本編
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《兆し》
それは、営業が終わり事務所へ戻る為
ワゴン車に乗り込もうとした時だった。
【山口 遼太】
「く、黒田さん…ッッ!あの……!」
【政親】
「なんでしょうか」
妙に神妙な面持ちの山口が、政親に声をかける。
自分から声をかけたというのに、中々口を開こうとしない。
【政親】
「話があるなら車の中でお願いします」
【山口 遼太】
「直ぐ、済むので…ッ!」
【政親】
「それならば、尚更車の中でも大丈夫なのでは。
それに、場所を考えてください。
職業柄、どこで誰が聞いているかわかりません」
【山口 遼太】
「確かに…ッ!流石黒田さん……!」
パッと顔周りに見えない花を咲かせ、輝いた目で見上げる山口に
政親は眉を顰めて車に乗り込んだ。
《本番》
【榎本 公志郎】
「ねえ、私もいるんだけど。
聞いちゃっていいわけ?」
【政親】
「逆に、何の問題があるのでしょうか」
先に乗り込んでいた榎本は、顔を顰める。
車の中で様子を見ていた限り、山口の目は真剣そのもので。
その表情と言えば
【榎本 公志郎】
(いかにも告白します、みたいな顔してたじゃない)
解っていて避ける為に車の中に逃げ込んだのかもしれない。
山口から好意の矢印はあからさまだが、
政親はいつもするりと避けている。
【政親】
「山口はこちらでも問題ないと言っていましたが」
【山口 遼太】
「ハイッ!全然、むしろ社長にも、立ち会って頂きたく…!」
【榎本 公志郎】
「あら。逆に私が必要な話?」
【山口 遼太】
「事務所で少し時間を頂きたいんです!
社長も、同席していただけたらと思いまして」
【榎本 公志郎】
「私は全然構わないわよ。証人ってわけね」
【山口 遼太】
「証人…と言いますか、その……へへへへへ」
榎本は邪魔にならないうちに立ち去ろうと思っていたので
驚いた顔で山口を見つめる。
本人はだらしの無い顔でにやけているが……
告白、とはまた違うのかもしれない。
好意といえども、付き合いたいという感情にはまだ早いのか。
【榎本 公志郎】
(ともかく、あのしまりの顔は止めた方がいいわね)
【政親】
「山口、気持ちの悪い顔で運転するのはやめなさい」
【山口 遼太】
「はいいっっ……!」
案の定、政親の眉間の皺は深くなるのだった。
《絶頂》
【政親】
「……それで。
わざわざ私と社長を呼び止めてまでの用事というのはなんでしょうか」
事務所のソファに座った榎本と政親の前に
山口の淹れたコーヒーが出された後、政親が口を開いた。
山口は思わず盆を脇に構え、背筋を正す。
政親の顔は、どうでもいいことであれば容赦はしないという顔をしていたからだ。
恐ろしさ半分、凄みの美しさに見惚れ半分に見つめ
山口は用意していたものを取り出した。
【山口 遼太】
「あの、こちらを……!
こちらを食べていただけませんかッッ!」
机に差し出されたものは、クッキーが盛り付けられいる皿だった。
【政親】
「二度目はないと伝えたはずですが」
【山口 遼太】
「前回…ッ俺のリサーチ、いえっ勉強不足で
黒田さんが甘いものが好きではないと、とんでもない勘違いをしていたので…ッッ
今回は、リベンジをさせて頂きたいんですッッ!」
【榎本 公志郎】
「まあ!わざわざ作り直したのね?」
榎本が手を叩き喜ぶと、山口の顔はみるみる赤くなってしまった。
食べないと話が進まない雰囲気に
政親は溜息を一つ落としクッキーに手を伸ばす。
【政親】
「………悪くありませんね」
【山口 遼太】
「ほ、ほんとですかぁ~~ッ!黒田さぁああんッッ!」
【榎本 公志郎】
「良かったわね~山口!」
【政親】
「…ですが、甘さ控えめなものが駄目というわけでもありませんし
クッキーを手作りする暇があるなら仕事をした方が喜ばしいですね」
【榎本 公志郎】
(相変わらず、手厳しいわね……)
苦笑する榎本だったが、胸のつかえが取れたのか
山口の顔は晴れやかなものだった。
ところがその喜びもかみしめる間もなく、山口は政親から
CD発売記念のサイン会企画書を預かり、電話をかけるべくデスクへと走ったのだった。