本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《兆し》
【政親】
「?これは…」
【榎本 公志郎】
「どうしたものかしらねぇ、今更なんだけど」
榎本が差し出したのは、芸能界のあることないことを取り上げる三流週刊誌だ。
コンビニなんかに置いてある暇つぶし用の雑誌と言えばいいだろうか。
大体若手アイドルのあられもないグラビアや、誰かれの密会盗撮やら、あまり上品とはいえない紙面が並ぶ。
政親には何一つ興味が湧かない見出しが羅列してあるその中の一つ。
…ひっそりと見覚えのある名前が記載されていた。
『―人気急上昇!男の娘アイドル・本村果凛の隠された闇に迫る』
【榎本 公志郎】
「これ発売前なんだけどね。…果凛の生い立ちが事細かに書いてあるのよ」
困ったわ、と頬づえをついてため息をつく榎本社長の隣で、果凛はひっそりと座っていた。
卒業アルバムや、昔の写真なんかいつか出回ると思っていたし、正直な所そんなにショックはなかった。
地下アイドル時代に過激なファンや、アンチファンなどから
変な脅迫を受ける事も少なからずあったので果凛自身には耐性がある。
しかしだ。
今回の内容は、奔放な母親に苦労する果凛、弟…それから離縁した父親の事。
全てお涙頂戴話に仕向けられていたが、そこにはプライバシーの欠片も存在していなかった。
【榎本 公志郎】
「抗議は入れておくけど……、回収出来るかは危いわね」
【本村 果凛】
「……ごめんなさい。果凛のせいで、余計なお仕事させてしまって……」
【榎本 公志郎】
「貴方が謝ることじゃないわ」
多分そんなに大騒ぎはならないと思うわよ、と榎本は果凛の肩を優しく抱くが、
果凛の顔色は終始優れなかった。
《本番》
【本村 果凛】
「ありがとうございました~★」
お世話になったスタジオに頭を下げて果凛はスタジオを後にする。
―すると。
【スタッフ1】
「果凛ちゃん、割とバックグラウンドキッツいのなぁ大変だったろうに」
【スタッフ2】
「生活費全部あの子持ちなんだろ?毒親ってヤツかあ」
【スタッフ1】
「……身体売って歩いてたりして?」
【スタッフ2】
「うっわ、エゲつねえ~何言ってんだよ、お前」
【本村 果凛】
(…聞こえてるって)
スタッフの大きな声は出たばかりの果凛の耳に当然届いていた。
しょうがないじゃない。果凛は小さく唇をかむ。
頑張って頑張って、家の心配と自分の夢を秤にかけたけれど、
どちらも諦める事が出来なかった。
だからこそ自分の夢を叶えて、家を楽にしたいと思ったのだ。
今その夢が叶いつつあるのにこんな所で足を引っ張られる訳にはいかない。
【大物P】
「果凛ちゃん、見たよお?ねぇねぇ困ってる事ない?俺、援助するからさ」
【本村 果凛】
「わ、嬉しい~☆じゃあお仕事たくさん欲しいなぁ」
営業相手からもこの手の話題が振られるようになった。
勿論大体は同情だが、それ以外にも軽い脅し、金払いの良いソノ手のDVDに出てみないかとの勧誘など…
果凛が予想していた通りの展開が待ち構えていた。
【本村 果凛】
(やっぱり見てる人は見てるよ…)
どうしようもないけど可愛い母親、素直で一途な弟。
……それからいい思い出の欠片もない父親。
掘り返さないで欲しいと思うが、それは既に遅い懇願だった。
《絶頂》
『―人気急上昇!男の娘アイドル・本村果凛の隠された闇に迫る』
自身のゴシップが載っている週刊誌を握りしめ、果凛は事務所の隅でそっと座り込む。
政親は声をかける事なく、その様子を目の前で見ていた。
【本村 果凛】
「覚悟はしてたの。うちすっごいゴタゴタしてたし。
……夢のあるアイドルのどうでもいい過去なんて掘り返さなくてもいいと思わない?黒田さん」
父親は離婚後出奔、母親は現在彼氏と同居中。
兄は男の娘アイドルで、弟は国家試験の為に猛勉強中。
確かに美味しいネタだろう。
とはいえ、週刊誌のネタにしては、まぁある意味定番ネタの一つにすぎない。
しかしこの一件は果凛にとって、夢のあるアイドル活動から一転、
自分には常に重い現実の足枷が付いている事を無理矢理再認識させられた事になった。
【本村 果凛】
「どーせスッパ抜かれるなら、熱愛報道が良かったなぁ~」
どこかのイケてるプロデューサーと、なんてね?
果凛は笑ってそう言っているつもりだろうが
…残念ながら、その表情に笑みはない。
【本村 果凛】
「あ、そうだ。ね、黒田さん。
エンジェル営業相手にイケメン社長とか居たら、果凛に回してね☆」
無邪気にそう言う果凛の表情には、にわかに陰が潜んでいる。
【政親】
(―この動揺が仕事に影響しないといいが…)
それでなくとも営業成績はトップクラス、指名度も高い果凛。
…政親は今後の果凛の動向を気に掛けるよう、山口に言付けた。