本編
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《兆し》
その日清明がいつものように梓乃と事務所に顔を出すと
ソファに座ってスマホを見ていた榎本が顔を上げて迎え入れた。
【日月 梓乃】
「っはよーございまっすー」
【笹雨 清明】
「お早うございます」
【榎本 公志郎】
「おはよう!二人とも!」
なんだか難しい顔をしていた榎本だったが忙しなく立ちあがると、
清明の前で立ち止まった。
何事かと梓乃と清明が構えていると榎本は睨みつけるように清明の顔に近づき
難しそうな顔で呟いた。
【榎本 公志郎】
「ねぇ、清明。ne-onってブランド知ってる?」
【笹雨 清明】
「…ネオン??さぁ存じ上げないですけれど」
清明が梓乃にわかりますか?と視線を送るが、梓乃も知らないようでぶんぶんと顔を横に振っている。
【榎本 公志郎】
「最近注目されてる新進気鋭のアパレルブランドよ。
ついさっき電話が来てね、是非新作コレクションの発表会に、清明をって」
【笹雨 清明】
「……はっ?え?…俺ですか?」
―是非笹雨清明をファッションモデルに。
…という話が舞い込んできたと知らされ、清明は単独の仕事をGET出来た喜びよりも先に、首を傾げた。
この手の仕事は大体葛城や墨代に来るものが多い。
まだ新人の域を出ない清明は大体梓乃と侑生と三人、または
ほかのメンバーとの出演が多いのだが、今回は清明単独での話…。
【日月 梓乃】
「すっげーじゃん!やったな!セイメイ!」
【笹雨 清明】
「……はい、有難いお話ですね」
まるで自分の事のように大喜びする梓乃に、
清明は自分の不安を億尾に出す事なくにっこりと微笑んでいた。
《本番》
ne-onというアパレルブランドからファッションショーモデルの誘いが来た清明だが、その依頼内容に不安が付きまとっていた。
何せアイドルもまだ駆け出しなのに、モデルなんてやったことがないのだ。
【政親】
「お早うございます」
【榎本 公志郎】
「おはよう、政親!ちょうどいいところに!」
程良く出勤してきた政親に、榎本は即座に食い付いて状況を説明し始める。
そのくらいから、清明の心には更に嫌な予感が広がり始めていた。
【政親】
「……成程。状況が飲み込めました。清明、こちらへ」
【笹雨 清明】
「は?はい…」
【榎本 公志郎】
「宜しく頼むわね!私連絡しておくから!」
【政親】
「宜しくお願いします。後ほど改めて私からご連絡差し上げる旨もお伝えください」
【榎本 公志郎】
「わかったわ!」
ぽかんと事の顛末を見届ける梓乃が気になりながら、清明はほぼ無理矢理政親に別室へ連れていかれることになった。
【政親】
「モデルウォーキングの経験は」
【笹雨 清明】
「あると思いますか?」
【政親】
「念のため、ですよ。その口の利き方はマイナス50点ですね」
その答えに清明は苦虫を噛み潰したような顔をしてみせる。
…勿論政親にはそんな拒否反応や嫌みは通用しないので無意味だ。
そのまま大きな鏡の前に立たされ、まっすぐになるよう起立させられた。
姿勢を修正させられてる間、清明は目の前の鏡に映る自分を見つめ、不意に口を開いた。
【笹雨 清明】
「…何故俺がモデルに選ばれたのでしょうか…」
【政親】
「清明は背が高い方なので、目立ったのでは?」
言われてみて気がついたが、政親と並んだ清明はほぼほぼ目線が一緒だった。
ポラリスのメイン9名の中でも、清明は二條に次いで二番目の高さである。
【笹雨 清明】
「そう。…そうですよね…」
【政親】
「他に何か?納得いきませんか」
まっすぐに射抜く政親の視線。
清明はゆっくりと目を反らしたが、政親はそれを許してはくれなかった。
【政親】
「その態度。直ぐに忘れてしまうような鳥頭には、
この方法しかないのでしょうか」
【笹雨 清明】
「ぐっ……、練習……は」
【政親】
「これも、練習の一環です」
《絶頂》
―単独で初モデルの仕事。
未だ不安に揺れる清明の目を捉え、政親は睨むように清明を問い詰める。
【政親】
「貰った仕事に納得がいかないと?」
【笹雨 清明】
「…そんな痴がましい事は言いません。…ですが、まずモデルなんてやったことがないですし…その。俺はそんなに花があるとは思えなくて」
はぁ、と大きく肩を落としてため息をついてみせるが、政親の表情は変わらなかった。
【政親】
「ならば堂々と、綺麗に歩けるようにするだけです」
【笹雨 清明】
「……」
【政親】
「自信がないから敵前逃亡とは…随分とお偉い身分ですね?」
【笹雨 清明】
「ぐ…違います。その…なんだか…こう胸騒ぎがして……
いえ、すみません。…やります。教えて頂けますか」
この手の会話では噛みついてくる清明だが、珍しく今日は意気消沈して見える。
『胸騒ぎがして』と眉根を顰めて呟く様子に、政親は少しだけ眉を上げた。
先ほど政親の携帯にメールが入っていた。送信者は冴島。
「今度ne-onというブランドのファッションショーにうちの「VIRTUE」が出るので宜しく頼むよ」
…との簡潔なメッセージだった。
そのファッションショーには、清明が出る。
…演技力や表情に対してダントツで柔軟性が乏しい清明が、冴島に狙われた可能性が高い。
【政親】
「今日から叩きこみますよ、清明」
【笹雨 清明】
「元より承知です」
ぐっと頭を下げる清明に、政親の口角が上がった。
政親の手で育て上げられたアイドル達がそんな罠にかかる程、軟ではない…と言うのを冴島に教えるいい機会かもしれない。
柔軟性には乏しいが、努力と根性はかなりのものがある清明。
同じ舞台にVIRTUEが立つと分かれば、それが遺憾なく発揮されるのは間違いないだろう。
【政親】
「…貴方のその身長と言う武器と…
営業なく手に入れた仕事なんですから、頑張りなさい」
【笹雨 清明】
「…っ!」
言われて気付いたのか、その事実に驚く清明。
政親はなんの反応も示さないまま清明の腰を押さえつけ、
再度姿勢を整える始めるのだった。