[本編] 銀 夏生 編
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【ハク】
「あ、ごめん。俺、つい――」
【銀】
「急げ。時間がない」
俺は言い訳すら最後までさせてもらえずに、ナツにせかされるようにリビングへと移動した。
寝室から出てリビングに入るドアを開ける。
ナツの自宅のリビングは、随分とスタイリッシュにセンス良く纏められた空間だった。
大ぶりな本革製のソファに、漆黒で艶のあるガラステーブル。
インテリアのスパイラル照明はいかにもデザインの凝った感じで存在感がある。
贅沢に広がった壁にはいくつか絵が飾られていて、俺の背丈以上もある観葉植物は健康的で瑞々しい。
【ハク】
「うわ…!すごいな、このリビング。広すぎじゃないか?」
【銀】
「馬鹿者。ハクにとってはそうでも、オレにとっては大した広さじゃない」
【ハク】
「はは…そっか。まあ俺、こんな広いところには慣れてないからな。……あ!」
俺は、窓から見える景色に思わず声を上げた。
横に長い窓からは、太陽の光が全面的に入り込んでいる。窓の面積が広いから、とにかく日差しで明るい。
それに何より、その開放感あふれる窓の外には、ワイドビューの景色が広がっていた。
【ハク】
「すっごい…!なあ、ナツ。この家ってすごい景色良いのな」
【銀】
「景色。ハク、お前はガキか」
【ハク】
「だって、ほら。すごくないか?」
【銀】
「同じことを二度も言わせるな。オレにとっては大したことじゃない」
【ハク】
「そっか…」
【銀】
「それより。早くそこから靴を選べ」
そう言ってナツが示したのは、広さのあるウォークインクローゼットだった。
その中に、シューズクローゼットがある。
そこにはたくさんの靴が並べてあって、俺は思わずその多さに驚いてしまう。
【銀】
「――ああ、時計を忘れていた。さっきお前に渡したせいで。ハク、オレが戻ってくるまでに選んでおけよ」
【ハク】
「ああ、わかった」
俺は、寝室のほうに戻っていくナツを背後で感じながら返事をすると、目の前のシューズクローゼットと睨み合った。
【ハク】
(靴って普通、こんなに持ってるもんなのか?俺なんか2~3足を使いまわしてるんだぞ)
【ハク】
(…しかもこれ全部、新品に見える)
そういえばさっきナツは、ネクタイの結び方一つとってもTPOがあると言っていたっけ。そうなると、靴なんかは更にそういう傾向が強そうだ。
ここで場違いな靴を選んだら、それこそナツに馬鹿にされそうな気がする…。
【ハク】
「まあ、いいか。とりあえず…コレ」
俺は…右端にあった茶色の靴を選んだ。
【ハク】
(スーツの色にあってる…よな?)
俺は、とりあえず選んだ靴に足を通した。
あれだけスーツが板についているナツのことだから当然かもしれないけど、シューズクローゼットにはビジネスシューズが一番多く置かれていた。
少し遊びのある靴があっても、そこまで外さない感じだ。
しかも、それでもセンスがいいからビックリしてしまう。
【ハク】
「別におかしくない…よな?」
ウォークインクローゼットの中にあった鏡で、一応自分の格好を確認してみる。
特にはおかしくない…と思う。
それにしてもなんだろう、やっぱり履き心地がいい。本革なんだろう。独特の光沢がある。
そこに、時計を取りにと姿を消していたナツが入ってきた。
【銀】
「ふうん、それを選んだのか。まあ、それなりのセンスだ」
ふむふむと感心した様子で、ナツが俺の足元を見てくる。
相変わらず褒めてもらったのか何なのかよくわからないけど、とりあえず俺は苦笑いをしてみせる。少なくとも、まあ、NGではないってことだ。
とりあえず、これで準備は完了だ。
【銀】
「さて。そろそろ向かうとするか」
そう言うとナツはカバンを手に取り、俺にそれを差し出した。持て、ということらしい。
軽い気持ちでそれを受け取った俺は、予想外のずっしりとした重みに思わずバランスを崩しそうになって、慌てて体勢を整えた。
そして、今度はガッシリとカバンを両手でかかえる。
【ハク】
「こ、これは…?」
【銀】
「持って、ついてこい」
ナツは俺の言葉には答えずに、いつも通りの涼しげな表情でただそれだけ言った。
玄関を出て、マンションのエレベーターホールへと向かう。
そこで俺は初めて、今いる階が35階建のマンションの最上階だということを知った。
つまりここは…地上35階。
【ハク】
(どうりでさっきのリビング、眺めがいいわけだ)
地上35階なんて、ちょっとした展望台と同じだ。
こんなところに毎日帰ってくるって、どんな気分なんだろう?
【ハク】
(ナツはいつもこんな景色の中にいるんだな)
そう思ったら、すぐ隣にいるナツが、俺とは全然違う世界の人みたいに思えてきた。
ナツはやはり手慣れた様子でエレベーターの下ボタンを押して、エレベーターがこの最上階にやってくるのを黙って待っている。
その視線がふと俺に向いて、俺は思わずカバンを抱える腕に力が入った。
【銀】
「何だ。おどおどして」
【ハク】
「ご、ごめん。なんだかまだ慣れなくて…」
【銀】
「数時間後には会社だ。覚悟しておけよ」
【ハク】
「わ…わかってるよ」
チン…高い音が響いて、エレベーターが到着した。
ドアがサッと開き、それと同時にナツがエレベーターに足を踏み入れる。
俺は慌てて、その背中を追いかけるようにエレベーターの中に乗り込んだ。
やがて、高層階から下降するとき特有の、あの、ふわっとした感じが全身にやってくる。さすがは35階だ。
【ハク】
(行き先きは…)
降りる階を示すボタンは、地下の駐車場を示していた。
チン…
エレベーターが地下の駐車場に着いたことを知らせる。
開いたドアから降りると、そこには数多くの高級車が気高い様子で並べられていた。
誰でも知っているような外車ばかりだ。
【ハク】
(うわあ…このマンションの住人ってみんなこんななのか)
【ハク】
(でもそうだよな。35階建てであんなに広いんだもんな…)
俺は、左右に並ぶ豪華な車の群れに圧倒されながらも、その物珍しい光景にキョロキョロと視線をさまよわせる。
俺の前を歩いていたナツはある高級車の前で止まると、スラックスのポケットからリモコンキーを取り出した。そして、それを手慣れた様子で操作する。
―――ウィイン…
【ハク】
「うわっ!」
【ハク】
(ガルウィング…!?乗ってるやつ初めて見た!)
俺は目の前の高級車のドアが、翼を広げるように上に開いたのに驚いた。
そうして俺が初めて見るガルウィングドアにビビっている間に、ナツはさっさと運転席へと乗り込んでいる。
当然、左ハンドルだ。
【銀】
「早く。乗れ」
【ハク】
「あ、ああ」
運転席から顔を覗かせたナツが、未だに圧倒されている俺を急かしてくる。
俺は、慌てて免疫のないその高級車の助手席に乗り込んだ。
続く…
「あ、ごめん。俺、つい――」
【銀】
「急げ。時間がない」
俺は言い訳すら最後までさせてもらえずに、ナツにせかされるようにリビングへと移動した。
寝室から出てリビングに入るドアを開ける。
ナツの自宅のリビングは、随分とスタイリッシュにセンス良く纏められた空間だった。
大ぶりな本革製のソファに、漆黒で艶のあるガラステーブル。
インテリアのスパイラル照明はいかにもデザインの凝った感じで存在感がある。
贅沢に広がった壁にはいくつか絵が飾られていて、俺の背丈以上もある観葉植物は健康的で瑞々しい。
【ハク】
「うわ…!すごいな、このリビング。広すぎじゃないか?」
【銀】
「馬鹿者。ハクにとってはそうでも、オレにとっては大した広さじゃない」
【ハク】
「はは…そっか。まあ俺、こんな広いところには慣れてないからな。……あ!」
俺は、窓から見える景色に思わず声を上げた。
横に長い窓からは、太陽の光が全面的に入り込んでいる。窓の面積が広いから、とにかく日差しで明るい。
それに何より、その開放感あふれる窓の外には、ワイドビューの景色が広がっていた。
【ハク】
「すっごい…!なあ、ナツ。この家ってすごい景色良いのな」
【銀】
「景色。ハク、お前はガキか」
【ハク】
「だって、ほら。すごくないか?」
【銀】
「同じことを二度も言わせるな。オレにとっては大したことじゃない」
【ハク】
「そっか…」
【銀】
「それより。早くそこから靴を選べ」
そう言ってナツが示したのは、広さのあるウォークインクローゼットだった。
その中に、シューズクローゼットがある。
そこにはたくさんの靴が並べてあって、俺は思わずその多さに驚いてしまう。
【銀】
「――ああ、時計を忘れていた。さっきお前に渡したせいで。ハク、オレが戻ってくるまでに選んでおけよ」
【ハク】
「ああ、わかった」
俺は、寝室のほうに戻っていくナツを背後で感じながら返事をすると、目の前のシューズクローゼットと睨み合った。
【ハク】
(靴って普通、こんなに持ってるもんなのか?俺なんか2~3足を使いまわしてるんだぞ)
【ハク】
(…しかもこれ全部、新品に見える)
そういえばさっきナツは、ネクタイの結び方一つとってもTPOがあると言っていたっけ。そうなると、靴なんかは更にそういう傾向が強そうだ。
ここで場違いな靴を選んだら、それこそナツに馬鹿にされそうな気がする…。
【ハク】
「まあ、いいか。とりあえず…コレ」
俺は…右端にあった茶色の靴を選んだ。
【ハク】
(スーツの色にあってる…よな?)
俺は、とりあえず選んだ靴に足を通した。
あれだけスーツが板についているナツのことだから当然かもしれないけど、シューズクローゼットにはビジネスシューズが一番多く置かれていた。
少し遊びのある靴があっても、そこまで外さない感じだ。
しかも、それでもセンスがいいからビックリしてしまう。
【ハク】
「別におかしくない…よな?」
ウォークインクローゼットの中にあった鏡で、一応自分の格好を確認してみる。
特にはおかしくない…と思う。
それにしてもなんだろう、やっぱり履き心地がいい。本革なんだろう。独特の光沢がある。
そこに、時計を取りにと姿を消していたナツが入ってきた。
【銀】
「ふうん、それを選んだのか。まあ、それなりのセンスだ」
ふむふむと感心した様子で、ナツが俺の足元を見てくる。
相変わらず褒めてもらったのか何なのかよくわからないけど、とりあえず俺は苦笑いをしてみせる。少なくとも、まあ、NGではないってことだ。
とりあえず、これで準備は完了だ。
【銀】
「さて。そろそろ向かうとするか」
そう言うとナツはカバンを手に取り、俺にそれを差し出した。持て、ということらしい。
軽い気持ちでそれを受け取った俺は、予想外のずっしりとした重みに思わずバランスを崩しそうになって、慌てて体勢を整えた。
そして、今度はガッシリとカバンを両手でかかえる。
【ハク】
「こ、これは…?」
【銀】
「持って、ついてこい」
ナツは俺の言葉には答えずに、いつも通りの涼しげな表情でただそれだけ言った。
玄関を出て、マンションのエレベーターホールへと向かう。
そこで俺は初めて、今いる階が35階建のマンションの最上階だということを知った。
つまりここは…地上35階。
【ハク】
(どうりでさっきのリビング、眺めがいいわけだ)
地上35階なんて、ちょっとした展望台と同じだ。
こんなところに毎日帰ってくるって、どんな気分なんだろう?
【ハク】
(ナツはいつもこんな景色の中にいるんだな)
そう思ったら、すぐ隣にいるナツが、俺とは全然違う世界の人みたいに思えてきた。
ナツはやはり手慣れた様子でエレベーターの下ボタンを押して、エレベーターがこの最上階にやってくるのを黙って待っている。
その視線がふと俺に向いて、俺は思わずカバンを抱える腕に力が入った。
【銀】
「何だ。おどおどして」
【ハク】
「ご、ごめん。なんだかまだ慣れなくて…」
【銀】
「数時間後には会社だ。覚悟しておけよ」
【ハク】
「わ…わかってるよ」
チン…高い音が響いて、エレベーターが到着した。
ドアがサッと開き、それと同時にナツがエレベーターに足を踏み入れる。
俺は慌てて、その背中を追いかけるようにエレベーターの中に乗り込んだ。
やがて、高層階から下降するとき特有の、あの、ふわっとした感じが全身にやってくる。さすがは35階だ。
【ハク】
(行き先きは…)
降りる階を示すボタンは、地下の駐車場を示していた。
チン…
エレベーターが地下の駐車場に着いたことを知らせる。
開いたドアから降りると、そこには数多くの高級車が気高い様子で並べられていた。
誰でも知っているような外車ばかりだ。
【ハク】
(うわあ…このマンションの住人ってみんなこんななのか)
【ハク】
(でもそうだよな。35階建てであんなに広いんだもんな…)
俺は、左右に並ぶ豪華な車の群れに圧倒されながらも、その物珍しい光景にキョロキョロと視線をさまよわせる。
俺の前を歩いていたナツはある高級車の前で止まると、スラックスのポケットからリモコンキーを取り出した。そして、それを手慣れた様子で操作する。
―――ウィイン…
【ハク】
「うわっ!」
【ハク】
(ガルウィング…!?乗ってるやつ初めて見た!)
俺は目の前の高級車のドアが、翼を広げるように上に開いたのに驚いた。
そうして俺が初めて見るガルウィングドアにビビっている間に、ナツはさっさと運転席へと乗り込んでいる。
当然、左ハンドルだ。
【銀】
「早く。乗れ」
【ハク】
「あ、ああ」
運転席から顔を覗かせたナツが、未だに圧倒されている俺を急かしてくる。
俺は、慌てて免疫のないその高級車の助手席に乗り込んだ。
続く…