[本編] 銀 夏生 編
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【業者】
「では、これで全部ですね。あとは、よろしいですか」
【ハク】
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
【業者】
「それじゃ、失礼します」
業者に会釈して、俺はパタンとドアを閉める。
作業でガサゴソとうるさかった空間が、またさっきのように二人きりの静かな空間に戻った。
たださっきまでと違うのは、俺のデスクができた、というところだ。
【ハク】
「これが俺のデスクかぁ…」
俺は、出来上がったばかりの自分用デスクを、確かめるみたいに手で触ったりする。
当たり前だけど、新品で気持ちがいい。
【銀】
「準備は整った」
【ハク】
「うん?」
【銀】
「ハク。さっきの話の続きだが…」
【ハク】
「ああ、そっか」
【ハク】
(そういえば話の途中だったんだっけ)
俺は改めてナツの方に向き直る。
【銀】
「今日からお前はオレの秘書だ。出先には同行してもらう…というのはさっき言ったな?」
【銀】
「で、だ。お前には秘書として、オレに基本24時間つきっきりで雑務から世話までをしてもらう」
俺は…「に…24時間!?」
【銀】
「そうだ。24時間、朝起きてから俺が寝るまで…だ」
まさか、24時間なんて今度こそ冗談だろう。
だってそんなこと普通に考えてありえないことだ。
――と思ったけど…。
当のナツの顔は微塵も笑っていない。
【ハク】
「ウソ…だろ?」
【銀】
「本当だ」
【ハク】
「え、でも…」
【銀】
「ほら。見ろ。もう契約は済んでいる」
【ハク】
「え…?」
ナツは俺の顔面スレスレに、ぺらりと一枚の紙を突き付けてきた。
よくよく見てみると…。
【ハク】
(なっ、これ…マジか…!)
その紙には、確かに俺の字でサインがしてあった。
書面の内容を確認すると、俺はナツの会社の社員となり、24時間秘書を務めるということが書かれている。
それに同意するという意味での、俺のサイン。
【ハク】
「だ、だけどさ、ナツ。24時間って言ったって…俺、家に帰らなきゃいけないし、そうすると24時間は厳しいんじゃ…
【銀】
「異論が?まさか、早速契約違反をする気か」
【ハク】
「いやいや、だって現実的に無理っていうか…」
【銀】
「問題ない」
【ハク】
「まさか…家にも帰れないの?お…れ?」
【銀】
「家?もうすでにお前の家は解約済だ。お前の家の物一式は、俺の自宅に送るように手配してある。結論、お前の家はオレの自宅だ」
【ハク】
「は……」
【銀】
「また。お前はそのマヌケ面が似合うな」
【ハク】
「いや…っていうか……いつの間にそんな……用意周到っていうか…」
【銀】
「当然だ。さっきも言っただろう」
【銀】
「始まってから準備をしても遅い。準備というのは――」
さっきも全く同じことを聞いたような気がする…。
俺はそう思いながら、はあ、とため息をついた。
【ハク】
(なんっか…もう……)
今日、一体どれだけ驚いたんだろう?
一日にこれだけ驚きの連続だったことなんて無いと思う。
ある意味、驚き疲れたというか…いや、もうすでにそれを超えている。
俺はもう、驚くというよりもなかば呆れていた。
【ハク】
「もうどうにでもしてくれ…」
こうして、ナツと俺の奇妙な生活が始まったのだった。
会社でのナツは、至って普通な仕事ぶりだった。
部下にも慕われているし、会社の業績も良い。いわば、非の打ちどころがない敏腕若手社長といったところだろう。
秘書の仕事をするようになって、取引先やら何やらと、ナツの横について出向くようになった俺は、社外でのナツの評判がいいことも知っていた。
俺と二人きりで話しているときとは違う、表向きのナツの顔。
爽やかで、愛想がよくて、優しそうで……俺が思わず怯んでしまう、あの怖い視線なんて、微塵も見せない。
そんなに優しくできるのなら、俺にもそうしてくれよ、と思う。
【ハク】
(これじゃ二重人格だよ、まったく。…なんてな)
【ハク】
(…まあ、でも…)
――ナツの違う表情を知ってるのは、俺だけ…ってことなんだろうな。
取引先の人間なんて、仕事だけの付き合いなんだから知ることもないだろうし、部下たちにだってそういう仕事外の表情は見せないだろう。
ナツだったらきっとそうだ。
【ハク】
(この間だって…)
俺は、雑用で物を取りに行ったとき、若い女子社員の一人に話しかけられたことを思い出した。
ちょっと可愛い子だったから、思わずドキッとしたけれど…そういう問題ではなかった。
【女子社員1】
「いいなぁ、ハクさんは。社長秘書なんて羨ましいですっ」
【ハク】
「え、そう…かな?」
【女子社員1】
「そうですよ!出先でも一緒なんて、私が秘書に立候補したかったくらいですよ」
【ハク】
「そうなんだ?だったら立候補すればよかったのに」
【女子社員1】
「ムリムリ!ハクさんだからなれたんじゃないですか、銀社長の秘書」
【ハク】
「はぁ?俺だから?何で?」
【女子社員1】
「ハクさんはよほど気に入られてるんだろうって、みんな言ってますよ」
【女子社員1】
「だって…その腕時計といい、スーツといいネクタイのセンスといい、全部銀社長の趣味じゃ…」
その時俺は初めて知った。
今までナツは、秘書を独断と偏見でスカウトしてきていたらしい。
つまり俺の秘書抜擢は、いつもの社長の気まぐれだということだ。
【ハク】
「はぁ…」
【ハク】
(――気に入られてる、か…)
まぁモノは言いようだ。
こっちなんていきなり家を解約までされて、突然、同棲状態になったのだ。
気に入られているというか、もう強引すぎて意味がわからない。
ただ、社内での俺の印象はあまり良くないらしい…。
まぁ、無理もない。
しかも、社内のデキる部下を抜擢したわけではなく、どこの誰とも知れない人間を引っ張ってきて、突然秘書にしたのだ。
噂にならない方がおかしいのかもしれない。
そう言えば、先日はこんなこともあった。
御手洗いからのオフィスへ帰る途中の廊下で、見た目は美人でそこそこの地位に見えるけど、つり目がどことなく嫌味な雰囲気を醸し出している女性社員に声をかけられた時のことだ。
【女子社員2】
「あら!もしかして貴方が社長の新しい玩具?」
【ハク】
「へ?玩具!?」
驚いている俺を差し置いて、その女性社員はまくしたてるように続ける。
「では、これで全部ですね。あとは、よろしいですか」
【ハク】
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
【業者】
「それじゃ、失礼します」
業者に会釈して、俺はパタンとドアを閉める。
作業でガサゴソとうるさかった空間が、またさっきのように二人きりの静かな空間に戻った。
たださっきまでと違うのは、俺のデスクができた、というところだ。
【ハク】
「これが俺のデスクかぁ…」
俺は、出来上がったばかりの自分用デスクを、確かめるみたいに手で触ったりする。
当たり前だけど、新品で気持ちがいい。
【銀】
「準備は整った」
【ハク】
「うん?」
【銀】
「ハク。さっきの話の続きだが…」
【ハク】
「ああ、そっか」
【ハク】
(そういえば話の途中だったんだっけ)
俺は改めてナツの方に向き直る。
【銀】
「今日からお前はオレの秘書だ。出先には同行してもらう…というのはさっき言ったな?」
【銀】
「で、だ。お前には秘書として、オレに基本24時間つきっきりで雑務から世話までをしてもらう」
俺は…「に…24時間!?」
【銀】
「そうだ。24時間、朝起きてから俺が寝るまで…だ」
まさか、24時間なんて今度こそ冗談だろう。
だってそんなこと普通に考えてありえないことだ。
――と思ったけど…。
当のナツの顔は微塵も笑っていない。
【ハク】
「ウソ…だろ?」
【銀】
「本当だ」
【ハク】
「え、でも…」
【銀】
「ほら。見ろ。もう契約は済んでいる」
【ハク】
「え…?」
ナツは俺の顔面スレスレに、ぺらりと一枚の紙を突き付けてきた。
よくよく見てみると…。
【ハク】
(なっ、これ…マジか…!)
その紙には、確かに俺の字でサインがしてあった。
書面の内容を確認すると、俺はナツの会社の社員となり、24時間秘書を務めるということが書かれている。
それに同意するという意味での、俺のサイン。
【ハク】
「だ、だけどさ、ナツ。24時間って言ったって…俺、家に帰らなきゃいけないし、そうすると24時間は厳しいんじゃ…
【銀】
「異論が?まさか、早速契約違反をする気か」
【ハク】
「いやいや、だって現実的に無理っていうか…」
【銀】
「問題ない」
【ハク】
「まさか…家にも帰れないの?お…れ?」
【銀】
「家?もうすでにお前の家は解約済だ。お前の家の物一式は、俺の自宅に送るように手配してある。結論、お前の家はオレの自宅だ」
【ハク】
「は……」
【銀】
「また。お前はそのマヌケ面が似合うな」
【ハク】
「いや…っていうか……いつの間にそんな……用意周到っていうか…」
【銀】
「当然だ。さっきも言っただろう」
【銀】
「始まってから準備をしても遅い。準備というのは――」
さっきも全く同じことを聞いたような気がする…。
俺はそう思いながら、はあ、とため息をついた。
【ハク】
(なんっか…もう……)
今日、一体どれだけ驚いたんだろう?
一日にこれだけ驚きの連続だったことなんて無いと思う。
ある意味、驚き疲れたというか…いや、もうすでにそれを超えている。
俺はもう、驚くというよりもなかば呆れていた。
【ハク】
「もうどうにでもしてくれ…」
こうして、ナツと俺の奇妙な生活が始まったのだった。
会社でのナツは、至って普通な仕事ぶりだった。
部下にも慕われているし、会社の業績も良い。いわば、非の打ちどころがない敏腕若手社長といったところだろう。
秘書の仕事をするようになって、取引先やら何やらと、ナツの横について出向くようになった俺は、社外でのナツの評判がいいことも知っていた。
俺と二人きりで話しているときとは違う、表向きのナツの顔。
爽やかで、愛想がよくて、優しそうで……俺が思わず怯んでしまう、あの怖い視線なんて、微塵も見せない。
そんなに優しくできるのなら、俺にもそうしてくれよ、と思う。
【ハク】
(これじゃ二重人格だよ、まったく。…なんてな)
【ハク】
(…まあ、でも…)
――ナツの違う表情を知ってるのは、俺だけ…ってことなんだろうな。
取引先の人間なんて、仕事だけの付き合いなんだから知ることもないだろうし、部下たちにだってそういう仕事外の表情は見せないだろう。
ナツだったらきっとそうだ。
【ハク】
(この間だって…)
俺は、雑用で物を取りに行ったとき、若い女子社員の一人に話しかけられたことを思い出した。
ちょっと可愛い子だったから、思わずドキッとしたけれど…そういう問題ではなかった。
【女子社員1】
「いいなぁ、ハクさんは。社長秘書なんて羨ましいですっ」
【ハク】
「え、そう…かな?」
【女子社員1】
「そうですよ!出先でも一緒なんて、私が秘書に立候補したかったくらいですよ」
【ハク】
「そうなんだ?だったら立候補すればよかったのに」
【女子社員1】
「ムリムリ!ハクさんだからなれたんじゃないですか、銀社長の秘書」
【ハク】
「はぁ?俺だから?何で?」
【女子社員1】
「ハクさんはよほど気に入られてるんだろうって、みんな言ってますよ」
【女子社員1】
「だって…その腕時計といい、スーツといいネクタイのセンスといい、全部銀社長の趣味じゃ…」
その時俺は初めて知った。
今までナツは、秘書を独断と偏見でスカウトしてきていたらしい。
つまり俺の秘書抜擢は、いつもの社長の気まぐれだということだ。
【ハク】
「はぁ…」
【ハク】
(――気に入られてる、か…)
まぁモノは言いようだ。
こっちなんていきなり家を解約までされて、突然、同棲状態になったのだ。
気に入られているというか、もう強引すぎて意味がわからない。
ただ、社内での俺の印象はあまり良くないらしい…。
まぁ、無理もない。
しかも、社内のデキる部下を抜擢したわけではなく、どこの誰とも知れない人間を引っ張ってきて、突然秘書にしたのだ。
噂にならない方がおかしいのかもしれない。
そう言えば、先日はこんなこともあった。
御手洗いからのオフィスへ帰る途中の廊下で、見た目は美人でそこそこの地位に見えるけど、つり目がどことなく嫌味な雰囲気を醸し出している女性社員に声をかけられた時のことだ。
【女子社員2】
「あら!もしかして貴方が社長の新しい玩具?」
【ハク】
「へ?玩具!?」
驚いている俺を差し置いて、その女性社員はまくしたてるように続ける。