[本編] 銀 夏生 編
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一番奥にある社長室。
俺はナツについて、まっすぐそこに向かう。
会社にもよるかもしれないけれど、社長室なんていうのは普通、社内で立ち入らない場所ベスト3位以内に食い込む場所じゃないだろうか。いや、この場合ワーストか?
【銀】
「入れ。ここだ」
ナツが軽く開けたドアを、俺は急いで通り抜ける。
社長室の中は、よくドラマなどで見かける厳かな雰囲気というよりかは、ナツの自宅のようなスマートでスタイリッシュな感じだった。
革製の社長椅子はさすがにそれらしかったが、全体的にインテリっぽいイメージだ。
【ハク】
(ナツの趣味かな?)
【ハク】
(そういえばナツって、インテリって感じだよな…)
そんなことを考えていると、ナツが俺を手招いてくる。
慌ててナツの近くまで駆け寄ると、パーテーションで区切られた応接スペースに座るようにジェスチャーされた。
【ハク】
「すごいな。俺、社長室なんてあんまり入ったことないから」
【銀】
「まあ、そうだろうな」
【ハク】
「それにしても…社長室は壁で遮断されてるのか」
そこは、回りを壁で遮断されていた。
さっき社員が一堂に会していたあの場所とは、さすがにちょっと訳が違うということか。
――ずいぶん頑丈なつくりだ。
【銀】
「そうだ。ここは壁も分厚く作られている。つまり、騒音も外には漏れない」
【ハク】
「へぇ…」
俺は思わず感心する。
【ハク】
「あ、でも…この部屋で騒音なんてたてないだろ?」
【銀】
「…どうかな?」
――突然ナツの顔が俺の顔に近づいてきて、耳元に息を吹きかけた。
【ハク】
「うぁあ!」
俺は思わず情けない声をあげてしまった。
【銀】
「と…いう具合に叫んだとしても、ハクの声は外には漏れない」
怪しい笑みを浮かべた銀は、そう俺に説明してくれた。
なんだか良くわからないが、やはり社長室となると作りも一味違うということなんだろう。
俺はそう納得することにした。
【ハク】
(そんなことより問題なのは…俺の今後、だよな…)
――さっきナツは、俺のことを秘書だと紹介していた。
俺はそんなこと一言も聞いていなかったし、もちろんそのつもりなんて全くなかった。ナツの会社に厄介になるとしても、営業とかそのあたりだと思っていたから…。
俺は、いまいち自分の置かれている立場が理解できていなかった。
【ハク】
「俺、今後どうしたら良いわけ?」
もしここでナツが、秘書だと言ったのは冗談だった、とか言ってくれれば…それはそれで肩の荷がおりるような気がする。
その可能性は――。
【ハク】
「秘書になるっていうのは冗談でした、とかそういう…」
【銀】
「ない」
【ハク】
「だよな…」
【銀】
「馬鹿か?あれだけ大勢の前でそんな下らない冗談を言うわけがない。そもそも、お前のためにわざわざこの時間に朝礼するよう全社員にメールを飛ばしておいたんだぞ」
【ハク】
「そ、そうだったんだ…!」
【ハク】
(だからあんなに大勢いたんだ…)
【銀】
「そうだ。感謝をしろ」
【ハク】
「う…わかったよ」
ナツは、大ぶりな窓を背景に、スラックスのポケットに手をかけて立っている。
社長室にいるせいもあるだろうけれど、それが妙に威厳があるように見えた。
様になっている。
逆光になっているせいで、外郭の銀髪に光が当たって、キラキラと反射している。
そんなナツの姿に、俺は一瞬見惚れていた。
――けど、そうしてもいられなくなる。
【銀】
「ハク。今日からお前は俺の秘書になる。そこは理解したか?」
【ハク】
「ああ…」
【銀】
「良いだろう。まず基本的に――」
【ハク】
「うん」
【銀】
「基本、オレがどこに行くにも同行してもらう」
【ハク】
「な、なんだって…?」
【銀】
「同行。意味を知らないのか?」
【ハク】
「いや、そうじゃなくって!それは分かるよ俺だって!で、でも…」
【銀】
「まぁ、それ以外の仕事もあるけどな」
ナツは俺の言葉を遮って、どんどんと話を進めていく。
またしてもついていけないパターンだ。もう、朝起きてからからずっとこうだ。
【銀】
「とりあえず。お前のデスクはそこに配置する」
【ハク】
「デスク?」
【銀】
「何だ?それともハク君は突っ立って仕事をしたいか?それならそれでも構わないけどな」
【ハク】
「だから…っ」
ナツは社長室の一角のスペースを指差した。
どうやらそこに俺専用のデスクを置いてくれるらしい。
秘書なんて、どこかのドラマかなにかでちょこっと出てくるあのイメージしかなくて、全然具体的なイメージが無かったけど…とりあえずデスクはあるんだな。
【銀】
「デスクの発注は今朝済ませてある」
【ハク】
「え、もう?」
【銀】
「当然だ。始まってから準備をしても遅い。準備というのはあらかじめ必要なものをそろえたり整えたりすることをいうんだ。――そろそろ届くころか」
ナツが腕時計をチェックする。
――と、その次の瞬間。
コン、コン…。
ノックの音だ。
【銀】
「来たか。――ほら、ハク?」
【ハク】
「え?」
ナツが顎でクイッ、とドアの方を示した。
俺は意味が分らなくて、ぽかんとする。
【銀】
「『ハク君』、どうやら荷物が届いたようだが?」
【ハク】
「あ…。ああ、はい!」
ナツがわざとらしくハク君なんて言ってきて、俺はようやくその意味が分かった。
秘書の俺に荷物を受け取れ、ってことか。
どうやら俺の仕事はもうすでに始まっているらしい。
【ハク】
「す、すみません!今開けますっ!」
俺は急いで立ち上がると、駆け付けてドアを開けた。
ドアの向こうに立っていたのは一人の女性社員で、彼女は荷物の配送をしている業者が到着したことを、俺に伝えてくる。
俺がナツの方をチラッと見ると、ナツは黙って一つ頷いた。
【ハク】
「じゃあ、デスクはこっちにお願いします」
――数分後。
デスクを持った業者が入ってきて、俺はナツの指示通り、社長室の隅の一角にそれを配置してくれるようにお願いする。
配送業者が持ってきたのはデスクだけではなかった。
必要なオフィス用品も同時に搬入されてきて、これならすぐにも仕事ができるような感じだ。
作業時間はそれほど長くなく、あっと言う間にそこには、俺専用のデスクができあがる。
俺はナツについて、まっすぐそこに向かう。
会社にもよるかもしれないけれど、社長室なんていうのは普通、社内で立ち入らない場所ベスト3位以内に食い込む場所じゃないだろうか。いや、この場合ワーストか?
【銀】
「入れ。ここだ」
ナツが軽く開けたドアを、俺は急いで通り抜ける。
社長室の中は、よくドラマなどで見かける厳かな雰囲気というよりかは、ナツの自宅のようなスマートでスタイリッシュな感じだった。
革製の社長椅子はさすがにそれらしかったが、全体的にインテリっぽいイメージだ。
【ハク】
(ナツの趣味かな?)
【ハク】
(そういえばナツって、インテリって感じだよな…)
そんなことを考えていると、ナツが俺を手招いてくる。
慌ててナツの近くまで駆け寄ると、パーテーションで区切られた応接スペースに座るようにジェスチャーされた。
【ハク】
「すごいな。俺、社長室なんてあんまり入ったことないから」
【銀】
「まあ、そうだろうな」
【ハク】
「それにしても…社長室は壁で遮断されてるのか」
そこは、回りを壁で遮断されていた。
さっき社員が一堂に会していたあの場所とは、さすがにちょっと訳が違うということか。
――ずいぶん頑丈なつくりだ。
【銀】
「そうだ。ここは壁も分厚く作られている。つまり、騒音も外には漏れない」
【ハク】
「へぇ…」
俺は思わず感心する。
【ハク】
「あ、でも…この部屋で騒音なんてたてないだろ?」
【銀】
「…どうかな?」
――突然ナツの顔が俺の顔に近づいてきて、耳元に息を吹きかけた。
【ハク】
「うぁあ!」
俺は思わず情けない声をあげてしまった。
【銀】
「と…いう具合に叫んだとしても、ハクの声は外には漏れない」
怪しい笑みを浮かべた銀は、そう俺に説明してくれた。
なんだか良くわからないが、やはり社長室となると作りも一味違うということなんだろう。
俺はそう納得することにした。
【ハク】
(そんなことより問題なのは…俺の今後、だよな…)
――さっきナツは、俺のことを秘書だと紹介していた。
俺はそんなこと一言も聞いていなかったし、もちろんそのつもりなんて全くなかった。ナツの会社に厄介になるとしても、営業とかそのあたりだと思っていたから…。
俺は、いまいち自分の置かれている立場が理解できていなかった。
【ハク】
「俺、今後どうしたら良いわけ?」
もしここでナツが、秘書だと言ったのは冗談だった、とか言ってくれれば…それはそれで肩の荷がおりるような気がする。
その可能性は――。
【ハク】
「秘書になるっていうのは冗談でした、とかそういう…」
【銀】
「ない」
【ハク】
「だよな…」
【銀】
「馬鹿か?あれだけ大勢の前でそんな下らない冗談を言うわけがない。そもそも、お前のためにわざわざこの時間に朝礼するよう全社員にメールを飛ばしておいたんだぞ」
【ハク】
「そ、そうだったんだ…!」
【ハク】
(だからあんなに大勢いたんだ…)
【銀】
「そうだ。感謝をしろ」
【ハク】
「う…わかったよ」
ナツは、大ぶりな窓を背景に、スラックスのポケットに手をかけて立っている。
社長室にいるせいもあるだろうけれど、それが妙に威厳があるように見えた。
様になっている。
逆光になっているせいで、外郭の銀髪に光が当たって、キラキラと反射している。
そんなナツの姿に、俺は一瞬見惚れていた。
――けど、そうしてもいられなくなる。
【銀】
「ハク。今日からお前は俺の秘書になる。そこは理解したか?」
【ハク】
「ああ…」
【銀】
「良いだろう。まず基本的に――」
【ハク】
「うん」
【銀】
「基本、オレがどこに行くにも同行してもらう」
【ハク】
「な、なんだって…?」
【銀】
「同行。意味を知らないのか?」
【ハク】
「いや、そうじゃなくって!それは分かるよ俺だって!で、でも…」
【銀】
「まぁ、それ以外の仕事もあるけどな」
ナツは俺の言葉を遮って、どんどんと話を進めていく。
またしてもついていけないパターンだ。もう、朝起きてからからずっとこうだ。
【銀】
「とりあえず。お前のデスクはそこに配置する」
【ハク】
「デスク?」
【銀】
「何だ?それともハク君は突っ立って仕事をしたいか?それならそれでも構わないけどな」
【ハク】
「だから…っ」
ナツは社長室の一角のスペースを指差した。
どうやらそこに俺専用のデスクを置いてくれるらしい。
秘書なんて、どこかのドラマかなにかでちょこっと出てくるあのイメージしかなくて、全然具体的なイメージが無かったけど…とりあえずデスクはあるんだな。
【銀】
「デスクの発注は今朝済ませてある」
【ハク】
「え、もう?」
【銀】
「当然だ。始まってから準備をしても遅い。準備というのはあらかじめ必要なものをそろえたり整えたりすることをいうんだ。――そろそろ届くころか」
ナツが腕時計をチェックする。
――と、その次の瞬間。
コン、コン…。
ノックの音だ。
【銀】
「来たか。――ほら、ハク?」
【ハク】
「え?」
ナツが顎でクイッ、とドアの方を示した。
俺は意味が分らなくて、ぽかんとする。
【銀】
「『ハク君』、どうやら荷物が届いたようだが?」
【ハク】
「あ…。ああ、はい!」
ナツがわざとらしくハク君なんて言ってきて、俺はようやくその意味が分かった。
秘書の俺に荷物を受け取れ、ってことか。
どうやら俺の仕事はもうすでに始まっているらしい。
【ハク】
「す、すみません!今開けますっ!」
俺は急いで立ち上がると、駆け付けてドアを開けた。
ドアの向こうに立っていたのは一人の女性社員で、彼女は荷物の配送をしている業者が到着したことを、俺に伝えてくる。
俺がナツの方をチラッと見ると、ナツは黙って一つ頷いた。
【ハク】
「じゃあ、デスクはこっちにお願いします」
――数分後。
デスクを持った業者が入ってきて、俺はナツの指示通り、社長室の隅の一角にそれを配置してくれるようにお願いする。
配送業者が持ってきたのはデスクだけではなかった。
必要なオフィス用品も同時に搬入されてきて、これならすぐにも仕事ができるような感じだ。
作業時間はそれほど長くなく、あっと言う間にそこには、俺専用のデスクができあがる。