[本編] 銀 夏生 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【銀】
「お前は一週間のうち、何回スーツ着るつもりなんだ?」
ナツは俺の方を向き、少し意地悪そうな表情で、そう言った。
【ハク】
「普通5日だとおもうけど…」
【銀】
「じゃあ、最低5着はいるよな?」
間髪いれずにナツが答える。
【ハク】
(そりゃナツは立場があるからアレだけど…)
【ハク】
(俺は別にそこまでしなくても…)
【銀】
「俺の会社で働くなら、これぐらいの身だしなみは最低でもしていてくれないと」
そう言うとナツは俺の首に手をかけ、顔を近づけて言った。
【銀】
「わかってる…よな?」
ナツの顔の突然の接近で、俺の鼓動が速くなるのがわかる。
【ハク】
(ば、馬鹿…。顔が近すぎる!)
俺は思わずその顔を避けるように身体をシートに預け、冷静なフリをしてナツに尋ねる。
【ハク】
「なぁ、…そろそろ俺にも分かるように説明してくれよ」
【銀】
「急くな。すぐにわかる」
そう言うとナツは再びハンドルを握ると、車を走らせた。
ナツは、俺が何を言っても、それ以上は取りあってくれなかった。なんなんだよ、もう……。
俺はカバンを抱えながら、小さくため息をついてサイドウィンドウの向こうを見つめた。
ナツが口を閉ざしてから、俺は悶々と車中を過ごすことになった。
それでも時間は過ぎていって……どれくらい経ったろうか?
そうこうしているうちに車は、ある有名なオフィスビルの地下の駐車場に辿り着いた。
ここにナツの会社があるのか――。
さすがは有名オフィスビル、セキュリティがしっかりしていていかにもキチッとした感じがする。
ここに入っているのはもちろん、有名な会社ばかりだ。
【ハク】
(ここの会社役員…か。改めてナツってすごいな…)
そう――ナツは会社役員という肩書持ちだ。
あの日、酔った席で俺がナツの会社で働けるように頼んだのも、こういう事情があったからで…。
一社員に「お前の会社で働かせてくれ」と言ったって、そういうわけにはいかないだろう。でも、ナツの場合は違う。
【銀】
「こら。早くしろ、ハク」
【ハク】
「あ、ごめん…っ」
ドアを開けて俺が降りてくるのを待っていたナツに、俺は慌てて謝って車から降りた。
【銀】
「わかってると思うが。これからオフィスに向かう」
【ハク】
「わかった」
それ以上言われなくても、覚悟しろ、って意味なんだということが分かる。
俺は颯爽と歩いていくナツについて、オフィスに向かうエレベーターへと乗り込んだ。――とりあえずこれから初出勤、ということになるんだよな。
【ハク】
(なんだか緊張してきた…)
静かなエレベーター内の空間が、俺の緊張感をグンと上げていく。
高性能なエレベーターはすぐに目的の階まで俺たちを運んでいって、静かに動きを止め、そっとドアを開ける。
フロアに足を踏み入れた瞬間から、雰囲気がガラッと一気に変わった。俺の緊張は、一気に最高潮になる。
ナツはつきあたりにあるオフィスのドアの前で一度立ち止まると、チラッと俺の方を見た。何も言わなかったけど、準備しろ、ということなんだろう。もちろん、心の準備だ。
俺は、ごくっ、と唾を飲み込んだ。
―――カチャ。
ナツがドアを開ける。
【社員】
おはようございます!!!
入った瞬間。
威勢のいい声と共に、俺の視界の中で大人数がザザザッと立ち上がった。
100人はいるだろう社員が、驚くほどキレイにピッシリと立って、ナツを出迎えている。
【ハク】
(な、な、なんだよこれ…!?)
俺は驚いて、目の前の100名ほどの社員と、真横に立っているナツとを忙しなく見比べた。
いったいこれはどういうことなんだ?
訳がわからない状態の俺を横に、ナツは威風堂々とした様子で社員達に軽く会釈なんかをする。
【銀】
「おはよう。みんな、事前に通達した通り、まずは伝えておくべきことがある」
【ハク】
(は…?事前の通達?なんだよ、それ…俺は聞いてないぞ)
【銀】
「仕事の手を止めて、よく聞いてほしい」
二人きりの時とは少し違った、凛としたナツの声が響く。
【銀】
「今日から社長秘書に就任する、ハク君だ。仲良くしてやってくれ。宜しくな」
【ハク】
「ぃい…っ!?」
【ハク】
(は…あぁ!?しゃ、社長秘書…だって…!!?)
何だよ、それは!?
全然きいてないぞ俺は、そんな話!!
俺はその言葉に驚いて、思わずナツを凝視した。
だけど驚いたのは俺だけじゃない、どうやら100人ほどいる社員全員がその内容に驚いたらしい。
途端に、ガヤガヤとどよめき始める。
【ハク】
「な、な、何言ってんだよ!」
俺はすかさず文句を言おうとしたけど、周囲の会社員たちのざわつく声で、俺一人の声なんて簡単にかき消されてしまった。
【銀】
「さぁ。自己紹介をしてくれ」
ナツが俺に目配せをしてくる。
自己紹介…って。そんなの何も考えていない。
さっき車の中で説明してくれれば、少しくらいマトモなことを考えられたのに…。
【ハク】
(とはいえ……待ってはくれなさそう…だよな)
俺は視界いっぱいの大勢の社員を前に、しかたなく覚悟を決める。
喋りがうまくない俺の自己紹介は、どう考えても社長秘書なんていうレベルじゃなかっただろう。
恥ずかしいけど…仕方ない。
【ハク】
「ええと…今日からお世話になることになりました、ハクです。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」
【銀】
「――と、いうわけだ。宜しく!」
俺の無難すぎる自己紹介は、ナツの力強い一言でしめられた。
その一言が響き渡ると、社員たちは自然と各々自分の席へと戻って行く。なんというか、ものすごく統率がとれていることが分かるかんじだ。
【ハク】
(はあ…あんなんで大丈夫だったのかな…)
【ハク】
(というか…これから先が思いやられるっていうか…)
不安は残るものの、とりあえず自己紹介が終わってホッとした。
この分だと、次から次へと驚くことに遭遇しそうだ…まあ、昨日からずっと驚きっぱなしな気はするけれど。
ともかく、この次は何が待っているかということだけど…。
【ハク】
「…で。ナツ、俺は…」
【銀】
「“銀社長”」
【ハク】
「…へ?」
【銀】
「“銀社長”。会社ではそう呼べ」
【ハク】
「あ…そっか。そうだよな。えっと…じゃあ、銀社長。俺は何をすればいいんだ?」
【銀】
「とりあえず社長室へこい」
ナツはそう言うと、一番奥の社長室へと俺を連れていった。
続く…
「お前は一週間のうち、何回スーツ着るつもりなんだ?」
ナツは俺の方を向き、少し意地悪そうな表情で、そう言った。
【ハク】
「普通5日だとおもうけど…」
【銀】
「じゃあ、最低5着はいるよな?」
間髪いれずにナツが答える。
【ハク】
(そりゃナツは立場があるからアレだけど…)
【ハク】
(俺は別にそこまでしなくても…)
【銀】
「俺の会社で働くなら、これぐらいの身だしなみは最低でもしていてくれないと」
そう言うとナツは俺の首に手をかけ、顔を近づけて言った。
【銀】
「わかってる…よな?」
ナツの顔の突然の接近で、俺の鼓動が速くなるのがわかる。
【ハク】
(ば、馬鹿…。顔が近すぎる!)
俺は思わずその顔を避けるように身体をシートに預け、冷静なフリをしてナツに尋ねる。
【ハク】
「なぁ、…そろそろ俺にも分かるように説明してくれよ」
【銀】
「急くな。すぐにわかる」
そう言うとナツは再びハンドルを握ると、車を走らせた。
ナツは、俺が何を言っても、それ以上は取りあってくれなかった。なんなんだよ、もう……。
俺はカバンを抱えながら、小さくため息をついてサイドウィンドウの向こうを見つめた。
ナツが口を閉ざしてから、俺は悶々と車中を過ごすことになった。
それでも時間は過ぎていって……どれくらい経ったろうか?
そうこうしているうちに車は、ある有名なオフィスビルの地下の駐車場に辿り着いた。
ここにナツの会社があるのか――。
さすがは有名オフィスビル、セキュリティがしっかりしていていかにもキチッとした感じがする。
ここに入っているのはもちろん、有名な会社ばかりだ。
【ハク】
(ここの会社役員…か。改めてナツってすごいな…)
そう――ナツは会社役員という肩書持ちだ。
あの日、酔った席で俺がナツの会社で働けるように頼んだのも、こういう事情があったからで…。
一社員に「お前の会社で働かせてくれ」と言ったって、そういうわけにはいかないだろう。でも、ナツの場合は違う。
【銀】
「こら。早くしろ、ハク」
【ハク】
「あ、ごめん…っ」
ドアを開けて俺が降りてくるのを待っていたナツに、俺は慌てて謝って車から降りた。
【銀】
「わかってると思うが。これからオフィスに向かう」
【ハク】
「わかった」
それ以上言われなくても、覚悟しろ、って意味なんだということが分かる。
俺は颯爽と歩いていくナツについて、オフィスに向かうエレベーターへと乗り込んだ。――とりあえずこれから初出勤、ということになるんだよな。
【ハク】
(なんだか緊張してきた…)
静かなエレベーター内の空間が、俺の緊張感をグンと上げていく。
高性能なエレベーターはすぐに目的の階まで俺たちを運んでいって、静かに動きを止め、そっとドアを開ける。
フロアに足を踏み入れた瞬間から、雰囲気がガラッと一気に変わった。俺の緊張は、一気に最高潮になる。
ナツはつきあたりにあるオフィスのドアの前で一度立ち止まると、チラッと俺の方を見た。何も言わなかったけど、準備しろ、ということなんだろう。もちろん、心の準備だ。
俺は、ごくっ、と唾を飲み込んだ。
―――カチャ。
ナツがドアを開ける。
【社員】
おはようございます!!!
入った瞬間。
威勢のいい声と共に、俺の視界の中で大人数がザザザッと立ち上がった。
100人はいるだろう社員が、驚くほどキレイにピッシリと立って、ナツを出迎えている。
【ハク】
(な、な、なんだよこれ…!?)
俺は驚いて、目の前の100名ほどの社員と、真横に立っているナツとを忙しなく見比べた。
いったいこれはどういうことなんだ?
訳がわからない状態の俺を横に、ナツは威風堂々とした様子で社員達に軽く会釈なんかをする。
【銀】
「おはよう。みんな、事前に通達した通り、まずは伝えておくべきことがある」
【ハク】
(は…?事前の通達?なんだよ、それ…俺は聞いてないぞ)
【銀】
「仕事の手を止めて、よく聞いてほしい」
二人きりの時とは少し違った、凛としたナツの声が響く。
【銀】
「今日から社長秘書に就任する、ハク君だ。仲良くしてやってくれ。宜しくな」
【ハク】
「ぃい…っ!?」
【ハク】
(は…あぁ!?しゃ、社長秘書…だって…!!?)
何だよ、それは!?
全然きいてないぞ俺は、そんな話!!
俺はその言葉に驚いて、思わずナツを凝視した。
だけど驚いたのは俺だけじゃない、どうやら100人ほどいる社員全員がその内容に驚いたらしい。
途端に、ガヤガヤとどよめき始める。
【ハク】
「な、な、何言ってんだよ!」
俺はすかさず文句を言おうとしたけど、周囲の会社員たちのざわつく声で、俺一人の声なんて簡単にかき消されてしまった。
【銀】
「さぁ。自己紹介をしてくれ」
ナツが俺に目配せをしてくる。
自己紹介…って。そんなの何も考えていない。
さっき車の中で説明してくれれば、少しくらいマトモなことを考えられたのに…。
【ハク】
(とはいえ……待ってはくれなさそう…だよな)
俺は視界いっぱいの大勢の社員を前に、しかたなく覚悟を決める。
喋りがうまくない俺の自己紹介は、どう考えても社長秘書なんていうレベルじゃなかっただろう。
恥ずかしいけど…仕方ない。
【ハク】
「ええと…今日からお世話になることになりました、ハクです。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」
【銀】
「――と、いうわけだ。宜しく!」
俺の無難すぎる自己紹介は、ナツの力強い一言でしめられた。
その一言が響き渡ると、社員たちは自然と各々自分の席へと戻って行く。なんというか、ものすごく統率がとれていることが分かるかんじだ。
【ハク】
(はあ…あんなんで大丈夫だったのかな…)
【ハク】
(というか…これから先が思いやられるっていうか…)
不安は残るものの、とりあえず自己紹介が終わってホッとした。
この分だと、次から次へと驚くことに遭遇しそうだ…まあ、昨日からずっと驚きっぱなしな気はするけれど。
ともかく、この次は何が待っているかということだけど…。
【ハク】
「…で。ナツ、俺は…」
【銀】
「“銀社長”」
【ハク】
「…へ?」
【銀】
「“銀社長”。会社ではそう呼べ」
【ハク】
「あ…そっか。そうだよな。えっと…じゃあ、銀社長。俺は何をすればいいんだ?」
【銀】
「とりあえず社長室へこい」
ナツはそう言うと、一番奥の社長室へと俺を連れていった。
続く…