよな」
【笹雨 清明】
「悔いはありません」
【大須賀 侑生】
「すっごく楽しかったね!会場のペンライトの海、すっごくすっごく綺麗だった!」
感極まった笑顔の侑生に皆が頷いた。
……発表の時は刻一刻近づいてくる。
【MC】
「JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX、今年の超接戦を制したのは!!」
―結果は、ポラリスの優勝で幕を閉じた。
本当に今年は僅差だったと言う審査員の一言が目立つ。
舞台中央で紙吹雪に囲まれるポラリスにVIRTUEの3人が祝いに駆けつけた。
【ユージ】
「二條サン~優勝おめでと!」
【二條 榛貴】
「お、おう?なんだ、いやにあっさりだな」
【ユージ】
「僕達も出しきったからねー文句はないよ。でも次はわかんないからね!」
【二條 榛貴】
「今回僅差だって言ってたしなあ。うかうかしてらんねーな」
【ユージ】
「僕がもっともっと高みに行ったらオジサンを指名してあげるから待っててね!」
【二條 榛貴】
「おまッ!ばか、そういう事を言うんじゃないよ…ま、頑張って俺等に追い付くんだな」
【ユージ】
「ふふん、そんなの、あっと言う間だと思うよ~?」
【タツ】
「……あんた、顔付き変わったな」
【壱川 咲十郎】
「?……タツさん、あの、もしかして以前……?」
【タツ】
「俺の家も元々梨園だ。小さい頃、あんたにも何回か会った事がある」
【壱川 咲十郎】
「そ、そうだったんですか?そんな、言ってくだされば……」
【タツ】
「その次に会った時には、あんたは相当荒れていた。……声はかけられなかった」
【壱川 咲十郎】
「……そうやったんですね。……でも今日しっかりお会い出来て、良かった」
【タツ】
「ああ。俺もそう思う。梨園に居た頃のあんたの演技が憧れだった。
その後のあんたを見て、ガッカリした事もあった。
……今は、場所は違えど同じ舞台に立てて嬉しいと思っている」
【シン】
「負けは負けだ。……梓乃チャンおめでとう。次はかるーく奪還するからな」
【日月 梓乃】
「おう!全力で来やがれ!いつでも相手してやっから!」
【シン】
「……はっ勝った途端にこれかよ。でも、俺改めて梓乃チャン好きになったぜ」
【日月 梓乃】
「な、なんだよ、急に…!」
【シン】
「んん?ファンになったって言ってんだよ。なーにカンチガイしてんだ?」
【日月 梓乃】
「…!!くっそ!お前やっぱムカつく!」
【シン】
「梓乃チャンそういうとこ可愛いよなー」
皆思い思いの気持ちを述べ、深くお辞儀をすると会場は割れんばかりの拍手と大歓声に包まれて、JIFが終了をした。
優勝の余韻もさながら、皆は速足で楽屋へと掛け込んでいく。
【大須賀 侑生】
「黒田さん!受け取って下さい!」
【山口 遼太】
「皆さん~~ッ!!おめでどうございまず~~ッ!!俺ッ!!」
【笹雨 清明】
「……山口さん大丈夫ですか……」
【榎本 公志郎】
「あんた達が呼ばれてから大号泣でこの調子よ、こっちの涙が引っ込んじゃうわよっ!」
そう言いながらも榎本も目元を赤く染め、喜びに包まれていた。
【本村 果凛】
「黒田さん!優勝カップどう?嬉しい?」
【政親】
「勿論です。……皆さんの努力の結果ですから。重いですね」
【壱川 咲十郎】
「黒田さん……」
滅多にない柔らかな笑顔を見せた政親。
皆が改めて優勝したのを噛み締め、涙を湛えていると政親の顔付きはいつものものに戻っていた。
【政親】
「さて皆さん。これがアイドルのテッペンだなんて思っていませんよね?」
しんみりムードはその一言ですっかり消え去ってしまった。
眼鏡を抑え、政親はいつも通りの表情で皆の顔を見つめ、はっきりと告げる。
それは明日から始まる仕事を予感させるものだった。
【政親】
「上り詰めたいのでしょう?ならば、まだまだ私の指示に従いなさい」
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