[本編] 春川 樹生 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――……
俺は再び訪れた病院で、人間の姿で中庭に立って蓮の病室を見上げていた。
昨日は、体の回りに障壁を張った上で死神の姿をとったけど。
それでも死期の近い敏感な人間に、気配を感じ取られたという例が数件あることを思い出して、
念には念を入れて、今日は『黒乃』としてここへ来た。
……本来なら人間の格好で様子を見にくる必要もないけど。
【クロノ】
(ここまでして、会いたいか)
自分に問いかける。
返事はイエス。
ここまでして会いたいんだ、ナギの亡霊に。
声をかける気はないのに自分の存在を認識してほしいんだ。
だから誰にでも見えるように人間の姿をとったんだ。
ナギとのことを魂の底から反省していて、絶対に二度と繰り返すものかと思っているなら。
一切の情報を与えないことが優しさであり、最善策だったと痛いほど理解している筈じゃないか。
それでもどうしても、どうしても顔だけでもいいから見たいというのなら。
命を落とすくらい膨大な魔力を使って、
人間どころか鳥や虫にすら気取れないほど強力な障壁を体に張って。
その上で会いにいった方が安全じゃないか。
万が一、お望み通りに姿を見てもらったとして、それからどうする?
自分はただの人間だから無害だと訴えながら近付いて、蓮が気を許した時に魂を狩るのか。
違うだろう。ナギと過ごせなかった時間を取り戻す気だ。
過去のこと? 終わったこと? カタがついたこと? ケリがついていること?
言うだけなら簡単だったな。
夢の中でナギが言ったことを覚えてるか?
『もう僕の身代わりは必要ないよ』って。
それは樹生のことか。蓮のことか。
【クロノ】
「……樹生だ……」
樹生か。じゃあ昨日のはなんだ。
何が『昨夜はごめんね? 無理やりしちゃって。嫌だったろ?』だ。
しれっと謝ってるなよ。
どうせ謝るならついでに蓮のことも気にしててごめんって言えよ。
死神として魂を狩るだけなのに、
必要ないのに足繁く病院に通って様子を見てるって言え。
どうせまた樹生を傷つける気なんだろう。嘘つき。
【クロノ】
「……いつき……」
助けてくれ樹生。
俺が一緒に幸せになりたいと思ってるのは、お前だけだ。
樹生。樹生。樹生。
あと何万回言って聞かせれば、この声は消えるのだろう。
ナギと樹生に向ける感情は同じものじゃない。
同じじゃないんだ。
ふらつきながら立ち去ろうとした時、視界の端に人影が映る。
それは2階の病室の窓から俺を見ているようだった。
……海棠 蓮だった。
【海棠 蓮】
「あれ、あの時の人…?」
【クロノ】
「……」
【海棠 蓮】
「なあ、この間あんたが言ってたのってどういうこと?」
【クロノ】
「……」
俺は何て言えばいいのか分からず、無言のまま海棠を見上げていた。
【海棠 蓮】
「お墓で会ったの、あんただよな?」
【海棠 蓮】
「また会ったら訊こうと思ってたんだよ。…本当に会えると思ってなかったけど」
【海棠 蓮】
「俺、今からそっち行っていいか? 今すぐ行くから、そこでちょっと待ってて」
窓から海棠の姿が消えたと思ったら、また戻ってきて。
【海棠 蓮】
「悪い、無理だった。出て行こうとしたら看護師さんに怒られた…」
【海棠 蓮】
「だからここから訊くけど、あんた誰なの?」
これ以上この距離で話すのは海棠の体調が悪化するかもしれない。
俺は海棠に背を向けて歩きだした。
【海棠 蓮】
「……待って! なんで行っちゃうんだよ……なんで答えてくれないんだよ…」
【海棠 蓮】
「…誰でもいいから、そこのポニーテールの人、引き止めてくれ!」
【海棠 蓮】
「俺の生き別れの兄さんなんだ! 行くなよ…!」
悲痛な叫び声に足を止めて、海棠を見上げた。
【クロノ】
「……ろ」
【海棠 蓮】
「…え?」
【クロノ】
「そこで待ってろ!!」
【海棠 蓮】
「へえ、知り合いのお見舞いか」
【クロノ】
「……この病院の近くに住んでるらしいから」
【海棠 蓮】
「どうぞ座って。立ったままじゃ申し訳ないから。そこのイス使って」
【クロノ】
「いい、大丈夫」
【海棠 蓮】
「そう? まあいいけど」
【海棠 蓮】
「聞こうと思ってたのは、墓参りで会った時に」
【海棠 蓮】
「あんた、じいちゃんの兄弟の知り合いだとか変なこと言ってただろ」
【海棠 蓮】
「あの時さ、『ナギ』って言ったよな」
【海棠 蓮】
「それってじいちゃんの双子の兄貴の名前なんだ。17歳の時に病気で死んだって訊いてるけど」
【海棠 蓮】
「でもよく考えたら、その時代にあんた生まれてるわけないよなってなって」
【海棠 蓮】
「もし会ったら絶対訊こうって思ってたんだけど、説明してくれる?」
【クロノ】
「……俺の知り合いに」
【海棠 蓮】
「うん」
【クロノ】
「……知り合いが持ってた写真に、おまえとそっくりな人が映ってて」
【クロノ】
「その人の名前が『ナギ』だった」
【クロノ】
「古い写真だったから、墓場を歩いてたおまえを見て、幽霊だと思ってびっくりしただけ」
【海棠 蓮】
「……ははは!」
【海棠 蓮】
「幽霊とか酷くね?」
【海棠 蓮】
「まあ俺も、近いうちに死ぬかもしれないから。……はは」
【クロノ】
「……」
【海棠 蓮】
「そうだ、俺の名前教えてなかったよな。ああでも、病室のプレート見たらわかるか」
【海棠 蓮】
「カイドウハチスっていうんだ、俺」
【海棠 蓮】
「ハチスって変わってるだろ? 蓮の花の蓮って書くんだけど、呼びにくいだろ?」
【海棠 蓮】
「だからレンって呼んで。友達は皆そんな風に呼んでるから」
【海棠 蓮】
「で、お兄さんはなんていうの。俺も教えたんだから教えてほしいな」
【クロノ】
「……黒乃」
【海棠 蓮】
「どういう字?」
【クロノ】
「……こう書いて、こう」
【海棠 蓮】
「……うん、わかった。変わった名前だな。俺と同じで。苗字?」
【クロノ】
「……そんなとこ」
【海棠 蓮】
「……? 変なの」
俺は再び訪れた病院で、人間の姿で中庭に立って蓮の病室を見上げていた。
昨日は、体の回りに障壁を張った上で死神の姿をとったけど。
それでも死期の近い敏感な人間に、気配を感じ取られたという例が数件あることを思い出して、
念には念を入れて、今日は『黒乃』としてここへ来た。
……本来なら人間の格好で様子を見にくる必要もないけど。
【クロノ】
(ここまでして、会いたいか)
自分に問いかける。
返事はイエス。
ここまでして会いたいんだ、ナギの亡霊に。
声をかける気はないのに自分の存在を認識してほしいんだ。
だから誰にでも見えるように人間の姿をとったんだ。
ナギとのことを魂の底から反省していて、絶対に二度と繰り返すものかと思っているなら。
一切の情報を与えないことが優しさであり、最善策だったと痛いほど理解している筈じゃないか。
それでもどうしても、どうしても顔だけでもいいから見たいというのなら。
命を落とすくらい膨大な魔力を使って、
人間どころか鳥や虫にすら気取れないほど強力な障壁を体に張って。
その上で会いにいった方が安全じゃないか。
万が一、お望み通りに姿を見てもらったとして、それからどうする?
自分はただの人間だから無害だと訴えながら近付いて、蓮が気を許した時に魂を狩るのか。
違うだろう。ナギと過ごせなかった時間を取り戻す気だ。
過去のこと? 終わったこと? カタがついたこと? ケリがついていること?
言うだけなら簡単だったな。
夢の中でナギが言ったことを覚えてるか?
『もう僕の身代わりは必要ないよ』って。
それは樹生のことか。蓮のことか。
【クロノ】
「……樹生だ……」
樹生か。じゃあ昨日のはなんだ。
何が『昨夜はごめんね? 無理やりしちゃって。嫌だったろ?』だ。
しれっと謝ってるなよ。
どうせ謝るならついでに蓮のことも気にしててごめんって言えよ。
死神として魂を狩るだけなのに、
必要ないのに足繁く病院に通って様子を見てるって言え。
どうせまた樹生を傷つける気なんだろう。嘘つき。
【クロノ】
「……いつき……」
助けてくれ樹生。
俺が一緒に幸せになりたいと思ってるのは、お前だけだ。
樹生。樹生。樹生。
あと何万回言って聞かせれば、この声は消えるのだろう。
ナギと樹生に向ける感情は同じものじゃない。
同じじゃないんだ。
ふらつきながら立ち去ろうとした時、視界の端に人影が映る。
それは2階の病室の窓から俺を見ているようだった。
……海棠 蓮だった。
【海棠 蓮】
「あれ、あの時の人…?」
【クロノ】
「……」
【海棠 蓮】
「なあ、この間あんたが言ってたのってどういうこと?」
【クロノ】
「……」
俺は何て言えばいいのか分からず、無言のまま海棠を見上げていた。
【海棠 蓮】
「お墓で会ったの、あんただよな?」
【海棠 蓮】
「また会ったら訊こうと思ってたんだよ。…本当に会えると思ってなかったけど」
【海棠 蓮】
「俺、今からそっち行っていいか? 今すぐ行くから、そこでちょっと待ってて」
窓から海棠の姿が消えたと思ったら、また戻ってきて。
【海棠 蓮】
「悪い、無理だった。出て行こうとしたら看護師さんに怒られた…」
【海棠 蓮】
「だからここから訊くけど、あんた誰なの?」
これ以上この距離で話すのは海棠の体調が悪化するかもしれない。
俺は海棠に背を向けて歩きだした。
【海棠 蓮】
「……待って! なんで行っちゃうんだよ……なんで答えてくれないんだよ…」
【海棠 蓮】
「…誰でもいいから、そこのポニーテールの人、引き止めてくれ!」
【海棠 蓮】
「俺の生き別れの兄さんなんだ! 行くなよ…!」
悲痛な叫び声に足を止めて、海棠を見上げた。
【クロノ】
「……ろ」
【海棠 蓮】
「…え?」
【クロノ】
「そこで待ってろ!!」
【海棠 蓮】
「へえ、知り合いのお見舞いか」
【クロノ】
「……この病院の近くに住んでるらしいから」
【海棠 蓮】
「どうぞ座って。立ったままじゃ申し訳ないから。そこのイス使って」
【クロノ】
「いい、大丈夫」
【海棠 蓮】
「そう? まあいいけど」
【海棠 蓮】
「聞こうと思ってたのは、墓参りで会った時に」
【海棠 蓮】
「あんた、じいちゃんの兄弟の知り合いだとか変なこと言ってただろ」
【海棠 蓮】
「あの時さ、『ナギ』って言ったよな」
【海棠 蓮】
「それってじいちゃんの双子の兄貴の名前なんだ。17歳の時に病気で死んだって訊いてるけど」
【海棠 蓮】
「でもよく考えたら、その時代にあんた生まれてるわけないよなってなって」
【海棠 蓮】
「もし会ったら絶対訊こうって思ってたんだけど、説明してくれる?」
【クロノ】
「……俺の知り合いに」
【海棠 蓮】
「うん」
【クロノ】
「……知り合いが持ってた写真に、おまえとそっくりな人が映ってて」
【クロノ】
「その人の名前が『ナギ』だった」
【クロノ】
「古い写真だったから、墓場を歩いてたおまえを見て、幽霊だと思ってびっくりしただけ」
【海棠 蓮】
「……ははは!」
【海棠 蓮】
「幽霊とか酷くね?」
【海棠 蓮】
「まあ俺も、近いうちに死ぬかもしれないから。……はは」
【クロノ】
「……」
【海棠 蓮】
「そうだ、俺の名前教えてなかったよな。ああでも、病室のプレート見たらわかるか」
【海棠 蓮】
「カイドウハチスっていうんだ、俺」
【海棠 蓮】
「ハチスって変わってるだろ? 蓮の花の蓮って書くんだけど、呼びにくいだろ?」
【海棠 蓮】
「だからレンって呼んで。友達は皆そんな風に呼んでるから」
【海棠 蓮】
「で、お兄さんはなんていうの。俺も教えたんだから教えてほしいな」
【クロノ】
「……黒乃」
【海棠 蓮】
「どういう字?」
【クロノ】
「……こう書いて、こう」
【海棠 蓮】
「……うん、わかった。変わった名前だな。俺と同じで。苗字?」
【クロノ】
「……そんなとこ」
【海棠 蓮】
「……? 変なの」
