[本編] 浅多 侑思 編
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誰に向けてでもなく、やっとのことでそれだけ告げて、走ってその場から立ち去った。
―――ああ、地獄が見えてきた。
走り去った浅多を追いかけようとした時、空からじいの声が降ってきて。
俺はさりげなくオフィスの死角に入り込み、携帯を耳にあてて電話してるフリをする。
【クロノ】
「どうした?今ちょっと取り込み中なんだけど」
【アンク】
「朗報ですぞ!例のサイト……paraisoのサーバーが、どこのものだか判明いたしました」
【アンク】
「それだけではなく、リビドー関連の情報サイトのほとんどのサーバーは死神界のものです!」
【クロノ】
「……! そうか、わかった」
以前に立てた仮定が、真実味を帯びてきた。
だけど今は、浅多を探すことの方が先決だ。あの調子じゃ何をしでかすかわからない。
じいに手短に礼を告げて、人目に着かない所で死神の姿に戻る。
たまには昼間に直接会って話したかったのに、とんでもない日になってしまった。
さっき浅多がオフィスを出た時間から、現在地を推測して探し回ったがなかなか見つからなかった。
…だが、浅多は今日、絶対にリビドーを使うはずだ。
頃合いを見計らって浅多の自室に移動すると、奴は俺の予測よりもかなり早く帰宅していた。
しかも、既にリビドーに接続して眠りについていた。
―――そして、
ベッド脇に転がっている薬瓶にぞっとした。
【クロノ】
「睡眠薬……!? よくもこんなバカな量を……!!」
ヘッドセットを取り落としそうになりながら装着し、夢の世界へ身を投じた――。
【クロノ】
「……うっ……」
吐き気と共に地面に降り立とうとしたものの、つま先を飲み込まれて慌てて浮遊する。
見渡す限り、ありとあらゆるものが異形化し横行闊歩しており……グロテスクな世界に成り果てていた。
聞いたことのないような音楽が、悲鳴混じりに流れていて。
その上を軽やかに滑り降りる、肉塊の妖精と口のない詩人。
【クロノ】
「な……」
言葉を発した口の中に、悪夢が忍び込んだことに気付いた時には遅かった。
猛烈な眩暈に襲われて、俺の体は、宙を斜めに下降していく。
【父】
「なあ侑思……お前にはがっかりさせられたよ。
何故できない? 言ってみろ」
やめてくれ。父さん。僕は精一杯頑張ってたんだ。
だけど……駄目なんだ。
【母】
「ねえ侑思……どうしてこんなこともできないの?
どうして? 母さん肩身が狭いの」
そんなことを言わないでくれ、母さん。駄目なんだ。
どうしてもできないんだ。
【同級生】
「てめえがチンタラやってっから、また俺らのクラス最下位なんスけど」
【同級生】
「てめえナメクジか?それで走ってるつもりかよ、ウスノロ」
【同級生】
「マジ何やらせてもクソだよお前。恥ずかしくねえのか? そんなザマでよ」
ごめん、僕が皆の足引っ張ってるから駄目なんだ。ごめん、ごめん。ごめんね。
【父】
「どうしてだろうなぁ、お前俺の子なのにな?
ん? それとも違うのか?」
【父】
「他の男とのガキか?だからこんなに出来が悪いじゃねえのか? あ?」
【母】
「あんたに似たからこんな出来なんじゃない。
他の男となら、
もっと質のいい子が生まれてくるわよ!」
【母】
「…こんな子供いらないわよ。生むんじゃなかった」
【母】
「ねえ貴方、誰かに引き取ってもらいましょう」
聞きたくない聞きたくない聞きたくないどうしてだ。
なんで僕は誰の期待にも答えられないんだ。
両親、友人。誰も僕を見ない。みんな僕には失望させられたと言う。
伸ばした僕の手は指先から崩れ落ち、誰の元にも届かない。
体を浮遊し続けていられず、俺はぬかるんだ地面に飲み込まれた。
いつかの病院、窓辺の少年。
金木犀の枝を手に取った彼が、不意に俺を見上げる。
彼が俺に向かって手を伸ばす。
それに応えるように、俺も彼の体をそっと抱き寄せ……。
蜘蛛のような、100本の手足が俺の背中に食い込んだ。
【???】
「ねえ死神さん。俺、あんたのせいで手と足もげちゃったんだよね」
【???】
「だからこれだけ人の手足くっつけてみたんだけど―――あんたのもちょうだい」
【クロノ】
「―――はっ……!!」
瞼をこじ開けると、破裂しそうなほどに心臓が高なっていた。
見えるのは浅多の部屋の天井だが、これが現実なのか夢なのか、もう俺にもわからない。
立たない膝を引きずって、無意識のうちに体を起こしてリビドーの裏スイッチを何度も押す。
浅多が寝ているであろうベッドに手をついて、必死に体を引き上げる。
じいを呼ばなければ、いやその前に浅多を起こさなければ。
頭の中には、いまだ100本の手足で抱きついてくる『彼』の姿がこびり付いている。
俺は……口付ける。
【クロノ】
「っ、起きろよ!!」
苦渋の表情で眠っている浅多の体を掻き抱き、更に口付ける。
だけど青白い顔の浅多は、死んだように眠ったままで目覚めない。
頭の中で、『彼』が俺に向かって口を開け、真っ黒な液体を垂れ流しながら何かを叫んでいる。
【クロノ】
「あ……あ……じい……」
【クロノ】
「じい!」
【アンク】
「……っはい!応答が遅れて申し訳ございません!
状況は把握しております!」
【クロノ】
「……浅多が目覚めない」
姿を現したじいに振り絞る様に出した声は、思った以上にか細く掠れていた。
どうして目を覚まさないのか……。先ほどの夢のせいか、
嫌な予感しかしない。
【アンク】
「どうか落ち着いて下され。いいですか、脳波がリビドーに侵され始めています」
【アンク】
「外部からの直接刺激も強くしないといけないものだと推測します、
それではご健闘を!!」
急を要するのだと踏んだのだろう、じいはそう言って、呆気無いほどに姿を消す。
【クロノ】
「はは……こんな気分で、そういう行為をしろって言うことか…随分と酷な話だな……」
焦点が定まらず、嫌な汗が出てくる。
意を決して、両手を浅多の服のボタンにかける。
だけど手がみっともない程に震えている。金木犀の匂いが鼻腔の奥に充満している。
―――自分の頬を一発、思い切り殴りつけて。
殴りつけた衝撃で口の中を切ったのか…鉄の味がする。
そんなことも構わずに、浅多のシャツを引き裂いて、胸の辺りに噛み付いた。
胸板に点々と赤い噛み痕をつけたら、再び深く口付ける。
乱れた髪が汗ばんだ顔や首などの肌に張り付いてくる。
それを乱暴に払いのけ、裂けたシャツの間に手を突っ込み素肌を撫で、下腹部を布越しに揉みしだく。
【クロノ】
「う……」
吐き気がする。さっきの夢の映像が網膜に映っている。
だけど首を振ってそれを蹴散らし、人肌を求めて、浅多の体を必死でまさぐる。
【クロノ】
(…っこんな行為続けたくないっ……。でも……これが俺の仕事だ……)
【クロノ】
(何で……また人間に触れないといけないんだ…っ! これは…仕事なんだ。…やらないといけないんだ……)
【クロノ】
「早くっ、早く…目を覚ませよ!!!」
さっき自分を殴ったせいで、キスは少しづつ鉄の味になってきた。
―――浅多の瞼が不意にカッと見開かれて、俺はその場に脱力した。
【浅多 侑思】
「……」
【クロノ】
「……」
そして、狂乱は終わった。
浅多は自分のあられもない姿を見下したが、その目は何も映してないように見える。
……無理もない。俺も同様だったから。
俺は地面にへたり込んだまま、声を出すのが精一杯だった。
【クロノ】
「お前が辛いことは、何となくわかるような気がするけど」
【クロノ】
「いい加減もうわかっただろ。リビドーはお前にとって害でしかない」
【浅多 侑思】
「……わかってる」
【クロノ】
「じゃあなんで、使うのをやめない」
【浅多 侑思】
「……現実は、嫌なことばかりだ」
俺はゆっくりと顔を上げる。浅多の声は揺れていた。
悲惨な目にあっても憧憬夢を捨てられない自分を、蔑みながらも、諦めている声だった。
【浅多 侑思】
「完璧になれない自分が嫌いだ。だから憧憬夢を見る。憧憬夢を見ると救われる」
【浅多 侑思】
「このまま死んでもいいとさえ思える」
怒りが背骨を突き抜けて、俺の体が爆ぜた。
【クロノ】
「お前……!!」
―――ああ、地獄が見えてきた。
走り去った浅多を追いかけようとした時、空からじいの声が降ってきて。
俺はさりげなくオフィスの死角に入り込み、携帯を耳にあてて電話してるフリをする。
【クロノ】
「どうした?今ちょっと取り込み中なんだけど」
【アンク】
「朗報ですぞ!例のサイト……paraisoのサーバーが、どこのものだか判明いたしました」
【アンク】
「それだけではなく、リビドー関連の情報サイトのほとんどのサーバーは死神界のものです!」
【クロノ】
「……! そうか、わかった」
以前に立てた仮定が、真実味を帯びてきた。
だけど今は、浅多を探すことの方が先決だ。あの調子じゃ何をしでかすかわからない。
じいに手短に礼を告げて、人目に着かない所で死神の姿に戻る。
たまには昼間に直接会って話したかったのに、とんでもない日になってしまった。
さっき浅多がオフィスを出た時間から、現在地を推測して探し回ったがなかなか見つからなかった。
…だが、浅多は今日、絶対にリビドーを使うはずだ。
頃合いを見計らって浅多の自室に移動すると、奴は俺の予測よりもかなり早く帰宅していた。
しかも、既にリビドーに接続して眠りについていた。
―――そして、
ベッド脇に転がっている薬瓶にぞっとした。
【クロノ】
「睡眠薬……!? よくもこんなバカな量を……!!」
ヘッドセットを取り落としそうになりながら装着し、夢の世界へ身を投じた――。
【クロノ】
「……うっ……」
吐き気と共に地面に降り立とうとしたものの、つま先を飲み込まれて慌てて浮遊する。
見渡す限り、ありとあらゆるものが異形化し横行闊歩しており……グロテスクな世界に成り果てていた。
聞いたことのないような音楽が、悲鳴混じりに流れていて。
その上を軽やかに滑り降りる、肉塊の妖精と口のない詩人。
【クロノ】
「な……」
言葉を発した口の中に、悪夢が忍び込んだことに気付いた時には遅かった。
猛烈な眩暈に襲われて、俺の体は、宙を斜めに下降していく。
【父】
「なあ侑思……お前にはがっかりさせられたよ。
何故できない? 言ってみろ」
やめてくれ。父さん。僕は精一杯頑張ってたんだ。
だけど……駄目なんだ。
【母】
「ねえ侑思……どうしてこんなこともできないの?
どうして? 母さん肩身が狭いの」
そんなことを言わないでくれ、母さん。駄目なんだ。
どうしてもできないんだ。
【同級生】
「てめえがチンタラやってっから、また俺らのクラス最下位なんスけど」
【同級生】
「てめえナメクジか?それで走ってるつもりかよ、ウスノロ」
【同級生】
「マジ何やらせてもクソだよお前。恥ずかしくねえのか? そんなザマでよ」
ごめん、僕が皆の足引っ張ってるから駄目なんだ。ごめん、ごめん。ごめんね。
【父】
「どうしてだろうなぁ、お前俺の子なのにな?
ん? それとも違うのか?」
【父】
「他の男とのガキか?だからこんなに出来が悪いじゃねえのか? あ?」
【母】
「あんたに似たからこんな出来なんじゃない。
他の男となら、
もっと質のいい子が生まれてくるわよ!」
【母】
「…こんな子供いらないわよ。生むんじゃなかった」
【母】
「ねえ貴方、誰かに引き取ってもらいましょう」
聞きたくない聞きたくない聞きたくないどうしてだ。
なんで僕は誰の期待にも答えられないんだ。
両親、友人。誰も僕を見ない。みんな僕には失望させられたと言う。
伸ばした僕の手は指先から崩れ落ち、誰の元にも届かない。
体を浮遊し続けていられず、俺はぬかるんだ地面に飲み込まれた。
いつかの病院、窓辺の少年。
金木犀の枝を手に取った彼が、不意に俺を見上げる。
彼が俺に向かって手を伸ばす。
それに応えるように、俺も彼の体をそっと抱き寄せ……。
蜘蛛のような、100本の手足が俺の背中に食い込んだ。
【???】
「ねえ死神さん。俺、あんたのせいで手と足もげちゃったんだよね」
【???】
「だからこれだけ人の手足くっつけてみたんだけど―――あんたのもちょうだい」
【クロノ】
「―――はっ……!!」
瞼をこじ開けると、破裂しそうなほどに心臓が高なっていた。
見えるのは浅多の部屋の天井だが、これが現実なのか夢なのか、もう俺にもわからない。
立たない膝を引きずって、無意識のうちに体を起こしてリビドーの裏スイッチを何度も押す。
浅多が寝ているであろうベッドに手をついて、必死に体を引き上げる。
じいを呼ばなければ、いやその前に浅多を起こさなければ。
頭の中には、いまだ100本の手足で抱きついてくる『彼』の姿がこびり付いている。
俺は……口付ける。
【クロノ】
「っ、起きろよ!!」
苦渋の表情で眠っている浅多の体を掻き抱き、更に口付ける。
だけど青白い顔の浅多は、死んだように眠ったままで目覚めない。
頭の中で、『彼』が俺に向かって口を開け、真っ黒な液体を垂れ流しながら何かを叫んでいる。
【クロノ】
「あ……あ……じい……」
【クロノ】
「じい!」
【アンク】
「……っはい!応答が遅れて申し訳ございません!
状況は把握しております!」
【クロノ】
「……浅多が目覚めない」
姿を現したじいに振り絞る様に出した声は、思った以上にか細く掠れていた。
どうして目を覚まさないのか……。先ほどの夢のせいか、
嫌な予感しかしない。
【アンク】
「どうか落ち着いて下され。いいですか、脳波がリビドーに侵され始めています」
【アンク】
「外部からの直接刺激も強くしないといけないものだと推測します、
それではご健闘を!!」
急を要するのだと踏んだのだろう、じいはそう言って、呆気無いほどに姿を消す。
【クロノ】
「はは……こんな気分で、そういう行為をしろって言うことか…随分と酷な話だな……」
焦点が定まらず、嫌な汗が出てくる。
意を決して、両手を浅多の服のボタンにかける。
だけど手がみっともない程に震えている。金木犀の匂いが鼻腔の奥に充満している。
―――自分の頬を一発、思い切り殴りつけて。
殴りつけた衝撃で口の中を切ったのか…鉄の味がする。
そんなことも構わずに、浅多のシャツを引き裂いて、胸の辺りに噛み付いた。
胸板に点々と赤い噛み痕をつけたら、再び深く口付ける。
乱れた髪が汗ばんだ顔や首などの肌に張り付いてくる。
それを乱暴に払いのけ、裂けたシャツの間に手を突っ込み素肌を撫で、下腹部を布越しに揉みしだく。
【クロノ】
「う……」
吐き気がする。さっきの夢の映像が網膜に映っている。
だけど首を振ってそれを蹴散らし、人肌を求めて、浅多の体を必死でまさぐる。
【クロノ】
(…っこんな行為続けたくないっ……。でも……これが俺の仕事だ……)
【クロノ】
(何で……また人間に触れないといけないんだ…っ! これは…仕事なんだ。…やらないといけないんだ……)
【クロノ】
「早くっ、早く…目を覚ませよ!!!」
さっき自分を殴ったせいで、キスは少しづつ鉄の味になってきた。
―――浅多の瞼が不意にカッと見開かれて、俺はその場に脱力した。
【浅多 侑思】
「……」
【クロノ】
「……」
そして、狂乱は終わった。
浅多は自分のあられもない姿を見下したが、その目は何も映してないように見える。
……無理もない。俺も同様だったから。
俺は地面にへたり込んだまま、声を出すのが精一杯だった。
【クロノ】
「お前が辛いことは、何となくわかるような気がするけど」
【クロノ】
「いい加減もうわかっただろ。リビドーはお前にとって害でしかない」
【浅多 侑思】
「……わかってる」
【クロノ】
「じゃあなんで、使うのをやめない」
【浅多 侑思】
「……現実は、嫌なことばかりだ」
俺はゆっくりと顔を上げる。浅多の声は揺れていた。
悲惨な目にあっても憧憬夢を捨てられない自分を、蔑みながらも、諦めている声だった。
【浅多 侑思】
「完璧になれない自分が嫌いだ。だから憧憬夢を見る。憧憬夢を見ると救われる」
【浅多 侑思】
「このまま死んでもいいとさえ思える」
怒りが背骨を突き抜けて、俺の体が爆ぜた。
【クロノ】
「お前……!!」