本編
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《兆し》
―『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』予選リハーサル
【スタッフ】
「ポラリスプロの皆さん入りますー」
大きなホールにはまだ客はおらず、スタッフが忙しなく動いている。
ようやくポラリスのリハの順番が回ってきて、皆が立ち位置やマイクの調子を確認し始めた。
【日月 梓乃】
「よっし、全力でリハしよーぜ!」
【壱川 咲十郎】
「ふふ、勿論です」
【本村 果凛】
「シノちゃんには負けないんだからー★」
真新しい衣装に袖を通し、否が応にもテンションの上がるメンバー達。
あの日の不測の事態により、ポラリスはベスト8まで上り詰めたものの、途中棄権となり
悔しい思いをしたのもつい最近のよう。
気合いもパフォーマンスも歌も何もかも。
あの時以上の出来を引っさげ、勝利の確信を持って乗り込んだJIF予選だ。
皆ほぼ完璧と言っていい出来を披露し30分程のポラリスのリハが終了した。
今の流れならば、前回のベスト8は軽く超えられる筈だ。
誰もが自分たちの力を信じて本番に臨む気合いが入る。
そんな中。
リハ前から一度も声を出していないメンバーがいるのを葛城が気にしていた。
【葛城 雄眞】
(今日、一回も墨代が口開いてないんだよな……)
いつもならば梓乃や果凛程ではないものの、仲間とのコミュニケーションは欠かさないタイプの墨代が
今日は全く口を開いていないのだ。
リハ中も休憩中も、楽屋に戻ってからも一人なんとなく意識的に目立たないよう動いている気がしていて、
葛城は常に墨代を気にかけていた。
リハの歌も踊りも問題はなさそうだが…
以前の梓乃の件もある。
ここは声をかけるべきだろうかと葛城が休んでいた椅子から立ち上がった。
しかし墨代は政親に呼ばれ、出入口付近で何やら話し込んでいる様子。
葛城は政親が目を光らせているなら、まぁ大丈夫だろうとその事を忘れる事にした。
《本番》
―『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』予選本番
リハとは違う熱気が辺りを包み、歓声はどこまでも広がっている。
一歩舞台に上がると、ファンの声が四方八方から飛び込んできた。目の前にはサイリウムの海だ。
何度見ても嬉しさと眩しさで目を細めてしまうメンバーたち。
【MC】
「前回のJIFでは初登場ながらベスト8まで残る大健闘も見せるも途中棄権となり、
悔しい思いをしたポラリスプロ!今年は満を持しての登場です!
優勝候補の一角でもあるポラリスの予選一曲目、楽しみですね!」
会場を埋め尽くす応援は前回の比ではなく、
今まで行ってきた活動がこんなにも大きな声になって戻ってくる事になったのも
自分達とそれから応援してくれていたファンのおかげだ。
【日月 梓乃】
「前回は俺の怪我でベスト8止まりって言う不本意な形だったけど……
今年の俺達は違いますから!俺達の歌、聞いてくれ!!」
梓乃の声を皮切りにイントロが流れ出す。
―筈だった。
皆に動揺が走る。
聴こえてきたイントロはリハの時とは別のものだったのだ。
……曲が変更になった?いや政親や山口からは聞いていない…
どういう事だ!?
皆の動揺が広がる中。
梓乃と侑生は目配せして、一歩足を突きだした。
【日月 梓乃】
「みんな!ノってくれよな!」
【大須賀 侑生】
「手を叩いてー!」
二人の行動を見た残りのメンバーはすぐに頭を切り替え、その曲に対応する事にした。
結果ファンに動揺を悟られる事なく、当初の予定の曲ではなかったものの、
無事パフォーマンスを終える事に成功したのだった。
《絶頂》
【二條 榛貴】
「……おい、スタッフ。どういう事だか、説明してくれるよな?」
【笹雨 清明】
「明らかに提出してあったものと違ったんですけれど、どういう事でしょうか」
【葛城 雄眞】
「俺達リハ見てたよな?あれは誰の指示だ?」
【スタッフ】
「え…!?え、あの…?どういう……」
ベテランかつ背の高いメンバーがスタッフを取り囲み、予選でのセットリスト変更を問い詰めた。
冴島の差し金と睨んで威圧をかけたのだ。
……しかし、スタッフからは意外な答えが返ってくる。
【スタッフ】
「でも、墨代さんがこれと変えてくれって……」
【二條 榛貴】
「は?……何をバカな……」
【葛城 雄眞】
「……いや、でもこれ墨代の字だな…」
【笹雨 清明】「俺も見た事あります。それっぽいですね。……しかし何故」
変更、と〇で囲んである文字は墨代のちょっと小柄ででもシュっとした綺麗な文字。
独特なので何度か見ていれば彼のものだとわかるだろう。
じゃあ俺まだ仕事があるんで!とスタッフが逃げてしまった為、それ以上の情報はつかめなかった。
これは墨代に直接聞かなければ……と3人が楽屋へ戻ろうとしたところに、知った顔が道を塞いでいた。
【葛城 雄眞】
「……これはこれは。お久しぶりです、冴島社長」
【冴島 享正】
「ああ、葛城も元気そうで何よりだな。こんな弱小事務所で大したもんだ。ところで葛城」
相変わらず余計なひと言が多いのが気になるものの、
元所属していた事務所の社長かつ
現在でもこの業界で多大な影響力を持つ冴島の社長を邪険にする訳にはいかない。
葛城はぐっと拳を握ると冴島に向きあう。
【葛城 雄眞】
「なんでしょうか?俺達も忙しいもので手短に……」
早く楽屋に戻って睡蓮に聞かなければ……
葛城はいつもの愛想も忘れ冴島と対峙するが、その冴島から出た言葉は
葛城や清明、二條を動揺させるには十分すぎる内容だった。
【冴島 享正】
「うちの睡蓮がお世話になっている。……ちゃんと仕事をしてくれたようで安心したよ」