[本編] 国重 昴正 編
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翌朝、あいつは急用が出来たと言って、死神界に帰った――、出来るだけ早く戻ると言って。
俺は新しい依頼の資料をまとめながら、あいつのことを考えていた。
【国重 昂正】
「そういや……名前すら、聞いてねえや」
お前か死神と呼んでいたから、今まで不便にも感じてなかったけど。
知らないとわかると、なんだか気持ちが悪い。
名前なんて、初歩中の初歩、出会って最初に交わされるべき情報なのに。
【国重 昂正】
(戻ってきたら、聞こう)
そう決めて、仕事を再開しようとする――が。
俺は、机の一番下の引き出しを開けた。
写真立ての中で、あの頃の夏透(かおる)が、笑っている。
こうやって、幸せだった頃の夏透を見ていると、まだ胸が痛む。
やっぱりまだ、好きなのかもしれない。
これは、ただの未練なのかもしれない。
別れが突然すぎて、まだ傷ついたままなのかもしれない。
本当の事を言うと、自分にもわかっていない。
――ふとした事で、昔を思い出すのが人間ですから。
昨日、依頼人に言った言葉を思い出す。
【国重 昂正】
(あいつを見ていると、夏透を思い出す……。なのに)
【国重 昂正】
(あいつといると、夏透を忘れそうにもなる……)
――きっと、誰かに出会う。それを、自分に許す……。
……あいつがいてくれたら。
あの、無愛想で可愛げのない男が、傍にいてくれたら。
きっと前よりマシになれる。そんな予感がしていた。
【ユリス】
「……クソッ! 馬鹿にしやがって、何でこんなことになったんだよ…!」
思い出すだけで、全てをぶち壊したくなる。
【ユリス】
「ちょっと魂を多く狩って、あいつに認めさせたかっただけじゃんかよ…。クソ!」
リビドーを作り、死者を増やして――、その調査依頼があいつに行ったと聞いた時には、心が弾んだ。
犯人とバレる訳にはいかないが、リビドーに詳しいところを見せれば、あいつも俺を見直すかと思った。
それなのに―――あいつは、俺が犯人だと疑い始めていて……。
疑われている事に気付いた俺は、身を潜めることにしたけど。
しかも……。
腹いせに国重とか言う人間に嫌がらせをしてやろうと思って行ったら、既にあいつがいて。
しかもあの、人間風情と……、あんな、あんな………!!
【ユリス】
「ふざけんなよ! 俺のことは無視するくせに!」
ああそうだ、いい事を思いついた。
【ユリス】
「そんなに人間とイチャつきたいなら、一生そうしてられるようにしてやるよ!!」
【ユリス】
「くっ………あはははははは!」
――とっておきの悪夢をプレゼントしてやる。
ユリス捜索についての続報が入ったと知らせを受けて、俺は死神界に戻っていた。
ユリスの捜索は、人間界を中心に行われるようになったらしい。
すぐに帰るつもりだったんだけど、報告だの新しい資料だの、あちこちに呼ばれ、結局こんな時間になってしまった。
【ユリス】
「国重さんとは、仲良くされていますか?」
【クロノ】
「『仲良く』の意味による……」
じいにジト目で見られたので、咳払いをして誤魔化した。
【クロノ】
「……うん、まあ、上手くやってる、かな」
逃げるようにそう言って、俺は死神界を後にした。
一刻も早く、国重のところに帰ろう。
そう思って急ぎ人間界に戻ってきた俺は、絶句していた。
布団で眠っている国重が、リビドーを装着している。
【クロノ】
「なんで……。もう使わないって言ったのに」
そこで、はっとした。
―――まさか、ユリスが来た?
俺は、国重の枕元を漁った。
やはり、そこには――、国重が普段使っていたリビドーがあった。
国重が自ら新しいリビドーを装着する、なんて可能性より、ユリスが寝ている国重に付けた、と考える方が自然だ。
【クロノ】
「……くそ、無事でいてくれ…!」
俺はすぐに、じいを呼んだ。
【アンク】
「どうされました、クロノ様!」
【クロノ】
「やられた。国重が、見たことないリビドーをつけてる。…ユリスの仕業だと思う」
俺は、これから国重の夢に入ることを告げ。
最悪の事態を考えた。それは…
悪夢を解けず、夢に取り込まれた状態になる事だ。
【クロノ】
「寝てる俺の様子に、何か変化があったら、……まずは国重を起こして。わかった?」
【アンク】
「……面目ありません。私にもっと、発明の才があれば」
【アンク】
「クロノ様を危険にさらすこともなかったでしょうに」
項垂れているじいに、デコピンをした。
【クロノ】
「いいんだ、これは俺の仕事だから」
【クロノ】
「最後まで、俺にやらせて。―――じゃあ行ってくる」
そう言って、夢の中へ飛び込む。
突入する時の妙な感じは、未だに慣れないけど。
特に変わった様子は感じないから、もしかしたら夢の中も無事かもしれない。
―――そんな淡い期待を抱いた。
そして俺は言葉を失う。
この世界を構築していた色彩が、真逆になってる。
緑の草木は赤色に。
いつも晴れ渡っていた空は、目が痛くなるような黄色になっている。
けれど、ベンチの色だけはいつもと変わらない。
そして、いつものように夏透がベンチに座っていた。俺を見ず、どこか遠くを見つめている。
夏透の服装はいつもと違い、透けそうなほど生地が薄い、大きめの白いシャツのような服を一枚まとっているだけだ。
その隣に男の姿があったが、それは国重ではなく――、偽物の俺だった。
【クロノ】
「……ああ、来ちゃったのか、俺」
【クロノ】
「……国重はどこだ」
【クロノ】
「さあな、俺の知ったことじゃねえよ」
【クロノ】
「お前が退かせたんじゃないのか? そこにはいつも国重がいたんだ」
【クロノ】
「濡れ衣。俺はこのお兄ちゃんとイチャコラしてただけ」
偽物の俺がいきなり、服越しに夏透自身を強く握った。
悲鳴を上げる夏透を見て、俺は顔をしかめる。
……思い出を汚すようなことをする、偽物の俺への怒りで。
【クロノ】
「何顔しかめてんだよ。よく見とけ、この淫乱男のザマをよ」
【椎名 夏透】
「あ…っ、や、やぁ…」
【クロノ】
「見えるだろ? こいつがこんな、女みたいなスケスケ寝間着を着てんのはな」
【クロノ】
「いつでもこうやって……弄ってもらえるし、挿れてもらえるからなんだよ」
【椎名 夏透】
「ひゃあ…! あっ、あぁン、あんっ…!」
【クロノ】
「ははは、すっげえ速攻勃った。あの変態のオッサンに仕込まれたんだなぁ」
【クロノ】
「……やめろ」
【クロノ】
「は? だって本当のことだぜ?」
【クロノ】
「国重と別れたあと、こいつ、下半身が寂しくて」
【クロノ】
「夜な夜な、てめえのケツを埋めてくれる代わりの棒を探して」
【クロノ】
「やらしい格好して、男漁りに繁華街に繰り出してたんだからな」
怒りで、体が震えている。
【クロノ】
「―――嘘だ。適当なこと言うなよ、お前…っ」
【クロノ】
「嘘? 何故そう決めつける?」
急に真顔になった偽物の俺は、次の瞬間には、俺の目の前にいた。
俺は新しい依頼の資料をまとめながら、あいつのことを考えていた。
【国重 昂正】
「そういや……名前すら、聞いてねえや」
お前か死神と呼んでいたから、今まで不便にも感じてなかったけど。
知らないとわかると、なんだか気持ちが悪い。
名前なんて、初歩中の初歩、出会って最初に交わされるべき情報なのに。
【国重 昂正】
(戻ってきたら、聞こう)
そう決めて、仕事を再開しようとする――が。
俺は、机の一番下の引き出しを開けた。
写真立ての中で、あの頃の夏透(かおる)が、笑っている。
こうやって、幸せだった頃の夏透を見ていると、まだ胸が痛む。
やっぱりまだ、好きなのかもしれない。
これは、ただの未練なのかもしれない。
別れが突然すぎて、まだ傷ついたままなのかもしれない。
本当の事を言うと、自分にもわかっていない。
――ふとした事で、昔を思い出すのが人間ですから。
昨日、依頼人に言った言葉を思い出す。
【国重 昂正】
(あいつを見ていると、夏透を思い出す……。なのに)
【国重 昂正】
(あいつといると、夏透を忘れそうにもなる……)
――きっと、誰かに出会う。それを、自分に許す……。
……あいつがいてくれたら。
あの、無愛想で可愛げのない男が、傍にいてくれたら。
きっと前よりマシになれる。そんな予感がしていた。
【ユリス】
「……クソッ! 馬鹿にしやがって、何でこんなことになったんだよ…!」
思い出すだけで、全てをぶち壊したくなる。
【ユリス】
「ちょっと魂を多く狩って、あいつに認めさせたかっただけじゃんかよ…。クソ!」
リビドーを作り、死者を増やして――、その調査依頼があいつに行ったと聞いた時には、心が弾んだ。
犯人とバレる訳にはいかないが、リビドーに詳しいところを見せれば、あいつも俺を見直すかと思った。
それなのに―――あいつは、俺が犯人だと疑い始めていて……。
疑われている事に気付いた俺は、身を潜めることにしたけど。
しかも……。
腹いせに国重とか言う人間に嫌がらせをしてやろうと思って行ったら、既にあいつがいて。
しかもあの、人間風情と……、あんな、あんな………!!
【ユリス】
「ふざけんなよ! 俺のことは無視するくせに!」
ああそうだ、いい事を思いついた。
【ユリス】
「そんなに人間とイチャつきたいなら、一生そうしてられるようにしてやるよ!!」
【ユリス】
「くっ………あはははははは!」
――とっておきの悪夢をプレゼントしてやる。
ユリス捜索についての続報が入ったと知らせを受けて、俺は死神界に戻っていた。
ユリスの捜索は、人間界を中心に行われるようになったらしい。
すぐに帰るつもりだったんだけど、報告だの新しい資料だの、あちこちに呼ばれ、結局こんな時間になってしまった。
【ユリス】
「国重さんとは、仲良くされていますか?」
【クロノ】
「『仲良く』の意味による……」
じいにジト目で見られたので、咳払いをして誤魔化した。
【クロノ】
「……うん、まあ、上手くやってる、かな」
逃げるようにそう言って、俺は死神界を後にした。
一刻も早く、国重のところに帰ろう。
そう思って急ぎ人間界に戻ってきた俺は、絶句していた。
布団で眠っている国重が、リビドーを装着している。
【クロノ】
「なんで……。もう使わないって言ったのに」
そこで、はっとした。
―――まさか、ユリスが来た?
俺は、国重の枕元を漁った。
やはり、そこには――、国重が普段使っていたリビドーがあった。
国重が自ら新しいリビドーを装着する、なんて可能性より、ユリスが寝ている国重に付けた、と考える方が自然だ。
【クロノ】
「……くそ、無事でいてくれ…!」
俺はすぐに、じいを呼んだ。
【アンク】
「どうされました、クロノ様!」
【クロノ】
「やられた。国重が、見たことないリビドーをつけてる。…ユリスの仕業だと思う」
俺は、これから国重の夢に入ることを告げ。
最悪の事態を考えた。それは…
悪夢を解けず、夢に取り込まれた状態になる事だ。
【クロノ】
「寝てる俺の様子に、何か変化があったら、……まずは国重を起こして。わかった?」
【アンク】
「……面目ありません。私にもっと、発明の才があれば」
【アンク】
「クロノ様を危険にさらすこともなかったでしょうに」
項垂れているじいに、デコピンをした。
【クロノ】
「いいんだ、これは俺の仕事だから」
【クロノ】
「最後まで、俺にやらせて。―――じゃあ行ってくる」
そう言って、夢の中へ飛び込む。
突入する時の妙な感じは、未だに慣れないけど。
特に変わった様子は感じないから、もしかしたら夢の中も無事かもしれない。
―――そんな淡い期待を抱いた。
そして俺は言葉を失う。
この世界を構築していた色彩が、真逆になってる。
緑の草木は赤色に。
いつも晴れ渡っていた空は、目が痛くなるような黄色になっている。
けれど、ベンチの色だけはいつもと変わらない。
そして、いつものように夏透がベンチに座っていた。俺を見ず、どこか遠くを見つめている。
夏透の服装はいつもと違い、透けそうなほど生地が薄い、大きめの白いシャツのような服を一枚まとっているだけだ。
その隣に男の姿があったが、それは国重ではなく――、偽物の俺だった。
【クロノ】
「……ああ、来ちゃったのか、俺」
【クロノ】
「……国重はどこだ」
【クロノ】
「さあな、俺の知ったことじゃねえよ」
【クロノ】
「お前が退かせたんじゃないのか? そこにはいつも国重がいたんだ」
【クロノ】
「濡れ衣。俺はこのお兄ちゃんとイチャコラしてただけ」
偽物の俺がいきなり、服越しに夏透自身を強く握った。
悲鳴を上げる夏透を見て、俺は顔をしかめる。
……思い出を汚すようなことをする、偽物の俺への怒りで。
【クロノ】
「何顔しかめてんだよ。よく見とけ、この淫乱男のザマをよ」
【椎名 夏透】
「あ…っ、や、やぁ…」
【クロノ】
「見えるだろ? こいつがこんな、女みたいなスケスケ寝間着を着てんのはな」
【クロノ】
「いつでもこうやって……弄ってもらえるし、挿れてもらえるからなんだよ」
【椎名 夏透】
「ひゃあ…! あっ、あぁン、あんっ…!」
【クロノ】
「ははは、すっげえ速攻勃った。あの変態のオッサンに仕込まれたんだなぁ」
【クロノ】
「……やめろ」
【クロノ】
「は? だって本当のことだぜ?」
【クロノ】
「国重と別れたあと、こいつ、下半身が寂しくて」
【クロノ】
「夜な夜な、てめえのケツを埋めてくれる代わりの棒を探して」
【クロノ】
「やらしい格好して、男漁りに繁華街に繰り出してたんだからな」
怒りで、体が震えている。
【クロノ】
「―――嘘だ。適当なこと言うなよ、お前…っ」
【クロノ】
「嘘? 何故そう決めつける?」
急に真顔になった偽物の俺は、次の瞬間には、俺の目の前にいた。
