本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《兆し》
『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』1日目の夜―
土日の二日間に渡り開催される最大級のアイドルイベントの初日を終え、
ミーティングも終了し、各自部屋に戻っている時間。
日月梓乃は一人部屋を抜けて、ダンスの振りの確認をしていた。
相部屋となっている侑生や清明は寝ていたので、気づかれていないだろう。
トップ16に残った興奮が冷めやらず、振りの練習をすることにしたのだ。
【日月梓乃】
「……ファイブ、シックス、セーブン、
エイッ……う、わッ……!?」
ドシン!
ターンをした瞬間に足首を捻り、大きく後ろに転んでしまった。
【日月梓乃】
「………ってー……っ、」
打ってしまった腰を擦りながら起き上がると
がくん、と膝が崩れてしまう。
―――足首に力が入らない。
座り込み足首を触ると、熱を帯びている。
もしかしたら、ターンに失敗しこけた時に足を挫いてしまったのかもしれない。
「おい、明日はJIFの二日目だってーのに……どうすんだよ……」
他人事のように梓乃が呟いたところで、現実は変わらない。
自分のせいでポラリスの足を引っ張ってはあってはならない。
ぐっと拳を握りこみ、挫いた足を庇いながら梓乃は街へと消えていった。
《本番》
【本村果凛】
「とうとう二日目ね!早くステージに立ちたいっ☆」
【大須賀侑生】
「僕もすっごく楽しみで仕方ないです!」
【壱川咲十郎】
「なんだか、信じられません…大丈夫やろか」
【二條榛貴】
「いつも通りにやりゃあ大丈夫だ。
俺達の実力、見せ付けてやろうぜ」
観客が入る前のステージで、最終リハが行われている。
前日、勝ち抜いた結果舞台の上に立っているということは
メンバーの自信にも繋がり、全員晴れやかな顔を浮かべていた。
―あくまでも、表面上は。
【墨代睡蓮】
「せいめい、タッチー連れてどこにいくの?」
【笹雨清明】
「梓乃は緊張するとトイレに行くのを忘れますからね、連れて行きます」
【日月梓乃】
「オイッ!セイメイ……ふさげんなよ!」
やれやれといった表情を浮かべる清明に、からかわれて怒る梓乃。
いつものやり取りに笑いながら近くにいた人間が茶々を入れる。
【葛城雄眞】
「まだまだ保護者っぷりは健在だな」
【芦沢由臣】
「時刻までには戻って来い」
芦沢に小言を言われつつ、清明は梓乃の腕を引き会場を後にした。
【日月梓乃】
「なーにがトイレに行くのを忘れるだ、いくつだと思ってんだよ!」
【笹雨清明】
「こちらこそ、先ほど言われた言葉をそのままそっくり返します。
『ふざけるな』
……梓乃。足、庇っていますよね?」
【日月梓乃】
「っ………!セイメイ、何言って……」
未だしらを切ろうとする梓乃の言葉を遮るように、清明が口を開く。
梓乃の思考を先回りして、言葉を投げた。
【笹雨清明】
「他の方はまだ誰も気づいていないと思います
よ。
俺も気づいたのはギリギリ、昨日こっそり帰ってきた梓乃に気づいたからこそ、
確信を得られたので。違和感だけで終わっていたかもしれません」
【日月梓乃】
「全部、バレてんのか……」
【笹雨清明】
「何年隣で見てると思ってるんですか。それこそ、ポラリスに入る前から。
梓乃のダンスは見てきているんです。……きちんとした手当て、してないんでしょう」
【日月梓乃】
「待ってくれ!!」
再び梓乃の手を引き、連れて行こうとする清明を引き止めた。
【日月梓乃】
「テーピングは、ちゃんとした。医務室には行きたくない。
他の誰に見られるかわからないし……黒田さんにも言ってない」
【笹雨清明】
「……梓乃。でも、このままでは……」
【日月梓乃】
「お願いだ、セイメイ……!!
…俺が足引っ張りたくないんだよ……」
下から懇願するように、梓乃に見つめられ清明は言葉に詰まる。
速やかに手当てをさせるように連れてきたのだ。
だが、目の前の男は…悔しさで涙を浮かべている。
ふがいなさで、清明の衣装の裾を掴む手も震えている。
……散々考えあぐね、清明は溜息を一つ吐いた。
【笹雨清明】
「俺が言ったところで、梓乃は話を聞きやしないですね」
【日月梓乃】
「……セイメイ!」
【笹雨清明】
「梓乃の演技力がどれだけ成長したのか、見せてもらいましょうか」
上等だ、と梓乃は清明の肩口に拳を軽く押し当てる。
苦笑で清明が答えると、二人は再びステージへと戻る為、足を速めた。
話込んでいたらすっかり時間が過ぎてしまった。
これからトップ8が決める為の、二日目が始まるのだ。
《絶頂》
司会『さあ、栄えあるトップ8の最後に選ばれたのは………
ポラリス・プロダクション!』
発表と共に大きな爆発音と観客の完成が場内に響き渡る。
ギリギリのところでトップ8に残ったポラリスのメンバーは
抱き合いながら喜んで、一人ひとりコメントを残し
朝から始まったトップ8を競うステージが終了した。
次は昼休憩を挟み、午後から二部が始まる。
夜にナンバーワンに輝いたアイドルが発表され、特別ステージを飾るプログラムだ。
ポラリスのメンバーは、午後に向けて最終ミーティングを行っている。
【政親】「まずは皆さん、トップ8入りおめでとうございます。
当然の結果でしょう。大いに喜んでいただいて結構。
ですが……まだまだこれぐらいで満足していてもらっては困ります」
メンバーは真剣に政親の言葉を聞いているが
どこか嬉しさを隠しきれていないムードが漂っている。
政親の後ろで山口が花を飛ばしっぱなしでいるのが問題なのかもしれない。
政親の言葉にいちいち勢いよく相槌を打つ山口に政親が顔を顰めると、
榎本は嘆息を付いて楽屋の外につまみ出した。
【政親】
「さて、ここからが本番ですが……
……梓乃、足を出しなさい」
【日月梓乃】
「………………」
【政親】
「二度同じ事を言わせるな」
ざわざわと梓乃のまわりを囲むように心配そうな顔を浮かべたメンバーが集まった。
梓乃は黙り込んだまま、そっとダンスシューズを脱ぐ。
【本村果凛】
「きゃっ……!」
【大須賀侑生】
「シノくんっ……!!」
思わず悲鳴を上げる程、テーピングの上からでもわかるぐらいに
梓乃の足首は赤く、大きく腫れ上がっていた。
【芦沢由臣】
「よくぞ……こんな足で踊りきったものだ」
【壱川咲十郎】
「梓乃さん……無理なさってたやなんて…全然…」
心配する様子も無く、梓乃を見下ろしたまま淡々と政親は言葉を続ける。
【政親】
「全治3週間というところでしょうか。
ポラリスは、午後の二部から辞退します」
【日月梓乃】
「そんな……!俺はまだ踊れ……ッ」
【政親】
「これは決定事項です。
もう伝えてありますし、山口には車を用意させていますから。
皆さん速やかに着替えるように」
【日月梓乃】
「黙っててすいませんでした、でも、こんなとこで……ッ」
思わず立ち上がりよろめく梓乃を周りの者が支えた。
政親は鼻で笑って答えた。
【政親】
「このまま続けてもし優勝を逃したら『怪我のせいで』と一生まとわりつくことになるでしょうね。
自分の実力不足かもわからずに怪我のせいにするかもしれない。
庇いながら最高のパフォーマンスをしたところで、どちらにしろ悔いは残るでしょう。
中途半端に出て自己満足欲を埋めるよりも、きちんとした形で
次回リベンジして1位を取ったアイドルの方が仕事は舞い込んでくる。
それだけのことです」
【日月梓乃】
「くそっ…………皆、ほんと、すいません……俺の、せいで……」
政親の言葉に言い返せない。静まり返る楽屋。
メンバーの方を振り向き、謝罪をする梓乃に政親は追い討ちをかける。
【政親】
「貴方も連帯責任です、清明。もっとプロ意識があると思っていましたが…残念ですね。
反省するように。次回のラジオのパーソナリティの番は貴方でしたが、交代します。いいですね?」
【笹雨清明】
「………はい」
【日月梓乃】
「何でだよっ……!セイメイは関係ねぇだろ!」
【政親】
「黙っていたのですから、同罪ですよ」
もう伝えることは無くなった、と政親は楽屋を出て行ってしまった。
重い雰囲気が楽屋に立ち込めていたが、葛城が口を開く。
【葛城雄眞】
「二人でトイレにしけこんだと思ったら、そういうことか。
侑生が寂しがってだぞ?」
【大須賀侑生】
「わああっ、葛城さん……!」
慌てふためく侑生の姿は、楽屋に柔らかさを与えアイドル達は次々に声をかける。
【葛城雄眞】
「気づいてやれなくて、悪かったな」
【二條榛貴】
「先輩として情けねーわ。負担かけちまっただろ?早く気づいてやれればカバーに回れたのにな」
【墨代睡蓮】
「JIFは、今日だけじゃない。次も、いっぱいある」
【笹雨清明】
「俺も、こうなることは覚悟の上だったから。
梓乃は気にしているなら早く治すことですね」
【日月梓乃】
「皆………」
梓乃は乱雑に拳で目元を擦るとメンバー一人ひとりの顔を見て、大きく頷いた。
こうして。
ポラリス・プロダクションが初めて経験した『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』は
トップ8、二日目二部はメンバーの怪我より辞退…という結果に終わった。
JIFはひとつの通過点に過ぎない。
次回に向け、アイドル達の目はまだまだ輝きを失っていないのだった。