[本編] 浅多 侑思 編
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【アンク】
「―――なんと!それはいけませんな、ささ、お早く」
そそくさと消えたじいを尻目に、苛立ちをぶつける様に浅多の唇に乱暴に口付ける。
口付ける時に、俺の歯で唇を切ったのか、少し血の味がする。
浅多は、ぼんやりと俺を眺めた。
俺は切れた唇を舐める。
【浅多 侑思】
「……っ痛!や、やめっ…」
【クロノ】
「……」
そして、浅多はようやく切れた唇に気づいたのか顔をしかめた。
俺の行動など気にする様子もなく浅多は口を開いた。
【浅多 侑思】
「……お前はまだ、僕にリビドーを使うのをやめてほしいか」
切れた唇に気付いていながらも抗議することはせずに、やけに落ち着き払った様子に、目を細める。
【クロノ】
「ああ」
今度は何を言うつもりだろう。俺は黙って浅多の言葉を聞く体勢をとって
―――固まった。
【浅多 侑思】
「やはり断る」
【浅多 侑思】
「お前の話には矛盾がある。本当に死神だと言うのなら
どうしてさっき僕を助けた?」
【浅多 侑思】
「お前達の仕事は、人の魂を狩ることじゃないのか?」
【クロノ】
「俺達の仕事は、寿命を迎えた魂を天界に運ぶことだけだ」
【浅多 侑思】
「なら直接、命そのものには関われないわけだ」
【クロノ】
「……その通りだ。それは一人一人、
天命として定まっているものだから」
浅多の表情が、卑屈に歪む。
【浅多 侑思】
「前も言ったが―――敢えてまた言う。お前は無力だ。何が死『神』だ、聞いて呆れる」
【浅多 侑思】
「僕は悪夢の中で死ぬ運命だった。あのまま目覚めずに」
【浅多 侑思】
「それを、ただの運び屋のお前がいたずらにねじ曲げた。二度も」
【クロノ】
「……本来のお前の寿命はもっと長い。その寿命をまっとうさせることが
真の俺の仕事だ」
【浅多 侑思】
「は、おかしな話だ。お前が来なければ死んでいたのに、
それが本来の寿命ではないと?」
【浅多 侑思】
「今のお前の行動は、天命とやらを下した神に
背いてることになるじゃないか」
【クロノ】
「それは会議で決まったことだ。当然その場には天界神も出席―――」
バン、という音に口をつぐむ。
ベッドのヘッドボードを叩いた浅多が、血走った目で俺を睨みつけている。
【クロノ】
(今のこいつに天界の理屈を説いても無駄だな……)
俺は何も言わずに、その場から立ち去った。
それから暫くして、自分の部屋に戻ってきた俺は、ベッドに倒れ込む。
【クロノ】
「……言いたい放題言ってくれて」
―――無力だな。何が死『神』だ、聞いて呆れる―――
この言葉は、今までに俺が何度も思ったことだった。そのたびにもどかしく思い糾弾し、やがては慣れた。
針が刺さるような胸の感覚を、寝返りを打つことで押し潰す。
俺のことよりも、今は浅多のことの方が重要だ。
何もかも忘れてしまおうと、意識を無理やり深い眠りに突っ込んだ。
……あいつめ。リビドーを使い続ける理由を、俺のせいにしたな。
本当は、リビドーの作り出す甘い夢から抜け出す覚悟がないだけなのに―――。
俺が無理矢理リビドーを取り上げれば…諦めて止めるのだろうか。
いや、壊した方が浅多のためになるかもしれない…。
いっそのこと放っておくのも……。でも―――
何故だか放っておくことが出来ない。
【社員】
「おい高島田、海外支部のマネージャーのイスの座り心地はどうだ?」
【社員2】
「それにしても高島田さん、本当に手が早いですよね。
俺の仕事もお願いしたいくらいです」
【高島田】
「おーし、とっとと仕事終わらせて飲み行こうぜ」
デスクに向かったままの僕の仕事は、そんな声のせいで一向に片付かない。
もう沢山だ。この耳を取ってしまいたい。
何故これが夢じゃないんだ。死神。
周囲の騒がしさに嫌気が差して、資料を取りに席を立とうとした時。
僕は一人の男に釘付けになった。
―――スーツを着た男が、入り口の辺りからこっちを見ている。
その男の顔は、どう見てもあの死神にしか見えない。
【浅多 侑思】
「……お前」
駆け寄るか、追い出すか、放っておくか。どちらにしても部外者だとバレるとまずい。
選択肢が僕の頭の中で暴れたが、どれも選べずに、僕の手は空を掻く。
そのせいで、手にしていた資料を床にばら撒いてしまった。
【浅多 侑思】
「……っ、すみません」
【高島田】
「あーあ…大丈夫っすかあ~?」
―――頭の中が真っ白になった。
首をもたげると、高島田が僕を見下ろしている。―――軽蔑の眼差しで。
僕をバカにした同級生のように。
僕を冷ややかに見つめた両親のように。
遠くの方であの死神が駆け出そうとしているのが、うっすらと認知できた。
【高島田】
「浅多さん、ほんと突発的なことに弱いっすよね」
【高島田】
「だから前から皆言ってるでしょ?あんたにゃ営業は向かねえって」
【高島田】
「デスクワークの方が性に合ってますって絶対。それにさ、浅多先輩って言いたいこと言えないタイプじゃないっすか」
【高島田】
「どんなに資料作りが上手くても、それじゃ出世できないっすよ」
―――僕の中で、何かが音をたてて弾けるのを、どこか遠くで感じていた。
【浅多 侑思】
「―――こ」
【高島田】
「は?」
【浅多 侑思】
「―――っの、クソ野郎が……!!」
イスを蹴倒し、資料をなぎ倒し、社員を退けて高島田に飛びかかる。
何も考えられなかった。体が勝手に動いていた。
お前に何がわかる。何もわからない癖に
偉そうな口を叩きやがって。
殺す。こいつだけは絶対に殺す。殺す殺す殺す。
そうでもしないと腹の虫が収まらない。
【クロノ】
「……めろ、……い!!」
誰かが近くで何かを叫んでるが聞こえない。
誰かに両腕を押さえつけられて、振り上げた拳を止められている。
【浅多 侑思】
「あ゛ああああああああああ!!」
がむしゃらに振り払おうとしたら、横っ面を叩かれて視界に火花が散る。
【クロノ】
「落ち着け!!」
浅多の抱きしめる。
【浅多 侑思】
「やめろ…!子供扱いするなっ!」
クロノの行動にようやく現状を把握する。
【浅多 侑思】
「あ……」
高島田を抱き起こす社員達の冷たい眼差しに、どっと息苦しくなり、自分の犯した行動に身体が震える。
【浅多 侑思】
「た」
口の中がカラカラだ。
【浅多 侑思】
「体調が悪いので早退させてください」
「―――なんと!それはいけませんな、ささ、お早く」
そそくさと消えたじいを尻目に、苛立ちをぶつける様に浅多の唇に乱暴に口付ける。
口付ける時に、俺の歯で唇を切ったのか、少し血の味がする。
浅多は、ぼんやりと俺を眺めた。
俺は切れた唇を舐める。
【浅多 侑思】
「……っ痛!や、やめっ…」
【クロノ】
「……」
そして、浅多はようやく切れた唇に気づいたのか顔をしかめた。
俺の行動など気にする様子もなく浅多は口を開いた。
【浅多 侑思】
「……お前はまだ、僕にリビドーを使うのをやめてほしいか」
切れた唇に気付いていながらも抗議することはせずに、やけに落ち着き払った様子に、目を細める。
【クロノ】
「ああ」
今度は何を言うつもりだろう。俺は黙って浅多の言葉を聞く体勢をとって
―――固まった。
【浅多 侑思】
「やはり断る」
【浅多 侑思】
「お前の話には矛盾がある。本当に死神だと言うのなら
どうしてさっき僕を助けた?」
【浅多 侑思】
「お前達の仕事は、人の魂を狩ることじゃないのか?」
【クロノ】
「俺達の仕事は、寿命を迎えた魂を天界に運ぶことだけだ」
【浅多 侑思】
「なら直接、命そのものには関われないわけだ」
【クロノ】
「……その通りだ。それは一人一人、
天命として定まっているものだから」
浅多の表情が、卑屈に歪む。
【浅多 侑思】
「前も言ったが―――敢えてまた言う。お前は無力だ。何が死『神』だ、聞いて呆れる」
【浅多 侑思】
「僕は悪夢の中で死ぬ運命だった。あのまま目覚めずに」
【浅多 侑思】
「それを、ただの運び屋のお前がいたずらにねじ曲げた。二度も」
【クロノ】
「……本来のお前の寿命はもっと長い。その寿命をまっとうさせることが
真の俺の仕事だ」
【浅多 侑思】
「は、おかしな話だ。お前が来なければ死んでいたのに、
それが本来の寿命ではないと?」
【浅多 侑思】
「今のお前の行動は、天命とやらを下した神に
背いてることになるじゃないか」
【クロノ】
「それは会議で決まったことだ。当然その場には天界神も出席―――」
バン、という音に口をつぐむ。
ベッドのヘッドボードを叩いた浅多が、血走った目で俺を睨みつけている。
【クロノ】
(今のこいつに天界の理屈を説いても無駄だな……)
俺は何も言わずに、その場から立ち去った。
それから暫くして、自分の部屋に戻ってきた俺は、ベッドに倒れ込む。
【クロノ】
「……言いたい放題言ってくれて」
―――無力だな。何が死『神』だ、聞いて呆れる―――
この言葉は、今までに俺が何度も思ったことだった。そのたびにもどかしく思い糾弾し、やがては慣れた。
針が刺さるような胸の感覚を、寝返りを打つことで押し潰す。
俺のことよりも、今は浅多のことの方が重要だ。
何もかも忘れてしまおうと、意識を無理やり深い眠りに突っ込んだ。
……あいつめ。リビドーを使い続ける理由を、俺のせいにしたな。
本当は、リビドーの作り出す甘い夢から抜け出す覚悟がないだけなのに―――。
俺が無理矢理リビドーを取り上げれば…諦めて止めるのだろうか。
いや、壊した方が浅多のためになるかもしれない…。
いっそのこと放っておくのも……。でも―――
何故だか放っておくことが出来ない。
【社員】
「おい高島田、海外支部のマネージャーのイスの座り心地はどうだ?」
【社員2】
「それにしても高島田さん、本当に手が早いですよね。
俺の仕事もお願いしたいくらいです」
【高島田】
「おーし、とっとと仕事終わらせて飲み行こうぜ」
デスクに向かったままの僕の仕事は、そんな声のせいで一向に片付かない。
もう沢山だ。この耳を取ってしまいたい。
何故これが夢じゃないんだ。死神。
周囲の騒がしさに嫌気が差して、資料を取りに席を立とうとした時。
僕は一人の男に釘付けになった。
―――スーツを着た男が、入り口の辺りからこっちを見ている。
その男の顔は、どう見てもあの死神にしか見えない。
【浅多 侑思】
「……お前」
駆け寄るか、追い出すか、放っておくか。どちらにしても部外者だとバレるとまずい。
選択肢が僕の頭の中で暴れたが、どれも選べずに、僕の手は空を掻く。
そのせいで、手にしていた資料を床にばら撒いてしまった。
【浅多 侑思】
「……っ、すみません」
【高島田】
「あーあ…大丈夫っすかあ~?」
―――頭の中が真っ白になった。
首をもたげると、高島田が僕を見下ろしている。―――軽蔑の眼差しで。
僕をバカにした同級生のように。
僕を冷ややかに見つめた両親のように。
遠くの方であの死神が駆け出そうとしているのが、うっすらと認知できた。
【高島田】
「浅多さん、ほんと突発的なことに弱いっすよね」
【高島田】
「だから前から皆言ってるでしょ?あんたにゃ営業は向かねえって」
【高島田】
「デスクワークの方が性に合ってますって絶対。それにさ、浅多先輩って言いたいこと言えないタイプじゃないっすか」
【高島田】
「どんなに資料作りが上手くても、それじゃ出世できないっすよ」
―――僕の中で、何かが音をたてて弾けるのを、どこか遠くで感じていた。
【浅多 侑思】
「―――こ」
【高島田】
「は?」
【浅多 侑思】
「―――っの、クソ野郎が……!!」
イスを蹴倒し、資料をなぎ倒し、社員を退けて高島田に飛びかかる。
何も考えられなかった。体が勝手に動いていた。
お前に何がわかる。何もわからない癖に
偉そうな口を叩きやがって。
殺す。こいつだけは絶対に殺す。殺す殺す殺す。
そうでもしないと腹の虫が収まらない。
【クロノ】
「……めろ、……い!!」
誰かが近くで何かを叫んでるが聞こえない。
誰かに両腕を押さえつけられて、振り上げた拳を止められている。
【浅多 侑思】
「あ゛ああああああああああ!!」
がむしゃらに振り払おうとしたら、横っ面を叩かれて視界に火花が散る。
【クロノ】
「落ち着け!!」
浅多の抱きしめる。
【浅多 侑思】
「やめろ…!子供扱いするなっ!」
クロノの行動にようやく現状を把握する。
【浅多 侑思】
「あ……」
高島田を抱き起こす社員達の冷たい眼差しに、どっと息苦しくなり、自分の犯した行動に身体が震える。
【浅多 侑思】
「た」
口の中がカラカラだ。
【浅多 侑思】
「体調が悪いので早退させてください」