[本編] 春川 樹生 編
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生汰が死んでから、もう何年が過ぎただろう。
一緒に暮らした期間は、たったの16年。
生汰がまだ小さかった頃の記憶。
今でも思い出す笑顔。
それから……。
何かが出来たんじゃないかって、何度もそう思う。
生汰のために、オレには出来る事があったはずだ。
無力で臆病なオレは、これ以上大切なものを失わないように。
何かから隠れるように、ひっそり生きている。
【春川 樹生】
「え?西尾が……死んだ?」
【春川 樹生】
「そんな……」
【春川 樹生】
(死んだなんて……嘘だ)
始業前の朝礼で、社長が口にしたのは同僚の死だった。
……昨日まで元気に働いていた人間が、ふっと消えるようにこの世を去る。
なんとも言えない不快な気持ちがこみ上げてくると同時に、疑問も湧いてくる。
でも、今は朝礼だ……朝からこんな話を聞かされて、他の社員達も気分が悪くなっているはず…。
【社長】
「詳しい事は分からんが、皆も気をつけるように」
【社長】
「……葬儀には、私が出席する予定になっている。…以上だ。仕事を始めてくれ」
そして―――朝礼が終わり、仕事へ向かう社員達を横目に、社長の元へ駆け寄った。
【春川 樹生】
「社長、西尾はどうして……何が原因だったんですか?」
【社長】
「……自分の部屋でな、眠るようにして亡くなったらしい」
【社長】
「お前も良ければ、個人的に行ってやってくれ……」
【春川 樹生】
「……え? わ、分かりました……」
……眠るように、か。
オレはある事件を思い出していた。
最近、巷で騒がれている脳波装置『リビドー』。
自分の願望通りに夢を操る事が出来る装置。
その限界を超えた使用によって、何人か死んでいる。
【大山】
「西尾、使ってたみたいだぜ。アレ」
【春川 樹生】
「アレって……、もしかしてリビドー?」
考え事をしていたオレの背後から大山が話しかけてくる。
【大山】
「そうそう。リビドー」
【大山】
「そんなに夢がいいのかね?現実で願望通りになるように頑張った方が建設的じゃね?」
【春川 樹生】
「……………」
……普通の人ならそうなんだろう。
でもオレは、現実では決して叶わない願望があることも知っている。
―――例えば、死んだ生汰に会いたいとか。
どれだけ頑張っても、その願いは絶対に叶う事はない。
だから……。
慣れないパソコンで必死に探して……、俺はある日とうとう、リビドーの通販サイトを探し出した
―――その日からずっと、オレはリビドーを使い続けている。
「……こいつか」
ベッドの上にリビドーをつけた男が眠っている。
【クロノ】
「春川樹生、25歳、男……趣味は身体を動かす事」
【クロノ】
「顔はそこそこ整ってるのに恋人なし…か」
【クロノ】
「過去の交際も長続きしてないみたいだし」
【クロノ】
「リビドーを使って理想の恋人の夢でも見てるのかね」
【アンク】
「以前確認した時は、兄弟で話している夢でございましたね」
【クロノ】
「うん。覚えてる。普通の夢だった」
【クロノ】
「今見てる夢も、ややこしい夢じゃなきゃいいけど」
じいからもらった資料に書いてあるプロフィールを読みながら、目の前で眠っている春川を見下ろす。
ベッドの上で春川は静かな寝息を立てている。
深く眠っているようで、ちょっとやそっとじゃ起きそうもない。
けど、寝顔はとても幸福そうだ。
きっとさぞかし良い夢を見てるんだろう。
【クロノ】
「これがリビドーの力?」
【クロノ】
「今は夢を見てる最中ってわけ?」
【アンク】
「はい、夢主の願望が実現している状態でございます」
【クロノ】
「ふーん。こんなに幸せそうなのに、あと13日で死ぬ運命か……」
【アンク】
「ええ。このままですと、そういう事になりますな」
【アンク】
「調査が上手く行けば……あるいはもっと寿命が伸びるやもしれませんが」
【クロノ】
「まあ……やってみるよ」
春川の外見は爽やかな青年って感じだ。
身体を動かすのが好きなだけあって、健康的だし、体格もがっしりしている。
けれど、寝顔が幸せそう過ぎて、却って現実は辛いのではないかという感じがした。
多分、その影ってやつがリビドーを使うことになった切っ掛けなんだろう。
壁にかかった時計を見ると、午前0時になろうとしていた。
【クロノ】
「日付が変わるか。そろそろ夢への介入を始める」
【アンク】
「承知いたしました。初めての試みですので、どうぞお気をつけて」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいいの?」
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ?ふーん、俺が何かすると思ってるわけ?」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
じいのジト目を笑顔でかわす。
人間相手の前科はないけど…前科って言葉には身に覚えがあるからだ。
【クロノ】
「いくら俺でも、期限の近付いてる仕事の最中に火遊びはしない」
まさか、じいに窘められるとは思っていなかった。
言われなくても、人間とは深く付き合うつもりはない。
【クロノ】
「これでも死神の端くれなんで、一応弁えてるつもり」
春川が寝ているベッドの横に、ごろんと寝転がる。
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう一つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊こうとした時、ヘッドセットを頭に被せられたことが感覚で分かった。
【クロノ】
「うん。最初だし、無茶なんてする気ない」
それにしても……。
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうな、と不意に思う。
【クロノ】
(他人の欲望にまみれた夢の中か……やっぱ面倒)
【クロノ】
「それじゃ、行ってくる」
【アンク】
「行ってらっしゃいませ」
なんとなく、じいがにこやかに俺を見ている気がした。
そんな中、自分の頭にセットされたリビドーのスイッチを入れた。
【クロノ】
(……っ、これは……!)
突然、急降下するような感覚に襲われて、慌てて目を開けると。
そこは……。
まるで高所から落下したような衝撃を感じる。
一緒に暮らした期間は、たったの16年。
生汰がまだ小さかった頃の記憶。
今でも思い出す笑顔。
それから……。
何かが出来たんじゃないかって、何度もそう思う。
生汰のために、オレには出来る事があったはずだ。
無力で臆病なオレは、これ以上大切なものを失わないように。
何かから隠れるように、ひっそり生きている。
【春川 樹生】
「え?西尾が……死んだ?」
【春川 樹生】
「そんな……」
【春川 樹生】
(死んだなんて……嘘だ)
始業前の朝礼で、社長が口にしたのは同僚の死だった。
……昨日まで元気に働いていた人間が、ふっと消えるようにこの世を去る。
なんとも言えない不快な気持ちがこみ上げてくると同時に、疑問も湧いてくる。
でも、今は朝礼だ……朝からこんな話を聞かされて、他の社員達も気分が悪くなっているはず…。
【社長】
「詳しい事は分からんが、皆も気をつけるように」
【社長】
「……葬儀には、私が出席する予定になっている。…以上だ。仕事を始めてくれ」
そして―――朝礼が終わり、仕事へ向かう社員達を横目に、社長の元へ駆け寄った。
【春川 樹生】
「社長、西尾はどうして……何が原因だったんですか?」
【社長】
「……自分の部屋でな、眠るようにして亡くなったらしい」
【社長】
「お前も良ければ、個人的に行ってやってくれ……」
【春川 樹生】
「……え? わ、分かりました……」
……眠るように、か。
オレはある事件を思い出していた。
最近、巷で騒がれている脳波装置『リビドー』。
自分の願望通りに夢を操る事が出来る装置。
その限界を超えた使用によって、何人か死んでいる。
【大山】
「西尾、使ってたみたいだぜ。アレ」
【春川 樹生】
「アレって……、もしかしてリビドー?」
考え事をしていたオレの背後から大山が話しかけてくる。
【大山】
「そうそう。リビドー」
【大山】
「そんなに夢がいいのかね?現実で願望通りになるように頑張った方が建設的じゃね?」
【春川 樹生】
「……………」
……普通の人ならそうなんだろう。
でもオレは、現実では決して叶わない願望があることも知っている。
―――例えば、死んだ生汰に会いたいとか。
どれだけ頑張っても、その願いは絶対に叶う事はない。
だから……。
慣れないパソコンで必死に探して……、俺はある日とうとう、リビドーの通販サイトを探し出した
―――その日からずっと、オレはリビドーを使い続けている。
「……こいつか」
ベッドの上にリビドーをつけた男が眠っている。
【クロノ】
「春川樹生、25歳、男……趣味は身体を動かす事」
【クロノ】
「顔はそこそこ整ってるのに恋人なし…か」
【クロノ】
「過去の交際も長続きしてないみたいだし」
【クロノ】
「リビドーを使って理想の恋人の夢でも見てるのかね」
【アンク】
「以前確認した時は、兄弟で話している夢でございましたね」
【クロノ】
「うん。覚えてる。普通の夢だった」
【クロノ】
「今見てる夢も、ややこしい夢じゃなきゃいいけど」
じいからもらった資料に書いてあるプロフィールを読みながら、目の前で眠っている春川を見下ろす。
ベッドの上で春川は静かな寝息を立てている。
深く眠っているようで、ちょっとやそっとじゃ起きそうもない。
けど、寝顔はとても幸福そうだ。
きっとさぞかし良い夢を見てるんだろう。
【クロノ】
「これがリビドーの力?」
【クロノ】
「今は夢を見てる最中ってわけ?」
【アンク】
「はい、夢主の願望が実現している状態でございます」
【クロノ】
「ふーん。こんなに幸せそうなのに、あと13日で死ぬ運命か……」
【アンク】
「ええ。このままですと、そういう事になりますな」
【アンク】
「調査が上手く行けば……あるいはもっと寿命が伸びるやもしれませんが」
【クロノ】
「まあ……やってみるよ」
春川の外見は爽やかな青年って感じだ。
身体を動かすのが好きなだけあって、健康的だし、体格もがっしりしている。
けれど、寝顔が幸せそう過ぎて、却って現実は辛いのではないかという感じがした。
多分、その影ってやつがリビドーを使うことになった切っ掛けなんだろう。
壁にかかった時計を見ると、午前0時になろうとしていた。
【クロノ】
「日付が変わるか。そろそろ夢への介入を始める」
【アンク】
「承知いたしました。初めての試みですので、どうぞお気をつけて」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいいの?」
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ?ふーん、俺が何かすると思ってるわけ?」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
じいのジト目を笑顔でかわす。
人間相手の前科はないけど…前科って言葉には身に覚えがあるからだ。
【クロノ】
「いくら俺でも、期限の近付いてる仕事の最中に火遊びはしない」
まさか、じいに窘められるとは思っていなかった。
言われなくても、人間とは深く付き合うつもりはない。
【クロノ】
「これでも死神の端くれなんで、一応弁えてるつもり」
春川が寝ているベッドの横に、ごろんと寝転がる。
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう一つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊こうとした時、ヘッドセットを頭に被せられたことが感覚で分かった。
【クロノ】
「うん。最初だし、無茶なんてする気ない」
それにしても……。
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうな、と不意に思う。
【クロノ】
(他人の欲望にまみれた夢の中か……やっぱ面倒)
【クロノ】
「それじゃ、行ってくる」
【アンク】
「行ってらっしゃいませ」
なんとなく、じいがにこやかに俺を見ている気がした。
そんな中、自分の頭にセットされたリビドーのスイッチを入れた。
【クロノ】
(……っ、これは……!)
突然、急降下するような感覚に襲われて、慌てて目を開けると。
そこは……。
まるで高所から落下したような衝撃を感じる。
