本編
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《兆し》
―ラジオ収録スタジオ
ポラリス・プロダクションではラジオのレギュラー番組を一本持つようになった。
月ごとにパーソナリティが順番に交代されている。
今日のパーソナリティは果凛・二條・墨代の三名。
さらに、ゲストも居るのでがやがやと賑わっている。
そんな様子を、ブースの外で政親と山口が収録を見守っていた。
【山口 遼太】
「うわあああ、ああ…くくくく政親しゃん………」
【政親】
「何ですか、みっともない。まともな佇まいも出来ないのであれば、車に戻れ」
【山口 遼太】
「いえッッすみません……!」
叱咤され俯いた山口だが、すぐに背筋を伸ばし向き直した。
【山口 遼太】
「しかし、これは一大事じゃないですか…?
誰がゲストをブッキングしたのか、こんな……!」
【政親】
「言葉を選びなさい、山口。ゲストに来ていただいている人物に使う言葉ではありません」
【山口 遼太】
「で、でも……ッ」
【山口 遼太】
「今日のゲスト、『VIRTUE』じゃないですかッッ!」
《本番》
【本村 果凛】
「と、いうわけで!早速本日のゲストを紹介しちゃいまーす!」
【二條 榛貴】
「最近JIFで優勝をかっさらった記憶も新しい、『VIRTUE』の三人だ」
【墨代 睡蓮】
「……あ、次俺の読む番ですか。どうぞー」
【シン】
「おいおい、紹介なんだからしっかりしてくださいよ、っと!
こんにちは!『VIRTUE』の不動のセンターシンです。今日はお願いしまっす」
【タツ】
「…………タツだ」
【ユージ】
「もう~タツ!!ラジオだからもっと存在感出して!
ダンスなら任せてね~ユージだよっ!お願いしまーす!!!」
ブースの中の机に、果凛・二條・墨代と『VIRTUE』が向いあうように座っている。
にこやかにトークは始まっているが、外で見ている山口はおろおろと目線を彷徨わせていた。
【シン】
「ここのスタジオなっつかしー!俺らもレギュラー持たせてもらってたんだよな」
【ユージ】
「一足先に卒業させてもらっちゃったんだけどね?」
暗に『まだこんな仕事しているんですね』と言いたげにニヤつく二人を見て、
果凛のこめかみがぴくりと引きつり、二條は口角をひくつかせ、墨代はお菓子を食べている。
山口が胃にズキズキとした痛みを感じるようになっており、そっと己の腹に手を当てた。
政親は隣で表情も変えずに見守っているので、大丈夫なのだろうが……
【タツ】
「………とりあえず、曲紹介すんだろ?」
【本村 果凛】
「そうっ!積もる話は後にして、まずは曲紹介っ!」
【墨代 睡蓮】
「……あの、これ食べまひゅか?」
【ユージ】
「ありがとーっ!」
【二條 榛貴】
「おーい、曲紹介終わってからにしろ~」
【本村 果凛】
「ああもぉ~…っ、曲紹介、お願いします!」
【シン】
「それでは、『VIRTUE』で[unbalance]、お聞きください」
ラジオだから表情を作る必要は無いのだが……、
ブースの外にいる政親に向かってシンは一つウインクをすると
曲がかかり始めたのだった。
《絶頂》
お疲れ様でしたー!とスタッフの声がかかり、
アイドル達が一斉にヘッドホンを外す。
マイクがオフにされ、スタッフが入る前にブース内で会話が起きる。
ラジオ中にお便りとして入っていた質問を二條が再び口にした。
【二條 榛貴】
「ポラリスと『VIRTUE』は仲はいいですか…ね」
【シン】
「ま、嘘言ってないんじゃないですかぁ~。
逆に、俺はシノちゃんのファンだし?」
【ユージ】
「僕は二條さんがお気に入り!」
【二條 榛貴】
「はっはっは、ありがとなボウズ。梓乃ちゃんにも伝えておくぜ?」
【墨代 睡蓮】
「二條さん、汚い笑顔……」
【二條 榛貴】
「こらこら睡蓮、オジサン泣いちゃうぞ……」
【ユージ】
「僕もボウズなんて呼ばれるの嫌だけどっ!」
【タツ】
「………こいつら言いたいことは、実力を認めているってことだ」
あまり口数は少ないが、しっかりと方向展開をしてくれるタツに
ほっと安心しながら、果凛は言葉を続ける。
【本村 果凛】
「あっ、それってすっごく嬉しい!
私達は今回途中で断念することになっちゃったけど、
『VIRTUE』と最後まで一緒のステージで競い合いたかったんだよね」
【シン】
「で、その原因となった張本人はどうしてんの?お留守番?」
【墨代 睡蓮】
「タッチーは全治三週間だからもう大丈夫そう。
でも、自宅謹慎一ヶ月で、退屈そうだからたまに遊びに行って一緒にお菓子食べてる」
【本村 果凛】
「だから来月のパーソナリティは、セイとシノちゃんが登場するの」
【シン】
「ふーん。あっそ、じゃあ来月もゲスト来ちゃおっかな」
【タツ】
「………シン」
【シン】
「ま、それは冗談として。来月のパーソナリティ二人とか、
他のアイドルの人たちに伝言できます?」
シンはにやけた顔を貼り付けて、問いかける。
嫌な予感しかしない果凛だったが、真っ向から受け止めるしかない。
【本村果凛】
「ん?なーに、よかったらどうぞ」
【シン】
「俺達、ポラリスが居なかったから1位だったなんて言われるのまっぴらなんで、
来年のJIFは派手にぶつかり合いましょう、ってな!」
【ユージ】
「正面切って叩きのめしてあげるから覚悟してね?」
【二條 榛貴】
「はっ、望むところだ」
言いたいことは全て済んだと、『VIRTUE』はブースを出て行く。
適度に挨拶を済ませると、三人は直ぐにスタジオを出て行った。
途中、すれ違った政親と山口に挨拶を忘れずに。
嫌味ったらしい笑顔を浮かべるその表情は、冴島エンターテイメントの社長のものそっくりで。
政親は教育者が悪いと大変そうだとひっそりと笑みを漏らしたのだった。