本編
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《兆し》
【壱川 咲十郎】
「っん……ぅ……ア……ああ!」
都内―安普請の、ホテルの一室。
甘い甘い、蜜のような悲鳴があがる。
【壱川 咲十郎】
「はぁ…っ…もっと…くださ……っ…おねが……」
【男】
「――は……どうしたんだよ、御曹司さん。
いつもより嬉しそうじゃねえか?ああ?」
【壱川 咲十郎】
「ごめ……なさ……、あ……っ…」
【男】
「オラ!もっと締め付けてみろよ。俺が愉しめねえだろうが!」
【壱川 咲十郎】
「ひっ……イ……!」
………………
………………………………
………………………………………………
すべてを終えた後…意識を失っていたらしい壱川。
気がつけば、一人取り残されていた。
【壱川 咲十郎】
「………、はあ……」
また、自分から誘って……こんな行為に耽ってしまった。これは仕事でもなければ
……誰かに強要されたことでもない。自らが望んでいる事だ。
一度欲しがると、際限なく求めてしまう、愚かなカラダ。
トラウマの所為……そう診断されても心は晴れない。何故なら―自分は……
【壱川 咲十郎】
「……っ……」
……壱川は陰鬱な気持ちを抱えたまま、シャワーを浴びて部屋を飛び出した。
《本番》
【政親】
「おはようございます」
【壱川 咲十郎】
「……おはようございます」
【政親】
「咲」
【壱川 咲十郎】
「……、っはい」
不意に―行為の最中に呼ばれる事が定着している名前で呼ばれ、戸惑う。
―とはいっても政親は他意等なく、そう呼んでいるのだけれども。
それでも壱川はビクリと肩を震わせてしまっていた。
【政親】
「昼間だというのに…貴方は随分とはしたない匂いをさせていますね」
【壱川 咲十郎】
「…………っ!」
怒りにも似た笑みの元、そう囁かれて。
壱川は先ほどまで耽っていた自身の愚行を悟られたのだ、と瞬時に理解した。
【壱川 咲十郎】
「…申し訳…ありま……っせ……」
【政親】
「責めている訳ではありませんよ。
今日は、そんな貴方にぴったりの仕事が待っていますからね」
【壱川 咲十郎】
「………っっ……」
恥ずかしさから顔を上げる事が出来ず
―それでも壱川は従順に「はい」と、その濡れた唇で紡いでいた。
《絶頂》
【壱川 咲十郎】
「……っん……」
【営業相手】
「ほら。もっと、動かしてみなさい」
【壱川 咲十郎】
「は………、はい………」
―今日の相手は粘着質だった。
いつまでも終わりを見せて貰えず、ただなすがままに従う壱川。
その朦朧とした頭の中、思いだしたくない言葉が再生される。
………血は、争えへん………
【壱川 咲十郎】
「……ああっ……!」
諦めるように囁かれた、祖母の言葉。
放蕩であったと聞かされた、壱川の実母と似ている、……そう、言われたのである。
実母の母もまた、……同じ、狂ったように男を求めていたのだと聞かされた。
―だから、壱川が生まれた時は、皆喜んだ。男子であれば、同じ事を繰り返さずにすむ、と……
―それなのに
【壱川 咲十郎】
(どうして……私は)
幼い頃。突然、見知らぬ男達に捕えられ行為を強要されて以来―
壱川は男を求めずにはいられないのだ。
――それは、トラウマによる後遺症だ、と医者に言われたが、はたして本当にそれだけなのだろうか。
自分自身の……忌むべき性質が招いているのではないだろうか。
壱川は、――抗えない蜜の中、嬌声とともに、涙を零していた。