[本編] 浅多 侑思 編
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【アンク】
「さて、その話の続きは帰ってきてからにしましょう」
【アンク】
「そろそろ死神長様への定例報告の時間ですので、支度をしてくださいませ」
【クロノ】
「……忘れてた。今日だっけ」
無言のじいと目を合わせないようにしながら、こそこそと身支度を整える。
ついでに資料も返してこよう……。
部屋を出る前に、じいがポンと手を叩いた。
【アンク】
「そうそう、大事な物を渡さなければならなかったのです」
【アンク】
「すっかり失念しておりました」
【クロノ】
「……俺が定例報告を忘れてたのに対しては、あんなに冷ややかな目してたのに」
【アンク】
「いやはや、寄る年波には敵いません。……これです」
手渡されたのは、俺がこないだ使ったリビドーだった。
【クロノ】
「新調してくれた……ってわけでもないか。前のバージョンと、どこが違う?」
【アンク】
「浅多さんがLIPをインストールしたと聞きまして、至急バージョンアップいたしました」
【クロノ】
「へえ、どんな」
【アンク】
「はい、とどの詰まり、秘密兵器が仕込んであります」
俺はぼんやりとリビドーを見下ろす。
【クロノ】
「……あんまりゴツかったり、重かったりするものが出てくるのは困る」
【アンク】
「ご安心ください、悪夢への対策です」
【アンク】
「LIPを使用して見た憧憬夢は悪夢に変わりやすいとの情報を、確かな筋から入手しましたので」
【アンク】
「悪夢とは、理想と現実での乖離が引き起こす、脳のキャパオーバーが原因です」
【アンク】
「そのリビドーには、裏スイッチがあります」
【アンク】
「そこを押せば、クロノ様のリビドーを介して、夢主に安定した脳波を送ることができます」
【アンク】
「そうすることで、悪夢が消えるということです」
【アンク】
「まあ、実際に夢の中で『悪夢』に遭遇した場合の対処は、これとは異なります」
【アンク】
「今のは、あくまでリビドー……現実世界で行う対処法ですから」
【アンク】
「さて、おわかりいただけましたかな?」
【クロノ】
「……うっすらとは」
【アンク】
「上出来です。詳しいことは、最初の実践時に説明いたしましょう」
【クロノ】
「随分といい加減だな。まあいいけど」
押し付けられた新型リビドーを置いて、今度こそじいと一緒に急いで部屋を出た。
じいと並んで歩きながら、長の元へと向かう。
途中で、色んな死神仲間と擦れ違った。
その度に、結構な頻度で挨拶をかわしてるじいは、やっぱり顔が広いんだと思う。
【クロノ】
「いつ頃から、死神の仕事やってた?」
【アンク】
「もう随分昔の話ですから忘れてしまいましたな」
【クロノ】
「へえ……」
そんな話をしている時、ユリスがニヤニヤしながら歩いてくるのを見つけた。
話したいこともないので、目を伏せてやり過ごそうとしたけど。
先に話しかけられてしまった。
【ユリス】
「リビドーのこと、何かわかった?」
【クロノ】
「お前に教える義理はない」
先を急ごうとしたのを勘付かれたらしく、ユリスが素早く俺達の進路に立ちはだかる。
【ユリス】
「教えてくれたら、俺も代わりに情報提供してあげるけど?」
【ユリス】
「リビドーのことだけじゃなく今回の事件のことについて、ね」
俺とじいは顔を見合わせた。
【クロノ】
「……どういうこと?」
【ユリス】
「だからぁ、情報交換してやってもいいって言ってんの」
【クロノ】
「そうじゃない。なんでお前が事件の詳細を知ってる?」
【ユリス】
「……。それはー、実際話してみてからのお楽しみじゃない?」
【ユリス】
「こう見えて、俺、クロノ以上に色々知ってると思うけどなー」
……明らかに怪しい。
じいは俺と目を合わせ、出方は任せると言わんばかりに一歩下がった。
――さて。
怪しいけど確証がない限りは、下手に問い詰めても逃げられるだけだろうし。
もう少し時間を置いた方が良さそうだ。
【クロノ】
「悪いんだけど、話してる時間がない」
【ユリス】
「……最初っから会話する気ゼロかよ」
【クロノ】
「忙しくなければ、話相手になってやれたんだけど」
【ユリス】
「へえ、忙しいんだ。そう言われると邪魔したくなるなあ」
そう言って威圧的に顔を近づけてくる。
【クロノ】
「なるほど、またキスされたいわけだ」
【ユリス】
「え…。……ひゃ!」
遠慮無く顎を掴むと、ユリスの肩が揺れる。
そして真っ赤な顔のまま、覚悟を決めたようにきつく目をつむる。
【クロノ】
「へえ、目なんて閉じて、お前案外乗り気なんだな」
【クロノ】
「往来でキスされたい程、俺のことが好きなの」
【ユリス】
「なっ……何言って……!」
【クロノ】
「だってそうだろ。今のはどう見ても、
キスを許すっていう仕草だけど」
【クロノ】
「まあ別にどうでもいいけど。そこまでお前に関心ないし」
【クロノ】
「ただの欲求不満ならリビドーでも使ったらどうだ。死神なんだから死なないだろ」
ユリスがわなわなと体を震わせているのを見て、俺はくるりと踵を返し。
さっさと先に歩き出していた、じいを追う。
【ユリス】
「―――バカなこと言ってんじゃねーぞ!!」
背中にぶつけられた金切り声を無視して、その場を後にした。
だから俺は気づかなかった。
ユリスが、唇を噛み締めて、ずっと俺を睨んでいたことを―――。
……
…
長に報告を終えて、部屋に戻ってきた頃には夜になっていた。
【クロノ】
「……疲れた」
人の夢に入るのは、意外と精神力を使うらしい。
連勤は慣れているつもりだったけど、消耗の仕方が違う気がする。
テーブルの上には、じいが置いていった新型リビドーがある。
きっと、あいつは今夜も夢の中にいるんだろう。
「さて、その話の続きは帰ってきてからにしましょう」
【アンク】
「そろそろ死神長様への定例報告の時間ですので、支度をしてくださいませ」
【クロノ】
「……忘れてた。今日だっけ」
無言のじいと目を合わせないようにしながら、こそこそと身支度を整える。
ついでに資料も返してこよう……。
部屋を出る前に、じいがポンと手を叩いた。
【アンク】
「そうそう、大事な物を渡さなければならなかったのです」
【アンク】
「すっかり失念しておりました」
【クロノ】
「……俺が定例報告を忘れてたのに対しては、あんなに冷ややかな目してたのに」
【アンク】
「いやはや、寄る年波には敵いません。……これです」
手渡されたのは、俺がこないだ使ったリビドーだった。
【クロノ】
「新調してくれた……ってわけでもないか。前のバージョンと、どこが違う?」
【アンク】
「浅多さんがLIPをインストールしたと聞きまして、至急バージョンアップいたしました」
【クロノ】
「へえ、どんな」
【アンク】
「はい、とどの詰まり、秘密兵器が仕込んであります」
俺はぼんやりとリビドーを見下ろす。
【クロノ】
「……あんまりゴツかったり、重かったりするものが出てくるのは困る」
【アンク】
「ご安心ください、悪夢への対策です」
【アンク】
「LIPを使用して見た憧憬夢は悪夢に変わりやすいとの情報を、確かな筋から入手しましたので」
【アンク】
「悪夢とは、理想と現実での乖離が引き起こす、脳のキャパオーバーが原因です」
【アンク】
「そのリビドーには、裏スイッチがあります」
【アンク】
「そこを押せば、クロノ様のリビドーを介して、夢主に安定した脳波を送ることができます」
【アンク】
「そうすることで、悪夢が消えるということです」
【アンク】
「まあ、実際に夢の中で『悪夢』に遭遇した場合の対処は、これとは異なります」
【アンク】
「今のは、あくまでリビドー……現実世界で行う対処法ですから」
【アンク】
「さて、おわかりいただけましたかな?」
【クロノ】
「……うっすらとは」
【アンク】
「上出来です。詳しいことは、最初の実践時に説明いたしましょう」
【クロノ】
「随分といい加減だな。まあいいけど」
押し付けられた新型リビドーを置いて、今度こそじいと一緒に急いで部屋を出た。
じいと並んで歩きながら、長の元へと向かう。
途中で、色んな死神仲間と擦れ違った。
その度に、結構な頻度で挨拶をかわしてるじいは、やっぱり顔が広いんだと思う。
【クロノ】
「いつ頃から、死神の仕事やってた?」
【アンク】
「もう随分昔の話ですから忘れてしまいましたな」
【クロノ】
「へえ……」
そんな話をしている時、ユリスがニヤニヤしながら歩いてくるのを見つけた。
話したいこともないので、目を伏せてやり過ごそうとしたけど。
先に話しかけられてしまった。
【ユリス】
「リビドーのこと、何かわかった?」
【クロノ】
「お前に教える義理はない」
先を急ごうとしたのを勘付かれたらしく、ユリスが素早く俺達の進路に立ちはだかる。
【ユリス】
「教えてくれたら、俺も代わりに情報提供してあげるけど?」
【ユリス】
「リビドーのことだけじゃなく今回の事件のことについて、ね」
俺とじいは顔を見合わせた。
【クロノ】
「……どういうこと?」
【ユリス】
「だからぁ、情報交換してやってもいいって言ってんの」
【クロノ】
「そうじゃない。なんでお前が事件の詳細を知ってる?」
【ユリス】
「……。それはー、実際話してみてからのお楽しみじゃない?」
【ユリス】
「こう見えて、俺、クロノ以上に色々知ってると思うけどなー」
……明らかに怪しい。
じいは俺と目を合わせ、出方は任せると言わんばかりに一歩下がった。
――さて。
怪しいけど確証がない限りは、下手に問い詰めても逃げられるだけだろうし。
もう少し時間を置いた方が良さそうだ。
【クロノ】
「悪いんだけど、話してる時間がない」
【ユリス】
「……最初っから会話する気ゼロかよ」
【クロノ】
「忙しくなければ、話相手になってやれたんだけど」
【ユリス】
「へえ、忙しいんだ。そう言われると邪魔したくなるなあ」
そう言って威圧的に顔を近づけてくる。
【クロノ】
「なるほど、またキスされたいわけだ」
【ユリス】
「え…。……ひゃ!」
遠慮無く顎を掴むと、ユリスの肩が揺れる。
そして真っ赤な顔のまま、覚悟を決めたようにきつく目をつむる。
【クロノ】
「へえ、目なんて閉じて、お前案外乗り気なんだな」
【クロノ】
「往来でキスされたい程、俺のことが好きなの」
【ユリス】
「なっ……何言って……!」
【クロノ】
「だってそうだろ。今のはどう見ても、
キスを許すっていう仕草だけど」
【クロノ】
「まあ別にどうでもいいけど。そこまでお前に関心ないし」
【クロノ】
「ただの欲求不満ならリビドーでも使ったらどうだ。死神なんだから死なないだろ」
ユリスがわなわなと体を震わせているのを見て、俺はくるりと踵を返し。
さっさと先に歩き出していた、じいを追う。
【ユリス】
「―――バカなこと言ってんじゃねーぞ!!」
背中にぶつけられた金切り声を無視して、その場を後にした。
だから俺は気づかなかった。
ユリスが、唇を噛み締めて、ずっと俺を睨んでいたことを―――。
……
…
長に報告を終えて、部屋に戻ってきた頃には夜になっていた。
【クロノ】
「……疲れた」
人の夢に入るのは、意外と精神力を使うらしい。
連勤は慣れているつもりだったけど、消耗の仕方が違う気がする。
テーブルの上には、じいが置いていった新型リビドーがある。
きっと、あいつは今夜も夢の中にいるんだろう。