本編
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《兆し》
芦沢の携帯が鳴る。
この道を進むと決めた時に全てを捨てて来たので、私用で鳴ることなど一切無い。
自ずとかかってくる人物が思い当り、芦沢は嘆息を付く。
しかし待たせて小言を言われるのも勘弁だとコールが重なる前に通話をつなげる。
【芦沢 由臣】
「―何だ」
【#dn=1#】
『これからオフだというのに、出るのが早いですね。
これから少し、時間はありますか?』
【芦沢 由臣】
「……」
わざとらしいほどの甘い声。
時折政親は芦沢に対し、女性を口説くかのように話しかけることがある。
挑発だと、受け取っている。
調子を狂わせ、鼻で笑い、自分本位に話を進められてしまうのだ。
芦沢は揺らいではいけないと拳を握って答える。
【芦沢 由臣】
「どうせ仕事の話だろう」
【#dn=1#】
『ええ、それ以外用件はありませんから』
【芦沢 由臣】
「――――ハッ」
話の内容は以下だ。
オフは潰れ、営業が一件入る。
大口の仕事であり、少し早い時間に集まり打ち合わせをしてから営業に入るとのことだ。
オフが潰れようが構わない。
営業相手が芦沢の探している人物に近けるのであれば、それは尚更だった―
《本番》
エンジェル営業が始まる数時間前。
長めに部屋を予約し、室内には政親と芦沢の姿があった。
営業相手の資料を、芦沢は食い入るように見ている。
【芦沢 由臣】
「此奴は……」
【#dn=1#】
「長年人気である長寿音楽番組のプロデューサーですね。
その裏で、女性新人アイドルを食い物にする男で有名です。
女性タレントばかり手を出してきた男が、
何故か急にうちの営業に興味を示し始めました」
資料に載っている名前は、芦沢のブラックリストに入っている人物の一人だった。
こちらから近付く前に、向こうから寄ってくるとは。
少し、芦沢にひっかかるものがある。
【芦沢 由臣】
「フン、きな臭い話だ」
【#dn=1#】
「きな臭いも何も…由臣。貴方を指名したのは先方です。
大方、下衆いた用があるんでしょうが…大口な仕事が入る営業なのは確かです」
【芦沢 由臣】
「なるほどな」
芦沢の中で、確信に変わる。
怒りが支配し、資料を掴む手に力が入り紙が歪む。
【#dn=1#】
「もう一度言いますが、大口な仕事です。
変な真似だけはしないように」
【芦沢 由臣】
「わかっている―」
まだ、復讐の手立ては整っていない。
芦沢は奥歯を強く噛み締めながら無理やり口端を歪め吊り上げたのだった。
《絶頂》
【芦沢 由臣】
「くそッ………」
営業相手が部屋を去った後、枕を扉に投げつけた。
思い出しただけでも腸が煮えくりかえそうだ。
今日は政親が迎えに来る日でなくてはよかったと芦沢は心底思う。
今誰かに会ってしまえば、自分は殺人でも犯してしまうだろう。
思い出したくもないのに、先ほどまでの悪夢が広がっていく。
【芦沢 由臣】
「何の、真似だ……」
【プロデューサー】
「はは…似合うねえ、お似合いだよ」
無理やり押し付けられた衣装は、ひらひらとした裾と
カラフルな布、リボンなどの装飾が付いている。
あからさまな女性ものであるだけでも許せないのに、
その衣装には、見覚えがあったのだ―
【芦沢 由臣】
(これは、凜子の―………ッ)
衣装を手にした妹の嬉しそうな笑顔を思い出し、
カッと目の前が赤くなるが、無理やり自分を押し殺した。
ここで相手を手にかけるのでは無く、
もっと徹底的に地に落とさなければならない―
【芦沢 由臣】
「くそッ……くそッ……!
許さない、絶対に許さない……ッ
地獄の底まで突き落としてやる………」
ベッドを何度も何度も殴りつけ、髪を掻き毟る。
だが、ここで狂ってはならない。
芦沢はゆっくりと立ち上がり、身支度を始めた。
復讐心だけが己を支えると……芦沢の思考はゆっくりと冷えていくのだった。