[本編] 国重 昴正 編
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静かに階段を上ってくる音がして、ドアが開く。
国重は、薄暗い蛍光灯の光を浴びて立っていた。
少し彫りが深い顔に差す影のせいか、いつもより険しい印象を受ける。
【国重 昂正】
「……それで、決めたか」
【クロノ】
「ああ。ちゃんと考えて、答えを出したよ」
視線を上げると、国重の瞳は落ち着いていた。
どんな答えでも、うろたえたりしないという心情が見て取れるような。
【クロノ】
「死神界に、戻ろうと思う」
【国重 昂正】
「認めない」
【クロノ】
「……え」
予想外の返事にきょとんとしていると……
あっという間に距離を詰められ、痛いほど抱き締められた。
【国重 昂正】
「帰るだと? 本気で言ってるのか」
【クロノ】
「うん。ちゃんとよく考えた」
【国重 昂正】
「なのに出した答えがそれか!?」
【クロノ】
「うん。だって、俺は死神で、あんたは人間だ」
【クロノ】
「その二人が一緒に過ごすなんて、どう考えても不自然」
【クロノ】
「逆に訊くけど、あんた、死神界に来て一緒に暮らせると思う?」
【国重 昂正】
「……」
国重が腕の力を緩めて、縋るような目で俺を見つめていた。
【クロノ】
「……それに、こんなこと、長が認めてくれるわけがないと思う」
【国重 昂正】
「思う、て…。訊いた訳じゃないのか?」
頷くと、国重は俺の背を優しく撫でた。
【国重 昂正】
「なら訊いてこい。もしかしたら、お前の独り善がりかもしれないじゃないか」
国重は俺の体を解放し、力強く肩を叩く。
【クロノ】
「……そんな簡単にいけばいいけど」
【国重 昂正】
「考えるより先に行動しろ。思い立ったが吉日だ。行け」
【クロノ】
「……え、もう?」
国重に追い立てられるようにして、俺は事務所を後にした。
【アンク】
「クロノ様! おかえりなさいませ! 国重さんのご様子は如何でしたか?」
【クロノ】
「別に。いつもと変わりないよ」
【アンク】
「左様でございますか。それは何より。で、どちらへ行かれるのです?」
【クロノ】
「……。長のところ」
【アンク】
「はて。報告はもう済ませてしまったとお聞きしましたが」
【クロノ】
「ちょっと野暮用。……あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
【アンク】
「はい、どういったご用件でございましょう?」
【クロノ】
「うん。えーと……、死神って、人間界で暮らせるのかなと思って」
俺の言葉に、じいの動きが止まる。
やはりタブーの話題だったかと、自分の軽率さを反省したとき。
【アンク】
「やはり、国重さんの件でございましょうか?」
じいが優しく微笑みながら切り出してくる。
【クロノ】
「……そう。じいには何でもお見通し?」
【アンク】
「伊達に長生きしておりませんぞ。……しかし、そうですな、難しいと思います」
【クロノ】
「簡単だとは思ってない。でも、聞くだけ聞いてみようと思って」
【アンク】
「なるほど、愛ですな…! そういうことでしたら、この私もお連れくださいませ」
【クロノ】
「……じいって、時々暑苦しくなるよね……」
【アンク】
「おやまあ、照れていらっしゃいますな?! じいにも、死神長様を説得するお手伝いをさせてくださいませ」
【クロノ】
「勝手にして。……でも、ありがとう。助かる」
じいはうんうんと頷きながら、俺の横に立ち、感慨深そうに見上げてくる……。
【クロノ】
「そんなに見ないでよ。……じゃあ、行こう」
二人で長の家まで、瞬間移動した。
長の家に入ってすぐ、頭を下げた俺を見て、長は驚いたように息を飲んだ。
【長】
「いつもやる気のない、マイペースのお前が……。唐突にどうしたのだ」
【クロノ】
「人間界で暮らしたいので、許可して下さい」
【長】
「な、なにをそんな、や、やぶからぼうな……!」
【アンク】
「そうですぞ、クロノ様。ちゃんと説明をしてから、お願いをいたしませんと」
【クロノ】
「えー……? 説明するの、結構時間かかるし、面倒なんだけど」
【長】
「先に言っておくが、そのような願いは聞けん。人間界に介入し続けるなど……、もってのほか」
【アンク】
「クロノ様。きちんとご自分でご説明なさいませ」
【クロノ】
「うん、分かったよ……。もう」
俺は長の両目をじっと見据えて、真剣な顔を作る。
【クロノ】
「大切な人が……、出来ました。相手は人間です。ですから、俺は、人間界で暮らしたい」
【クロノ】
「その人は、淋しいとダメなんです。俺は、ずっと傍にいてやりたい。お願いします」
俺はもう一度、頭を下げる。今まで生きてきた中で、一番深く。
室内は、水を打ったように静まり返っていたけど。
その沈黙を破ったのは、長だった。
【長】
「入れ込んだ相手と一緒にいたい気持ちは、分かる。だが、人間界で暮らすことは……」
胸の奥に、チクリとした痛みが走った。わかってる。俺だって一度は諦めたことだ。
だけど、国重を思い出すと、だからと言って諦めきれないんだと、叫ぼうとした時。
【アンク】
「死神長様! そこをお許しくださることが、クロノの功に報いることになるのでは?」
じいが一歩前に出て、そう叫んだ。
【アンク】
「クロノは、本当によくやってくれました。多くの人間の命を助けたのは、クロノです」
【アンク】
「そのクロノが、お願いをしているのに、聞き入れずに捨て置いていてしまわれるのですか?」
【長】
「いや、アンク、しかしだな……!」
【アンク】
「しかしもかかしもございません!!」
じいの目が、熱意に燃えていた……。
【長】
「死神は死神として生き、人は人として生きる。交わってはならない、点と点なのだ」
【アンク】
「いいえ、死神長様。クロノ様と彼の人間は、その境界を超えたのです」
国重は、薄暗い蛍光灯の光を浴びて立っていた。
少し彫りが深い顔に差す影のせいか、いつもより険しい印象を受ける。
【国重 昂正】
「……それで、決めたか」
【クロノ】
「ああ。ちゃんと考えて、答えを出したよ」
視線を上げると、国重の瞳は落ち着いていた。
どんな答えでも、うろたえたりしないという心情が見て取れるような。
【クロノ】
「死神界に、戻ろうと思う」
【国重 昂正】
「認めない」
【クロノ】
「……え」
予想外の返事にきょとんとしていると……
あっという間に距離を詰められ、痛いほど抱き締められた。
【国重 昂正】
「帰るだと? 本気で言ってるのか」
【クロノ】
「うん。ちゃんとよく考えた」
【国重 昂正】
「なのに出した答えがそれか!?」
【クロノ】
「うん。だって、俺は死神で、あんたは人間だ」
【クロノ】
「その二人が一緒に過ごすなんて、どう考えても不自然」
【クロノ】
「逆に訊くけど、あんた、死神界に来て一緒に暮らせると思う?」
【国重 昂正】
「……」
国重が腕の力を緩めて、縋るような目で俺を見つめていた。
【クロノ】
「……それに、こんなこと、長が認めてくれるわけがないと思う」
【国重 昂正】
「思う、て…。訊いた訳じゃないのか?」
頷くと、国重は俺の背を優しく撫でた。
【国重 昂正】
「なら訊いてこい。もしかしたら、お前の独り善がりかもしれないじゃないか」
国重は俺の体を解放し、力強く肩を叩く。
【クロノ】
「……そんな簡単にいけばいいけど」
【国重 昂正】
「考えるより先に行動しろ。思い立ったが吉日だ。行け」
【クロノ】
「……え、もう?」
国重に追い立てられるようにして、俺は事務所を後にした。
【アンク】
「クロノ様! おかえりなさいませ! 国重さんのご様子は如何でしたか?」
【クロノ】
「別に。いつもと変わりないよ」
【アンク】
「左様でございますか。それは何より。で、どちらへ行かれるのです?」
【クロノ】
「……。長のところ」
【アンク】
「はて。報告はもう済ませてしまったとお聞きしましたが」
【クロノ】
「ちょっと野暮用。……あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
【アンク】
「はい、どういったご用件でございましょう?」
【クロノ】
「うん。えーと……、死神って、人間界で暮らせるのかなと思って」
俺の言葉に、じいの動きが止まる。
やはりタブーの話題だったかと、自分の軽率さを反省したとき。
【アンク】
「やはり、国重さんの件でございましょうか?」
じいが優しく微笑みながら切り出してくる。
【クロノ】
「……そう。じいには何でもお見通し?」
【アンク】
「伊達に長生きしておりませんぞ。……しかし、そうですな、難しいと思います」
【クロノ】
「簡単だとは思ってない。でも、聞くだけ聞いてみようと思って」
【アンク】
「なるほど、愛ですな…! そういうことでしたら、この私もお連れくださいませ」
【クロノ】
「……じいって、時々暑苦しくなるよね……」
【アンク】
「おやまあ、照れていらっしゃいますな?! じいにも、死神長様を説得するお手伝いをさせてくださいませ」
【クロノ】
「勝手にして。……でも、ありがとう。助かる」
じいはうんうんと頷きながら、俺の横に立ち、感慨深そうに見上げてくる……。
【クロノ】
「そんなに見ないでよ。……じゃあ、行こう」
二人で長の家まで、瞬間移動した。
長の家に入ってすぐ、頭を下げた俺を見て、長は驚いたように息を飲んだ。
【長】
「いつもやる気のない、マイペースのお前が……。唐突にどうしたのだ」
【クロノ】
「人間界で暮らしたいので、許可して下さい」
【長】
「な、なにをそんな、や、やぶからぼうな……!」
【アンク】
「そうですぞ、クロノ様。ちゃんと説明をしてから、お願いをいたしませんと」
【クロノ】
「えー……? 説明するの、結構時間かかるし、面倒なんだけど」
【長】
「先に言っておくが、そのような願いは聞けん。人間界に介入し続けるなど……、もってのほか」
【アンク】
「クロノ様。きちんとご自分でご説明なさいませ」
【クロノ】
「うん、分かったよ……。もう」
俺は長の両目をじっと見据えて、真剣な顔を作る。
【クロノ】
「大切な人が……、出来ました。相手は人間です。ですから、俺は、人間界で暮らしたい」
【クロノ】
「その人は、淋しいとダメなんです。俺は、ずっと傍にいてやりたい。お願いします」
俺はもう一度、頭を下げる。今まで生きてきた中で、一番深く。
室内は、水を打ったように静まり返っていたけど。
その沈黙を破ったのは、長だった。
【長】
「入れ込んだ相手と一緒にいたい気持ちは、分かる。だが、人間界で暮らすことは……」
胸の奥に、チクリとした痛みが走った。わかってる。俺だって一度は諦めたことだ。
だけど、国重を思い出すと、だからと言って諦めきれないんだと、叫ぼうとした時。
【アンク】
「死神長様! そこをお許しくださることが、クロノの功に報いることになるのでは?」
じいが一歩前に出て、そう叫んだ。
【アンク】
「クロノは、本当によくやってくれました。多くの人間の命を助けたのは、クロノです」
【アンク】
「そのクロノが、お願いをしているのに、聞き入れずに捨て置いていてしまわれるのですか?」
【長】
「いや、アンク、しかしだな……!」
【アンク】
「しかしもかかしもございません!!」
じいの目が、熱意に燃えていた……。
【長】
「死神は死神として生き、人は人として生きる。交わってはならない、点と点なのだ」
【アンク】
「いいえ、死神長様。クロノ様と彼の人間は、その境界を超えたのです」