本編
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《兆し》
初めての営業、そして初めてのライブを新米アイドルたちに経験させた2日後。
政親は出勤早々に公志郎に呼び止められた。
【榎本 公志郎】
「お、は、よ。この前のライブ、イベントプロデューサーから改めてお礼の連絡あったわよ。さすがじゃない」
【政親】
「おはようございます、社長。そうですか。私としても新人にしては上々だったと思いますよ」
【榎本 公志郎】
「…だけど、やっぱりいきなり営業てドSすぎだったんじゃないかしら。梓乃ちゃん、元気ないわよ」
【榎本 公志郎】
「あんたのやり方に口出しする気はないけど、あんまり辛そうで…」
【政親】
「ええ。今後モチベーションを維持しつつアイドル活動を継続して貰うためにも、話し合う必要がありそうですね」
【榎本 公志郎】
「わかってるのならいいの…」
【榎本 公志郎】
「事務所を一流にするために、多少の無理は仕方ないけど、焦りは禁物よ」
【政親】
「心得てますよ。飴と鞭の使いどころは―ね」
【榎本 公志郎】
「信じるわ。
ふふ。あんたほどSの才能がある人、なかなかいないもの」
【政親】
「社長ほど懐の深い人も…ね」
悪戯っぽく上目遣いに微笑む公志郎に、政親もまた、涼しげに瞳を細める。
今最優先で行わなければならないことは、この事務所の所属アイドルたちを広く世に認知させることだ。
そのためにはまず、権力者たちとの間に太いパイプをつくる必要がある。
―その方法が、少々人道に反することであっても
バターン!
【山口 遼太】
「政親さんっ!おはようございますっ!
今日も知的で凛々しく輝いてます!!」
【山口 遼太】
「これから梓乃さんのダンスレッスンですよね……!」
【山口 遼太】
「もちろん俺もお供させていただきます!車を表に回しました!行きましょう!!」
ちぎれんばかりに尻尾を振りながら事務所に飛び込んできた大型の飼い犬が、そのままの勢いで散歩をねだってきた。
―もちろんそれは、政親の脳内ビジョンだ。
【政親】
「ああ。そろそろ時間でしたね」
(この犬にも、せいぜい役に立って貰うか―)
心の中でそう呟いて、政親は手綱をひくような所作で遼太を促したのだった。
《本番》
【ダンスの先生】
「よし、とりあえずここまでで、15分の休憩よ!」
【生徒たち】
「ありがとうございました!」
一礼と共に解散した生徒たちは、それぞれ飲み物を飲んだり、復習をしたりしている。
―梓乃は、というと
談笑する仲間たちから離れた場所で、1人俯いてシューズの紐を結び直していた。
【政親】
「梓乃、少しいいですか」
【日月 梓乃】
「……何か、用かよ」
近付いて声を掛けた政親に、梓乃は顔も上げずに返事をした。
【政親】
「――随分と調子が悪そうですね」
【政親】
「もしかして、先日の件が尾を引いているのですか」
バン!!
【日月 梓乃】
「引かねえわけねえだろうが…!!」
拳を床に打ち付け声を荒げた梓乃に、生徒たちの視線が集まり、レッスン場内が静まり返る。
しかしそれも、政親がほんの少し右手を上げて『気にするな』という素振りを見せると、すぐに元の状態へと戻った。
みんな、ライバルが少々感傷的になっている事態より、自分自身がのし上がるのに必死なのだ。
【日月 梓乃】
「気にするなっつー方が…無理だろうが
俺、あんなの…初めて……で」
梓乃が絞り出すような声で呟いた。
【政親】
「どうやら梓乃は、営業に限らずその手の事が『初めて』だったようですね」
【日月 梓乃】
「なっ…!?
ンなわけねーだろ!」
【政親】
「プロデューサーに嘘をつくのは感心しませんが?」
耳まで真っ赤にしながら狼狽した様子で顔を上げた梓乃を、政親の鋭い眼光が射抜く。
【日月 梓乃】
「…………ねーよ」
【政親】
「聞こえませんね」
【日月 梓乃】
「経験ねーっていってんだよ!!」
その眼差しに観念したように、梓乃は屈辱的な事実を口にした
【政親】
「次に私から質問があったら、初めから素直に答えることです」
【政親】
「この世界でテッペンを取りたかったら―ね」
【日月 梓乃】
「……くっ」
いつもの口癖を引用されたその言葉に、返す言葉もなく唇を噛み締める梓乃。
そんな梓乃に降り注いだのは、政親からのさらなる追い討ちの言葉だった。
【政親】
「見たところ他の2人も経験無さそうですが、次はどちらに行っていただくのが適任でしょうかね」
【日月 梓乃】
「あいつらまで行かせるのかよ!?」
【政親】
「当然でしょう?彼らも貴方と同様、うちの所属アイドルですから」
【日月 梓乃】
「………こないだのライブに出れたのだって、エンジェル営業の力だって…分かってるよ…」
【日月 梓乃】
「だけど…あいつらがうちの事務所入ったのって、俺が言い出したからなんだ…。だから……」
【政親】
「ほう」
政親の片眉が、興味深い…とでもいう風に軽く持ち上げられる。
夢を持つ純朴な青年の告白も
政親にとっては、目的達成のために集めるべき情報の1つに過ぎない。
先程の質問も、梓乃の感情を揺さぶり、言葉を吐き出させるためのものだった。
【日月 梓乃】
「侑生はぼんやりアイドルに憧れてはいたけど、具体的に面接しにいくとかデビューとか考えてなくって…」
【日月 梓乃】
「清明にいたっては弁護士になるって、真面目に大学生やってンのに俺が無理やり引っ張ってきて……」
【日月 梓乃】
「だからあいつらに…、こんな思いさせたくねえ……」
膝の上で握り締められた拳が震えている
【政親】
「侑生と清明本人がどう思っているのか、聞いたことはありますか?」
【日月 梓乃】
「いや、聞いてはねえよ。…俺、その後のこともあいつらに話してねぇし……」
【政親】
彼らとて、覚悟を決めているかもしれませんよ?」
【政親】
「それも…むしろ貴方以上に」
【日月 梓乃】
「……………なんで、そう思うんだよ」
梓乃の声が一層低くなる
【政親】
「―貴方に声を掛けられたのが、彼らのきっかけだったかもしれませんが」
【政親】
「その程度の動機で飛び込めるほど、芸能界は生易しいものではない」
【政親】
「彼らにも、それを決意するだけの動機があったとしてもおかしくはないでしょう」
【政親】
「それとも、貴方にはそういうものはないのですか?」
何もかも見透かしているかのような、政親の声
そして、その質問に嘘の回答や黙秘は許されない事を、梓乃は先程思い知らされたばかりだった
【日月 梓乃】
「……俺は、人を探してるんだ」
【日月 梓乃】
「有名になったら、その人が俺を…見つけてくれるんじゃないかって、そう…思って……」
【政親】
「それは、己の身体とプライドを引き換えにできるくらい、大切な人なのですか?」
【日月 梓乃】
「……親父だよ
俺の…実の父親だ」
【日月 梓乃】
「親父の居た芸能界でテッペンとって、俺の存在を認めて貰うためなら…俺は何だってする」
2日前から消えかけていた闘志が、再び梓乃の瞳に宿り始めたのを、政親は見逃さなかった
【政親】
「――それならば丁度良い」
【政親】
「先日の一件で、貴方は酷く気に入られたようでね」
【政親】
「さっそくですが今夜、もう一度営業へ行っていただきます」
【日月 梓乃】
「マジ……かよ」
【政親】
「良かったですね。テッペンへの道が、また一歩近づきますよ」
《絶頂》
【日月 梓乃】
「……く
…はっ、うあ………」
【政親】
「お疲れ様です。先方も大変お喜びの様子で帰られました」
【日月 梓乃】
「…そう…かよ」
床に仰向けに倒れたまま、梓乃は顔を腕で覆っている
涙を堪えているのか、行為で紅潮した頬を政親に見られたくないのか
あるいは―その両方か
【政親】
「………」
倒れた梓乃の隣に膝を付き、政親はタオルを差し出した
【政親】
「次の仕事、決まったぞ」
【政親】
「お前のおかけだ
―よくやったな」
【日月 梓乃】
「……―え」
驚きの表情で、梓乃が上体を起こし、政親を見返す
―しかし、そこにあるのはいつもと変わらぬ…冷血なまでの無表情だった
【政親】
「休んでいる暇はありません
今夜はこのまま、私のプライベートルームで個人レッスンです」