[本編] 浅多 侑思 編
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あれからずっと、死神界の資料室に閉じ篭って、事件の裏付けをとっていた。
俺が今持っている情報量じゃ、ユリスを問い詰めても逃げられてしまう。
あいつを追い詰めることができるような、確固たる証拠が必要だ。
だけど、幾ら考えても頭がまとまらない。
【クロノ】
「……くそ」
一度資料を畳んで、冷たい空気を吸いに席を立つ。
机に向かっていても、パソコンに向かっていても、ちらつくのは浅多のこと。
あの時、ユリスに問われたことの答えが、未だに出ない。
―――好きなのか? あいつを。
わからない。
好きか嫌いかで言えば、嫌いではないと思う。
頑固だしわからず屋だし、あまのじゃくだし素直じゃないし。
嫌なところなら幾らでも出てくるが―――不思議と嫌いだとは思えない。
憧憬夢の為なら死んでも構わないという言葉は、俺にとっては許せない言葉で。
俺を本気で怒らせたことは間違いないのに、まだあいつを完全に見捨てる気になれない。
【クロノ】
「ということは、やっぱり好きなの……か?」
言葉にしてみても、わからない。
その『好き』が、親愛か好意か、はたまた恋愛感情なのか。
暫くそうやって考え込んでいたが、答えが見つかる気配はない。
迷いを振り切るように部屋を出る準備をして、浅多の部屋へ瞬間移動した。
ベッドに横たわっている浅多に、リビドーが装着されているのを見て。
やりきれなさで、胸の中が焼けただれそうになる。
…こいつは夢に逃げ続けるのか
【クロノ】
「何で俺の言葉に耳を傾けないんだ…」
今頃、俺が言った事も忘れて、都合の良い夢に浸っているのか。
モヤモヤする思考を頭を振って振り払う。
そして、持ってきた自分のリビドーを乱暴に装着して、現実から夢へと駆け抜けた。
夢に入ってまず驚いたのは―――
広がる世界が、今まで人間界の街並みではなく浅多のマンションの前だったこと。
誘われるように浅多の部屋の前まで行き、ドアノブを捻ると―――
待っていたかのように簡単に開いた。
浅多の私室へ続くドアから漏れ出した細い光は、俺に見せつけているかのように眩しかった。
不審に思いながらも足を進め、ドアの近くまで行くと、中から話し声が聞こえた。
声の片方が、浅多のものだということはすぐにわかったが。
―――会話の内容を把握した時、俺の体は凍りついた。
【クロノ】
「そう、それでいい……やっと素直になってきたな」
【クロノ】
「体の力を抜いて。そう。お前は何も考えなくていい」
【浅多 侑思】
「お前にそう言ってもらえると、ほっとするんだ……どうしてだろうな」
【浅多 侑思】
「でも、ありがとう。感謝する。ずっとお前に、そう言って欲しかった」
悪寒が背筋を這い上がってきて、頭の中を真っ白にする。
いや、悪寒じゃない。激情だ。
片方の声の主が、妙に俺に似ていることなんかどうでもいい。
夢の中での出来事だとわかっているのに、そんなことは今は関係ない。
中の会話を聞いただけで、今から中で起ころうとしていることが容易に想像できてしまう。
そのことに俺は衝撃を受けている。
―――そんなに、その人間が好きなの?
答えられなかった質問が、頭の片隅に浮かんで、消えた。
この部屋に、俺以外の誰かがいる。
そう考えるだけで、どす黒いものが胸の中を侵食していく。
ここが夢の中だということすら忘れそうになる。
感情に後押しされるように、反射的にドアノブを捻ろうとして―――ビタリと止める。
俺は、何でこんなに動揺している?
フラッシュバックした金木犀の香りと、彼の姿に目をきつく瞑った―――。
…そう、相手は人間じゃないか。
浅多だって、友人の1人や2人いるだろう。
家族だっているし、よく考えれば恋人だっているかもしれない。
中であいつが誰と話してようと、誰とどんなことをしていようと関係ない。
そう、関係ない。ここはそもそも夢の中だ。
あまり激しく動揺すると、乱れた脳波が浅多に伝わって、きっと俺の存在を知られてしまうだろう。
だから落ち着け。少し中を見るだけだ。他意はないんだ。無事かどうか確認するだけだ。
自分を律するための言葉を小さく呟きながら、扉を開けていく。
虚ろな俺の目の前には―――浅多ともう1人の俺が映っている。
【クロノ】
「……」
ベッドの上で向かい合って座りながら抱き合っている2人は、見つめ合いながら激しくキスを交わしている。
―――視界がぐらりと揺れた。
俺はまた、夢の中にいるということを忘れかけていた。
2人が、部屋に入ってきた俺に気づかないことを、不思議に思ったくらい。
―――こんなに至近距離にいるのに、浅多が俺を見ないことに激昂しそうになったくらい。
【クロノ】
「可哀想な浅多。お前が悪いんじゃないのに」
【クロノ】
「お前は何も悪くない。お前の周囲の人間が―――世界が悪いんだ」
【クロノ】
「だからずっとここに一緒にいよう。俺と一緒に」
【浅多 侑思】
「ああ……もう一度言ってくれ」
浅多は、俺に背を向けてるから表情はわからないけど。
耳を塞ぎたくなるような甘ったるい声を出してるというだけで充分だ。
どうにか焦点を合わせて、もう1人の俺を見やると、幸せそうな微笑を浮かべていた。
いずれ2人は―――1つになる気かもしれない。
【クロノ】
「……っ、……」
壁にもたれて何とか踏みとどまり、呼吸が引きつりそうな口元を抑える。
落ち着け。これは夢だ。現実じゃない。
またこの間のように、浅多の夢に引きずられそうになる。
今の精神状態じゃ、これが悪夢化した時に対応できない。
いざという時のために、俺だけでも先に現実に戻らないと。
呼吸を止めたまま踵を返し、ふらつきながら部屋を出る。
これ以上見ていたくない。
俺が見ていたということを知られたくない。
人間に肩入れしたくない。
頭の中で渦巻く様々な感情の、どれが本当の気持ちなんだろう。
あの忌まわしい光景と距離を置くと、少し落ち着いた。
引きつった喉を撫でながら、深呼吸すると少し頭がすっきりした。
歩きながら振り返ると、浅多のマンションが遠ざかっていく。
周囲の景色も歪んでないし、色鮮やか。
俺が刺激しなければ、悪夢化することもないとは思う。
【クロノ】
「……そろそろ、戻るか」
これ以上ここにいても、することもないしな。
その時ふと思った。
そういえばこれは憧憬夢だ。
その者の願望や欲望を具現化する、都合のいい夢。
確かにあいつはリビドーをつけて眠っていた。
だとしたらあいつは俺を求めてるってことか?
【クロノ】
「は」
何気なく思ったことが、今まで抑えていた分の理性のタガを激しく揺らす。
そして―――
――堰を切ったように、心臓と思考が大きく波打った。
【浅多 侑思】
「―――!?」
目を見開くと、死神はキスをすんでの所で止めて、首を傾げる。
【クロノ】
「どうした」
答えずに、勢い良く体を起こして辺りを見回す。
今感じたのは、間違いなくあいつの気配だった。
我に返って感覚を研ぎ澄ますと、まだその気配が消えていないことがわかる。
ということは、あいつが今ここにいる?
そして僕は青ざめる。
もしかして―――見られた?
両手をベッドにつけたまま、僕は脱力していた。
見られた。
見られたのか? こんな―――。
視線をずらすと、不思議そうな顔をして僕を覗きこんでくる偽物の死神がいる。
そして、何もかも知っているかのように妖しく微笑む。
【クロノ】
「ずっとここにいればいい」
だから僕は必死に首を振る。
【浅多 侑思】
「駄目だ。僕は行かなきゃいけない―――そうだ、今すぐに」
【クロノ】
「やめておけ」
立ち上がりかけた僕の手首に、あやすように触れた死神は、凶悪なまでに優しい目をしていた。
【クロノ】
「俺ならお前を癒してやれる」
【浅多 侑思】
「僕が求めてるのは…お前じゃない」
【クロノ】
「現実が辛いから俺を求めたくせして」
死神の言葉に答えられない後ろめたさを隠すように、僕の手を掴んでいた手を振り払い、走り出す。
【クロノ】
「……?」
夢から抜け出そうとした時、何かが迫ってくるのがわかって振り返る。
また化物だろうかと、鎌を出現させるつもりで掌を開いたが―――。
全速力で走ってくるその人物に気を取られて、集中力が散ってしまって何も生み出せなかった。
なぜなら――走ってくる人物は、浅多だったから。
俺は反射的に、追ってくる浅多に背を向けて逃げ出した。
どうして逃げているのかは、よくわからなかった。
俺が今持っている情報量じゃ、ユリスを問い詰めても逃げられてしまう。
あいつを追い詰めることができるような、確固たる証拠が必要だ。
だけど、幾ら考えても頭がまとまらない。
【クロノ】
「……くそ」
一度資料を畳んで、冷たい空気を吸いに席を立つ。
机に向かっていても、パソコンに向かっていても、ちらつくのは浅多のこと。
あの時、ユリスに問われたことの答えが、未だに出ない。
―――好きなのか? あいつを。
わからない。
好きか嫌いかで言えば、嫌いではないと思う。
頑固だしわからず屋だし、あまのじゃくだし素直じゃないし。
嫌なところなら幾らでも出てくるが―――不思議と嫌いだとは思えない。
憧憬夢の為なら死んでも構わないという言葉は、俺にとっては許せない言葉で。
俺を本気で怒らせたことは間違いないのに、まだあいつを完全に見捨てる気になれない。
【クロノ】
「ということは、やっぱり好きなの……か?」
言葉にしてみても、わからない。
その『好き』が、親愛か好意か、はたまた恋愛感情なのか。
暫くそうやって考え込んでいたが、答えが見つかる気配はない。
迷いを振り切るように部屋を出る準備をして、浅多の部屋へ瞬間移動した。
ベッドに横たわっている浅多に、リビドーが装着されているのを見て。
やりきれなさで、胸の中が焼けただれそうになる。
…こいつは夢に逃げ続けるのか
【クロノ】
「何で俺の言葉に耳を傾けないんだ…」
今頃、俺が言った事も忘れて、都合の良い夢に浸っているのか。
モヤモヤする思考を頭を振って振り払う。
そして、持ってきた自分のリビドーを乱暴に装着して、現実から夢へと駆け抜けた。
夢に入ってまず驚いたのは―――
広がる世界が、今まで人間界の街並みではなく浅多のマンションの前だったこと。
誘われるように浅多の部屋の前まで行き、ドアノブを捻ると―――
待っていたかのように簡単に開いた。
浅多の私室へ続くドアから漏れ出した細い光は、俺に見せつけているかのように眩しかった。
不審に思いながらも足を進め、ドアの近くまで行くと、中から話し声が聞こえた。
声の片方が、浅多のものだということはすぐにわかったが。
―――会話の内容を把握した時、俺の体は凍りついた。
【クロノ】
「そう、それでいい……やっと素直になってきたな」
【クロノ】
「体の力を抜いて。そう。お前は何も考えなくていい」
【浅多 侑思】
「お前にそう言ってもらえると、ほっとするんだ……どうしてだろうな」
【浅多 侑思】
「でも、ありがとう。感謝する。ずっとお前に、そう言って欲しかった」
悪寒が背筋を這い上がってきて、頭の中を真っ白にする。
いや、悪寒じゃない。激情だ。
片方の声の主が、妙に俺に似ていることなんかどうでもいい。
夢の中での出来事だとわかっているのに、そんなことは今は関係ない。
中の会話を聞いただけで、今から中で起ころうとしていることが容易に想像できてしまう。
そのことに俺は衝撃を受けている。
―――そんなに、その人間が好きなの?
答えられなかった質問が、頭の片隅に浮かんで、消えた。
この部屋に、俺以外の誰かがいる。
そう考えるだけで、どす黒いものが胸の中を侵食していく。
ここが夢の中だということすら忘れそうになる。
感情に後押しされるように、反射的にドアノブを捻ろうとして―――ビタリと止める。
俺は、何でこんなに動揺している?
フラッシュバックした金木犀の香りと、彼の姿に目をきつく瞑った―――。
…そう、相手は人間じゃないか。
浅多だって、友人の1人や2人いるだろう。
家族だっているし、よく考えれば恋人だっているかもしれない。
中であいつが誰と話してようと、誰とどんなことをしていようと関係ない。
そう、関係ない。ここはそもそも夢の中だ。
あまり激しく動揺すると、乱れた脳波が浅多に伝わって、きっと俺の存在を知られてしまうだろう。
だから落ち着け。少し中を見るだけだ。他意はないんだ。無事かどうか確認するだけだ。
自分を律するための言葉を小さく呟きながら、扉を開けていく。
虚ろな俺の目の前には―――浅多ともう1人の俺が映っている。
【クロノ】
「……」
ベッドの上で向かい合って座りながら抱き合っている2人は、見つめ合いながら激しくキスを交わしている。
―――視界がぐらりと揺れた。
俺はまた、夢の中にいるということを忘れかけていた。
2人が、部屋に入ってきた俺に気づかないことを、不思議に思ったくらい。
―――こんなに至近距離にいるのに、浅多が俺を見ないことに激昂しそうになったくらい。
【クロノ】
「可哀想な浅多。お前が悪いんじゃないのに」
【クロノ】
「お前は何も悪くない。お前の周囲の人間が―――世界が悪いんだ」
【クロノ】
「だからずっとここに一緒にいよう。俺と一緒に」
【浅多 侑思】
「ああ……もう一度言ってくれ」
浅多は、俺に背を向けてるから表情はわからないけど。
耳を塞ぎたくなるような甘ったるい声を出してるというだけで充分だ。
どうにか焦点を合わせて、もう1人の俺を見やると、幸せそうな微笑を浮かべていた。
いずれ2人は―――1つになる気かもしれない。
【クロノ】
「……っ、……」
壁にもたれて何とか踏みとどまり、呼吸が引きつりそうな口元を抑える。
落ち着け。これは夢だ。現実じゃない。
またこの間のように、浅多の夢に引きずられそうになる。
今の精神状態じゃ、これが悪夢化した時に対応できない。
いざという時のために、俺だけでも先に現実に戻らないと。
呼吸を止めたまま踵を返し、ふらつきながら部屋を出る。
これ以上見ていたくない。
俺が見ていたということを知られたくない。
人間に肩入れしたくない。
頭の中で渦巻く様々な感情の、どれが本当の気持ちなんだろう。
あの忌まわしい光景と距離を置くと、少し落ち着いた。
引きつった喉を撫でながら、深呼吸すると少し頭がすっきりした。
歩きながら振り返ると、浅多のマンションが遠ざかっていく。
周囲の景色も歪んでないし、色鮮やか。
俺が刺激しなければ、悪夢化することもないとは思う。
【クロノ】
「……そろそろ、戻るか」
これ以上ここにいても、することもないしな。
その時ふと思った。
そういえばこれは憧憬夢だ。
その者の願望や欲望を具現化する、都合のいい夢。
確かにあいつはリビドーをつけて眠っていた。
だとしたらあいつは俺を求めてるってことか?
【クロノ】
「は」
何気なく思ったことが、今まで抑えていた分の理性のタガを激しく揺らす。
そして―――
――堰を切ったように、心臓と思考が大きく波打った。
【浅多 侑思】
「―――!?」
目を見開くと、死神はキスをすんでの所で止めて、首を傾げる。
【クロノ】
「どうした」
答えずに、勢い良く体を起こして辺りを見回す。
今感じたのは、間違いなくあいつの気配だった。
我に返って感覚を研ぎ澄ますと、まだその気配が消えていないことがわかる。
ということは、あいつが今ここにいる?
そして僕は青ざめる。
もしかして―――見られた?
両手をベッドにつけたまま、僕は脱力していた。
見られた。
見られたのか? こんな―――。
視線をずらすと、不思議そうな顔をして僕を覗きこんでくる偽物の死神がいる。
そして、何もかも知っているかのように妖しく微笑む。
【クロノ】
「ずっとここにいればいい」
だから僕は必死に首を振る。
【浅多 侑思】
「駄目だ。僕は行かなきゃいけない―――そうだ、今すぐに」
【クロノ】
「やめておけ」
立ち上がりかけた僕の手首に、あやすように触れた死神は、凶悪なまでに優しい目をしていた。
【クロノ】
「俺ならお前を癒してやれる」
【浅多 侑思】
「僕が求めてるのは…お前じゃない」
【クロノ】
「現実が辛いから俺を求めたくせして」
死神の言葉に答えられない後ろめたさを隠すように、僕の手を掴んでいた手を振り払い、走り出す。
【クロノ】
「……?」
夢から抜け出そうとした時、何かが迫ってくるのがわかって振り返る。
また化物だろうかと、鎌を出現させるつもりで掌を開いたが―――。
全速力で走ってくるその人物に気を取られて、集中力が散ってしまって何も生み出せなかった。
なぜなら――走ってくる人物は、浅多だったから。
俺は反射的に、追ってくる浅多に背を向けて逃げ出した。
どうして逃げているのかは、よくわからなかった。