本編
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《兆し》
―都内 某イタリアンレストラン
【二條 榛貴】
「―美味い!
こりゃあ、ワインが欲しくなるな」
二條はトマトソースの絡んだブカティーニを咀嚼しながら、
機嫌よく笑った。
【政親】
「それは何よりです」
【二條 榛貴】
「は。何より……って顔してねえぜ?」
前触れもなく、けれどごく自然に二條は政親の頬に指先を這わせた。
【政親】
「いかがされましたか?」
【二條 榛貴】
「あんたって、ほんと、隙がないっつーか…ソツなくこなす、っていうかな。
疲れないのか?」
【政親】
「光栄です―が」
政親はグラスの水を飲み下す動作で、さり気なく二條の手をのけてしまう。
【政親】
「アイドルである貴方が、男の頬を嬉しそうに触るなんて看過できません」
【二條 榛貴】
「……おっと。こりゃ手厳しいな」
【二條 榛貴】
「流石敏腕マネージャー。気配りが細かいねえ」
二條がおどけたように答えると、その時―
【ファン1】
「あの――あの!」
【二條 榛貴】
「ん?」
【ファン2】
「二条榛貴さん―ですよね」
人違いですよ、とは言えない確信や輝きに満ちた瞳を浮かべる女の子。
【二條 榛貴】
「……、ああ」
【ファン3】
「やっぱり……!!!大好きなんです―…私……っ
良かったら、握手して頂けませんか?」
数名の女性が一斉に、二條と政親の座る席へと駆け寄ってきた。
その騒ぎに驚いた周囲もまた、二人の席に注目してしまっている…。
《本番》
【二條 榛貴】
「何だかオオゴトになっちまったったな」
【政親】
「ご覧なさい。だから言ったでしょう」
【二條 榛貴】
「?」
【政親】
「サービスショットは、カメラの前でだけでどうぞ」
【二條 榛貴】
「サービスショット…」
【政親】
「榛貴の何気ない仕草一つ一つ、全て商品ですから
無償で提供するものではない―という事を覚えておきなさい」
【二條 榛貴】
「は―、」
【二條 榛貴】
「なるほど。…そりゃそうだ、な」
二條は頭を掻きながら政親の横顔を盗み見た。すると政親は二條に視線を合わせ、
微笑をたたえた。
【二條 榛貴】
「…………」
まるみや柔らかさを一つも感じない、男らしい造形だ。
慣れ親しんだ女性らしさなど微塵も感じられないのだけど
【政親】
「ああ、もうこんな時間ですね。
大事な接待―、成果を期待していますよ。榛貴」
【二條 榛貴】
「りょーかい」
―それなのに、二條は目を逸らす気になどならず、政親の目を見て、はにかんだ。
そうして政親の指示するエンジェル営業へと向かった。
《絶頂》
【二條 榛貴】
「あー………、………」
二條は今にも魂が抜けかねない、脱力した声を漏らした。
自分がまさかこの歳で―こんな外見で。アチラ側にまわるとは思っていなかった……。
前回の営業時に受けた衝撃に、今回も慣れる事は出来なかったのである。
【二條 榛貴】
「世の中、物好きな奴っているもんだな」
【政親】
「ふ……、案外需要はあるものですよ。
『ハル』―をご存じの方もいらっしゃいますしね」
【二條 榛貴】
「………、もう、ハルとしての営業は出来ないぜ?」
【政親】
「ええ。勿論、心得ていますよ」
政親は懐かしそうに目を伏せて微笑む。
過去に想いを馳せながらも、視線はすぐ傍にある二條をとらえるのだった。