[本編] 春川 樹生 編
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クロノと人間界で、暮らすようになってから3年。
幾つかの季節を共に過ごしたけど、オレは少しは変われたかな?
自分で言うのもなんだけど、友達も増えたし、冗談を言える間柄になれたと思う。
その人達は口を揃えて、少しだけ申し訳なさそうに。
『春川くんってもっと暗い人なのかと思ってた』って言う。
オレは笑って、そうだねって返事をする。
確かに今までオレは、人を遠ざけてた部分があったからね。
おまえと一緒に過ごして、オレ達の間に起こった出来事が、オレを成長させてくれたんだと思う。
クロノはどうかな。
オレと一緒にいて、何か変わった?
おまえは、自分のことはあまり話してくれないから、わからないけど。
…でも本当はそんなことは関係なくて、オレには変わらない決意がある。
おまえと一緒にいた数年間に育んできた、何があっても揺らがない密かな決意。
おまえがオレを助けてくれたように、変えてくれたように。
今度は、オレがおまえの力になる。
――――――……
【クロノ】
「もう、こんな季節かあ」
辺りの景色を見渡すと、隣を歩いている樹生は花束を抱え直して、そうだねと懐かしそうに笑う。
その表情は……
以前のような陰はなく、純粋に昔を懐かしんでいる笑顔に、つられて俺も微笑み返した。
今日は、生汰の墓参り。
品揃えのいい花屋を俺が調べて、一番豪華な花を買ってきた。
俺と樹生は毎年欠かさず、この日にここに来ている。
この数年の出来事を思い出すと幸せな気持ちが湧いてきて、
最終的にはムラッとするのが俺の習性。
さりげなく樹生の尻に手を伸ばすと、ここはお墓だぞと注意されてしまった。
いけないいけない、こういうのは駄目なんだった。
【春川 樹生】
「毎年ごめんな、付き合わせて」
【春川 樹生】
「墓参りなんて、一緒に来たって楽しくないだろ?」
【クロノ】
「そんなこと言わないの。もう、俺自身のことでもあるんだから」
俺達は家族であり恋人であり、一心同体っていったらおおげさだけど。
とどのつまりは、楽しい時も悲しい時も2人一緒ってことだ。
樹生もそう思ってくれているようで、驚いた顔じゃなく、
目元を少しだけ赤くして嬉しそうに瞼を伏せる。
【春川 樹生】
「うん、そうだな」
【クロノ】
「だろ? それにお墓って、俺は好きだよ」
【春川 樹生】
「へえ……どうして?」
【クロノ】
「皆が静かに眠ってる場所だから」
【春川 樹生】
「クロノも眠たくなる?」
捲れた花びらを直しながら、樹生はおどけた調子で言う。
肩を竦めて見やった墓石の向こうで、木々が気持ち良さそうに揺れていた。
うららかな午後、魂が眠る場所には、今日も優しい時間が流れている。
【クロノ】
「赤ん坊が眠ってるの見るのに似てる。つられて眠くなる感じ」
【クロノ】
「あ、不謹慎だって、怒らないでよ?」
【春川 樹生】
「はは、怒らないよ」
【春川 樹生】
「おまえは、命に触れてきた中で、魂の暖かさとか手触りを知ってるはずだから」
【春川 樹生】
「怒られるなら、むしろオレの方かもしれないよ」
【春川 樹生】
「行儀とか作法とかじゃなくて、もっと精神的な意味での作法がなってないってさ」
細くなった道を行く樹生の背中。
俺がぶら下げている手桶の中、揺れるひしゃくの音が追う。
【春川 樹生】
「きっと、ここに眠ってる魂も、おまえが来て」
【春川 樹生】
「昔お世話になりました、なんて思ってるかもしれない」
立ち並ぶ墓石に視線を流してみた。
【春川 樹生】
「聞こえる? クロノには」
【クロノ】
「……」
転生を待つ魂は別の場所にいる。
ここにいる魂は、本当に眠っている。
【クロノ】
「寝息しか聞こえない」
腰を折って笑った樹生の顔は花束よりも明るい。
生汰のお墓は、もうすぐ。
【春川 樹生】
「作法は去年から教えたよな。今年もその通りに」
【クロノ】
「りょーかい」
樹生は、その道のプロに教えるのは気が引けるけどと言いながら、
初めての墓参りの際に魂の弔い方を教えてくれた。
郷に入っては郷に従えで、俺はそれをきちんと覚えて、今日も実行に移す。
生汰の墓前、樹生の隣で。
こうだっけとか思い出しながらお辞儀をして顔を上げると、目をつむった無防備な横顔があって。
そっと顔を寄せて頬にキスをすると、樹生はびくりと身体を跳ねさせ頬を染めた。相変わらず可愛い反応。
【春川 樹生】
「……」
薄く目を開けた樹生が、文句がありそうな視線を投げてきた。
俺は一歩だけ近付いて両手を後ろに回してみせて、場違いなことはしないよという意思表示。
それを察した樹生は、仕方ないという風に眉を下げる。
【クロノ】
「ちょっとだけ」
【春川 樹生】
「約束だぞ」
唇へのキスより早く、樹生が俺の額に口づけた。
俺の胸はそれだけで満ちる。
【春川 樹生】
「ほら、しゃんとして」
【クロノ】
「……仕方ない」
口元が緩むのを隠さず、俺はそこから先は大人しくした。
生汰のことは嫌いじゃない。慈しむ気持ちもある。
全てが終わった今だからこそ、好意的に思えるのかもしれないけど。
過去に強く想っていた人のことを、そう簡単に忘れられるはずがない。
樹生だって。俺だって。
その辺は割りきって考えるしかないというところに落ち着いている。
この考え方は昔からだと思う。
だけど常に、相反する感情を押し込めていた。
嫉妬深くて凶暴な自分を殺して、涼しい顔をして生きている。
『あの出来事』がきっかけで、人間と深く関わるのをやめた筈だと自分に言い聞かせて。
常に目の前にちらつかせることで、向き合うべきものから目を背けてきたのも。
自分の弱さや醜い部分を隠すための自己防衛だった。
俺はこんな自分が嫌いだ。
もっと強くなりたいと願い始めて、どれくらい経つだろう。
【クロノ】
「…他にも人がいる。こんな時期なのに、珍しい」
少し離れたところの墓前に、1人の少年。
彼は花を供えた後で腰を上げ、立ち去るところだった。
【春川 樹生】
「あまり見るのは良くないよ」
【クロノ】
「うん……――――」
花びらが、ひとひら落ちる。
――――あの病室、あの時の高校生。
その少年は、彼に瓜二つだった。
【クロノ】
「……な」
【春川 樹生】
「…? 知り合い?」
樹生に返事をしようとしたが、その間にも少年の姿が見えなくなりそうだった。
ちょっと待っててと手振りで伝えて、俺は彼に向かって走る。
鼻筋の細い横顔、切れ長の目、それは正しくあの病室で見ていた横顔だった。
走り続けて近付くに連れ、目の前の景色に思い出が侵食し始める。
仄暗い病室の壁に反射する空の青、窓の向こうに咲き乱れる蜜柑色。
消毒液の匂いのするベッドの上、点滴に繋がれて痩せた体を横たえながら、
もう少しで冬だねと笑う彼。
【クロノ】
(ナギ……!)
駆け寄ってくる慌ただしい足音に、彼が振り返った時。
俺の心臓は止まったかもしれない。
目の前に、あいつがいる。
【クロノ】
「ナギ……?」
彼は足を止め、じっと俺を見返していた。
その眉根が近付いて、訝しむような表情に変化したのを見て、俺は俯く。
幾つかの季節を共に過ごしたけど、オレは少しは変われたかな?
自分で言うのもなんだけど、友達も増えたし、冗談を言える間柄になれたと思う。
その人達は口を揃えて、少しだけ申し訳なさそうに。
『春川くんってもっと暗い人なのかと思ってた』って言う。
オレは笑って、そうだねって返事をする。
確かに今までオレは、人を遠ざけてた部分があったからね。
おまえと一緒に過ごして、オレ達の間に起こった出来事が、オレを成長させてくれたんだと思う。
クロノはどうかな。
オレと一緒にいて、何か変わった?
おまえは、自分のことはあまり話してくれないから、わからないけど。
…でも本当はそんなことは関係なくて、オレには変わらない決意がある。
おまえと一緒にいた数年間に育んできた、何があっても揺らがない密かな決意。
おまえがオレを助けてくれたように、変えてくれたように。
今度は、オレがおまえの力になる。
――――――……
【クロノ】
「もう、こんな季節かあ」
辺りの景色を見渡すと、隣を歩いている樹生は花束を抱え直して、そうだねと懐かしそうに笑う。
その表情は……
以前のような陰はなく、純粋に昔を懐かしんでいる笑顔に、つられて俺も微笑み返した。
今日は、生汰の墓参り。
品揃えのいい花屋を俺が調べて、一番豪華な花を買ってきた。
俺と樹生は毎年欠かさず、この日にここに来ている。
この数年の出来事を思い出すと幸せな気持ちが湧いてきて、
最終的にはムラッとするのが俺の習性。
さりげなく樹生の尻に手を伸ばすと、ここはお墓だぞと注意されてしまった。
いけないいけない、こういうのは駄目なんだった。
【春川 樹生】
「毎年ごめんな、付き合わせて」
【春川 樹生】
「墓参りなんて、一緒に来たって楽しくないだろ?」
【クロノ】
「そんなこと言わないの。もう、俺自身のことでもあるんだから」
俺達は家族であり恋人であり、一心同体っていったらおおげさだけど。
とどのつまりは、楽しい時も悲しい時も2人一緒ってことだ。
樹生もそう思ってくれているようで、驚いた顔じゃなく、
目元を少しだけ赤くして嬉しそうに瞼を伏せる。
【春川 樹生】
「うん、そうだな」
【クロノ】
「だろ? それにお墓って、俺は好きだよ」
【春川 樹生】
「へえ……どうして?」
【クロノ】
「皆が静かに眠ってる場所だから」
【春川 樹生】
「クロノも眠たくなる?」
捲れた花びらを直しながら、樹生はおどけた調子で言う。
肩を竦めて見やった墓石の向こうで、木々が気持ち良さそうに揺れていた。
うららかな午後、魂が眠る場所には、今日も優しい時間が流れている。
【クロノ】
「赤ん坊が眠ってるの見るのに似てる。つられて眠くなる感じ」
【クロノ】
「あ、不謹慎だって、怒らないでよ?」
【春川 樹生】
「はは、怒らないよ」
【春川 樹生】
「おまえは、命に触れてきた中で、魂の暖かさとか手触りを知ってるはずだから」
【春川 樹生】
「怒られるなら、むしろオレの方かもしれないよ」
【春川 樹生】
「行儀とか作法とかじゃなくて、もっと精神的な意味での作法がなってないってさ」
細くなった道を行く樹生の背中。
俺がぶら下げている手桶の中、揺れるひしゃくの音が追う。
【春川 樹生】
「きっと、ここに眠ってる魂も、おまえが来て」
【春川 樹生】
「昔お世話になりました、なんて思ってるかもしれない」
立ち並ぶ墓石に視線を流してみた。
【春川 樹生】
「聞こえる? クロノには」
【クロノ】
「……」
転生を待つ魂は別の場所にいる。
ここにいる魂は、本当に眠っている。
【クロノ】
「寝息しか聞こえない」
腰を折って笑った樹生の顔は花束よりも明るい。
生汰のお墓は、もうすぐ。
【春川 樹生】
「作法は去年から教えたよな。今年もその通りに」
【クロノ】
「りょーかい」
樹生は、その道のプロに教えるのは気が引けるけどと言いながら、
初めての墓参りの際に魂の弔い方を教えてくれた。
郷に入っては郷に従えで、俺はそれをきちんと覚えて、今日も実行に移す。
生汰の墓前、樹生の隣で。
こうだっけとか思い出しながらお辞儀をして顔を上げると、目をつむった無防備な横顔があって。
そっと顔を寄せて頬にキスをすると、樹生はびくりと身体を跳ねさせ頬を染めた。相変わらず可愛い反応。
【春川 樹生】
「……」
薄く目を開けた樹生が、文句がありそうな視線を投げてきた。
俺は一歩だけ近付いて両手を後ろに回してみせて、場違いなことはしないよという意思表示。
それを察した樹生は、仕方ないという風に眉を下げる。
【クロノ】
「ちょっとだけ」
【春川 樹生】
「約束だぞ」
唇へのキスより早く、樹生が俺の額に口づけた。
俺の胸はそれだけで満ちる。
【春川 樹生】
「ほら、しゃんとして」
【クロノ】
「……仕方ない」
口元が緩むのを隠さず、俺はそこから先は大人しくした。
生汰のことは嫌いじゃない。慈しむ気持ちもある。
全てが終わった今だからこそ、好意的に思えるのかもしれないけど。
過去に強く想っていた人のことを、そう簡単に忘れられるはずがない。
樹生だって。俺だって。
その辺は割りきって考えるしかないというところに落ち着いている。
この考え方は昔からだと思う。
だけど常に、相反する感情を押し込めていた。
嫉妬深くて凶暴な自分を殺して、涼しい顔をして生きている。
『あの出来事』がきっかけで、人間と深く関わるのをやめた筈だと自分に言い聞かせて。
常に目の前にちらつかせることで、向き合うべきものから目を背けてきたのも。
自分の弱さや醜い部分を隠すための自己防衛だった。
俺はこんな自分が嫌いだ。
もっと強くなりたいと願い始めて、どれくらい経つだろう。
【クロノ】
「…他にも人がいる。こんな時期なのに、珍しい」
少し離れたところの墓前に、1人の少年。
彼は花を供えた後で腰を上げ、立ち去るところだった。
【春川 樹生】
「あまり見るのは良くないよ」
【クロノ】
「うん……――――」
花びらが、ひとひら落ちる。
――――あの病室、あの時の高校生。
その少年は、彼に瓜二つだった。
【クロノ】
「……な」
【春川 樹生】
「…? 知り合い?」
樹生に返事をしようとしたが、その間にも少年の姿が見えなくなりそうだった。
ちょっと待っててと手振りで伝えて、俺は彼に向かって走る。
鼻筋の細い横顔、切れ長の目、それは正しくあの病室で見ていた横顔だった。
走り続けて近付くに連れ、目の前の景色に思い出が侵食し始める。
仄暗い病室の壁に反射する空の青、窓の向こうに咲き乱れる蜜柑色。
消毒液の匂いのするベッドの上、点滴に繋がれて痩せた体を横たえながら、
もう少しで冬だねと笑う彼。
【クロノ】
(ナギ……!)
駆け寄ってくる慌ただしい足音に、彼が振り返った時。
俺の心臓は止まったかもしれない。
目の前に、あいつがいる。
【クロノ】
「ナギ……?」
彼は足を止め、じっと俺を見返していた。
その眉根が近付いて、訝しむような表情に変化したのを見て、俺は俯く。
