本編
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《兆し》
通常の時間であれば消灯時間である夜間帯に、レッスン場に明かりが灯っていた。
政親がそのことに気づき中を覗くと、侑生が一人残っていた。
【政親】
「侑生、まだ残っていたのですか」
【大須賀 侑生】
「黒田さん……」
侑生の手には、次回のライブで歌う楽曲の楽譜が持たれていた。
コピーをとったと思われるその紙にはいくつも書き込みがされている。
政親の視線が楽譜にあることに気づくと照れたようにさっと身体の後ろに隠してしまう。
【大須賀 侑生】
「今回、初めて僕からの歌いだしで……
つい気合が入っちゃって」
語る侑生の目は輝きを増し、楽しくて仕方のないといった表情をしている。
初めてのエンジェル営業で戸惑ったにせよ、侑生の決意がぶれることはなかった。
か弱い小動物な見た目とは裏腹に芯が強いところを、政親は気に入っている。
【大須賀 侑生】
「このメロディ難しいから、低いところの発声を確実に出せるようにしたいんです!」
【政親】
「練習を怠らず抜け目を作らない姿勢はアイドルに必要不可欠です。
侑生はそれが出来る人間と認めています」
【大須賀 侑生】
「っ…ありがとうございます!」
憧れのアイドルを育てたプロデューサーの政親を尊敬している侑生は、
政親から褒められることは何よりも至福であった。
《本番》
【大須賀 侑生】
「黒田さんって……歌も上手いんですね……」
【政親】
「プロデューサーとして、教えることが少しあったぐらいです。
このぐらいは素人に毛が生えたぐらいに思ってもらわないと困るのですが」
【大須賀 侑生】
「はいっ…!まだまだ到底黒田さんの域には追いつけないので、頑張りますっ」
…その後、政親は事務所のレッスン場に残り練習をして侑生に付き合い
一通りアドバイスなどを施した。
メロディが上手く歌えたところで、練習はお開きとなる。
【大須賀 侑生】
「遅くまで事務所を開けてもらってすみません……」
【政親】
「構いません。ライブの成功は、事務所の貢献となります。
……侑生の歌声も、なかなかいいものでした」
【大須賀 侑生】
「黒田さん……っ!ありがとうございます!」
レッスンを見ているときの厳しい目や、
的確で核心を突いた辛らつなアドバイスを投げられるような鞭が振るわれることが大半だが
こうして時折、政親は絶妙なタイミングで飴を放り込むことがある。
事務所に所属してから幾日が経ち、侑生は政親の絶妙な飴と鞭遣いに益々恭敬した。
【大須賀 侑生】
「僕、尊敬している黒田さんにそんな風に言ってもらえて…
すごく、すごく嬉しいです!
感謝してもしきれないくらいで、お礼をしたいくらいに」
【政親】
「お礼、ね……」
嬉しそうにはにかむ侑生の顔を見た政親はしばし思案してみせる。
政親に悩むことなどないというのに。
【政親】
「私としては……まだぎこちない営業の方も上達して欲しいですね。
こちらでも綺麗な発声が出来るように、練習が必要ですね」
【大須賀 侑生】
「黒田さんに練習を見ていただけるんでしょうか……」
【政親】
「お客様を練習代わりに扱えませんから」
【大須賀 侑生】
「……はいっ!」
嬉しい…
そう思ってしまうことはダメだと頭でわかっていながらも、
侑生の心は喜びに震えている―
《絶頂》
政親に触れられた、喉が熱い―
侑生は政親の手を思い出しながら、自らの喉に指を這わせた。
【政親】
「俺の許可なく声をあげるな。お前の喉は大切な商品だろう」
激しい指導に追いつけないと喉を鳴らしそうになった途端、
投げかけられた言葉を思い起こす。
【大須賀 侑生】
(黒田さん、格好良かったな……)
もう一度身体に熱が灯ってしまいそうになり、慌てて首を左右に振った。
冷静になるため、その後のことを思い出しす。
【政親】
「この部屋は宿泊できるようになっていますが、くれぐれも仕事に影響ないように」
政親はそう言い放つと、侑生を置いて出て行った。
また太いパイプを繋ぎに会食へと赴いたのであろう。
いくらベッドの中で優しく指導を受けても、政親はあくまでもドライだ。
時折施される優しさは自分だけのものだと勘違いしてはいけないのだ。
【大須賀 侑生】
(……)
明日のスケジュールを頭の中で思い浮かべる。
朝は時間が空いているはずだから、朝一番にレッスン場に向かい
もう一度教えられたことを繰り返し練習してみよう。
政親の香りがかすかに残るベッドの上でまどろみながら
明日のスケジュールを立てたのだった。