[本編] 銀 夏生 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【ハク】
「ここで合ってる…よな?」
【ハク】
「時間も大丈夫」
指定されたバーに到着して、俺はかつての仲間の姿を探していた。
12年ぶりの再会…となると、もしかして雰囲気も変わって、一瞬じゃ分からないこともあるかもしれない。
それが返って楽しみでもあるんだけど。
【ハク】
(にしても…バーって慣れないな)
こんなに洒落た雰囲気のバーなんて、あまり入ったことがない。
店内にはいかにも場馴れした感じの客が大人の夜を楽しんでいて、俺なんて場違いな気がしてしまう。
【ハク】
(早いところ合流したいんだけどな…どこにいるんだよ)
俺はポケットに手を入れると、そこにねじ込んでおいた差出人の書かれていない手紙を、そっと握りこんだ。
手紙の送り主が誰だかは分からない。
でも、かつての仲間だということだけは分かってる。
あれから12年経って――どういうわけか今の俺はこんなどん底状態になってしまったけど、アイツラは何をしてるんだろうか。
そんな気持ちでここまで来たのはいいけれど…。
【ハク】
(見つからない…)
【男】
「なあ、キミ。一人なのか?」
【ハク】
「はい?」
突然かけられた声に驚いて振り返ると、そこには見知らぬ巨体の男が立っていた。
相当酔ってるんだろう、顔が赤い。
【男】
「良かったら一緒に飲まないか?一人じゃつまんないだろ?」
【ハク】
「いえ、俺、待ち合わせしてるんで…」
【男】
「またまた、そんな嘘ついちゃって。一人なんだろ?来いよ」
――グイッ!
【ハク】
(こいつ、すごい強引に腕を…!)
俺は強引に腕を掴まれていた。
何でこんなところで絡まれないといけないんだよ…!
【ハク】
(どうしよう…!誰かに声かけて…!)
とりあえず誰かに話しかければ、気まずくなってこのしつこい男も離れるだろう。
俺はそう考えたと同時に、何も考えずにガッと手を伸ばす。
【ハク】
「すみません…!」
――ガシッ!俺は、カウンターの奥に座っていた男の腕を必死に掴んでいた。
後でどやされても仕方ない、その時はその時だ。
そう思っていた俺の前で、その男は俺の手をやんわりと解くと、カウンターの背の高い椅子からゆっくりと降りてくる。
【???】
「――その汚い手をどけたらどうです?」
【男】
「うるせえ!何だ、お前!」
【???】
「実に見苦しい男だ。…それに」
【男】
「うっ…!」
突然、巨体の男の顔面が蒼白になった。
その目の前で、もう一人の男がニヤリと笑う。
【???】
「相手が嫌がっていることも理解できないのか?――低能のクズが」
【男】
「な…っ!?てめえ、卑怯だぞ…!」
【???】
「卑怯?何のことだ?」
【男】
「くそ…っ!」
巨体の男は、酔いで赤くなっていたはずの顔に冷や汗ダラダラと垂らしている。
一体何が起こったんだ?
俺が助けを求めた男は、涼やかな顔をして、いつの間にか手にしていた何かをヒラリとポケットにしまい込んだ。
黒光りした硬質のモノのようだが、この暗い店内ではそれが何なのかは良く見えない。
【ハク】
「あ…ありがとうございます」
【???】
「隙がありすぎる。少しは自覚したらどうだ――ハク」
【ハク】
「えっ?」
どうして俺の名前…!?
驚いて相手の顔をまじまじと見ると、どうやら俺はその顔に見覚えがあった。
そうだ、この顔は――
【ハク】
「ナツ…!」
【銀】
「ふうん、覚えていたか。まあ、覚えていたことは褒めてやる」
【ハク】
「忘れるわけないだろ!そうか、あの手紙、ナツだったんだな」
ナツ――銀夏生。
俺よりも歳は上だけど、高校時代の俺の仲間の一人だ。
高校時代のナツは、スポーツ万能・成績優秀…まあつまり文武両道ってやつで、学内でも有名だったものだ。
【ハク】
「あれからもう12年…だよな。ナツは元気にやってるのか?」
【銀】
「愚問だな。そもそも自分のことを先に話すのが筋というものだろう?」
【ハク】
「ああ、そうか。俺は…まあ、いろいろ…」
俺は、ナツがいつの間にか頼んでいたオリジナルカクテルのグラスを揺らしながら、雲行きの怪しくなってきた話題をわざときりかえた。
【ハク】
(せっかく12年ぶりに再会したんだ)
【ハク】
(俺の話なんかして暗くなるのもな…それよりももっと懐かしい話でもして…)
【ハク】
「そういえばナツ、覚えてる?昔さ…」
【銀】
「よくそんなくだらないことを覚えてるな。まったく感心する」
高校時代の思い出はいろいろある。
特に仲間との思い出は本当に懐かしくて、俺は一つ一つの話題にいちいち笑って、ナツはそれを黙って聞いていた。時折、相槌を打ちながら。
【ハク】
「マスター、これ、おかわり!」
【和久井】
「はいはい」
思い出話は後を尽きなくて、俺はいつの間にかアルコールのペースが早くなっていた。
もうこれで…何杯目だったっけ?
自分でも分からなくなっていたけど、ナツとの空間が楽しくて、あの青春時代が懐かしくて、俺はつぎつぎとグラスをあけていく。
【銀】
「お前はオレの言葉を理解できないようだな、ハク」
【ハク】
「酔いすぎだって言いたいんだろ?大丈夫だって!」
たまにナツがかけてくるそんな言葉にも、俺は大丈夫の一言で押し通した。
昔話に花が咲いて上機嫌になってることは何となく自分でも分かっていたし、このままのペースじゃヤバイってことも分かってたつもりだけど…。
でも、気づくと俺は完全に酔い潰れていた。
【ハク】
(ん…ん……ナツ…)
【銀】
「……まったく、だらしない奴だ」
遠いところでナツの声が聞こえるような気がする。
でも、酔いつぶれた俺は、バーカウンターに突っ伏したまま返答すらできなくなっていた。
意識が朦朧としている…。
【???】
「……」
そんな俺は、怪しい人影が俺たちをじっと見つめていたことに気づくはずもなかった……。
【ハク】
「んん…っ…」
目が覚めると、そこは見知らぬ部屋の中だった。
まるでホテルと見間違うかの高級マンションの一室。
どう考えても俺とは無縁だし、見覚えがあるはずも無い。
【ハク】
(どこだ、ここ…?)
俺はむっくりと起き上がって、部屋を見回した。
まだ頭がぼんやりしてるけど、自分がベッドの上にいることは分かる。
ベッドって――
1/38ページ