本編
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《兆し》
【大須賀 侑生】
「本村さんと二人ですか?」
【榎本 公志郎】
「ええ、ティーン向けの情報誌なんだそうだけれど。御指名ね」
社長から手渡された企画書。
何か物珍しいものではなく、ティーン向け雑誌によせるフォトショットと
簡単なインタビューがあるようだ。
【榎本 公志郎】
「最近はポラリスも大分根付いてきたわね!仕事がバンバン入って楽しいわぁー!ね?山口!」
【山口 遼太】
「本当ですねッ!!俺も忙しいの、凄く、嬉しいですッ!!」
…と言いながら山口は書類の束を掴んで手を振っている。
本当に、最近急に忙しくなった。メディアの露出も増え、
ポラリスまとめての仕事よりもより単体の仕事が増えてきたのを侑生も実感している。
何より、梓乃、清明三人でやる仕事も減ってきてしまったのだ。
【大須賀 侑生】
(当たり前じゃないか…皆忙しくなって、スケジュールが合わないし…)
何故か三人でずっとワイワイ出来ると思っていた。
アイドル活動も楽しくて、きっとこのまま三人で楽しく出来るのだと。
同じ事務所だし、袂を分かつ訳ではないのに、侑生はちょっとだけ寂しく感じていた。
【榎本 公志郎】
「それでその前に少し顔合わせがしたいらしくてー…」
【大須賀 侑生】
(そういえば、三人で仕事したの、いつだったかな)
侑生は気もそぞろのまま、事務所にかけてあるカレンダーをじっと見つめていた。
《本番》
【本村 果凛】
「ん?シノちゃん?昨日会ったけど超元気だったよ?セイは昨日会ってないなー」
【大須賀 侑生】
「…良かった。元気じゃないとシノくんじゃないですもんね!
…あの、僕最近二人となかなか会えなくて」
あまり誰かと一緒に…と希望される事はないが、
後日撮影のあるティーン向け雑誌の企画担当者とカメラマンのご所望で、
果凛と侑生二人で出向いた帰りの事だった。
【本村 果凛】
「…あっやだ、こんなとこ痕ついてる」
二の腕の内側に赤い痕を見つけた果凛はそこを隠すようにストールをしっかりと身につけた。
その生々しい痕と先ほどまでの営業を思い出し、侑生は少しだけ顔を曇らせる。
【大須賀 侑生】
「……本村さん、今日僕の事庇ってくれましたよね、ごめんなさい」
【本村 果凛】
「ん?そんな事ないよ、だって果凛の方ずっと見てたしねーあの人。
コウイウの、慣れてるから気にしないで。それに侑生も頑張ってたでしょ、お疲れ様」
【大須賀 侑生】
「…っ!有難うございます」
花のような笑顔でそんな事を言う果凛に、侑生は更に申し訳なくなった。
エンジェル営業では軽い方とはいえ、果凛との絡みを強要したカメラマンに
果凛は別案を提示し、結果的に侑生を庇う形になったのだ。
【本村 果凛】
「ね、うい!いー事思いついた!
仲良し三人でユニット組むのは?そしたら三人で動けるでしょ?」
いい考え!と果凛は言うが、侑生は小さく首を横に振ってみせる。
【大須賀 侑生】
「アハハ…うーん、三人一緒だとどうしても甘えが出ちゃうから、ダメです」
きっと僕が二人に甘えちゃうから、侑生は再度首を振った。
三人は仲は良いし、今も毎日のようにメールや何やらで連絡は取っている。
しかし文面では何かが圧倒的に足りなかった。
―きっと我儘なんだと思う。
真面目だね、と果凛は頭を撫でてくれるが、はたしてそうだろうか?
侑生はもやもやとした気持ちを抱えたまま、それでもしっかり顔を上げて。
果凛と共に事務所へと戻るのだった。
《絶頂》
【スタッフ】
「お疲れ様ですー!」
【果凛・侑生】
「ありがとうございました!」
【撮影スタッフ】
「二人とも凄く良かったよーまたお願いしますね!」
【本村 果凛】
「ありがとうございますー☆」
【大須賀 侑生】
「有難うございました!」
―煌びやかなフラッシュを浴びながらの数時間。ようやく撮影と取材は終了した。
先ほどの賑やかな場所からはかけ離れたような長い廊下を二人で歩いている。
【本村 果凛】
「やっぱりういも成長したね」
【大須賀 侑生】
「え?…やだな、前の話ですか?」
数日前の営業後に話していた続き…そう思い侑生は果凛を見る。
【本村 果凛】
「そ、なんか直前まで気乗りしてないみたいだったから。撮影に響くかなって、ちょっと思ってたんだ」
【大須賀 侑生】
「ご、ごめんなさい!心配かけちゃいました…!
で、でも、僕がこんな気持ちでいても、お仕事に影響させたらダメだし…本村さんだっていつも笑顔だし、凄いなって…だから―…」
そう言いながら顔をあげると。果凛は満面の笑顔で侑生の肩を抱く。
【本村 果凛】
「ういも、もう立派なアイドルだね!大丈夫!」
突然の抱擁にどきまぎしながらも、しっかりと背中に手を回し抱き返した侑生に果凛は小さく驚く。
朝は寂しさが滲み出ていたというのに、もう考え直し前を向き始めている。
時折、果凛には侑生の素直さとひたむきさが羨ましくなる。
油断していたら何時の間にか追いつき追い越されてしまう。
先輩として余裕ぶっている暇は無い。
【大須賀 侑生】
(いつまでも…甘えるわけにはいかないんだ)
決心を胸に抱く侑生は気づかない。
果凛の表情も、己自身の強がりにも……。
ひたむきさの方向を間違えた末に、何処に行き着くのだろうか―