[本編] 国重 昴正 編
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目覚めたら、国重の顔がすぐ目の前にあって少し驚いた。
俺に腕枕をしていた国重は、そんな俺を見て、少し眠そうに笑った。
【国重 昂正】
「おはよう、よく眠れたか?」
【クロノ】
「……おかげさまで」
国重はそうかと言って笑うと、布団を出て行った。
【クロノ】
「…ったく、調子が狂う」
今まで、される側というよりする側だったので、なんだか落ち着かない。
【クロノ】
(国重も、する方だったからな……)
その割には、俺が国重自身に触れても、国重は抵抗を見せない。
俺のしたいようにさせてくれるし、互いに結構興奮しているように思う。
【クロノ】
(とは言っても、本番まで進んでるわけじゃないし)
【クロノ】
(どこまで受け身でいてくれるのか、わからないけど)
俺も起き上がり、探偵事務所に向かうべく準備を始める。
国重を横目で眺めながら、この男が、昔、夏透をどう抱いていたのか。
どんな甘い言葉をかけたのかと、思考を巡らせる。
【クロノ】
(夢の中で、そういう場面を見たけど、一部始終を見てたわけじゃないし)
【国重 昂正】
「ん? なんだ。準備が済んだんならもう行くぞ」
【国重 昂正】
「依頼の期限日が今日なんだ。とっとと行って、支度しておかなきゃな」
そう言って国重が笑うので、俺もなんだかつられて笑ってしまった。
【クロノ】
「……うん。もう大丈夫、行こう」
【クロノ】
(まあ、考えても仕方ないか)
呑気に考えつつ、部屋を後にした。
――あの時の俺は、国重の事しか頭になかった。
だから俺は……、油断していた。大切な事に、気付けなかった。
事務所に到着すると、国重は早速調査書の準備を始めた。
一方、俺はと言えば、慣れない人間の姿をとっているため、服が窮屈で、既に少し疲れていた。
襟を直しながら、国重の作業を覗きこむ。
【クロノ】
「ずっと気になってたんだけど、依頼人にはどう話す?」
【国重 昂正】
「俺も悩んでたよ。ごまかすか、そういう部分については敢えて触れないか」
【国重 昂正】
「だけど、それじゃあ依頼人に失礼だ」
【国重 昂正】
「警察が、民間人にしてることと同じなんだよ」
【国重 昂正】
「俺は、そういうのが嫌で辞めたって言っただろ?」
【クロノ】
「……大事なものを失うからとも言ってたけどね」
【国重 昂正】
「…そっちは今は関係ねえんだよ。とにかく」
【国重 昂正】
「誠実な気持ちで、わかったことを報告するまでだ」
【国重 昂正】
「変に脚色したり、都合の良いように書いたりはしない」
【国重 昂正】
「だからお前も、迂闊に口を挟まないようにな」
【クロノ】
「…わかったけど」
【クロノ】
「はあ……。人間って本当に面倒くさい」
【国重 昂正】
「そんなとこも人間の長所なんだよ。……ん、そろそろ時間だな」
命じられてお茶を用意してるうちに、依頼人が事務所に現れた。
沈鬱そうな顔つきで、俯きながら歩いてくる。
国重は立ち上がり、誠実そうな微笑みで、席を勧めた。
俺は書類を持ってきて、とりあえず国重の隣に腰掛けた。
【依頼人】
「それで…どうでしたか?」
依頼人の問いに、国重は真剣な表情で報告書を広げた。
依頼人に調査書を渡し、わかったことを報告する。
リビドーが原因と思われる死亡報告は他にもあるが、どれも死亡原因として特定されるには至っていないこと。
そして、通販サイトの責任者も、所在を掴めず。
特定のメンバーのみが見ることのできるparaisoも、管理人が現れないこと。
どれも、明るい報告ではなかったけれど。
依頼人は予想していたかのように、落ち着いて話を聞いていた。
【依頼人】
「そうですか……。わかりました」
【国重 昂正】
「折角頼っていただいたのに、お力になれず、申し訳ございません」
【クロノ】
「……」
【依頼人】
「あの…、paraisoというチャットサイトのことですが」
【依頼人】
「彼女が…、書き込みしていたという可能性はありますか?」
【国重 昂正】
「はい。そちらも調べたのですが…。アカウントを特定出来ませんでした」
国重が、目で合図を送ってくる。
俺はノートパソコンを二人の間に置き、paraisoを開いて見せる。
【国重 昂正】
「……こちらが、彼女の死亡前日の、発言一覧です」
依頼人は、飛びつくようにログを漁り。
急に手を止めて、涙を流し始めた。
【依頼人】
「これが……、彼女です」
【国重 昂正】
「え…っ!?」
依頼人は、一つのHNを指さしていた。
【依頼人】
「この発言の内容は、きっと、彼女です…」
俺と国重は、その発言を見つめた。
『憧憬夢を、忘れたくても忘れられない』
発言の書き出しは、そんな言葉だった。
『リビドーを使おうと思ったのは、今の恋人が忙しくて。だから、夢の中だけでも会いたかったから』
『それなのに、どうしてか元カレばっかり夢に出てきて……。しかも私、夢の中で幸せなの。ありえない』
『元カレとは自然消滅だった』
『それでずっと、元カレに、もっとこうすればよかったって、そういう後悔を抱えてた』
『後悔していた事を、一つずつ夢で叶えられるの。それで元カレが喜ぶの。もうやだ』
『元カレへの後悔にがんじがらめになってた私を、助けてくれたのは今の恋人なのに』
『私は恋人との幸せな夢を見たかったのに…。でも私は、LIPで何時間でも、元カレの夢を見る』
『わかってる。悪夢は、あんな優しい恋人と向き合う事から逃げ出した、私への罰なの』
『ごめんなさい』
発言はそこで終わっていた。念のため確認したが、そのHNはそれ以降、ニ度と発言していなかった。
【クロノ】
「……」
依頼人は声を殺し、肩を震わせ、涙を零すまいとしている。
……ここには、後悔を知る者しかいない。
国重も、……俺も、依頼人も、……彼女も……。
国重は難しい顔をしたまま、依頼人を見守っていた。
それが悪いことだとは思わないし、嫌だと思う気持ちもないけれど。
国重が今、夏透のことを考えてるのがわかって。
やっぱり、少しだけ淋しかった。
国重は、涙をこらえている依頼人を見つめたまま。
意を決したように口を開く。
依頼人は涙を拭きながら、語られる言葉を真摯に受け止めているようだった。
【国重 昂正】
「聞き込みをしても、ニュースやネットで流れているような情報しか手に入りませんでした」
【国重 昂正】
「リビドーの製造はどこで行われているのか、そもそもどういう仕組みなのか」
【国重 昂正】
「脳や工学の専門家に話を聞いてみたのですが、わかりませんでした」
【国重 昂正】
「ご依頼の件に関しましては、全てが不明としか言いようがなく」
【国重 昂正】
「この短期間では、解決に至る事は出来ませんでした」
【依頼人】
「……そうですか。ご尽力いただきまして、ありがとうございまし……」
【国重 昂正】
「以上のような理由で、料金はいただかないことに決めました」
【依頼人】
「え…? で、でも」
俺に腕枕をしていた国重は、そんな俺を見て、少し眠そうに笑った。
【国重 昂正】
「おはよう、よく眠れたか?」
【クロノ】
「……おかげさまで」
国重はそうかと言って笑うと、布団を出て行った。
【クロノ】
「…ったく、調子が狂う」
今まで、される側というよりする側だったので、なんだか落ち着かない。
【クロノ】
(国重も、する方だったからな……)
その割には、俺が国重自身に触れても、国重は抵抗を見せない。
俺のしたいようにさせてくれるし、互いに結構興奮しているように思う。
【クロノ】
(とは言っても、本番まで進んでるわけじゃないし)
【クロノ】
(どこまで受け身でいてくれるのか、わからないけど)
俺も起き上がり、探偵事務所に向かうべく準備を始める。
国重を横目で眺めながら、この男が、昔、夏透をどう抱いていたのか。
どんな甘い言葉をかけたのかと、思考を巡らせる。
【クロノ】
(夢の中で、そういう場面を見たけど、一部始終を見てたわけじゃないし)
【国重 昂正】
「ん? なんだ。準備が済んだんならもう行くぞ」
【国重 昂正】
「依頼の期限日が今日なんだ。とっとと行って、支度しておかなきゃな」
そう言って国重が笑うので、俺もなんだかつられて笑ってしまった。
【クロノ】
「……うん。もう大丈夫、行こう」
【クロノ】
(まあ、考えても仕方ないか)
呑気に考えつつ、部屋を後にした。
――あの時の俺は、国重の事しか頭になかった。
だから俺は……、油断していた。大切な事に、気付けなかった。
事務所に到着すると、国重は早速調査書の準備を始めた。
一方、俺はと言えば、慣れない人間の姿をとっているため、服が窮屈で、既に少し疲れていた。
襟を直しながら、国重の作業を覗きこむ。
【クロノ】
「ずっと気になってたんだけど、依頼人にはどう話す?」
【国重 昂正】
「俺も悩んでたよ。ごまかすか、そういう部分については敢えて触れないか」
【国重 昂正】
「だけど、それじゃあ依頼人に失礼だ」
【国重 昂正】
「警察が、民間人にしてることと同じなんだよ」
【国重 昂正】
「俺は、そういうのが嫌で辞めたって言っただろ?」
【クロノ】
「……大事なものを失うからとも言ってたけどね」
【国重 昂正】
「…そっちは今は関係ねえんだよ。とにかく」
【国重 昂正】
「誠実な気持ちで、わかったことを報告するまでだ」
【国重 昂正】
「変に脚色したり、都合の良いように書いたりはしない」
【国重 昂正】
「だからお前も、迂闊に口を挟まないようにな」
【クロノ】
「…わかったけど」
【クロノ】
「はあ……。人間って本当に面倒くさい」
【国重 昂正】
「そんなとこも人間の長所なんだよ。……ん、そろそろ時間だな」
命じられてお茶を用意してるうちに、依頼人が事務所に現れた。
沈鬱そうな顔つきで、俯きながら歩いてくる。
国重は立ち上がり、誠実そうな微笑みで、席を勧めた。
俺は書類を持ってきて、とりあえず国重の隣に腰掛けた。
【依頼人】
「それで…どうでしたか?」
依頼人の問いに、国重は真剣な表情で報告書を広げた。
依頼人に調査書を渡し、わかったことを報告する。
リビドーが原因と思われる死亡報告は他にもあるが、どれも死亡原因として特定されるには至っていないこと。
そして、通販サイトの責任者も、所在を掴めず。
特定のメンバーのみが見ることのできるparaisoも、管理人が現れないこと。
どれも、明るい報告ではなかったけれど。
依頼人は予想していたかのように、落ち着いて話を聞いていた。
【依頼人】
「そうですか……。わかりました」
【国重 昂正】
「折角頼っていただいたのに、お力になれず、申し訳ございません」
【クロノ】
「……」
【依頼人】
「あの…、paraisoというチャットサイトのことですが」
【依頼人】
「彼女が…、書き込みしていたという可能性はありますか?」
【国重 昂正】
「はい。そちらも調べたのですが…。アカウントを特定出来ませんでした」
国重が、目で合図を送ってくる。
俺はノートパソコンを二人の間に置き、paraisoを開いて見せる。
【国重 昂正】
「……こちらが、彼女の死亡前日の、発言一覧です」
依頼人は、飛びつくようにログを漁り。
急に手を止めて、涙を流し始めた。
【依頼人】
「これが……、彼女です」
【国重 昂正】
「え…っ!?」
依頼人は、一つのHNを指さしていた。
【依頼人】
「この発言の内容は、きっと、彼女です…」
俺と国重は、その発言を見つめた。
『憧憬夢を、忘れたくても忘れられない』
発言の書き出しは、そんな言葉だった。
『リビドーを使おうと思ったのは、今の恋人が忙しくて。だから、夢の中だけでも会いたかったから』
『それなのに、どうしてか元カレばっかり夢に出てきて……。しかも私、夢の中で幸せなの。ありえない』
『元カレとは自然消滅だった』
『それでずっと、元カレに、もっとこうすればよかったって、そういう後悔を抱えてた』
『後悔していた事を、一つずつ夢で叶えられるの。それで元カレが喜ぶの。もうやだ』
『元カレへの後悔にがんじがらめになってた私を、助けてくれたのは今の恋人なのに』
『私は恋人との幸せな夢を見たかったのに…。でも私は、LIPで何時間でも、元カレの夢を見る』
『わかってる。悪夢は、あんな優しい恋人と向き合う事から逃げ出した、私への罰なの』
『ごめんなさい』
発言はそこで終わっていた。念のため確認したが、そのHNはそれ以降、ニ度と発言していなかった。
【クロノ】
「……」
依頼人は声を殺し、肩を震わせ、涙を零すまいとしている。
……ここには、後悔を知る者しかいない。
国重も、……俺も、依頼人も、……彼女も……。
国重は難しい顔をしたまま、依頼人を見守っていた。
それが悪いことだとは思わないし、嫌だと思う気持ちもないけれど。
国重が今、夏透のことを考えてるのがわかって。
やっぱり、少しだけ淋しかった。
国重は、涙をこらえている依頼人を見つめたまま。
意を決したように口を開く。
依頼人は涙を拭きながら、語られる言葉を真摯に受け止めているようだった。
【国重 昂正】
「聞き込みをしても、ニュースやネットで流れているような情報しか手に入りませんでした」
【国重 昂正】
「リビドーの製造はどこで行われているのか、そもそもどういう仕組みなのか」
【国重 昂正】
「脳や工学の専門家に話を聞いてみたのですが、わかりませんでした」
【国重 昂正】
「ご依頼の件に関しましては、全てが不明としか言いようがなく」
【国重 昂正】
「この短期間では、解決に至る事は出来ませんでした」
【依頼人】
「……そうですか。ご尽力いただきまして、ありがとうございまし……」
【国重 昂正】
「以上のような理由で、料金はいただかないことに決めました」
【依頼人】
「え…? で、でも」
