本編
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《兆し》
【日月梓乃】
「ただいま……」
梓乃が自宅の扉を開くと、キィ…と古くなった蝶番の音が鳴った。
実家を飛び出し一人暮らしを始めた梓乃の家は、古いアパートだ。
実家もけっして広い家と言える広さではなかったが、
必要最低限のものしか置かないと決めた部屋には、
がらんとした寂しい風景が広がったいる。
どさりと荷物を置き、座り込む。
そのままだしっぱしの炬燵に頭を預けて、梓乃は呟いた。
【日月梓乃】
「……親父………」
父親を知っているかもしれない人物に営業をすることになった
あの夜のことを思い出していた……
《本番》
【営業相手】
「やっぱりアイドルはいい……綺麗な体だ……」
体を這う手は随分皺が刻まれていて、梓乃はやるせない気持ちになる。
こんな歳になってまで、人間の欲は業が深いと。
卑しさは月日を重ねても消えることはないと…思い知らされるようだった。
【日月梓乃】
(気持ち悪ぃ……この下衆野郎……)
渡された資料では、業界でも有名なずっと新人アイドルに手を出し続けているという重鎮、とのことだった。
昔からコネがあり自身が若い頃から同じような年代から年下まで食い尽くしてきたという。
【日月梓乃】
「っふ、ぅ………」
【日月梓乃】
(触るんじゃ、ねえ……ッ!)
脇腹をなぞり、臍、肋骨、胸へと皺くちゃの手がべっとりなぞっていく。
梓乃は震えながら、何度も喉から出かける言葉を飲み込む。
悪寒でしかない震えを快感だと勘違いした営業相手は
にっこりと微笑んでから上下する喉を撫で、指先で目元を擽る。
【営業相手】
「この垂れ目が堪らないね……
昔、君と似たような子がいたんだよ。背格好まで、似ているかもしれない」
【日月梓乃】
(……!)
【日月梓乃】
「そ、れって……」
詳しい話を聞かせてください。
梓乃の口はそう開きかけたが、言葉にはならなかった。
視界がぐるりと回り、ベッドへと押し倒される。
【営業相手】
「お話はもう終わりだ」
ふざけるな。今すぐ目の前の男を殴って、話を聞きたい。
でも、それは出来ない話だ。
梓乃は諦めたように瞼を閉じる。
ここで抵抗するよりも、取り入った方が情報を聞きだせるかもしれない。
【日月梓乃】
(誰が…するかよ)
同じ下衆に成り下がりたくはない。
こんな行為している自分にいえたことは無いが。
魂だけは汚したくないと、考えていた。
《絶頂》
営業相手が帰ったホテルの一室。
服を着替える気にもならず、シーツを膝にかけたまま
梓乃はぼんやりと虚空を見つめていた。
【日月梓乃】
(結局情報なんてよく聞き出せなかった……)
自分は、騙されているのかもしれない。
【日月梓乃】
(別に、あいつは『メリットのある人物だ』としか言ってない、か……)
このまま政親のいうことを聞いててもいいのか。
親父は探せるのか。自分は無謀なことをしてるんじゃないだろうか。
梓乃の中に取りとめのない疑問が浮かんでは消える。
【日月梓乃】
「っく、そ……ッ!」
気づかないうちに、梓乃の頬は濡れていた。
頬に手を触れ、梓乃は考える。どうして自分は涙を流しているのか。
悲しいというよりも、悔しいからかもしれない。
自分にはまだ力が無ければ、知識も無い。
父親も、この世界を生き抜く術さえも。何も知らないのだ。
【政親】
「随分と酷い顔ですね。アイドルという自覚が無いのでしょうか」
耳に入れば、嫌でも解る政親政親の声。
政親は梓乃の目の前まで来ると、遠慮なくアゴを掴んだ。
【日月梓乃】
「……なんだよ」
【政親】
「仕事が決まった。今日の営業相手と早速打ち合わせがある。
彼の関係者も多く来ます、私も出席しますので」
赤い目のまま、梓乃は掴まれたままの腕を払った。
【政親】
「目的があるなら、揺らいでる暇は無いと思いますが。
そんなに簡単なものだったんですね、貴方の意志は。
いいですよ、嫌なら辞めますか?」
【日月梓乃】
「誰がやめるかよ!関係者から話聞くいいチャンスだ、絶対に行く」
泣きはらした赤い目には、闘志の色に変わっている。
それでいい、と政親は頷いた。
【日月梓乃】
(最初からそう簡単に見付かるわけがねえ)
【日月梓乃】
(そこに少しでも可能性があるっつーなら……
そこにかけるしかねーんだよな……!)