[本編] 国重 昴正 編
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【クロノ】
「…………ん」
【国重 昂正】
「珍しく照れてんな?変なとこで可愛げあるよなあ、お前」
俺の返事が曖昧になったのを見て、昂正はことさら俺の髪を掻き混ぜた。
辿り着いたのは、古い雑居ビル。
持っているパンフレットと名刺によれば、
ここの2階に事務所がある筈だ。
昂正は迷わずに中に足を踏み入れて階段を上がり、
幾つか点在する扉を左手に据えて、奥の通路まで歩き――舌打ちした。
【クロノ】
「もぬけの空……。何のテナントも入ってないじゃん」
【国重 昂正】
「くそ! 逃げられたか…!」
【国重 昂正】
「手分けして、他のフロアも見てみるぞ。お前は姿消したまま、管理人室覗いて来い」
【クロノ】
「助手使い荒いんだから…」
クロノがのろのろと階下に向かった後。
俺はまず、元々アビスが入っていた部屋の中を探してみることにした。
夜逃げとか、慌てて退去したのなら、手掛かりが残されている可能性が高い。
残されていた机の引き出しを漁ったり、何か落ちてないかと床に這いつくばってみたりしていると。
不意に、自分に影がかかるくらい近くに、誰かの気配を感じて顔を上げる。
『そっちはどうだった』と言おうとした口が強張った。
それはクロノではなく、包帯を巻き付けた異様な風体の人物だった。
驚いた俺は、一気にそいつと距離を取る。
何を言うでもなく突っ立っているその姿は異様で、
薄ら寒いものを覚えたが、すぐに俺の直感が告げた。
【国重 昂正】
「てめえが黒幕か」
【???】
「クク……どうだと思う?」
【国重 昂正】
「こっちが訊いてんだ。質問に答えろ」
【???】
「っていうか、そっちこそ勝手にこんな所入っていいのかよ。ケーサツ呼ばれたら面倒なことになるんじゃねえの?」
【???】
「あ、そっか。おじさんは今まで積み上げてきた信頼があるから、別に呼ばれたところで痛くも痒くもないかぁ」
【国重 昂正】
「……」
【???】
「そこで、『なんで俺のことを知ってる』って激昂しないのは褒めてやるよ」
【???】
「そんなことしたら、その通りですって言ってるようなモンだもんね~、いやさすが年の功?」
【国重 昂正】
「いい加減質問に答えろ。てめえはここに入ってた事務所の関係者か? それともただの通りすがりか?」
【???】
「気になる? じゃあこれ見てみて」
そいつが取り出したのは液晶タブレットだった。
【???】
「数日前、ここの向かいのビルから隠し撮りした映像」
【???】
「きっと、そいつらの行方が映ってるはずだよ」
【国重 昂正】
「……なんでそれを俺に見せる?」
【???】
「だって探してるんだろ? たまたまそれっぽい映像を持ってたから、見せてやろうとしてるだけじゃん」
【国重 昂正】
「ろくに面識もねえような奴に、よく親切にしてやる気になるなぁ?」
【???】
「この近くに住んでんだよ。今日だってこのビルん中歩いて回ってた」
【国重 昂正】
「何のために」
【???】
「勘ぐるね~。ははは、別にいいけど」
【???】
「空になった雑居ビルなんて、宝の山じゃねえか。落ちてるモンを探すのが趣味」
【???】
「ほら、俺ってこんな外見だろ?」
【???】
「迂闊に外も歩けないし、かと言って家ん中に引きこもってるのもつまんなくてなぁ」
【???】
「趣味はもっぱらこうやって、人気のねえような屋内をうろつくことだけさ」
【???】
「ま、別に、映像を見るか見ないかは好きにしろよ。あんたに見せたくて持ってきたわけじゃねえし」
クロノは、人間以外の者がこの事件に関わっている可能性が高いと言っていた。
この得体の知れない人物に迂闊に近付くことは危険かもしれないが、
映像を見るくらいなら問題はないだろう。……今は少しでも情報がほしい。
【国重 昂正】
「……こっちに投げて寄越せ」
【???】
「は? 精密機械なんですけど?」
【???】
「つか操作わかんのかよオッサン」
【国重 昂正】
「再生ボタン押すだけの状態にして、こっちに投げろっつってんだよ」
【???】
「はいはい、ガードが硬いねー」
【???】
「くれぐれも落とすなよ。壊したら弁償してもらうかんな」
そいつは数メートル離れた状態で、弧を描くようにそれを放り投げる。
何とかキャッチし、男の仕草を気にかけながら再生ボタンを押す。
白いノイズが走って、何かの映像が浮かんだ。
ちらりと包帯男を見やると、のんびりと俺の様子を見守っている。
俺は……奇妙な違和感を覚えた。
【国重 昂正】
(一体なんなんだ? あいつの余裕は……)
特に何かをして来ようという気はない……のか?
やがて映し出されたのは、望遠レンズを使って録画されたこの部屋。
男2人がこの部屋に入ってきて、
それをソファで出迎えたのは――――クロノだった。
しかも良く見ると、男達の顔に見覚えがある。
それもその筈、昨日バーで話したあの男と、その恋人の男だった。
【国重 昂正】
「……!?」
【クロノ】
『お疲れさま。それにしても君達も役者だな』
【サトル】
『何言ってるんスか! クロノさんのお医者さんの方がマジ堂に入ってましたって!』
【建】
『そうそう、是非今度白衣着て、ちょっと俺達の相手してくださいよー』
【クロノ】
『ちょっと、俺の上司みたいなこと言わないでくれる』
【クロノ】
『まさかメガネかけてストッキング穿いて踏めとか、そういうの?』
【サトル】
『えっ、ふ、踏んでくれるンスか!?』
【建】
『……俺、どっちかってえと、それを破く方がいいです。…ね、クロノさん』
【クロノ】
『ん……、あーもう。ちょっと、まだ話してる最中……、っ、ふ、……』
【建】
『ねえ、クロノさん。客に使う魔法みたいなの使って、俺達も変にしてくださいよ』
【クロノ】
『あれ使われた客が、最終的に廃人みたくなるの、お前らだって知ってるだろ』
【サトル】
『クロノさん。ねえ、俺、頑張ったんだから……』
【サトル】
『彼氏にしてるみたいに……、それ使って、俺に入れてくださいよ……』
【サトル】
『アホみたいに感じたいんですよぉ、クロノさんのアレ……ねえ、早く』
【クロノ】
『…わかったよ、仕方ないな。じゃあ、昨日みたいに、お医者さんでやってあげるね』
【建】
『俺、昨日あんな真っ暗な部屋で、クロノさんがあんな近くにいて』
【建】
『外に、あんたの恋人いるってわかってたから、俺、何度も』
【建】
『このまま押し倒して、酷いことしてやろうって……マジ何度も思ってて、自分抑えるのが大変で』
【サトル】
『あ……! んっ、クロノさんの、な、中で大きくな……っ』
【クロノ】
『…はあ、はあ……、ま、あいつバカだから』
【クロノ】
『絶対気づかないだろうけど……っ、しばらくは、別れさせ屋は休業かな』
【クロノ】
『テナントは俺が魔力でちょいちょいっと片付けとくから』
【クロノ】
『お前らは、あいつに仲直りしたって連絡してから、姿くらまし……、ん、だからやめろって…』
【サトル】
『あっ、でも、あっ、クロノさんと、3人で、こんな風に繋がれないの、あっ、寂し…』
【クロノ】
『しばらくの辛抱だって』
【クロノ】
『ほとぼりが覚めた頃に再開、……ッ!』
【建】
『ほら、お医者さんの役忘れてますって』
【建】
『ほら。お仕置きしちゃいますよ』
――――まさか、クロノがアビスの黒幕だったのか。
昨日のことも全て、俺を騙すための罠だったのか?
そんなわけない。
金に大して興味のないあいつが、人間界で起業することに何の意味がある?
あいつが俺を裏切るわけがない。
他の男と寝るわけがない。
俺を騙して、俺に嘘をつくなんて、そんなことがあるわけがない。
―――本当に、そうか?
【国重 昂正】
「……ッ、」
【???】
「……ん?」
【???】
「……あー、倒れちゃった。もしもーし」
【???】
「それにしてもやっぱ、ちょろまかして苦悩させるのは面白ぇなぁ」
【???】
「特に、『大人の男』って思ってる奴を堕とすのはなぁ…ははは、俺の方がよっぽど年上だっつーの!」
【???】
「あはははははは!! 一生眠ってろやオッサン!! あははははは!!」
「…………ん」
【国重 昂正】
「珍しく照れてんな?変なとこで可愛げあるよなあ、お前」
俺の返事が曖昧になったのを見て、昂正はことさら俺の髪を掻き混ぜた。
辿り着いたのは、古い雑居ビル。
持っているパンフレットと名刺によれば、
ここの2階に事務所がある筈だ。
昂正は迷わずに中に足を踏み入れて階段を上がり、
幾つか点在する扉を左手に据えて、奥の通路まで歩き――舌打ちした。
【クロノ】
「もぬけの空……。何のテナントも入ってないじゃん」
【国重 昂正】
「くそ! 逃げられたか…!」
【国重 昂正】
「手分けして、他のフロアも見てみるぞ。お前は姿消したまま、管理人室覗いて来い」
【クロノ】
「助手使い荒いんだから…」
クロノがのろのろと階下に向かった後。
俺はまず、元々アビスが入っていた部屋の中を探してみることにした。
夜逃げとか、慌てて退去したのなら、手掛かりが残されている可能性が高い。
残されていた机の引き出しを漁ったり、何か落ちてないかと床に這いつくばってみたりしていると。
不意に、自分に影がかかるくらい近くに、誰かの気配を感じて顔を上げる。
『そっちはどうだった』と言おうとした口が強張った。
それはクロノではなく、包帯を巻き付けた異様な風体の人物だった。
驚いた俺は、一気にそいつと距離を取る。
何を言うでもなく突っ立っているその姿は異様で、
薄ら寒いものを覚えたが、すぐに俺の直感が告げた。
【国重 昂正】
「てめえが黒幕か」
【???】
「クク……どうだと思う?」
【国重 昂正】
「こっちが訊いてんだ。質問に答えろ」
【???】
「っていうか、そっちこそ勝手にこんな所入っていいのかよ。ケーサツ呼ばれたら面倒なことになるんじゃねえの?」
【???】
「あ、そっか。おじさんは今まで積み上げてきた信頼があるから、別に呼ばれたところで痛くも痒くもないかぁ」
【国重 昂正】
「……」
【???】
「そこで、『なんで俺のことを知ってる』って激昂しないのは褒めてやるよ」
【???】
「そんなことしたら、その通りですって言ってるようなモンだもんね~、いやさすが年の功?」
【国重 昂正】
「いい加減質問に答えろ。てめえはここに入ってた事務所の関係者か? それともただの通りすがりか?」
【???】
「気になる? じゃあこれ見てみて」
そいつが取り出したのは液晶タブレットだった。
【???】
「数日前、ここの向かいのビルから隠し撮りした映像」
【???】
「きっと、そいつらの行方が映ってるはずだよ」
【国重 昂正】
「……なんでそれを俺に見せる?」
【???】
「だって探してるんだろ? たまたまそれっぽい映像を持ってたから、見せてやろうとしてるだけじゃん」
【国重 昂正】
「ろくに面識もねえような奴に、よく親切にしてやる気になるなぁ?」
【???】
「この近くに住んでんだよ。今日だってこのビルん中歩いて回ってた」
【国重 昂正】
「何のために」
【???】
「勘ぐるね~。ははは、別にいいけど」
【???】
「空になった雑居ビルなんて、宝の山じゃねえか。落ちてるモンを探すのが趣味」
【???】
「ほら、俺ってこんな外見だろ?」
【???】
「迂闊に外も歩けないし、かと言って家ん中に引きこもってるのもつまんなくてなぁ」
【???】
「趣味はもっぱらこうやって、人気のねえような屋内をうろつくことだけさ」
【???】
「ま、別に、映像を見るか見ないかは好きにしろよ。あんたに見せたくて持ってきたわけじゃねえし」
クロノは、人間以外の者がこの事件に関わっている可能性が高いと言っていた。
この得体の知れない人物に迂闊に近付くことは危険かもしれないが、
映像を見るくらいなら問題はないだろう。……今は少しでも情報がほしい。
【国重 昂正】
「……こっちに投げて寄越せ」
【???】
「は? 精密機械なんですけど?」
【???】
「つか操作わかんのかよオッサン」
【国重 昂正】
「再生ボタン押すだけの状態にして、こっちに投げろっつってんだよ」
【???】
「はいはい、ガードが硬いねー」
【???】
「くれぐれも落とすなよ。壊したら弁償してもらうかんな」
そいつは数メートル離れた状態で、弧を描くようにそれを放り投げる。
何とかキャッチし、男の仕草を気にかけながら再生ボタンを押す。
白いノイズが走って、何かの映像が浮かんだ。
ちらりと包帯男を見やると、のんびりと俺の様子を見守っている。
俺は……奇妙な違和感を覚えた。
【国重 昂正】
(一体なんなんだ? あいつの余裕は……)
特に何かをして来ようという気はない……のか?
やがて映し出されたのは、望遠レンズを使って録画されたこの部屋。
男2人がこの部屋に入ってきて、
それをソファで出迎えたのは――――クロノだった。
しかも良く見ると、男達の顔に見覚えがある。
それもその筈、昨日バーで話したあの男と、その恋人の男だった。
【国重 昂正】
「……!?」
【クロノ】
『お疲れさま。それにしても君達も役者だな』
【サトル】
『何言ってるんスか! クロノさんのお医者さんの方がマジ堂に入ってましたって!』
【建】
『そうそう、是非今度白衣着て、ちょっと俺達の相手してくださいよー』
【クロノ】
『ちょっと、俺の上司みたいなこと言わないでくれる』
【クロノ】
『まさかメガネかけてストッキング穿いて踏めとか、そういうの?』
【サトル】
『えっ、ふ、踏んでくれるンスか!?』
【建】
『……俺、どっちかってえと、それを破く方がいいです。…ね、クロノさん』
【クロノ】
『ん……、あーもう。ちょっと、まだ話してる最中……、っ、ふ、……』
【建】
『ねえ、クロノさん。客に使う魔法みたいなの使って、俺達も変にしてくださいよ』
【クロノ】
『あれ使われた客が、最終的に廃人みたくなるの、お前らだって知ってるだろ』
【サトル】
『クロノさん。ねえ、俺、頑張ったんだから……』
【サトル】
『彼氏にしてるみたいに……、それ使って、俺に入れてくださいよ……』
【サトル】
『アホみたいに感じたいんですよぉ、クロノさんのアレ……ねえ、早く』
【クロノ】
『…わかったよ、仕方ないな。じゃあ、昨日みたいに、お医者さんでやってあげるね』
【建】
『俺、昨日あんな真っ暗な部屋で、クロノさんがあんな近くにいて』
【建】
『外に、あんたの恋人いるってわかってたから、俺、何度も』
【建】
『このまま押し倒して、酷いことしてやろうって……マジ何度も思ってて、自分抑えるのが大変で』
【サトル】
『あ……! んっ、クロノさんの、な、中で大きくな……っ』
【クロノ】
『…はあ、はあ……、ま、あいつバカだから』
【クロノ】
『絶対気づかないだろうけど……っ、しばらくは、別れさせ屋は休業かな』
【クロノ】
『テナントは俺が魔力でちょいちょいっと片付けとくから』
【クロノ】
『お前らは、あいつに仲直りしたって連絡してから、姿くらまし……、ん、だからやめろって…』
【サトル】
『あっ、でも、あっ、クロノさんと、3人で、こんな風に繋がれないの、あっ、寂し…』
【クロノ】
『しばらくの辛抱だって』
【クロノ】
『ほとぼりが覚めた頃に再開、……ッ!』
【建】
『ほら、お医者さんの役忘れてますって』
【建】
『ほら。お仕置きしちゃいますよ』
――――まさか、クロノがアビスの黒幕だったのか。
昨日のことも全て、俺を騙すための罠だったのか?
そんなわけない。
金に大して興味のないあいつが、人間界で起業することに何の意味がある?
あいつが俺を裏切るわけがない。
他の男と寝るわけがない。
俺を騙して、俺に嘘をつくなんて、そんなことがあるわけがない。
―――本当に、そうか?
【国重 昂正】
「……ッ、」
【???】
「……ん?」
【???】
「……あー、倒れちゃった。もしもーし」
【???】
「それにしてもやっぱ、ちょろまかして苦悩させるのは面白ぇなぁ」
【???】
「特に、『大人の男』って思ってる奴を堕とすのはなぁ…ははは、俺の方がよっぽど年上だっつーの!」
【???】
「あはははははは!! 一生眠ってろやオッサン!! あははははは!!」
