[本編] 浅多 侑思 編
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小さい頃から、勉強はできた。
人一倍努力してきたんだから当然のことだった。
だけど、どれだけ頑張っても、出来ないこともあった。
同級生達はそれをはやし立てて馬鹿にする。
厳しかった両親は僕を責め、その度に僕は萎縮する。
だから僕は、完璧にならなければならない。
仕事も、生活も、全てを完璧にしなければならない。
完璧になってようやく、―――僕は僕でいられるんだ。
僕は、ノートパソコンを閉じてイスにもたれる。
ついさっきまで見ていた匿名掲示板では、事件のことが話題になっていた。
謎の突然死。
死体の傍には、同じデザインのヘッドホン。
事故か? 自殺か?
この掲示板を見つけたのは、競合会社の情報収集をしていた時だった。
事件に興味を持って、もっと深いところまで調べてみて分かったことは…
どうやらリビドーという機械を使っていた人間が死んだらしいということだけ。
他の情報サイトでも、それ以上のことはわからなかった。
【浅多 侑思】
「リビドー、ね。ラテン語で『欲望』とかいう意味だったか」
手元にあるヘッドセットを眺めて、苦笑する。
別に死にたいと思ってるわけじゃない。
単なる興味だった。
やがて僕はrakudoというサイトを経由して、リビドーを手に入れたのだ。
それがこのヘッドセット…。
【浅多 侑思】
「単なる興味だ。今も昔も。……それだけだ」
言い訳するように呟き、今夜もまたリビドーを装着して眠りに落ちていく。
その日からずっと、僕はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「28歳、男……」
じいから渡されたプロフィールを確認してから、眠っている男を見下ろす。
俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそうな顔して寝てる」
【アンク】
「左様でございますな。これがリビドーの力です」
【クロノ】
「ああ、憧憬夢ってやつ?」
【アンク】
「ええ、夢主の願望が実現している状態でございますから」
【アンク】
「幸福な気持ちにもなるでしょうね」
【クロノ】
「……俺、昼間のこいつの姿を見たんだけど」
【アンク】
「それはそれは。感想の程は?」
【クロノ】
「バリッとスーツを着こなして、早足で歩いてた」
【クロノ】
「神経質そうに眼鏡を上げる仕草も様になってた」
【クロノ】
「仕事はできそうではあったけど、俺なら、絶対に上司には欲しくない。
厳しそうで」
【クロノ】
「寝入ってから時間も結構経つのに、全然寝乱れてないし」
【クロノ】
「気を張って生きてますって感じ」
【クロノ】
「強いて言うならサムライっぽい」
【アンク】
「なるほど、色々あるのでしょうな、彼にも」
【アンク】
「ではさっそく、夢に参りましょうか、クロノ様」
【アンク】
「時間も限られていることですし」
そう言って、じいが恭しく一歩下がる。
渡された資料を返して、俺は溜息をついた。
【クロノ】
「面倒くさい……」
【アンク】
「何を仰います!事件の真相を探ることがクロノ様のお役目」
【アンク】
「そのサポートをすることが私のお役目でございます」
【アンク】
「お役目はきちんと果たしてこそ、でございますぞ!」
【クロノ】
「……」
じいの目が、使命感に燃えている。
長から直々に命を受けたことだし、俺もきっと腹を括る頃合いなんだろう。
【クロノ】
「わかった……。日も変わるし、そろそろ介入する」
【アンク】
「承知いたしました。それでは……」
【クロノ】
「ごめん、ちょっと待って」
一応、本当に寝てるかを確認するために、浅多の寝顔に顔を近づけて、
じーっと覗き込んでやる。
……けど、特に大きな反応はない。起きる様子もない。
【クロノ】
「…………」
それはそれでちょっと面白くないと思う。
今度は、近付きついでに唇を突っついてみた。
……それでもやっぱり反応はない。
端正な顔の、まつ毛一本動かない。
【クロノ】
「神経質そうな顔の割に、意外と図太いのか?」
【アンク】
「眠りが深いのは、おそらくリビドーか憧憬夢の力でしょう」
【アンク】
「しかし好都合。これなら思う存分、夢の中を探索することができますな」
【アンク】
「では今度こそ夢の中へ……」
【クロノ】
「ああ、もう一つだけ質問いい?」
【アンク】
「……往生際が悪いですな。大の死神がなんと情けない」
【アンク】
「クロノ様には熱意が欠けているのです!仕事に対する熱意が」
【アンク】
「そんなことだから死神長様にも言われるのですよ」
【アンク】
「クロノ様からは、今ひとつやる気が感じられないと」
【クロノ】
「それ、今は関係ないだろ……ああもう……」
【アンク】
「いいえございます!大体クロノ様はいつも物事を深刻に捕えなさすぎるのです。何かにつけて『興味ない』、『面倒くさい』の何れかのお返事ばかり。ほんの200年ほど前までは、多少生意気な部分はあるものの明るくさわやかな好青年で、じいの自慢の…
【クロノ】
(……………長いな)
じいの説教が収まるまで、俺は頬を掻きながら聞いていた。
【アンク】
「いい加減覚悟を決めなされ」
【クロノ】
「…俺はただ質問したかっただけなんだけど」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触していい?それともそっとしといた方がいい?」
じいは、まだ何かを言いたそうに口を動かしたけど。
しぶしぶと言った風に、襟を正した。
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ?ちゃんと責務は果たすよ」
【アンク】
「その意気ですぞ!」
【クロノ】
「…ああ、分かってる」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
【クロノ】
「…………」
じいの横目を笑顔でかわす。
前科っていう言葉に対して、身に覚えがあるからだ。
人一倍努力してきたんだから当然のことだった。
だけど、どれだけ頑張っても、出来ないこともあった。
同級生達はそれをはやし立てて馬鹿にする。
厳しかった両親は僕を責め、その度に僕は萎縮する。
だから僕は、完璧にならなければならない。
仕事も、生活も、全てを完璧にしなければならない。
完璧になってようやく、―――僕は僕でいられるんだ。
僕は、ノートパソコンを閉じてイスにもたれる。
ついさっきまで見ていた匿名掲示板では、事件のことが話題になっていた。
謎の突然死。
死体の傍には、同じデザインのヘッドホン。
事故か? 自殺か?
この掲示板を見つけたのは、競合会社の情報収集をしていた時だった。
事件に興味を持って、もっと深いところまで調べてみて分かったことは…
どうやらリビドーという機械を使っていた人間が死んだらしいということだけ。
他の情報サイトでも、それ以上のことはわからなかった。
【浅多 侑思】
「リビドー、ね。ラテン語で『欲望』とかいう意味だったか」
手元にあるヘッドセットを眺めて、苦笑する。
別に死にたいと思ってるわけじゃない。
単なる興味だった。
やがて僕はrakudoというサイトを経由して、リビドーを手に入れたのだ。
それがこのヘッドセット…。
【浅多 侑思】
「単なる興味だ。今も昔も。……それだけだ」
言い訳するように呟き、今夜もまたリビドーを装着して眠りに落ちていく。
その日からずっと、僕はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「28歳、男……」
じいから渡されたプロフィールを確認してから、眠っている男を見下ろす。
俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそうな顔して寝てる」
【アンク】
「左様でございますな。これがリビドーの力です」
【クロノ】
「ああ、憧憬夢ってやつ?」
【アンク】
「ええ、夢主の願望が実現している状態でございますから」
【アンク】
「幸福な気持ちにもなるでしょうね」
【クロノ】
「……俺、昼間のこいつの姿を見たんだけど」
【アンク】
「それはそれは。感想の程は?」
【クロノ】
「バリッとスーツを着こなして、早足で歩いてた」
【クロノ】
「神経質そうに眼鏡を上げる仕草も様になってた」
【クロノ】
「仕事はできそうではあったけど、俺なら、絶対に上司には欲しくない。
厳しそうで」
【クロノ】
「寝入ってから時間も結構経つのに、全然寝乱れてないし」
【クロノ】
「気を張って生きてますって感じ」
【クロノ】
「強いて言うならサムライっぽい」
【アンク】
「なるほど、色々あるのでしょうな、彼にも」
【アンク】
「ではさっそく、夢に参りましょうか、クロノ様」
【アンク】
「時間も限られていることですし」
そう言って、じいが恭しく一歩下がる。
渡された資料を返して、俺は溜息をついた。
【クロノ】
「面倒くさい……」
【アンク】
「何を仰います!事件の真相を探ることがクロノ様のお役目」
【アンク】
「そのサポートをすることが私のお役目でございます」
【アンク】
「お役目はきちんと果たしてこそ、でございますぞ!」
【クロノ】
「……」
じいの目が、使命感に燃えている。
長から直々に命を受けたことだし、俺もきっと腹を括る頃合いなんだろう。
【クロノ】
「わかった……。日も変わるし、そろそろ介入する」
【アンク】
「承知いたしました。それでは……」
【クロノ】
「ごめん、ちょっと待って」
一応、本当に寝てるかを確認するために、浅多の寝顔に顔を近づけて、
じーっと覗き込んでやる。
……けど、特に大きな反応はない。起きる様子もない。
【クロノ】
「…………」
それはそれでちょっと面白くないと思う。
今度は、近付きついでに唇を突っついてみた。
……それでもやっぱり反応はない。
端正な顔の、まつ毛一本動かない。
【クロノ】
「神経質そうな顔の割に、意外と図太いのか?」
【アンク】
「眠りが深いのは、おそらくリビドーか憧憬夢の力でしょう」
【アンク】
「しかし好都合。これなら思う存分、夢の中を探索することができますな」
【アンク】
「では今度こそ夢の中へ……」
【クロノ】
「ああ、もう一つだけ質問いい?」
【アンク】
「……往生際が悪いですな。大の死神がなんと情けない」
【アンク】
「クロノ様には熱意が欠けているのです!仕事に対する熱意が」
【アンク】
「そんなことだから死神長様にも言われるのですよ」
【アンク】
「クロノ様からは、今ひとつやる気が感じられないと」
【クロノ】
「それ、今は関係ないだろ……ああもう……」
【アンク】
「いいえございます!大体クロノ様はいつも物事を深刻に捕えなさすぎるのです。何かにつけて『興味ない』、『面倒くさい』の何れかのお返事ばかり。ほんの200年ほど前までは、多少生意気な部分はあるものの明るくさわやかな好青年で、じいの自慢の…
【クロノ】
(……………長いな)
じいの説教が収まるまで、俺は頬を掻きながら聞いていた。
【アンク】
「いい加減覚悟を決めなされ」
【クロノ】
「…俺はただ質問したかっただけなんだけど」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触していい?それともそっとしといた方がいい?」
じいは、まだ何かを言いたそうに口を動かしたけど。
しぶしぶと言った風に、襟を正した。
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ?ちゃんと責務は果たすよ」
【アンク】
「その意気ですぞ!」
【クロノ】
「…ああ、分かってる」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
【クロノ】
「…………」
じいの横目を笑顔でかわす。
前科っていう言葉に対して、身に覚えがあるからだ。
