本編
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《兆し》
【大須賀 侑生】
「おはようございますっ!」
榎本と政親がレッスン場に足を踏み入れると、
小柄な少年が勢い良く立ち上がった。
大須賀 侑生(オオスガウイ)
日月に誘われ、笹生も連れ事務所の門を叩いたところ、榎本の目に掛かる。
引っ込み思案なところやドジを踏むことがあるが、意思は強い。
【榎本 公志郎】
「あら、今日は一人なのね」
【大須賀 侑生】
「はい、ちょっとダンスで上手くいかないところがあって……」
侑生は予ねてからアイドルへなりたいという想いを持っていた為か
レッスンが楽しくて仕方ない、という様子が表情から見てとれた。
まだ何も知らない無垢な笑顔を見ると榎本に複雑な感情が渦巻く。
そんな想いを振り切るように左右に首を振ると政親の肩を叩き一人レッスン場を後にする。
【榎本 公志郎】
「それじゃあ、私は事務所に戻るから後……任せたわよ」
【政親】
「ええ。では、早速……侑生、見せてもらいましょうか」
【大須賀 侑生】
「はい!」
《本番》
【大須賀 侑生】
「ありがとうございました!」
侑生は政親の手前緊張しながらも
ここ数日でトレーニングした歌やダンスを披露した。
それらを全て見終わると政親は思案した後、口を開く。
【政親】
「荒削りですが、光るものがありますね。
私の手で磨けば、さらなる輝きを増すことを約束しますよ」
その言葉を聞いた瞬間、侑生の目元が潤む。
そして、せきをきったように話し出した。
【大須賀 侑生】
「あのっ……!僕、ずっとアイドルになりたくて……!
そのきっかけは黒田さんの育てられた『EMOTION』を見たからで…
今こうして黒田さんと対峙しているなんて、夢見たいです…!
僕、頑張りたいんです!」
ただまっすぐに憧れの人を見る瞳は、輝きを増していく。
尚も続けようとする話を遮るように政親は口を開いた。
【政親】
「ただ華やかしいだけの世界だけではありません。
それでも、頑張れると言えますか」
【大須賀 侑生】
「………はい!頑張ります!」
しっかりしとした声の返事だった。
侑生の双眸は覚悟を携えていることを確認した政親は一つ頷いて見せる。
―その口元は笑みで歪んでいた。
【政親】
「イイ子ですね。それでは、付いてきなさい」
《絶頂》
【大須賀 侑生】
「う……っ……、うう……っ」
事務所に着いた途端、安心したのか泣き出す侑生に政親が近寄る。
【政親】
「頑張れる、という言葉を信じたのですが……その程度ですか」
【大須賀 侑生】
「……!ち、違うんですっ……
これは、その…慣れてないだけ……ですから、
次は……もっと、うまく……!」
【政親】
「いい心がけですね。しかし、そう何度もチャンスはやってくるのでしょうか」
【大須賀 侑生】
「……っそんな…っ僕…もっと頑張りますから!」
政親の腕に縋り付いた侑生の顔は蒼白していた。
全身を震わせる姿は、怯える小動物そのものだった。
これは酷く大衆の庇護欲を煽りそうだ―
……そして、逆に加虐愛が煽られる者もいるだろう。
自分はどちらか……そんなことを考えながらも
優しい手つきで侑生の頭を撫で政親は問う。
【政親】
「私を失望させないでくださいね?」
【大須賀 侑生】
「………っ」
優しい動作と比例しない、冷やかな言葉に、
大須賀はギクリと肩としならせながらも、懸命に言葉を紡ぐ。
【大須賀 侑生】
「はいっ……!僕は、まだまだ上を目指したいです」
政親の手を両手に取り、顔を上げた侑生の顔を見遣ると
その意思の強さは見てとれた。
見た目の小動物のような可愛らしさとは裏腹に、
揺ぎ無い確固たる意思を持っている…
政親の口角は上がったままだった―